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『ワイルドキャット・カンパニー』 ~俺達、過疎ゲー、ゲーマーズ~  作者: 水野 藍雷
第3章 遺志を継ぐもの……
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第20話 史上最強の女 その1

 ミッションが強制的に終了して兵士サロンに戻ると、ロックウェル小隊長が死んでチビちゃんが大泣きしていた。

 チビちゃんは散々泣いてから、真っ赤な目をして買い物に行くと言いログアウトしていった。

 何となく、俺達が虐めてログアウトさせたみたいで、周りの視線が痛かった。


 チビちゃんに限らず、ロックウェル小隊長の死は、全員がショックを受けていた。

 ギャン泣きしたチビちゃんに隠れて、ミケとねえさんも涙を堪えて目を赤くしていたし、普段は陽気なドラも口数が少なかった。

 そして、最後に願いを託されたボスは、深く考えている様子だった。


 ロックウェル小隊長はNPCだったけど、このキャンペーンモードを共に戦った戦友だった。

 彼が率いるスコーピオン小隊とは、時には助け合い、時は笑い合い、一緒にクリアした時は互いに健闘してきた間柄でもあった。

 バグスに捕まり、改造されたあげく仲間に殺されて、ロックウェル小隊長は悔しかっただろう。

 だけど、アンダーソンとボスに最後の願いを託すことが出来た彼は、殉職者の様に安らかな表情を浮かべていた。

 これが遺志を継ぐという事なのか……。


 俺は安らかに眠れ(レスト・イン・ピース)と、彼の冥福を祈った。







 ロックウェル小隊長の事を考えていたら、俺のスマホからメールの着信を知らせる音が鳴った。


「お前、空気読めよ」

「読んでねえのは俺じゃねえ」


 ドラに言い返してメールを見れば、昨日と同じ送り主の分からない相手からで、内容も前回と同じ『エンディングで待っている』としか書いていなかった。


「…………」


 一体、この出会い系サイトの触れ込みみたいなメールは何なんだ?

 ブラックリストに入れようとしても、IDも文字化けしているからリストに入れたくても入れられん。

 さすがに二度目になると俺も黙っていられず、GMコールをしてこの送り主のアカウントを消してもらう事にした。


 一応、スマホからでもGMコールは出来るけど、ついでに銃について聞きたい事があったから、席を外して直接チャーリーに電話を入れる。

 10回コールしてから、そう言えばアメリカは夜中だと気付き、電話を切ろうとしたタイミングでチャーリーが電話に出た。


「えっと、チャーリー?」

『ん……もしかして、すぴねこか?』

「すまん。時差の事を忘れてた」

『いや、寝起きだから問題ない』


 おかしい。アメリカは今、真夜中の筈だ。


「お、おう……」

『ようやくゲームに戻ってきたんだな。これでビショップも安心して天国に行けるぜ』

「…………」

『はぁ……クソ。俺が真面目な事を言うと、皆が黙りやがる。クソ嫌になるぜ……』


 驚いていると、チャーリーがため息を吐いて愚痴をこぼした。

 普段から碌な事しか言えず、俺が貰うはずだった金を賞金レースの金にして、捻くれていると言われている俺よりも性格が捻くれているチャーリーが真面な事を言う!? ありえない。

 先ほどのセリフは普段なら「天国に行ける」と言わず「地獄に落ちる」と言っていた筈だ。


「テメエ、誰だ? チャーリーじゃねえだろ!」

『バカヤロウ。ここまで俺を否定したのは、クソなテメェだけだ』

「信じられるか。チャーリーが今まで真面目な事なんて言ったことねえだろ」

『ああ、ねえよ! 自慢じゃねえけど、クソな親にも言ったことねえ』

「ああ、本物のチャーリーだ」

『死に腐れ』


 そう言いながらもチャーリーの口調は笑っていた。







『クソ、元気そうで残念だ』


 チャーリーの言葉を真に受けてはいけない。

 今の「元気そうで残念だ」を翻訳すると「元気そうでなによりだ」になる。

 ちなみに、最初の「クソ(F○ck)」は、ただの慣用句だ。


「戻るまでちょいと時間は掛かったけど、何とかな。そっちはどうだ?」

『ケビンが病院でサボってるから大変だぜ。あのクソ野郎、早く仕事に戻れ』


 もう翻訳するのも面倒だけど、今のは「早く回復して欲しい」と言っている。


「その様子だと、ケビンは大丈夫そうだな」

『まあな。しんどいのはこっちだ。クソな警察からは事情聴取されるし、クソマスコミは押し寄せてくるし、クッソ忙しいのに葬式はしなきゃいけねえ。それなのに、アイツ(ビショップ)の両親が死んだときは誰も引き取らなかったクソな親戚が、遺産を寄越せと近づいて来るしで、全員、アイツの死を考える暇すらねえぜ。クソ!』


