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『ワイルドキャット・カンパニー』 ~俺達、過疎ゲー、ゲーマーズ~  作者: 水野 藍雷
第3章 遺志を継ぐもの……
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第18話 ミッション5-2 その6

 実験室は手術室の様な部屋で、部屋の中央には台座が置かれ、至る所に手術用の器具が置かれていた。

 しかし、中は無人で、ロックウェル小隊長どころかドローンすら居なかった。


ミケ   『誰も居ないわ』

チビちゃん『ロックウェル隊長、どこに行ったんだろうね』

すぴねこ 『とっとと出てくれば良いのに、面倒くせえシンデレラだな』

ボス   『ボヤいてないで奥へ進むぞ』


 ボスの言う通り、実験室にはまだ奥へと続く通路があった。

 その通路を進み、俺達はドーム型の広い場所に入る。


ミケ   『ここは?』

ねえさん 『何かの実験場みたいね』

すぴねこ 『まあ、実験室だからな』


 警戒しながらドームの中央へ移動すると、反対側の暗闇から足音が聞こえてきて、全員が銃を構える。

 そして、足音が近づき、その姿が見えると同時に全員が息を飲んだ。


「……た、隊長」


 かすれた声でアンダーソンが呟く。


 そう、暗闇から現れた相手は、俺達が探していたロックウェル小隊長だった。

 ただし、彼は俺達の知っている姿ではなく、既にバグスに改造された後だった。


 全身はガーディアンタイプの装甲で覆われて身長が3m近くあり、両腕は切断されて銃が植え付けられていた。

 頭の部分は透明なシールドに覆われて、そのシールドの中の顔を見れば、俺達が探し続けていたロックウェル小隊長だったので、この敵がロックウェル小隊長の成れの果てだと知る事が出来た。


 俺達がロックウェル小隊長の姿を唖然として見ていると、彼はまだ自我意識があったのか、俺達に向かって話し掛けて来た。


「頼みがある……俺を殺せ」

「隊長、何を言ってるんですか!! 一緒に帰りましょう!!」


 ロックウェル小隊長の願いを聞いて、アンダーソンが叫び返した。


「ダメだ! 今は何とか自意識はあるが、既にバグスに乗っ取られている。今は何とか自分の意思で押さえているが、もう限界だ。俺がお前達を殺す前に、殺せ」

「そ……そんな……そんなの俺には無理です!」

「こ、これは命令だ。早くしろ。クッ! もう持たない……」


 ロックウェル小隊長が左腕を前に突き出すと、銃口が黒く光りだした。


「逃げろ!」


 ロックウェル小隊長の叫び声に全員が退避する。

 同時に銃口から黒い光が発射されると、逃げようとした体が黒い光に吸い込まれそうになった。


「クソ、止められん! こいつはグラビトン(重力子)だ。喰らったらどんなに固くても一撃で死ぬぞ!」

「チクショウ!」


 覚悟を決めたアンダーソンが泣きながらロックウェル小隊長に銃を向ける。

 そして、俺達のオートモードがようやく解除されて、ロックウェル小隊長との戦いが始まった。







 バグスに改造されたロックウェル小隊長は、今まで戦ってきた敵の中でも最強レベルの強さだった。


 右腕からは常にエネルギー弾が機関銃の様に放たれ、うかつに姿をさらけ出せば、あっという間にハチの巣にされそうになり、左腕から放たれるグラビトンの弾速は遅いが弾自体に重力があって、離れていても吸い込まれそうになった。

 ロックウェル小隊長曰く、グラビトンに吸い込まれたら一撃で死ぬらしい。

 唯一の救いは、グラビトンは連発して撃つことが出来ないらしく、1発撃つ毎に30秒のリキャストが必要だった事だろう。


 そして、防御力もガーディアンタイプの装甲をしている事から固いと予想していたが、正面からの攻撃は全く歯が立たず、かと言ってガーディアンならあるはずの背中のジェネレーターは存在せず、何所から攻めれば良いのか見当が付かなかった。


 戦闘が開始されると同時に俺達は拡散して柱の陰に隠れたが、ロックウェル小隊長はランダムに相手を選ぶと、歩いて近づき攻撃をしてきた。


ドラ   『うげ! こっちに来た!!』


 近づいて来るロックウェル小隊長に、ドラが呻いて柱の陰から逃げ出す。

 その直後、ドラが居た柱に向かってエネルギー弾が降り注ぎ、逃げるドラに向かってグラビトンが放たれた。


ドラ   『死ぬ、死ぬ! 驚きの吸引力ぅぅ!!』


 どんな時でもジョークを絶やさないアホに苦笑い。

 ドラはグラビトンから逃れると、到着した別の柱の陰に隠れて、無事に攻撃をやり過ごした。


チビちゃん『ボス! グレネードも効かないよ』


 ドラが強制的に囮になっている間に、チビちゃんのグレネードがロックウェル小隊長の背後で爆発していたが、彼は無傷で何ともない様子で攻撃をしていた。


ボス   『ねえさん。頭はどうだ?』

ねえさん 『駄目ね。顔は見えるけど、防弾ガラスみたいなシールドで覆われていて弾かれるわ』


 ボスの確認に、スナイパーライフルで頭を撃ったねえさんが、諦めた声で返答する。


ミケ   『やば!』


 ロックウェル小隊長が近づくのを見てミケが逃げるが、お前、何で俺の方に来るんだ?


