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『ワイルドキャット・カンパニー』 ~俺達、過疎ゲー、ゲーマーズ~  作者: 水野 藍雷
第3章 遺志を継ぐもの……
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第15話 ミッション5-2 その3

 通路は下水道の様な丸形の通路で、床は血の川が流れていた。


ドラ   『本当にこのルートで合ってるのか?』

すぴねこ 『どこに向かってるかは知らねえけど、方向は間違ってねえ』


 時折現れるゾンビを倒しながら進むと、上への階段を見つけた。


ドラ   『ここから上がれるけど、まだ通路は続いているぜ。ボス、どうする?』

ボス   『すぴねこ、ミケ。上がって偵察だ。危なくなったらすぐに戻ってこい。その間に俺達は通路の先を進む』


 どうやらボスは、この通路の先が正規ルートと判断したが、この階段も怪しいので確認をしたいらしい。


すぴねこ 『了解。俺が先に行く』

ミケ   『気を付けて』


 ボスと別れて階段を上がり、格子戸を押し開け中へと突入すると、照明のない闇に覆われた小部屋だった。

 敵が居ない事を確認して、ウェポンライトの電源を入れる。


すぴねこ 『クリア。扉があるな。もう少しだけ先に進む』

ボス   『無茶だけはするな』

すぴねこ 『周りから見れば無茶に見えるだけで、俺は無茶なんて一度もした事ねえよ』

ドラ   『そんなすぴねこに俺から一句。「イキるなら とことんイキれ なろう系」』

すぴねこ 『ふざけんなコラ。季語がどこにも入ってねえよ!』

ミケ   『ツッコみ所が違うわよ』


 ん? ツッコミが違う?


