第十一話 青春満喫中
学校に戻ると、校門の前で健児たちクラスメイトがウロウロしていた。
「聖ーー」
「風ちゃん~」
「城!!」
「大丈夫だったのか!よかった~」
洋ちゃんから事情を聞いた健児たちだったが応戦しに行くにも場所がわからず、
俺たちの帰りを待つしかなかったらしい。
「すまん!助けに行けなくて!」 と健児たち男子が俺に謝ってきた。
「あやまるなよ、あやまられても困るよ」
俺はそう言うのが精いっぱいだった。
健児たちの気持ちだけで俺は嬉しかった。
みんなの話を聞くと、聖を気に入った細田が聖を自分のモノにしようとし、
仲の良い風ちゃんを人質に聖を呼び出した…ということになっていた。
「みんな、心配かけてごめんなさい。城が一緒に行ってくれて助けて
くれて…私一人だったら、いまごろ…うっ…」
聖が泣き出し、女子たちが、とにかく無事でよかったとなぐさめた。
―――聖の涙は…うそ泣きだ。俺だけは知っている!!
人質だった風ちゃんは、目隠しされて何も見えていなかったため、
俺が横縦北高の連中をやっつけ、聖と風ちゃんを助け出したヒーローに
なってしまった。
「あっ、聖!ミスコン!!」
「そうよ!早く仕度しなきゃ!」
女子たちが騒ぎ出した。
「ドロドロだから、とりあえず更衣室でシャワー浴びよう!」
「私たち、手伝うから」
「うん…えっ?!ええ?手伝う?!」 聖があせった。
「そうよ、シャワーと着替え!早く早くーー」
それは非常にやばいです!女子のみなさん。
「あっ、大丈夫よ。一人でできる…しぃぃぃぃ」という聖をひっぱって
女子たちは更衣室に向かった。
俺の方を振り向いた聖の顔は、凍っていた。
「城、おまえも着替えて来いよ。団子屋もすでに店じまいしてるし」
健児に言われ、俺は男子更衣室でシャワーを浴び、制服に着替えて教室に戻った。
カメラを首からぶら下げた石田が教室に入ってきて言った。
「なんか、サエドンが自転車の前で落ち込んで打ちひしがれてたよ」
石田の言葉で思い出した!!
「俺だ!さっき自転車借りて、ぶっ壊しちまったんだぁ」
俺はサエドンのところに謝りに行った。
自転車の前で立たずんでいるサエドンを見たとき、心が痛んだ。
「先生、ごめんなさい。俺です、自転車壊したの」
「いいんだ…こいつも、もう寿命だったんだろう」
サエドンはマジ泣きモードだった。
俺が壊してしまった自転車は12年前に初めて卒業生を送り出した時、
生徒たちが、お小遣いを出し合いプレゼントしてくれたものだった。
―――だったら、ちゃんとカギかけとけよ…
と、言いたいところだが、サエドンの涙で大切な自転車だったということは
分かった。
俺は教室に戻り、みんなにサエドンの自転車の話をし少ししんみりさせてしまった。
「じゃ、今度は僕たちが自転車をプレゼントしようよ」
石田が言い出した。
「でも、壊したのは俺だ。俺が弁償するよ」
俺が言うと、
「別に弁償とかじゃなくて、オレたち3Bからのプレゼントにすればいいさ」
「そうだよ、サエドン、担任だしいい先生だし」
「だよな~、文化祭終わったら、みんなで相談しようぜ」
みんなが言い出した。
そして健児が教壇の机に手をついて言った。
「それに!今日のことは城だけの責任じゃない。場所さえ、わかっていたら
俺らだって北高と戦うために、誰かが自転車乗ってぶっ潰していたかも
しれないしな!!」
なぜか教室の中の男子たちは、青春満喫中だ。
「ありがとう、みんな!!」
俺はみんなのありがたい言葉に泣きたかった。
友情を確かめあっている教室に女子たちが聖を連れてドヤドヤやって来た。
「じゃじゃじゃ~ん!おまたせ!」
「ミス龍星、間違いなしの3Bのアイドル・聖ちゃんの登場でーす」
教室に入って来た聖は、ま、まぶしかった―――
バックに薔薇の花がクルクルと回っているようだった。
男子からは歓声があがり、みんな写メを撮りはじめた。
石田にいたっては、首から提げてた一眼レフを構えシャッターを押しっぱなしだ。
「きゃ~ん、みんな、恥ずかしいよ」
聖は照れていた。
廃墟で見た聖の怒髪衝天は俺の中で抹殺しよう。
「ん!!やっぱりお似合いだよね!聖と城くんは!」
女子の一人が言うと、みんながうなづき始めた。
俺は微妙な気持ちになった。
石田の携帯が鳴り、ミスコン実行委員会から召集がかかった。
石田と聖は先に行き、俺たちも体育館に向かった。