第25話 ミッション5-3 その3
左右の扉が開くと同時に、ミケとねえさんがインプラントを発動させて、ドロント兵を次々と撃ち始める。
逆に、エリート兵はインプラントがリキャスト中だったため、通常の速度のままだった。
2人が攻撃している間に、KSGに煙幕弾を装填すると、エリート兵が居る場所に向かって放った。
煙幕弾がエリート兵が居る場所へ落ちて、催涙煙が辺りを包む。
エリート兵が煙から逃れようと場所を移動している隙に、ボスとドラが部屋へ突入後、すぐに遮蔽物に身を隠した。
俺もボスとドラが動くのと同時に遮蔽物から身を乗り出すと、地を這う様に走って最前線のコンテナの裏へ移動する。
そして、攻撃しようと身を乗り出したら、俺のすぐ横にゴーストメイデンが居てギョッとする。
「キャァァァァァ!!」
すぴねこ 『ぐへ!?』
間近でゴーストメイデンの絶叫を聞いてスタンを喰らうと床に倒れた。
チビちゃん『すぴねこ君、スヤァ』
ドラ 『メイデンまで居たのかよ!』
ミケ 『居たじゃないわ。新手の追加よ!』
ねえさん 『ウォーリアー3、バーサーカー3、ドロント兵も4体追加。このままだとすぴねこがヤバイわ』
すぴねこ 『…………』
気絶して体が動けない状況で敵の追加報告を聞く。もうどうにでもなーれ。
ボス 『ドラ、グレネードをすぴねこの前に投げろ!』
ドラ 『あいよ!』
ボスの命令で、ドラが俺に近づく敵に向かってグレネードを放り投げたらしい。
コンテナを挟んで爆発音がするのと同時に、ボスの7㎜弾のミニミ軽機関銃の銃撃音が聞こえた。
ボス 『ウォーリアー、バーサーカー、クリア!』
すぴねこ 『俺様復活』
スタンが解けて、体が動くようになった。
ドラ 『すぴねこ、1つ貸しだからな』
すぴねこ 『俺が貸してる分から差し引いとけ』
そう言い返すと、ドラが肩を竦めていた。
今残っている敵勢力は、エリート7体、ドロント兵9、ライトタンク6体。
ウォーリアーとバーサーカーを殲滅させたとは言え、まだまだ敵の数は多かった。
あれ? 何か忘れているような……いや、今はそれどころじゃない。
そして、こちらの状況だけど、部屋の外に居たミケとねえさんは、俺が気絶中に部屋の中に入って最後尾に配置していた。
あのまま左右に居続けていたら、敵の自爆特攻時に逃げられないから良いタイミングだったと思う。
ボス 『エリート兵は倒すのに時間が掛かる。ドロントとエリートは後回しだ。ライトタンクを優先しろ』
敵の数が半数以下になって自爆特攻する時に一番やっかいなのは、装甲が厚く倒し辛いライトランクだった。
そして、前回のミッションでエリート兵は自爆をしないのが分かっている。
以上の判断から、ボスは敵が半数以下になる前にライトタンクの殲滅を優先するように命令した。
すぴねこ 『ミケ、ねえさん。タンクの装甲をぶち抜くから、トドメを宜しゅう頼のんます』
ミケ 『何か変な頼み方ね』
ねえさん 『任せなさい』
2人に伝えてから、KSGのスイッチを切り替えてスラッグ弾を撃てるように変更する。
ライトタンクは防御力が高い替わりに、素早さが劣っていた。
そして、装甲が厚い利点を生かして、遮蔽物に隠れる事よりも、攻撃を優先とする動作が多かった。
つまり、何が言いたいのかと言うと……。
すぴねこ 『油断してんじゃねえよ。その固い鎧をぶち抜くぞ、コノヤロウ!』
さきほどゴーストメイデンにやられた腹いせを込めてスラッグ弾を放つと、銃撃中のライトタンクの胴体に命中して、装甲を破壊しつつ後方に吹っ飛ばした。
ねえさん 『ナイスショット!』
ねえさんがスコープを覗いて照準を絞る。
ドラ 『ねえさん、後ろ!!』
ねえさん 『え?』
ねえさんが振り返ると、そのすぐ後ろにゴーストメイデンが浮かんでいた。
そして、ねえさんと顔を見合わせると悲鳴を上げた。
「キャァァァァァ!!」
ねえさん 『ヒィッ!』
チビちゃん『ねえさん、スヤァ』
すぴねこ 『そう言えば、居たの忘れてたわ』
そのゴーストメイデンは、姿を消す前にチビちゃんが銃弾を浴びせて仕留めていた。
ねえさんが気絶するというトラブルはあったが、ライトタンクは俺が装甲を破壊した後、ミケが仕留めて殲滅させた。
ミケ 『ライトタンク、クリア』
ねえさん 『ただいま。酷い目に遭ったわ』
チビちゃん『おかえりー』
ライトタンクを殲滅して、ねえさんが気絶から戻り、こちらの体制が整う。
ボス 『よし、まずはドロントを全滅さ……』
ドラ 『待て、敵さん追加だ!』
すぴねこ 『まだ来るのかよ』
ドラの声に敵陣を見れば、奥の部屋からドロント兵4、ウォーリアー2、バーサーカー2が部屋に入って来るところだった。
ミケ 『キリがないわね』
ボス 『……これはカラテカ式だな』
すぴねこ 『カラテカ式?』
カラテカ式が何の事なのか分からず質問する。
ボス 『今から100年前、カラテカというゲームがあった』
