第36話 ミッション5-4 その3
ミッション開始から70分が経過。
俺達は最初の戦闘を終えた後も、次々と部屋を進み敵を撃破していた。
今回のミッションでも前回と同様に道中に弾丸と薬の補給ポイントはあったけど、前回とは異なり補給中も敵が現れて休む事が出来なかった。
そして、最初の戦闘から戦い続けて後半に差し掛かり、敵の攻撃が激しくなった。
ドラ 『今の俺って、人生で一番疲れているかも』
弾丸を撃ち尽くしたドラが柱に隠れて銃のマガジンを交換するが、その顔には疲労の様子が見えていた。
すぴねこ 『俺はお前の冗談を聞く度に人生で一番疲れるんですけど。この程度で疲れたとか、お前の人生イージーだろ』
チビちゃん 『すぴねこ君は、何時でも元気そうだね』
ねえさん 『この中で疲れてないのは、すぴねこだけ……いや、彼も居たわ』
ねえさんがチラっとアンダーソンを見て肩を竦める。
そのアンダーソンは、疲労を感じさせない動作で、奥から現れて自爆特攻するドロント兵をミケと一緒に倒していた。
さて、現在の状況だけど。俺達が部屋に突入すると12体のエリート兵が待ち構えていた。
エリート兵との戦いも慣れてきて、コイツ等も一気に仕留めようと、開始と同時にインプラントの誘発とフラッシュバンの合わせ技を仕掛けたが、敵陣を崩す事が出来ず4体だけを倒すに留まった。
その理由だけど、どうもこのエリート兵は、今まで出会った連中とAIが違うらしい。
こちらがインプラントを使うと、誘発してエリート兵がインプラントを使用する。ここまでは同じ。
だけど、このエリート兵はインプラントを発動しても攻勢に転じず、防御に徹して攻撃を仕掛けてこなかった。
その結果、エリート兵の積極的な攻撃に対して、カウンターのフラッシュバンで目を潰し反撃するセオリーが失敗して、4体しか倒せなかった。
そして、長期戦に入ると奥の部屋から無限に沸くクレイジーモードのドロント兵が自爆特攻するのに合わせて、エリート兵が攻撃を仕掛けるといった作戦を取られ、その徹底した防衛戦略に時間と浪費だけが蓄積されていた。
ミケ 『こうも守りに徹底されると、やり辛いわね』
自爆特攻するドロント兵にヘッドショットを決めたミケがため息を吐く。
ボス 『すぴねこ、ドラ。フラッシュバンの在庫はあるのか?』
ドラ 『こっちはないぞ。そうだ、ボス。フラッシュの替わりに、そのツルピカの黒頭をライトで照らしてみろよ』
すぴねこ 『俺もさっきので終わりだ。ところで黒光りって眩しいのか?』
ドラ 『ワックスを塗ればどんな色でも光るんじゃねえの? 知らんけど』
ボス 『お前等は、普通にないって言えないのか?』
口調に怒りを含ませたボスがため息を吐く。
ドラ 『疲れている時こそ、ユーモアが必要だと思ったんだ』
すぴねこ 『お前のユーモアは疲れが溜まるだけだと思うけどな』
アンダーソン『ドラとすぴねこは本当に面白いな』
アンダーソンが俺達の会話を聞いて、戦闘中にも関わらず笑いを堪えていた。
どうやらこのNPCは、ユーモアを理解する能力があるらしい。
ドラ 『ほら見ろ。俺のジョークにアンダーソンが笑っているぞ。もしかして、世界で最初にNPCを笑わしたって歴史に名前を刻んだんじゃね?』
すぴねこ 『人類の汚点だな』
ミケ 『すぴねこも同類よ』
ドラ 『ヘイ、ブラザー』
すぴねこ 『一緒にするな。それでボス。フラッシュはないけど、追い立てる方法ならいくらでもあるぞ。ローストとスモーク、好きな方を選べ』
ボス 『ロースト? スモーク?』
チビちゃん 『じゃあローストで』
すぴねこ 『あいよ』
冗談を理解出来なかったボスの替わりに、チビちゃんのリクエストに応えて、KSGにドラゴンブレス弾を装填する。
