第十九話 悪夢二連発
大学受験が始まった。
俺は、よくぞ体力作りと受験勉強を両立して、いままで頑張ってきたと、
自分で自分を褒め、受験前日12時にベッドに入った。
緊張しているからなのか浅い眠りの中、夢を見た…
暗闇の中、俺は一人机に向かって試験を受けている。
ふと、隣を見ると日野が立っていた。
「試験も聖ちゃんも僕のモノだぁぁー、はっはっは~~」
日野が高笑いで言った。
「日野くぅぅ~ん」 と遠くから聖がやって来て、俺を無視して日野と二人で
立ち去ってしまった。
俺は二人を追いかけようとしたが、なぜか床にはバナナの皮が引き詰められていて、
俺は滑って転んでクルクルと奈落の底へと落ちていった。
すべる…落ちる…
「うわぁぁぁぁ、いやだぁぁぁぁ」
俺は自分の叫び声で目が覚め体を起こすと、部屋には日の光が差し込んでいた。
朝…だった。
「どうした!大丈夫か?!」 目の前で聖が驚いていた。
俺は聖の肩と腕をポンポンと叩き、聖が現物かどうか確認した。
「な、なんだよ…」
「ユ、ユメか…」 俺は一人、聖を見ながらうなずいた。
「あっ、なんで聖がここにいんだよ」
「お母さんが起こして来いって。おまえ、すんげーうなされてたぞ」
聖が心配そうに言った。
「…大丈夫、ちょっと緊張しているのかもしれない」
受験当日にしては最悪な夢だ。
俺はいやな汗をシャワーで流し、朝食を食べ、両親と聖の見送りをうけ
試験会場に行った。
変な夢のせいで気分爽快とは言えないが、体調は最高によかった。
自分の受験番号の張られている席に座り、参考書を開き最後のチェックをしていた。
ドサッと、俺の横に誰かの鞄が落ちた。
「えっ?」
見上げた先にいたのは日野…だった。
「ひ、日野ぉぉ?」 まさか、正夢というやつか。
日野の顔は引きつり、あわてていた。
「・・・」 何も言わず通路を挟んで隣の席に着いた。
休憩に入っても俺と日野は一言も口を聞かず試験を終えた。
家のリビングのドアを開けるとソファに座っていた聖が飛んできた。
「試験、どうだった?うまくいったか?」
「・・・」
「ど、どうしたんだよ、城。ダメだったのか?」 聖が俺の顔を覗きこんだ。
「あいつがいた…」 俺は不機嫌に言った。
「あいつって、誰だよ」
「日野…」
「げげーっ!まじかよ!同じとこ受けてんのかよ」
「それに席、隣同士だった…あんなに大勢の受験生がいるのに通路挟んで
隣だぜ、となり…」
「どこまでもしつこい野郎だなぁ、日野」
そう言うと、聖はソファにダイビングをした。
「とりあえず、残すとこコンテストだけだな!」
「はい、頑張ります」
俺はコンテスト一週間前から最終準備に入った。
元モデルのおふくろにメンズ用ウォーキングを指導してもらい、
当日着る服を一家総出で見立てに行き、
「少し、日焼けした方がカッコイイと思う」 というクラスの女子たちの
アドバイスを取り入れ、コンテスト2日前に日焼けサロンに行った。
相川が通っているサロンに連れて行ってもらったが、なぜか健児と石田も
ついて来て、一緒に色黒になった。
少し小麦色になったもやしの石田は、また何か新しい発見をしたようで鏡に写る
自分の姿を見なが一人うなずいていた。
コンテスト前日、この夜は受験前日と違って熟睡できるかと思っていたが
また眠りが浅かった。
そして、また夢を見た。
教会の大きな鐘がカランカランと鳴っている。
神父さまを前に俺は一人立っていて、
遥か後ろにある扉が開き、父親と一緒に聖が俺に向かってバージンロードを
歩いてきた。
途中で俺が聖を迎えに行き、聖の父親から聖を託され、二人で神父さまの前に立ち
誓いの言葉を述べた。
そして誓いのキスになり、俺は聖の白いレースのベールを上げた。
あ、げ、たぁぁぁぁぁ
「よっ!」
「ひ、日野ぉぉぉぉ?!」
花嫁が日野になっている。
そしてヤツは言った。
「実は僕、聖ちゃんが狙いじゃなくて、城!おまえのことが好きだったんだぁ!」
日野はそう言うと俺の両腕を掴んだ。
「や、やめ、ろぉぉぉ」 俺は必死に日野から離れようとしたが
日野がタコのような口をして迫ってきた。
「チュゥゥゥゥ」
「うわぁーーー!やめろーーー!」
俺はまた自分の声で目が覚め飛び起きた。
「ハァハァハァ…」
汗びっしょりだった。
「大丈夫か?!またうなされてたぞ!」
聖がいた。
「うっ、うわぁ~ん、サイテーだ!サイテーのユメをみたぁ」
俺は聖に抱きつき泣いた。
「おい、何泣いてんだよ。目腫れっぞ。どんな夢みたんだよ」
聖に聞かれたが、言葉にするのもおぞましい…
「だ、大丈夫だ。なんでもない」
忘れよう…あんな夢はとっとと忘れよう。