第32話 極 茶漬け その3
「ロッドか。何だ、もう諦めたのか?」
「……まあな。ギガントスを相手をするには、今の俺達の装備と戦い方じゃ直ぐには勝てねえ。ムカつくけど諦めるぜ」
……どうやら、マザーコンピューターの部屋に入ると、ギガントスが湧くらしい。
という事は、ロック様が率いる『ブレイス・オブ・ドリーマー』はギガントスをたった一日で倒したのか。さすがは世界一位のプロチームだ。
話し掛けて来たロッドは、何故か俺の横に座ると一緒にロック様のプレイを観戦しだした。帰れ、失せろ、消えろ。
2人で観戦していると、画面の中のロック様が激戦を勝利して大きな扉を潜った途端、彼のチームを映していた画面が突然暗くなった。
急に暗くなったスクリーンに兵士サロン中が騒めくが、スクリーンの画面中央にラストエリア突入の為非公開と字幕が現れて、サロン中にブーイングが鳴り響いた。
「どうやら、最後のボスとご対面らしいな」
ロッドに話し掛けられて顔を顰める。
「……これでレースの行方が決まるか?」
「さすがに1回でクリアは難しいだろ。ところで、何でお前のチームはずっと俺を無視しているんだ?」
ボス達がずっと自分を無視している事に、ロッドが首を傾げた。
「そりゃお前をブラックリストに入れてるから、認識していないんだろ」
「は? マジ?」
俺が振り向きもせず応えると、ロッドが驚いて俺に顔を近づけてきた。
「マジもクソもねえ、驚いているのが俺には驚きだよ。お前、俺が居ない時に散々絡んで来たらしいじゃねえか。それで全員ムカついて、お前の事をブラックリストに入れたんだよ。バーカ。ちなみに、俺は単純に入れ忘れているだけだ。それと顔を近づけるな、ゲロが出る」
「チョッ! チョット待ってくれ。誤解、いや、確かに絡んできたのは事実だ。だけど、本気だったわけじゃない、ジョーク。そう、ただの冗談だったんだ!」
「知らん。お前が冗談でも人種差別は相手を傷つけるんだ。通報されて垢バンされないだけマシと思え。それと顔を離せ。お前とホモだと思われたら、恥で死ぬ」
顔を顰めていると、ロッドが珍しく反省している様子だった。
「……そうか。その、皆には悪かったと伝えてくれ」
「お前が素直にあやまるとか珍しいな。もしかして、まだねえさんに惚れてるのか? 前にも言ったけど、彼女の股間には立派な玉が付いてるぞ。俺は見た事ねえけど」
「違げえよ。たしかに、玉があると聞いた時は人生観が変わったけど……やっぱ、前作から付き合いがあるからな。無視されるのはツれぇもんがあるんだよ」
「自分に都合の良い事だけを自由と勘違いするアメリカ人の悪い癖だ。反省しろ」
「アメリカ人を馬鹿にすんじゃねえ!」
言い返すロッドにため息を吐く。
「はいはい。アメリカファッキン最高。これで良いか? 皆にはお前が反省しているって伝えといてやるよ。リストから外すかどうかはあいつ等次第だけどな」
「ああ、それで良い。それで、お前達はまだ諦めてないのか」
反省したロッドの質問に、口角を尖らせて笑みを浮かべる。
「キャンペーンの全シークレットミッションを達成したボーナスがあって、俺達もラストミッションに参加できるんだよ」
「……マジか!?」
「ただし、チャンスは1度きりだけどな……まあ、今の状況だとロック様が失敗しないと、そのチャンスもないけど」
そう言った矢先、ミッションゲートの入口が騒がしくなって視線を向ければ、そのロック様がミッションに失敗して戻ってきたところだった。
「どうやら、まだチャンスはあるらしい」
「みたいだな。賞金を奪われるのは癪だが、俺はお前を応援するぜ。その……ガンバレよ」
照れながら顔を背けて応援してきたロッドをマジマジと見つめる。
「もしかして、お前……コカイン吸ってるのか? 普段とあまりにも感じが違うぞ?」
コカインを吸わないと人格が真面にならない人間は、ダメな人間だと思う。
「吸ってねえ、バカヤロウ!!」
「冗談だ」
「相変わらず、ムカつくクソ野郎だぜ」
「お前もな」
俺が笑い返すと、ロッドが笑みを浮かべて「死ね」と言って立ち去った。
アイツとは死ぬまでクソな関係が続くんだろうなと、後ろ姿を見て思った。
ロッドと入れ替わる様にして、ドラがログインして現れた。
「何を独りでブツブツ言ってたんだ?」
ドラが現れて早々、俺を変人扱いしてきた。ブラックリストに入れているロッドを認識していないとは言え、朝早くから喧嘩を売られて顔を顰める。
「お前じゃあるまいて。今、ロッドが居たんだよ」
「……ふうん。何しに来たんだ?」
「応援」
「は? マジ?」
ドラだけでなく、話しを聞いていた全員が驚いていた。
「本人はやってないって言ってるけど、多分、ヤクを吸ってるぜ」
「そいつはヒデエ」
その酷いはどういう意味だ?
「だって、反省しているからブラックリストから外してくれって、皆に謝ってたんだぞ。信じられるか?」
「なるほど、それは確実に吸ってるな」
ボスが納得して頷いた。
「だろ。ロッドをリストから外す外さないは各々自由だけど、外してもしばらくは放置プレイでヨロ」
そう伝えると、全員が笑みを浮かべて「了解」と返答した。
「さて。全員揃ったし、そろそろ時間だな」
ボスが話し始めて時刻を確認すると、8時半を回ったところだった。
「その前に、今の状況を説明して欲しいんだけど」
来たばかりのドラが慌てて聞いて来たから、ボスが掻い摘んで説明する。
「なるほど、ロック様とミカエルがミッションを失敗したところか。そんで、最後のミッションを開始すると、公開恥辱プレイされると」
「ドラ、言い方が卑猥よ!」
「そう思う方が卑猥なんだよ。一体どんな予想をしていたのか、大声でお前の妄想を叫べ!」
注意したミケに、ドラが言い返す。
「だから……お前等は何で毎回俺が話し始めると、お喋りが始まるんだ?」
「別に良いじゃない。今までもずっと、そして多分これからもきっとこんな感じよ。だけど、私はこの雰囲気が好きだし、大事にしたいわ」
ねえさんの後に俺も口を開く。
「そうそう。だから、俺達の暴走をボスが仕切ってくれるのが、助かっているんだ」
そう言うと全員がウンウンと頷き、その様子にボスが隠すように笑みを浮かべた。
「本当に困ったチームだな、リーダーで居るのが辛いぜ。俺からはもう何も言う事はない。全員でゲームをクリアしよう!」
ボスの号令に全員が声を上げて気合を入れた。
「『ワイルドキャット・カンパニー』出撃だ!」
全員が席を立ち、ミッションカウンターへ向かう。
今回挑むのは、シナリオ5のミッション4。制限時間120分。目標時間は110分。
ミッション名は『最終決戦』。前回破壊できなかったマザーコンピューターの破壊が目的だった。
これの結果次第で賞金レースの結果が決まる、最後のミッションだった。




