第十二話 高校最後の文化祭
体育館に行くとすでに人で埋め尽くされていて3Bのみんなは、立ち見になった。
俺は賞品なので舞台の袖に移動した。
暗幕がかかった体育館の照明が落とされ、ミスコンが始まった。
最終で残った15人の龍星の女子生徒が順番に舞台に上がり、12番目の聖が
マイクの前で自己紹介をした。
「3年B組、崎田聖です。趣味は、かわいい物を集める事です!」
会場の男子から「やっぱりなぁ」みたいな声が聞こえてきた。
―――本当はカンフーグッズ集めです。
俺は心の中で合いの手を入れてあげた。
「好きな教科は、英語…かな?」 首をかしげ、かわいく言った。
男子たちが「か、かわいい~」と、ざわめいた。
―――本当は体育のみ!ですから!!
「好きな男性のタイプは…、んーと、何かあった時に私を守ってくれる人!」
またまた会場の男子からハートのどよめきがおこり、3Bからはヒューヒューと
指笛がなった。たぶん、俺への指笛だ。
―――みんな…聖は自分の身は自分で守れるヤツですから!それに…俺は聖に
守られた身だ!すまん!3Bのみんな!!
司会者が聖に質問をした。
「彼氏とかは、いますか?」
「いま~す。一人!ポッ」俺の事だ…
体育館が、どよどよと溜息まじりにどよめいた。
「では、崎田さんに特技を披露していただきましょう」 司会者が言った。
―――特技…って?まさかヌンチャクとか披露するんじゃないだろうな。
俺は少し心配になったが、舞台袖からピアノが押されて出てきた。
聖はピアノの前に座り、ゆっくりと弾きだした。
その曲は、とても難しいとされているソナタの一つだった。
―――聖…おまえはヌンチャクだけでなく、ピアノもできるのか!!
ピアノまで、いとも簡単に操っていた。
いつも手をつないでいる時思っていた。指先の長さと手の細さ。
ピアノのせいなのか。
聖、おまえはなんでもできるんだな…
俺は少し落ち込んだ。
俺の特技と言えば、「たて笛」くらいだ。
人前では見せられないが、鼻でも吹ける…
聖のピアノ演奏が終わると、会場から割れんばかりの拍手が起こった。
このあとで出てくるミスたちが可哀相なくらい、聖の登場は盛り上がった。
結果は、言わずと知れた「崎田 聖」だった。
優勝のティアラが頭にのせられ、校長からトロフィーと食券2000分が手渡された。
―――きっと校長の内心は複雑だろうなぁ。
と、思ったら、校長の顔はニコニコとしている。
「では、優勝者へのもう一つの賞品!龍星高校一のいい男、3Bの大岡城くんから
聖さんへ熱~~~いキスを贈っていただきましょう!!」
司会者の声に合わせ、俺は舞台に上がった。
会場は、モリモリモリに盛り上がり、俺は聖の前に立った。
女子たちはキャーキャー言い、男子たちは俺に野次を飛ばしていた。
―――男子たちよ…勝手に野次でもなんでも飛ばしてくれ。
ふと、舞台下を見たら石田が舞台かぶり付きでカメラをかまえていた。
―――望遠…使ってるよな、石田。どんだけドアップなんだよ…
「イェ~~イ、く~ちびる!く~ちびる!」
そう言いながら手拍子を始めたのは健児の声だ。
健児の声に誘われるかのように、みんなが手拍子をしはじめた。
―――む、無理だ!それはできん…俺たちはまだ高校生だ。未成年だ!
風紀にそぐわない!それにサエドンや他の先生たちも、見て…
い…る?こ、校長だって……うげげげーーー
サエドンや先生たち、校長までも手拍子をしているぅぅぅ。
う、うそだろーー、教育上よくねーだろ!
いいのかー、いやいや良くない。
俺がファーストキスするなら女子希望だ。
聖は男だ!
「ちゅっ!」
えっ?えっ、ええーー!!
俺が一人でいろいろ考えている最中にいきなり、聖が俺のくちびるにキスをして
しまった。
「ぐずぐずしてっから!」 聖は小声で言った。
会場は俺の心も知らずに、大喜びなのかよくわからないが、大騒ぎの中
俺はトボトボと舞台袖に戻った。
―――俺のファーストキスが…
打ちひしがれていると、後ろから肩を叩かれた。
振り向くと校長が立っていた。
「大岡くん、お疲れだったね~盛り上がったね~楽しい文化祭だったね~うっほほ」
と言い、うれしそうに笑いながらどこかに消えていった。
校長と入れ替わりに聖がトロフィーと食券2000円分をピラピラさせながら
俺のところに来た。
「やっぱ、オレが優勝しちまったな!城のファーストキスいただきました~」
と俺の耳元でささやいた。
―――うっ…
俺は肩をガックリ落とした。
でも、聖のやわらかい唇の感覚は残っていて、それがまた俺を落ち込ませた。
俺の唇は記憶形状唇だ。
俺と聖が体育館を出ると3Bの連中が待っていて、聖の優勝を祝福した。
健児たちは俺のところにきて、聖とのキスはどうだったとか、いろいろ聞き
まくってきた。
「キスはあいさつだもん!いつもしてるもんね、城」
聖はそう言うと、また女子たちと話はじめてしまった。
―――や、やめろー、うそを言うでないぃぃ。
俺の言葉も届かずその直後、男子たちから手痛い仕打ちをいただいた。
やっと、長い一日が終わり、そして高校生活最後の文化祭も終わった。