第十三話 聖が好きだ!
文化祭が終わり、4日後、俺たち3Bはサエドンに新しいママチャリを
プレゼントした。
サエドンはHRで大粒の涙を流し喜んでくれた。
女子はもらい泣きをし、聖を見たら…泣いていなかった…
俺の視線に気づき、聖がこっちを見て「うっ…」と目頭を押さえたが、
うそ泣きだ。やっぱり根性は男だ。
その日の放課後、聖と校門近くに行くと女子たちがキャピキャピと騒いでいる声が
聞こえた。
「何?なんの騒ぎ?」 聖が近くにいた生徒に聞いた。
「あのね、林林高校の日野くんが来てるの~」
「林林高校の日野?」 聖が俺を見た。
林林高校の日野といえば、メンズファッション誌でたまに読者モデルをしている
地元で有名ないい男である。
「地元の女の子たちのちょっとしたアイドルだよ」 俺は聖に教えた。
「ふ~ん。何しにきたんかね、オレらには関係ないから行こーぜ」
聖はそう言うと、俺の手を引っ張って校門出口に向かった。
日野の姿が見えた。女子に囲まれてニヤけた顔で対応していた。
俺と聖が横を通り過ぎようとした時、
「ちょ~~っと、まったぁぁぁ」
日野がいきなり俺たちの所に来て、聖と俺のつないでいる手を上に上げ、引き離した。
「な、なにするんだよ!」 思わず俺は怒鳴った。
「はぁ?なにすんですかぁ?」 聖も日野に言った。
「聖ちゃん!僕と付き合ってくれたまえ!っていうか、こんな男より僕の方が
数倍カッコイイいいしぃ、有名だしぃ、聖ちゃんに似合う男は僕しかいない
から、僕と付き合いなさい!」
そういうと日野は、いきなり聖を引き寄せ、こともあろうかキスをしようとした。
あせった俺は、聖と日野の間に入り聖を体で包み込むように自分のところに
引き戻した。
「俺の女になにすんだよ!」
自分でもびっくりしたが、俺の女とか言ってしまった。
日野は髪型を直しながら
「今は君の…城くんの彼女かもしれないが、それもあと少しのことだ。
もうすぐ聖ちゃんは僕の彼女になるからさっ」
そう言うと聖の方を見て微笑んだ。
男の俺が言うのもなんだが、その微笑は…格好よかった。
女ならイチコロコロリンだろう。
「私の好きなのは、城くんだけだから。あなたの彼女になることは
一生ないですから!!」
聖が日野に言った。
―――好きなのは城くんだけ~城くんだけ~城くんだけぇぇぇ
俺の頭の中で聖の言葉がリフレインを繰り返した。
俺は緩んだ顔を引き締め
「つーことだから、悪いな日野くんとやら。俺たちもう帰るから」
「行くぞ、聖」
俺は日野に言い、聖の手を引っ張りその場を離れた。
「聖ちゃ~~ん、また明日来るから~~~」
後ろの方で日野が叫んでいた。
「ったく、なんだよ。アイツ!ふざけやがって」 俺はドスドスと歩いた。
「あー、城、やきもちやいてんだぁ。城、オレのこと好きなんだぁ」
聖がからかうように言った。
―――ええっ?!やきもち?好き?俺が聖に?がぁぁぁ、どうしようぉぉぉ。
俺はその場にしゃがみ込み、頭を抱えた。
「お、おい…おい!城、みんなが見てっぞ!立てよ、どうしたんだよ」
俺はしゃがんだまま顔を上げ、聖の顔を下から見た。
―――好きなのかもしれない。こいつのこと…
俺は好きなんだ、聖のことが。
日野が聖にキスをしようとした時、俺は本気で阻止しようとした。
聖が他の男と…考えられない…
「おーい城くん~、どうしましたか~」
聖が俺のつむじを突付いた。
俺はガバッと立ち上がり、聖の手を取り
「痛ーよ、手、おい…」 聖の声も耳に入らず黙ったまま急ぎ足で歩いた。
マンションに着くと、そのまま自分の家に行きリビングに入った。
おふくろだけだと思ったら、おやじもいた。
俺は二人に向かって叫んだ。
「俺は聖が好きだ!本気で好きだ!!」
そう宣言して、口があんぐりと開いた3人を残し、自分の部屋に入り、
カギをかけて「うわぁぁぁ」と言いながらベッドにもぐった。
男を好きになってしまうなんて…俺はおかしいのか!!
いつからか、「聖は男なんだから好きになるな」 と自分に言い聞かせてきた。
最初はそれで納得していたが、自分に言えば言うほど聖を好きになっていった。
自分を押し殺していた俺の気持ちは抑えきれなくなった。
誰かに言いたかった。
俺は聖が好きだと、本当のことを言いたかった。
男でも女でもどっちでもいい!聖が好きだと…
しかし、それをよりによって両親の前で宣言するなんて…
俺はもう…おしまいだぁ。
しばらくすると、ドアをノックする音が聞こえ、
「城?」
「城!」
「じょ~~~」
とリビングに残してきた3人が順番に俺の名前を呼んだ。
俺は何も言わず、身動きもせず布団を被ったままベッドに伏せていた。
「城、開けろよ…」聖だ…うっ、あわす顔がない。
ドアなんて開けられないよ。
何度か聖は俺の名前を呼んでいたが、いつしか聞こえなくなった。
そして俺はそのまま寝てしまった。
目が覚めて時計を見たら深夜12時を回っていた。
夢だったらよかったのに…
俺はそう思いながらトイレに行くためにドアを開けた。
ドアの前に、おにぎりが三つトレーにのって置かれていて、メモ書きが
添えられていた。
「オレが城のために作ったおにぎりだ。食え!明日の朝はいつもの時間に
ちゃんと来いよ。聖」
と書かれていた。
聖が俺のために作ってくれたおにぎりは、ずいぶんと大きかった。
俺はトイレに行くのも忘れて、その場に座って食べ始めた。
おにぎりの具は、梅干とおかかと…し、塩?だった。
具の部分に塩の塊が入っていた。
俺は泣きながら食べた。
なぜか涙が止まらない。
―――しょ、しょっぱい。しょっぱすぎる…うっ。
涙のしょっぱさではなく、間違いなく塩のしょっぱさだった。