第37話 ミッション5-4 その4
ドラ 『この状況でビリケン様か!』
突然現れたヘビータンクにドラが顔を顰める。
ねえさん 『気を付けて、このビリケン様は攻撃的だったわ』
ねえさんの声に、ミッション開始前のライブ観戦を見た時、パンツァーがリタイアしたのがヘビータンクのミサイルで、この先の部屋が最終地点のマザーコンピュータのある部屋だったのを思い出した。
ボス 『全員、下がれ。それとチビちゃん!』
チビちゃん 『分かってる。ドラ君とすぴねこ君はこっち来て』
ボスの命令で全員が銃を撃ちながら後退して、チビちゃんは後ろの柱まで走ると、床にメディカルキッドを叩きつけてヒールゾーンを生成した。
一方、ヘビータンクは銃弾をものともせずミサイルランチャーを構えると、メディカルキッドを使ってヘイトが上がったチビちゃんに向けて、2発のミサイルを発射した。
チビちゃん 『……あっ!』
すぴねこ 『させるか!!』
ヘビータンクがミサイルを放ったのと同時にインプラントを起動。
ミサイルに向かって飛び上がると、ミサイルの横を蹴飛ばして1本のミサイルの軌道を変える。
続けて、蹴った反動で反対側に飛び上がり、もう1本のミサイルも同じ様に蹴飛ばした。
軌道を変えたミサイルが天井と壁に激突して爆発。
そのままチビちゃんの近くに行くと、ヒールゾーンでHPを回復させた。
すぴねこ 『今のはもう一度やれって言われても出来ねえな』
インプラントを切って、安堵のため息を吐く。
チビちゃん 『早すぎて何が起こったのか分からなかったけど、ありがとう』
すぴねこ 『どもども』
ドラ 『お前はマ〇オか何かか?』
ドラがヒールゾーンに来るなり、呆れた様子で話し掛けて来た。
すぴねこ 『いいえ、ワ〇オです』
ドラ 『微妙なキャラで返したな』
自分でもそう思う。
俺とドラが回復している間も、ボス達とヘビータンクとの戦闘は続いていた。
ボスが軽機関銃でヘビータンクの移動を制限して全員で追い詰める。
そのヘビータンクは攻撃するよりも背後に回られる事を嫌い、ミサイルランチャーを撃てずにいた。
そして、ボス達が追い詰めたところで敵に援軍が来た。
ミケ 『ドロント兵が来……ビリケン様、もう1体!!』
ミケの悲鳴に近い報告に、全員の顔が引き攣る。
崩れた壁の先を見れば、転送装置から現れたドロント兵4体に続いて、その後ろからヘビータンクがゆっくりとこちらに移動していた。
すぴねこ 『ドラさんや。どうやら休んでいる暇はないみたいですぞ』
ドラ 『すぴねこ殿。拙者、持病の腰痛が痛とうて動けぬでござる』
現実だと寝てるだけだから、腰痛なんて関係ねえ。
すぴねこ 『ボヤいてないで行くぞ!』
ドラ 『へいへい』
HPは7割回復しているが、相手はヘビータンク。ミサイルを1発喰らえば間違いなく死ぬ。だけど、このままだと確実に全滅するだろう。
俺は駄々をこねるドラを引っ張っぱって応援に向かった。
すぴねこ 『ボス、指示を頼む』
俺が声を掛けるとボスが頷いて、彼の口から指示が飛んだ。
ボス 『俺はドラを連れてドロントを仕留める。ドラはドロントを倒した後で、転送装置の破壊を優先』
ドラ 『あいよ』
ボス 『すぴねこは……もう1体のビリケン様を何とか頼む』
すぴねこ 『それキツくね?』
ボス 『すまん。まず確実に最初のビリケン様を仕留めたい。ドロントを倒したらフォローに入る』
そのボス達が相手にしているヘビータンクだが、今は部屋の中央でミケとボスとチビちゃんが囲み、アンダーソンが囮となって接近戦を仕掛け、ねえさんがジェネレーターを狙っていた。
すぴねこ 『まあ、死なねえように祈っといてくれ』
そう言うと、ボスとドラに左から行けとジェスチャーを送り、俺は右から隣の部屋への移動を開始した。
先にボスとドラが崩れた壁を遮蔽物にしてドロント兵を攻撃。
ボスの銃弾が先頭を走るドロント兵の頭に命中して倒すと、彼等はボスに向かって特攻を開始した。
俺はその間に2人の反対側へ移動して、KSGにブリーチング弾を装填。
ボスとドラの攻撃で、部屋の奥で控えていたヘビータンクが戦闘モードに切り替わり、2人に向かって動き始めた。
すぴねこ 『ピザ野郎。相手を間違えてるぞ』
煽ってからスラッグ弾を1発放つ。
ヘビータンクの体にスラッグ弾が命中すると、ターゲットが俺に切り替わってミサイルランチャーを構えた。
すぴねこ 『おっと。デブにデブって言うのは禁句だったな。そいつは失礼した、ブヒ』
冗談を言いながらKSGのマガジンを切り替えて、ブリーチング弾をリロード。壊れた壁から身を乗り出して銃を構えた。
ヘビータンクが俺に向かってミサイルを発射して、2本のミサイルが俺に迫る。
ミサイルとの距離が10mまで迫ったタイミングで、ブリーチング弾を放った。
ブリーチング弾の細かい粒子の弾丸が広がると、ミサイルに命中して空中で爆発。そして、もう1発のミサイルも爆発に巻き込まれて誘爆した。
すぴねこ 『んじゃ。イッチョやりますか』