そして、遮蔽物に隠れているエリート兵の上空に向かって、ドラゴンブレス弾を発射した。
ドラゴンブレス弾が炎を撒き散らしてエリート兵の上を通り過ぎると、引火したマグネシウムの炎を浴びたエリート兵が火達磨になって床を転げ回った。
ねえさん 『派手にやったわね』
すぴねこ 『チビちゃんがそうしろって……』
困った様な演技をすると、チビちゃんが驚いた。
チビちゃん 『ええーー? 私のせいなの?』
ねえさんがライフルで必死に火を消そうとするエリート兵に、ヘッドショットを決める。
さらに、ミケとボスがそれぞれ1体を仕留めて、残りは5体になった。
ドラゴンブレス弾の射程範囲から外れたエリート兵に向けて、再びドラゴンブレス弾を放つ。
今度のドラゴンブレス弾は、エリート兵が射程範囲から逃げだして失敗に終わるが、逃走中のエリート兵をミケが1体倒した。
敵は先ほどインプラントを使わせたから、後1分は使えないはず。
エリート兵の個々の能力は高いけど、戦略の観点から見ればまだ素人だ。戦争に明け暮れた愚かな人類の歴史を見せてやる。
ボス 『すぴねこ、左へ行け。十字砲火だ』
どうやら、ボスも俺と同じ事を考えていたらしい。
すぴねこ 『了解! ドラ、暇なら付き合え』
ドラ 『暇じゃねえけど、付き合ってやるよ』
隠れていた遮蔽物から飛び出すと、ドラを誘ってドラゴンブレス弾で敵が居なくなった敵陣へ走り出した。
飛び出した俺とドラに気付いたエリート兵の攻撃で、俺は肩に1発、ドラは脹脛に1発の弾丸を喰らったが、左側の壁と柱の間への移動に成功。
正面と左からエリート兵を包囲した事で、一気に俺達が有利になった。
ドラ 『これでチェックメイトだ』
ドラが撃たれたお返しとばかりに、エリート兵の横から銃弾を浴びせてダメージを与えた。
すぴねこ 『今のセリフ、格好良いっすね。もう一度アンコール』
ドラ 『くっ! 煽りよる』
ねえさん 『だけど、これで楽になったわ』
横から襲撃されて隙だらけのエリート兵を、ねえさんとチビちゃんが1体づつ倒し、最後の2体をボスが仕留めた。
ボス 『クリア!』
チビちゃん 『2人とも回復は?』
撃たれた俺とドラを気遣って、チビちゃんがメディカルキッドを取り出した。
ドラ 『アーマーで防いだから、ダメージなし』
すぴねこ 『肩を掠めただけだから、まだ行ける』
チビちゃん 『了解』
俺とドラが先に続く扉の前へ移動して、他の皆は銃を構えながら少し離れた場所で待機。
ドラが扉を開けようとしたタイミングで扉が勝手に開いた。
ドラ 『ゲッ!!』
すぴねこ 『やば!』
扉から4体のドロント兵が現れて鉢合わせすると、俺とドラは慌てて後ろ飛び退いた。
ボス 『撃て!!』
背後で控えていたメンバーが、ドロント兵に向かって一斉に弾丸を放つ。
先頭と2番目のドロント兵は弾丸を浴びて死亡するが、彼等の背後に隠れていたドロント兵が自爆して、俺とドラが爆風に巻き込まれた。
爆風の煙に咳き込みながらHPを見ると、体力が30%を切っていた。もし、先頭のドロント兵が自爆したら、もっと被害が出ていただろう。
ミケ 『すぴねこ、ドラ!』
床に転がった俺達に、ミケが慌てて声を掛ける。
すぴねこ 『ドラと違って生きてるぜ』
ドラ 『勝手に殺すんじゃねえよ』
どうやらドラも無事だったらしい。
すぴねこ 『おいおい。今の場所はジョークで死ぬべきじゃねえの?』
ドラ 『アホ抜かせ。この程度のドッキリで死んでたま……ん?』
ドラが喋っている最中に、目の前の壁に亀裂が走った。
ボス 『全員下がれ!!』
ボスの大声に後ろに下がって銃を構える。
ドラ 『クソ、まだ回復してねえのに!』
ボス 『来るぞ……』
壁の亀裂が広がって俺達が待ち構えて居ると、壁を突き破ってヘビータンクが現れた。




