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『ワイルドキャット・カンパニー』 ~俺達、過疎ゲー、ゲーマーズ~  作者: 水野 藍雷
第3章 遺志を継ぐもの……
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第23話 ミッション5-3 その1

 ミッションゲートを潜ると、俺達は大勢の兵士に混ざって作戦司令部の中に居た。

 大勢の兵士の中には、前回俺達と共に戦ったアンダーソンがスコーピオン小隊の面々と一緒に待機していた。


 そして、俺達が待機しているこの作戦司令部だけど、以前にもミッションで使用した事があった。はて、何のミッションだったかな?

 思い出そうとしていると、正面の巨大モニター画面にスピットマン中佐が現れた。


『諸君、よく眠れたか? ブリーフィングを始める前に業務連絡だ。スコーピオン小隊はロックウェルが死んで、替わりにアンダーソンが率いる事になった。彼はまだ若いが優秀だ。困っていたら皆も助けてやれ』


 そのアンダーソンを見れば、彼の胸には今までなかった小隊長の階級章が付けられていた。

 彼はロックウェル小隊長の遺志を継いで、スコーピオン小隊の隊長に任命されたのだろう。

 アンダーソンは、最初に出会った頃と比べると、どことなく落ち着き払った風格があると思う。その様子はどことなく生きていた頃のロックウェル小隊長に似ていた。

 まあ、彼はNPCだから雰囲気なんて変わる訳などなく、ただ、俺がそう感じただけ。


『皆も知っている通り、ロックウェルは優秀で軍人にしては珍しく良いヤツだった。彼の死は残念だが、我々はロックウェルの為にもこの戦いは必ず勝利しなければならない』


 悲し気な表情を浮かべるスピットマン中佐だが、毎回彼が提案する作戦は無茶ぶりが激しい。というか狂っている。

 巡洋艦ごと要塞に突入したり、後方支援なしに敵の中心地に向かわせたり、宇宙から地……ハッ!!

 一瞬、嫌な思い出が脳裏を駆け巡ったが、スピットマン中佐が作戦を説明し始めたので思考を中断した。


『敵要塞を破壊したことで、本拠地を覆うシールドが解除された。現在、3個師団が敵本拠地を攻略している』


 説明と同時にモニター画面が切り替わって、敵本拠地の上空写真が映った。

 敵の本拠地は宮殿を機械化した様な建築物で、高さはそれほどない様だが、東京ドームが4つぐらいすっぽり入りそうな広さがあった。

 そして、敵本拠地の正面周辺を3つの凸のマークが囲んでいた。


『バグスも本拠地の防衛に全兵力を集めているらしい。地上部隊も健闘しているが、敵の激しい反撃に落とす事が出来ずにいる。そこで、諸君は地上軍が正面に敵を引き付けている間に、敵の背後から本拠地を攻略して欲しい。侵入方法は宇宙からの降下作戦だ!』


 スピットマン中佐が声を張り上げると同時に、モニターに映る本拠地の後ろに丸が現れた。


『降下ポイントはこの丸の中だ!』


 モニターの中でスピットマン中佐が高揚しているが、彼と反比例して部屋の中は冷え切っていた。

 ……実は、シナリオ3でも、これに似たミッションが存在していた。

 その時のミッションは、敵の重要拠点を潰したいが、地上からも空からも行けない。だから、宇宙から落ちた。意味が分からない。

 恐らくこのミッションの発案者……まあ、ケビンだけど。彼はマリーアントワネットが言った「パンがなければケーキを食べればいいじゃない」と、これはあくまでも創作ネタのセリフだが、それ同じレベルの発想を地でやったらしい。


 先ほど俺が思い出した嫌な事。それは、そのミッションの時にブリーフィングとして使ったのが、この作戦司令部だったのを思い出したからだった。


『後方から侵入した後は、本拠地の中央を目指せ。そこにはロックウェルが伝えたマザーコンピューターがある。それを叩き潰すんだ!! 作戦名、マザーファッカー開始。諸君の健闘を祈る。以上!!』


 モニター画面が切り替わって、再びスピットマン中佐が再び画面に現れると、全員が席を立ち敬礼をした。俺達も毎度の様にオートモードで敬礼をさせられた。


 画面のスピットマン中佐が答礼して、モニターが消えて画面が暗くなる。

 それと同時に、部屋の中に居る兵士全員が左腕の関節を右手で叩き、スピットマン中佐が消えたモニターに向かって、左腕の中指を突き立てた。


「ふざけるな!」

「バカヤロウ!」

「テメエが乗って地上に落ちろ!」


 スピットマン中佐が消えた作戦指令室は、兵士の間で野次罵声が飛び交っていた。

 ちなみに、俺達のオートモードは解けていたけど、兵士達と一緒に中指を突き立てて騒いでいた。







「今回から俺がスコーピオン小隊を率いる事になった。まだまだ頼りないかもしれないけど、ヨロシク頼むぜ」


 ブリーフィングが終わると、兵士の中を掻き分けてアンダーソンが近づき、ボスに話し掛けて来た。


「もちろんだ」

「じゃあ、俺が聞いた中では最低の作戦名だけど、戦場で会おう」


 ボスの返答に満足したのか、アンダーソンは片手を上げると部屋から去って行った。


「全く誰が考えたのか、酷い作戦名だな。それですぴねこ、今回はどんな仕掛……って何だ!?」


 アンダーソンが去ったのを見送ってドラが話し掛けて来たが、言い終わる前に警報ランプが点灯して部屋が赤くなり、艦内放送が流れた。


『現在、バグネックスと交戦中。被害甚大! 地上降下作戦はこのまま継続して実行せよ。繰り返す……バグネックスと交戦中。被害甚大! 地上降下作戦はこのまま継続して実行せよ!』


