第十七話 向かうところは…?
次の日、学校に行くと健児たちが俺に一冊のファイルを見せた。
学校内での一日のスケジュールと、一週間分の食事の献立と、
その他もろもろ体力作りのための注意事項などが書かれていた。
「な、なんだよ。これ」
みんなが俺を囲み言い始めた。
「まっ、一次は問題なく通ると思うんだが、二次審査でさぁ、特技披露とかに
なると思うんだよ。だからちゃんと特技修得しとかなきゃな!」
「これから毎日、このスケジュールで生活してもらう」
「献立は一週間ごとに新しいの渡すから」
健児が昨日家に帰ってから、クラス全員に連絡網を回し事情を説明し全員の
協力を得たらしい。
料理部の女子に栄養バランスの摂れた献立を作ってもらい、いい感じで筋肉が
つくようにボディビル部の相川には、休み時間を利用して指導してもうらことに
なっていた。
俺の知らないところでみんなが勝手に動き始めている。
―――こんなことなら特技は「鼻でたて笛を吹く」にしておけば良かった。
HR始まりの鐘がなり、サエドンが教室に入って来た。
「健児!これでいいかぁ~」
サエドンは、そう言うとダンボールを机の上に置き、
健児と男子たちがダンボールの中をチェックし始めた。
「完璧ッスよ~先生!」
中から出てきたのは、左右にビヨ~ンと伸ばす腕を鍛える道具などいろいろと
入っていた。
そしてサエドンが
「これは俺からの心ばかりの品だ!受け取れ、城!」
じゃ~ん、と言ってプロテインを袋から出した。
みんなはサエドンに拍手をしていた…
「よかったね」 と隣の席で聖が喜んでいた。
―――サエドンまで巻き込んでるよ。
俺は窓の外の遥か遠くを見つめた。
そして、その日から俺は大学受験の勉強をしつつ、体も鍛えていく事になった。
朝夕の食事は、女子が作ってくれた献立表を見ながらおふくろが作ってくれ、
学校では、各授業の後半10分は空気椅子で授業を受け、休み時間はみんなの声援
を受けながらボディビル部の相川に、いかにすれば筋肉が格好良く見えるかを
指導してもらった。
夜は、聖の部屋で手取り足取りヌンチャクの指導を受けた。
12月になり、一次審査の通知が届いた。
「と、通ってるぅ」
聖はもちろん、おやじとおふくろ、クラスのみんなが喜んでくれた。
俺の体は日を追うごとに筋肉がつき、聖より腹筋が割れてきていた。
「城~すげーな。オレより良い体になってるよ」
聖は俺の筋肉に触って言った。
―――うっ、やばい。さわるな。おまえに触られると…反応してしまう…
「オレのために頑張ってくれてんだな。なんか、うれしいよ」
―――そうだよ、そうだよ。日野におまえを取られないように俺は聖のために
頑張っているんだよ。
俺は聖を引き寄せ、抱きしめようとした時、
「聖ちゃ~ん…」 と、聖を呼ぶ声がし、部屋のドアが開いた。
「・・・」 俺は固まった。
大きな箱を手にしたおふくろが立っていた。
「あらまっ?ごめんなさい~ラブラブ中だったかしら?」
おふくろは、慌てるでもなく出て行くわけでもなく普通に話続けた。
「ところでね、聖ちゃん。ちょっとこれ、どうかしら?」
「何々?お母さん」 聖は俺から離れ、おふくろが持ってきた箱を開けた。
箱からは白い布地が出てきた。
「きゃ~、ステキ!」 2オクターブくらい高い聖の声がした。
手にしていたのは、ウエディングドレス…だ。
俺はボーゼンとした。なぜ、今、ウエディングドレスなんだ。
―――つーか、聖おまえ興味ねーだろーが。
「でしょ?でしょ?これね、ママが着たものなんだけど、聖ちゃんに似合うかなぁ
って、思ってもってきたのぉ」
「わーい、着てみていい?」
「うんうん、もちろんよ~」
―――ちょっと待て。聖、そんなもの貰ってどうすんだ。いつ着るんだ。
俺はシャドーボクシングをしながら、横目で見ていた。
おふくろは嬉しそうにドレスを着せていた。
「あー、胸のところブカブカ…」
―――聖、残念ながらおまえには胸の膨らみはない!
「そうね~なんか詰めときゃいいわよ!」
そう言うとおふくろは、聖がさっきまで着ていたTシャツをグイグイと胸の部分に
押し込んだ。
「あ~ん、聖ちゃん、やっぱり似合うわぁ。ちょっと筋肉質だけど体の線が
何気なく細いからぴったりだわ!あっ、パパ呼んで来よう~」
おふくろはおやじを呼びに言った。
「城、どうだ?オレ似合うかぁ?」 聖がクルリと回って俺に聞いた。
「あぁ…」
似合いすぎて、かわいさのあまり直視できず俺は右!左!と空気にパンチをしながら
テキトーに相槌を打った。
「なんだよ、感動薄いやつだなぁ」 聖はむくれて言った。
バタバタとおふくろとおやじが来た。
「ほらほら~、パパ見て見て」
おふくろは自慢げに聖をおやじに見せた。
「うわぁ、いいね~かわいいよ!」
「でしょ?でしょ?」
「これでいつでも嫁に来れるな!」
「そうよね~パパとママはいつでもウエルカムよ、聖ちゃん!」
―――わからねー、俺は本当にこの夫婦がわからなくなってきた。
「え~、私ここにお嫁に来てもいいの?」
―――ひ、聖なにを言い出す!俺は確かにおまえが好きだ。
だが、それとこれは別問題だ。
「男は18才からだったよな、結婚できるのは…」
―――おやじ…男同士は何歳になっても婚姻届は出せねーんだよ…
この国ではまだ受理してもらえねーんだよ…
俺の心を無視するかの様に、三人の会話は弾んでいた。
「おっ、そうだそうだ。写真!おい、城、聖ちゃんと並べ」
おやじがポケットからデジカメを出して構えた。
ウエディングドレス姿の聖と俺のツーショットを撮った。
そしてカメラを固定し、四人並んで撮った。
俺だけ上半身裸で手にはボクシング・グローブをしたままだ。
試合にも負けて、勝負にも負けた弱弱のボクサーみたいだった。