 ここまで「クソ」という単語が出てくるという事は、かなりしんどいらしい。


「そうか……大変だな」

『そんな状況でもゲームを維持してんだから、俺もクソ真面目だよな』

「もしかして褒めて欲しいのか?」

『クソが、気持ち悪い事を言うな!』


 チャーリーは性格が捻くれているからか、褒められると全身に虫唾が走る難儀な特異体質の持ち主だった。


『それで、こんな夜中に何の用だ?』

「ゲーム内でスパム業者っぽいヤツからメールが来るから、調べて欲しいんだけど」

『ゲーム内メールでスパムだぁ?』


 昨日から届くメールについて説明すると、少し驚いた様子だった。


『そんなクソ野郎が居るのか。こんなクソ忙しい時に何の嫌がらせだ。クソ、チョット待ってろ、調べてみる……』


 暫くの間、電話口からキーボードを弄る音がして待っていると、調べ終わったチャーリーが話し掛けて来た。


『今確認したけど、訳の分からんクソメールだな。業者にしてはアドレスが載ってないし、一体何の意味があるんだ。残念だけど、ウィルスの類は見当たらねえから安心しろ』

「それで、送り主の正体は?」

『そいつは分からん。外からメールサーバーに侵入した痕跡がない事から、内から送っているのは確かだけど、こんなぶっ壊れたIDを持っているプレイヤーなんて居ねえ。恐らくシステムに侵入してIDを隠蔽している可能性がある。クソ! それに、お前がミッションをクリアしたのに合わせてメールを送ってるのが気になるな』

「どういう事?」

『つまり、お前はそのクソ野郎にずっと粘着されているって事だ。おめでとう』

「なんだそれ。キメえ」

『そいつは良かったぜ。さて、お前がクソ野郎にストーカーされているのはさておいて、コイツは俺達にとっても由々しき事態な事は間違いない。まず、システムに介入してIDを隠している。次にログイン、ログアウトの履歴が存在しない。ここまで侵入したら、ゲームのハッキングだって出来るだろう。だけど、そんな痕跡は微塵もなくて、やってる事はただのストーカーだ。このクソ野郎はバカか? 天才的なハッカーのくせに、こんな間抜けな事をするヤツは、俺が知る限り1人しかいねえ』

「奇遇だな。俺も、そいつの心当たりが1人だけ居るぜ。だけど、ソイツだけはありえない」

『ああ、確かにありえねえ、何せ既に死んでいるんだからな。だけど、ビショップ以外にこんな芸当が出来るヤツを、俺は知らない』

「……俺も同意見だ」


 どうやら死んだビショップが化けて出て来たらしい。







 互いに黙っていると、チャーリーがため息を吐いた。


『……もしかしたら、本当に幽霊かもしれねえな』

「……どういう事だ?」

『すぴねこはどこまでミッションを……ってマジか!? 今日1発で5-2をクリアしたのか。一体どうやってクリアしたんだ? クソ! まあ、それはどうでもいいか。と言う事はエリート兵と遭遇したな』

「ああ、あのAIとは思えない動きをするバグスだろ」

『そう、その敵だ。ビショップは大学時代のコネを使って、独自のAIを研究していた』

「へぇ……」

『エリート兵はその研究結果のごく一部でしかない。アイツが目指していたのは、AIによる完全なゲーム管理だ』

「完全なゲーム管理?」

『簡単に説明すると、TRPGのGM(ゲームマスター)をAIにやらせたいらしい。参加するプレイヤーの能力に合わせて、シナリオを作り、ゲームバランスを整え、MAPを生成する。それが出来れば常に新しいコンテンツをプレイヤーに提供できて、まさに理想のネットゲームと言えるだろうな』

「そんな事、出来るのか?」


 俺が驚いていると、電話口でチャーリーが笑った。


『そんなに驚く事もないだろ。AIがGMになってゲームを管理するのは、2021年には既に実現してるぜ。まあ、管理と言っても、ゲームバランスの調整とMAPの生成ぐらいだけどな。アイツはそれに加えて、シナリオの作成もAIにやらそうとしていた』


 今の話を聞いて、ロックウェル小隊長がボスの名前を言ったのを思い出した。


「……シナリオって、NPCがプレイヤー名を言ったりするのか?」

『そんな感じだな。だけど、シナリオを作ると言っても、1から作るのは人間だってクソ難しい。大量のテンプレートを作って提供するものありだけど、それだと類似したクソなシナリオばかりになるし、流行が終われば風化して本物のクソになる。だから、アイツはAIがプレイヤーが漏らす会話を聞いて情報を入手し、その情報を元に最新の流行を取り入れたシナリオをAIに創作させようとしていた……ここまでくると、もはや人工知能とは言わず、人工頭脳と言ってもいいだろう』


 さらに詳しく聞けば、シナリオに登場するNPCがプレイヤーと世間話をしたり、ドジを踏んだり、対応が悪ければ裏切ったりするらしい。


「そいつは面白そうだな。それで、結局のところ、その人工頭脳が幽霊の正体なのか?」

『それは分からん、あくまでも俺の妄想だからな。全くの見当外れな考えかもしれん。だけど、アイツがクソ野郎に殺されて人工頭脳の研究はつぶれたけど、このゲームの基盤システムの中枢には、その中途半端な作りかけの人工頭脳がブラックボックスとして存在している事だけは事実だ。フム……そう考えると、これはこれでSFっぽくてクソ面白いな』

「ストーカー被害に遭っている俺からしたら、笑いごとじゃねえ。何か対策はないのか?」

『んなもんあるかクソ野郎。もし、人工頭脳が犯人だったら今の会話も聞いているから、ここで対策を話しても無駄だ。それに、その人工頭脳を作ったのが俺だったら、今頃ペンタゴンをクラックして核をぶっ放してるかもしれねえけど、ゲーム以外に何一つ興味のなかったビショップの作った物なら、無害なのは間違いない。それだけは俺が保証してやるよ』

「……ヒデエ話だ」

『はははっ! 今のところ被害は無いんだから、ほっとけ、ほっとけ』


 俺の不安を他所に、電話口でチャーリーは大声で笑っていた。

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