 まだ部屋の中に居た兵士に動揺が走り、彼等は慌てた様子で部屋を出て行った。


「もう、一体何なのよ!」

「ボス!」


 ミケの叫び声に負けない大声でボスを呼ぶ。


「移動するぞ。このままここに居たら、ミッション開始前にゲームオーバーだ!」


 ボスの命令に全員頷くと、作戦司令部を飛び出た。







 揺れる艦内を、路順の誘導に従い移動して緊急脱出口へ入る。

 部屋は縦長に狭く、片方の壁には緊急用の1人乗り脱出ポットが横一列に並んでいた。


 そう。今回、俺達がバグス惑星に降りる船は脱出ポットだった。棺桶とも言う。

 本来なら宇宙から地上へ降りるのに揚陸艦を使う。実際に一番最初のミッション1-1では、揚陸艦を使って地上に降りた。

 だけど、あのスピットマンのクソ野郎は、脱出ポットを改造して弾丸の様に地上へ打ち下ろし、建築物を破壊して侵入させようとしていた。

 この作戦に、脱出ポットに入る人間の気持ちなんて物は微塵もない。


「またこれに入るとは思わなかったわ……」

「バンジーバンジー♪」


 嫌そうなミケの横では、チビちゃんが脱出ポットを見て楽しそうにしていた。


「チビちゃんは楽しそうね」

「ジェットコースターとか好きだから」


 そんな彼女にねえさんが呆れたように肩を竦めていた。


『被害破損率80%。地上降下部隊は速やかに脱出ポットへ入り作戦を実行せよ。繰り返す……地上降下部隊は速やかに脱出ポットへ入り作戦を実行せよ』


 艦内放送が流れると、今度は足元が大きく揺れた。


「放送が煽りよるわ」


 ちなみに、ドラはチビちゃんとは逆に、ジェットコースターが苦手だった。


「前にバンジーをやった事あるけど、その時のインストラクターも似たような煽り方をしてたな」


 スピーカーを睨むドラに話し掛けると、彼はこっちを向いて「マジかよ……」と呟いた。


「ここで屯っても無駄だ。覚悟を決めるぞ」

「だぁ、クソ、やってやらぁ!」


 ボスまでもが煽り始めて、ドラが叫びながら脱出ポットに乗り込む。

 そして、ドラの後に続いて全員が脱出ポットに入った。







 狭い脱出ポットの座席に座ると、自動でシートベルトが体に巻き付き固定される。


『射出まで30秒……25秒……20秒……』


 ポットの自動アナウンスを聞きながら射出まで待機していると、突然体が揺れた。

 脱出ポットが揺れたのか? いや、これは戦艦全体が揺れているのか?


『もう船が持たない、強制射出。無事を祈る!!』

「うおっ!?」


 自動アナウンスとは別の焦った声がしたと思ったら、脱出ポットのエンジンに火が付くなり戦艦から射出された。

 宇宙に出てから何事かと窓から外を見れば、先ほどまで俺達が乗っていた戦艦が数隻のバグス宇宙戦艦に砲撃を受けて爆発していた。

 あれでは戦艦の中の兵士は全滅だろう。


 他の皆は無事かと思って窓から探せば、戦艦から無事に脱出した何十もの脱出ポットがバグスの惑星に向かって移動していた。

 安心したところでインカムの電源を点けると、皆の声が聞こえた。


ボス   『皆、生きてるか?』

チビちゃん『生きてるよ~~』

ドラ   『死にかけたけどな』

ミケ   『何アレ、危機一髪じゃない』

ねえさん 『私も無事よ』


 どうやら全員無事らしい。


チビちゃん『あれ? すぴねこ君は?』

ドラ   『どうせ、またインカムの電源を点けてないんだろ』


 俺が返答するのを忘れていると、ドラが適当な事を言っていた。


すぴねこ 『聞こえてるぞ』

ドラ   『だったら応答しろよ』

すぴねこ 『お前が戦艦に取り残されて、爆散している事を祈ってた』

ドラ   『ほざけ』


 会話をしている間も脱出ポットは飛び続けて、惑星の大気圏へ突入を開始した。

 大気圏へ入ると同時に、大気摩擦で脱出ポットの表面温度が上昇して、周辺の空気が高温で赤くなる。

 そして、脱出ポットがガタガタと揺れ、落下による重力が俺達を襲い掛かった。


ボス   『ぬおおおお!』

ドラ   『た、玉……玉がヒュンヒュンするぅぅぅ!!』

ミケ   『ウルサイわね。少し黙ってて!』


 ドラの下ネタにミケが文句を言う。


ドラ   『女にはないのかよ、玉ヒュンみたいな感じ!』

チビちゃん『おなかの辺りがキューってなって、気持ち良いよ』

ドラ   『何かえっろ!』

チビちゃん『えぇぇ。ドラ君が聞いたんじゃん』


 皆の会話を聞きながら、脱出ポットに身をゆだねる。何も出来ないとも言う。気分は、生きたまま棺桶に入って火葬を待つ感じ。

 ちなみに、俺は別に高所恐怖症ではないから、落下に対して特に抵抗はない。と言うか、落ちるの楽しい。

 落下が怖いのは最初だけで、落ちた後はすぐに体が慣れて逆に楽しくなる。まあ、玉はずっとヒュンとしているけど。

 一度やったバンジージャンプは楽しかったし、何時か機会があればスカイダイビングもやってみたかった。


 玉ヒュン中に外を見れば、宇宙に居て暗かった空が次第に明るくなり、やがて空の青になった。

 そして、雲を突き抜けた脱出ポットは、目標の敵本拠地へ一目散に落下を続けた。

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