すぴねこ 『100年前? もしかしてスーファミのゲームか? その筐体ならひい爺さんの遺品にあったらしいぜ』
ボス 『いや、スーパーファミコンじゃない。その前の機種のファミコンってヤツだ。そして、そのカラテカと言うゲームは、主人公が敵を倒して前へ進むゲームなのだが、前に進まないと敵が無限に沸く仕様になっていたらしい』
ボスの長い説明に、彼の言いたい事を理解する。
すぴねこ 『なるほど。つまり、俺達が先に進まない限り、敵が次々と沸いて来るって事か』
ボス 『その通りだ』
すぴねこ 『だけど、1つだけ分からない事がある』
ボス 『何だ?』
すぴねこ 『なんでわざわざ、誰も分からないカラテカ式なんて言ったんだ? 馬鹿だろ。素直に敵が無限に沸くって言えや!』
俺がそう言うと、全員が頷いた。
ボス 『……それはあれだ。そう言った方が格好良くね?』
ドラ 『時々あんたは、誰も理解できないポリシーを表に出してくるよな。少し迷惑だぜ』
ボス 『……それはスマン』
ボスは謝るが、反省している様には見えなかった。
さて、俺達が会話をしている間も戦闘は続けていた。
反省しているのか分からないボスと、気絶から回復したねえさんが中心となって、追加で現れたウォーリアーとバーサーカーを全て倒す。
チビちゃん『それでボス。さっきの話が本当だったら、どうするの?』
ボス 『……エリート兵を倒す。既に向こうのインプラントは回復している。まず、ねえさんがインプラントを発動させて、相手のインプラントを誘発……それから、一気に攻めるしか手段がないだろう』
ミケ 『ドロントの自爆特攻は?』
ねえさん 『多分、この戦闘では敵は自爆して来ないわ。私たちはかなりの敵を倒しているのよ。もし、自爆するのならとっくに来ている筈ね』
ボス 『よし、こっちの準備は整っている。ねえさん。インプラントの発動だ』
ねえさん 『了解』
ボスの命令でねえさんがインプラントを発動させると、敵のエリート兵が誘発されてインプラントを使用した。
それでエリート兵の動きが速くなり、再び銃弾の嵐が俺達に襲い掛かった。
すぴねこ 『ドラ、インプラントの弱点って知ってるか?』
遮蔽物に身を隠しながら、ドラに話し掛ける。
ドラ 『なんだ突然。インプラントの弱点なんて、リキャストタイムがあるぐらいしか思いつかねえよ』
すぴねこ 『そんなのは大した弱点じゃない。筋力強化と動体視力インプラント発動中は、速くなった分だけ攻撃回数が増えるんだ』
ドラ 『で? それがどう弱点に繋がるんだよ』
言い返すドラにフラッシュバンを見せると、俺の考えを理解したドラがニヤリと笑った。
ドラ 『なるほど。その考えは嫌いじゃない』
すぴねこ 『皆、聞いてたな。ってことで、反撃ターイム!!』
フラシュバンを敵に向かって放り投げると、缶から光と破裂音が鳴って同時に銃撃が止んだ。
ボス 『チャージ!!』
ボスの号令で反撃を開始。
敵陣を見れば、エリート兵だけでなくドロント兵を含めた全ての敵が目を潰されていた。
全員が身を乗り出して、棒立ちの敵に向かって銃弾を浴びせた。
ドラ 『面白れえぐらいに作戦が命中したな!』
ミケ 『喋ってないで、今は攻撃に集中して!』
ドラ 『へいへい』
ミケがドラに注意してから、インプラントを発動。次々とエリート兵を撃ち倒していった。
注意されたドラもグレネードを放り投げて、敵を吹っ飛ばす。
すぴねこ 『ボス! 前に行くから、フォロー頼むぜ』
ボス 『任せろ』
俺もインプラントを発動させると、遮蔽物に身を隠して援軍を待つ敵に向かって突撃を開始。
残り3体になったエリート兵は、視界が回復してインプラントが切れる前に俺を撃とうと銃を構えた。
その内の1体にミケのヘッドショットが決まって後ろに倒れる。
2体のエリート兵が俺に銃を撃ってくるが、インプラント発動中の俺には弾速が遅く見えていた。
弾を避けながらKSGのトリガーを引く。
放たれたスラッグ弾は、エリート兵の胴体を撃ち抜き、風穴を開けていた。
KSGのポンプを引いてリロード。
その間に最後のエリート兵が俺を撃とうとするが、トリガーを引く前にボスの銃弾が襲い掛かりエリート兵が倒された。
ならばとドロント兵に狙いを変える。
10体以上居たドロント兵は、ドラ、チビちゃん、ねえさんの攻撃で、その数を6体まで減らしていた。
近くに居るドロント兵に狙いを定めて頭を撃ち抜き、その敵が隠れていた遮蔽物を飛び超えると、俺の横に隠れていたゴーストメイデンが姿を現した。
すぴねこ 『うおっ!』
慌てて、前に飛び退いて絶叫を回避。
誰も居ない場所で悲鳴を上げたゴーストメイデンは、ミケの銃弾を背中に受けて消滅した。
床を転がり立ち上がると、そのまま前に向かって走り出した。
すぴねこ 『先に行ってるぞ!』
ボス 『戻れ、危険すぎる!』
すぴねこ 『だったら、残りを倒してとっとと来い!』
ボスに言い残すと、俺は攻撃を躱して敵が現れる扉を潜った。