壊れた壁を乗り越えて、ヘビータンクに向かって走り出す。
そして、俺とヘビータンクの戦闘が始まった。
ヘビータンクに近づくと、相手はホバーの出力を上げて体当たりを仕掛けて来た。
すぴねこ 『上等だ、カモン!』
笑みを浮かべてヘビータンクに向かって走ると、当たる寸前でスライディングをして床を滑った。
ヘビータンクが俺の真上を通り抜け、離れる前にヘビータンクのケツを掴む。
床を引き摺られるが、すぐによじ登って背中に張り付いた。
すぴねこ 『ロデオと洒落こもうぜ。お前、馬な』
ヘビータンクは背中に俺が居る事に気付くと、振り払おうと部屋中を上下左右に暴れ出した。
すぴねこ 『おっとっと。カロリー消費に忙しいな!』
ヘビータンクが壁に体当たりする。そして、そのまま壁に密着したままスライドして、激しい音が部屋に鳴り響いた。
ドラ 『すげえ……』
ミケ 『何か隣の部屋で激しい音が聞こえるけど、何が起こってるの?』
ボス 『すぴねこがビリケン様に乗って暴れてる。おかげで何もできん』
ねえさん 『無茶してるわね』
ミケ 『一体、何やってるのよ……』
チビちゃん 『バチが当たりそうだね』
ジェネレーターを撃ち抜こうとグロックを取り出す。
しかし、突然ヘビータンクが後ろにバックして、俺を壁に叩きつけようと仕掛けて来た。
すぴねこ 『間に合わねえ!』
ジェネレーターは破壊できるかもしれないが、逃げる事ができず壁に押しつぶされて死ぬ。
そう判断してグロックを捨てると、押しつぶされる前に肩までよじ登って肩車になった。
すぴねこ 『うおっとっとウェイ!』
壁にぶつかった衝撃で跳ね飛ばされそうになるが、股に力を入れて堪える。
すると、今度は上昇して天井に叩きつけようとしてきた。
天井に当たる直前に両手で頭を掴む。そして、開脚して体を浮かせると手を離した。
空中で背中を掴むと同時に、ヘビータンクが脳天から天井に突撃して、上半身が天井にめり込んだ。アホか?
落ちそうになるのを、握力だけで耐え忍ぶ。
すぴねこ 『あばよ!!』
動かなくなったヘビータンクに別れを告げてから、手を離して背中を蹴飛ばす。
空中で一回転してKSGを構え、ジェネレーターを狙ってトリガーを引いた。
スラッグ弾丸がジェネレーターを撃ち抜くと、ヘビータンクは天井に頭をめり込ませたまま身震いして、全身を守っていた装甲が剥がれ落ちた。
床に落ちて落下ダメージを受ける。
ゲームだから痛くはないが、それでも落下のダメージは大きくHPゲージがガクンと減っていた。
すぴねこ 『ふう……生きてるのが不思議だぜ』
上半身を起き上がらせると、天井にぶら下がるヘビータンクを見上げて、ため息を吐いた。
ボス 『オールクリア』
天井にめり込んだヘビータンクを撃ち殺したボスの声が部屋に響く。
最初のヘビータンクは、俺が戦っている間にねえさんがジェネレータを壊して、ミケがヘッドショットで倒していた。
後から聞いた話だと、皆は俺の救助に向かったけど、その俺がヘビータンクに乗って暴れていたから、助けようにも助けられなかったらしい。
そのヘビータンクが暴れた爪痕は酷かった。
壁にヒビが入り、天井には穴が開き、転送装置が破壊されていた。
転送装置の破壊はドラがやった? いや、壊したのはヘビータンクです。
戦闘中は集中していて気づかなかったけど、あのデブ、壁に張り付いてスライドした時に、転送装置を巻き込んでぶっ壊していたらしい。
ドラがその壊れた転送装置を見ながら「俺が来た意味ってなかったな」と呟いていた。
アンダーソン『すぴねこは凄いな。まるでプロレスみたいだったぞ』
すぴねこ 『最近のプロレスは過激だな』
チビちゃんのメディカルキッドで回復していると、アンダーソンが俺の肩を叩いて褒めてきた。その無邪気な笑顔に殺意を抱く。
ミケ 『はい、落とし物よ』
アンダーソンが去ると、今度は俺がミケが来て、拾ったグロックを返してきた。
すぴねこ 『サンキュー。あの時に撃てれば、もっとスムーズに倒せたんだけどな……』
グロックを受け取るとホルスターに納めた。
ミケ 『勝てたんだから良いじゃない。命の方が大事よ』
すぴねこ 『これって、ライブ中継してるんだよな。見ている連中、絶対笑ってるぜ』
くすっと笑って肩を竦めるミケに、頭を左右に振ってため息を吐く。
ミケ 『間違いなく笑っているわね。私も面白かったわ』
すぴねこ 『全くもって笑えねえ』
HPが満タンになって、ミケと並んでボスの方へ向かう。
部屋の出口には、前回のミッションで落下した脱出ポットが転がっていて、補給ができるらしい。
他の皆は既に準備を終えて俺達を待っていたから、俺とミケも弾丸とグレネードを補給して準備を整えた。
すぴねこ 『準備オッケー』
ボス 『よし、この扉の先がマザーコンピューターの場所だ。絶対に全員、生きてクリアするぞ!』
『『『『『『了解!!』』』』』』
全員がボスに応えて扉に近づく。
そして、俺達は扉を開けると、マザーコンピューターの部屋へと突入した。