すぴねこ 『こっち来るな!』

ミケ   『…………』


 ミケは無言で、ただ俺を殺そうとする殺人者の目をして俺が隠れていた柱に身を潜めた。

 そして、ロックウェル小隊長の攻撃対象が俺に変更される。


すぴねこ 『テメエのせいで、こっちに来たじゃねえか!! ミケ、ゴーグルを付けろ』


 叫んでヘルメットの暗視ゴーグルを装着。ミケも俺の言う通りにゴーグルで目を保護する。

 そして、ロックウェル小隊長が近づく前に、ショットガンの弾丸を催涙弾に差し替えると足元に向けて撃ち、スモークで俺とミケの姿を隠した。


ボス   『お? ロックウェルの足が止まったぞ』

ねえさん 『どうやら、ターゲットは目視だけみたいね。しかも、姿が消えるとターゲットを変更……変更?』


 ロックウェル小隊長の今度の狙いはねえさんだった。


ねえさん 『いやーー!!』


 ロックウェル小隊長と目が合ったねえさんが逃げ始める。

 俺達とロックウェル小隊長の鬼ごっこは始まったばかりだった。







ドラ   『すぴねこ。何か分かったか?』


 チビちゃんがロックウェル小隊長に追われている最中、ドラが質問してきた。

 ちなみに、チビちゃんはボスの方へとまっしぐらに逃げて、ボスが慌てていた。


すぴねこ 『……グラビトン、マジ、ヤバイ』

ドラ   『何も分からねえから、ボケてきやがった』

すぴねこ 『テヘペロ。あ、ドラ、狙われてるぞ』

ドラ   『うげぇ!』


 チビちゃんがボスの所まで逃げるとターゲットが変更されて、そのターゲットにされたドラが慌てて逃げ始めた。

 ……その様子に、俺の頭の中で何かが引っ掛かった。


 ターゲットがランダムだったから今まで気づかなかったが、さっきからボスだけが狙われてねえな。

 ボスを避ける理由は? サイボーグだからか? いや、そんな単純な理由だとは思えない。

 再度ボスの方を見れば……彼の横にはNPCのアンダーソンが立っていた。


 そうか、ロックウェル小隊長は、元部下のアンダーソンを無意識に避けている!

 取り敢えず、安置は見つけた。


 次に攻略だが、他のゲームで弱点の無い固いボスの場合は、大抵のケースだと外部に弱点のオブジェクトがあって、それを破壊すれば柔らかくなるのが鉄板だが、この場所にそんなオブジェクトは存在しない。

 だとすると、やはり一度だけでも全員をアンダーソンの近くに移動させて、ロックウェル小隊長がどんな反応をするのか確認するべきだろう。


すぴねこ 『全員、アンダーソンが居る場所へ行け!』


 突然叫んだ俺の命令に全員が驚く。


ミケ   『一か所に集まったら全滅するわよ!』

すぴねこ 『さっきからアンダーソンの近くに居るボスだけがターゲットにされてねえ。恐らくアンダーソンが攻略のカギだ。ダメだったら、まあ、あれだ……最初っからやり直そうぜ』

ドラ   『さっきからボスだけターゲットにされてなくてムカついていたし、その作戦乗った!』


 作戦に乗る理由が酷い。


ねえさん 『攻略方法が見つからないなら、試してみる価値はあるわね』

ボス   『もし攻撃されたら俺が犠牲になる。全員、来い!!』

チビちゃん『ミケちゃん、行こう』

ミケ   『分かったわ』


 全員俺の作戦に乗ると、アンダーソンが居るボスの方へ走り出す。

 そんな最中、俺だけが残ってロックウェル小隊長と対峙した。


ミケ   『すぴねこ!』

すぴねこ 『少し試したい事がある』


 ミケに応じながら、ロックウェル小隊長の攻撃をしのぐ。

 予想した通り、全員がアンダーソンの近くに居ると、彼は残された俺だけをターゲットに絞って、攻撃を集中させていた。


ねえさん 『本当にこっちへ来ないわ……』

ボス   『全滅を避けるために拡散しようとするプレイヤーの心理の逆を突いた攻略か』

ドラ   『こいつを考えたヤツは、捻くれてやがるぜ』


 柱から柱へ移動して攻撃を躱し続ける俺を見て、全員が俺の考えを理解する。

 一方、俺はグラビトンを躱そうと前へ飛び、前転の勢いのまま起き上がって、背後に迫るエネルギー弾を避けつつ、一気にボスの方へと走った。


すぴねこ 『待たせたな』

ドラ   『ずっと狙われていても良かったんだぜ』

すぴねこ 『お前がストーカーしているバーチャル女の気持ちが分かったよ』

ドラ   『だから、俺のか……』

ボス   『黙れ、来るぞ!』


 俺達とロックウェル小隊長が対峙してにらみ合う。

 俺が考えたこの作戦は、僅かな希望をオッズにした一か八かの賭けだった。


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