第十六話 挑戦状、お受けいたしました
俺たち5人はファミレスに行ったが、試験勉強どころではなく、
テーブルの上に、応募要項のプリントと応募用紙を二枚並べ
頭をつき合わせて見ていた。
「日野もご丁寧に応募用紙まで用意してくれるなんて、笑うぜ」
健児は鼻先で笑った。
「城くん、これ、顔と全身写真2枚送らなきゃいけないんだけど、持ってる?」
石田が聞いてきたが、
「無い!」 俺はきっぱり言った。
「・・・」
「よし!では、みんなで僕の家に行きましょう。そして今日中に全てを整えて
ポストに投函するのです!」
石田は自分の一眼レフのデジカメで写真を撮りプリントアウトすると言い、
俺たち5人はファミレスを出て、石田の家に向かった。
石田の部屋はプロレスのポスターだらけであった。
聖は「すごい!すごい!」と大喜びで
石田は「いやぁ~、そ、そう?」 とクネクネと照れていた。
さっそく石田と相川は俺の写真を撮るこしにして、聖と健児は応募用紙に
必要事項を記入することになった。
「全身写真って、制服でいいのかな」 俺が言うと石田が
「じゃ、僕の服を貸そう」 そう言ってクローゼットを開けた。
俺は少し覗いてクローゼットを閉めた。
「や、やっぱ、制服のままで…」
石田の私服はなぜだかタータンチェックばかりであった。
「あっ、こっちにもあるけど~どうかなぁ」
と石田が今度は部屋の奥にある扉を開けた。
見に行くと、そこにはアニメやマンガキャラのコスプレの衣装が並んでいた。
「・・・」
全部石田の手作りで、文化祭で聖が手伝ったアニメ部のコスプレ衣装のほとんど
が石田が提供したものだったらしい。
また新たな石田を発見してしまった。
「き、き、器用なんだね…石田って…」 俺が言うと
「えっ?そうかなぁ~照れるなぁ」 石田は顔を赤くしていた。
「やっぱり普段通りの自分を出すために制服にするよ…」 俺の言葉に
「そうかぁ?残念だなぁ」
石田は寂しそうに言い、クローゼットを閉めた。
「軽く化粧でもした方がいいんじゃないのか?写真写りよくなるしさ。
聖ちゃん、化粧品とかもってない?」 相川が聞いた。
「ない!、私お化粧とかしないから」
持っているわけがなかった。
すると、テーブルの上にドンッ!とメイクボックスが置かれた。
……い、石田だった。
「コスプレには化粧道具は必需品だ!」
石田の微笑みが恐かった。
―――石田!おまえこんなものまで持っていたのか!!
みんなは石田を褒めたたえた。
血色良く写るようなメイクを石田がしてくれた。
―――こいつは将来何になりたいのだろうか…
石田に顔をいじくられながら、俺は石田の将来を心配した。
「おい!城。おまえの特技ってなんだ?」 健児が聞いてきた。
「えーーっと、た、たて笛かな?」 俺が言うと
「やっぱり特技とかは男らしいものにしようよ!」
「じゃ、これはオレらが勝手に決めておこう!」
俺のたえ笛の特技を無視するかのように聖と健児が言い、二人で相談し、
用紙に書き始めた。
その間に俺は写真を撮り、石田と相川がパソコンで加工処理を始めた。
「できたよー、城」 聖が用紙を見せてくれた。
趣味…体を鍛えること
特技…ヌンチャク
座右の銘…正義は必ず勝つ!
―――これはまるっきり聖、おまえ自身のプロフィールじゃないか!
俺は聖を見た。
聖は首を横に倒して「テヘッ」と微笑んでいた。
「待て!正義は勝つはいいとして、俺、体鍛えてないしヌンチャクなんて
やったことないよ」
俺が訴えると、
「あ~大丈夫大丈夫。これから鍛えればいいんだから!」
と、健児が涼しい顔をして言った。
「こっちも完成だ!」 相川が出来上がった写真を持ってきた。
「うぉぉぉぉ、すんげー、日野も真っ青だぜ!」
健児が喜んで言った。
「本物の城もカッコイイけど、まずは一次審査突破のためには、これくらいの加工は
必要よね。あとは二次審査までに、もっともっと格好良くなって体鍛えなきゃね!」
聖の目が妙に光っていて、俺は少し身震いをした。ブルッ。
写真を見て驚いた。
写真の中の俺は一輪の薔薇を手に持っていた。部屋のどこを探しても薔薇なんてない。
いつの間に…。
しかし、自分で言うのもなんだけど写真の俺は、そうとうイケていた。
―――石田…おまえの加工技術に天晴れだよ。
その後、応募準備が整い、なぜだか応募用紙が入った封筒を持った俺を中心に
5人が並び記念写真を撮った。
石田の家から駅に向かう途中、ポストに投函した。
5人で赤いポストを囲み、拍手を打ち拝み倒した。