すぴねこ 『……別にイキってねえよ。誰がなろう系だ!』

ドラ   『今の天然か? 草生える』


 改めてツッコむとドラがゲラゲラ笑っていた。後でぶっ殺す。







 警戒しながら扉を開けると、ベルトコンベアのある部屋に入った。

 ベルトコンベアは透明なシールドで覆われていて、ラインには捕虜の入った棺が運ばれていた。

 棺はこの部屋で一旦降ろされると壁に立てかけられ、天井から伸びた針が捕虜の頭をぶっ刺していた。

 そして、作業を終えると、ベルトコンベアに戻して別の部屋へと搬送されていた。


すぴねこ 『どうやら、無事に捕虜収容所に入ったみたいだな。だけど、コイツはただ収容しているだけじゃなくて、バグス兵の生産工場らしい』

ボス   『こっちも別の梯子を見つけた。今から登って確認する』

すぴねこ 『了解』


 ボスとの通信を終えると、ミケが話し掛けて来た。


ミケ   『ねえ。あれって、前葉頭にインプラントを入れてるの?』

すぴねこ 『額に「肉」の入れ墨を入れてる様には見えないから、そうだろうな』

ミケ   『だったら止めなきゃ』

すぴねこ 『待て!』


 ミケが動く前に腕を伸ばして行く手を遮る。


ミケ   『何で止めるの!』

すぴねこ 『強引に止めたら、敵が来るぞ』

ミケ   『そうかもしれないけど……』

すぴねこ 『さっきのゾンビもそうだけど、コイツはプレイヤーの良心を狙った罠だ』


 ケビン達と散々TPRGを遊んだ俺なら分かる。

 あのおっさんは、ゲームの終盤になると今まで仲間だったNPCを目の前で殺し、プレイヤー側のヘイトを煽る罠を仕掛けてくるパターンが多い。


すぴねこ 『それに、これはゲームだぞ。俺達が直ぐに救出しても意味ねえ』

ミケ   『……確かにその通りね』


 ミケが諦めて、ため息を吐いた。


すぴねこ 『冷静になってなによりだ。という事でボス、話は聞いていたな。嫁が目の前でNTR(ネトラレ)ても攻撃をするな。うかつに手を出すと敵が来るぞ』

ボス   『それは約束でき……』

チビちゃん『了解!』

ボス   『えぇ……』


 どうやらボスと違って、チビちゃんは旦那が何かされても見守るらしい。


すぴねこ 『俺達はベルトに沿って進んでみる』


 ベルトコンベアを追えば、捕虜が棺に入れられる場所へ行けるだろう。


ボス   『分かった。気を付けろ』


 若干声のトーンが落ちたボスの了承を得て、俺とミケは移動を開始した。







 ベルトコンベアに沿って進む。

 棺に入っている捕虜は全身を縛られ、体に薬の入った針で滅多刺しにされると、両手両足をぶった切られた挙句に機械の義手を無理やり付けられていた。

 そして、電動のこぎりで切断される時に悲鳴を上げている事から、どうやら薬はステロイドだけで麻酔はしてないらしい。明らかに医療ミスである。

 しかも、俺達が近づくと助けてくれと捕虜が目で訴えてくるのが良心をえぐり、このシナリオを考えたケビンの悪意と心の闇が見えた。


 一方、ボス達だが、彼等も別ラインのベルトコンベアを見つけていた。

 あっちのベルトコンベアは、タレット兵やゴーストメイデンなどの生産ラインだったらしく、こちらと同じかそれ以上にグロテスクな改造手術が行わているらしい。


ミケ   『……吐きそうになるわね』


 ゲームだと分かっているのにも関わらず、捕虜の手術を見ているミケの顔は青ざめていた。


すぴねこ 『このゲームでメジャーになったけど、元々インディー会社だから、倫理なんてクソだったんだろ』

ミケ   『前作はここまで酷くなかったわよ』

すぴねこ 『最初の方は、あの殺人プロデューサーが止めていたらしいぜ。だけど、プロデューサーが逃げた後はケビン達、やりたい放題だっただろ。あのおっさん連中、嬉々としてNPCを虐殺してたじゃねえか』

ミケ   『前作の時は、グラフィックがそんなにリアルじゃなかったし、字幕も滅茶苦茶な日本語翻訳だったから気付かなかったわ』

すぴねこ 『開発側の苦労を全て粉砕するセリフだ』


 ミケに肩を竦めて、次の部屋に入る。

 そこでは、捕虜がバグスに両腕を掴まれて棺に入れられようとしていた。


 その捕虜を捕まえているバグスだけど、今まで見た事のない新手の敵だった。

 本来だと銃が埋められている筈の右手は普通に手があって、全身は赤いアーマーで覆われていた。

 その2体のバグスは俺達に気付くと、捕虜の延髄を叩いて気絶させてから戦闘態勢に入った。


すぴねこ 『コンタクト! 今まで見た事のない新手の敵だ』


 ボスに報告しながら遮蔽物に身を隠す。ミケも俺と同様に身を隠して銃を構えた。


ボス   『大丈夫か?』

すぴねこ 『気が早え。まだ戦ってねえよ!』


 俺が報告している間に、敵は背中から銃を取り出すと、俺達に向かって撃ち始めた。







 2体だけだから余裕だと思っていたが、今までの敵と違って決められたパターンで戦えず苦戦していた。

 そして、こちらが撃ち始めてすぐに、ボス達の方も同じ敵と遭遇して戦闘が始まったらしい。


ミケ   『この敵、変よ!』

すぴねこ 『このゲームでまともなヤツなんて、味方のNPC含めて見た事ねえ』


 ついでに、俺の周りのプレイヤーも変人ばかりで嫌になる。


ミケ   『真面目に答えて!!』

すぴねこ 『……ああ、分かってる。コイツ等、今までとAIが違う』


 何となくPvPで腕の良いプレイヤーと戦っている、いや、この敵はそれ以上の腕がある。


ドラ   『……なあ。コイツ等の動き、何となくすぴねこの戦い方に似ていないか?』


 敵について考えていると、インカムを通じてドラの声が耳に入ってきた。


チビちゃん『あーーうん。そんな感じがする』

ねえさん 『当てたと思ったらパッと隠れて、撃ち返してくる煽り具合が似ているわね』

すぴねこ 『いやいやいや、待ってくれ。俺はそんな煽りプレイしてねえよ!』

ボス   『それは自覚してないだけだ。お前とドラはPvPでも煽りプレイしているぞ。時々戦ってイラって来るからな』

すぴねこ 『マジかぁ……』

ドラ   『うへ? 俺も?』


 お前は煽りの権化だ。


ミケ   『それよりも、すぴねこ。インプラントを使うわ。同時に発動させて一気に倒すわよ』

すぴねこ 『分かった。そっちの合図で動く』


 ミケに頷き、合図を待つ。


ミケ   『3,2,1……』


 ミケのカウントと同時にインプラントを発動。スローな世界に入ると同時に遮蔽物から身を乗り出した。

 すると、俺達の様子を見た敵が光りだし、俺と同じ速度で動き始めた。


ミケ   『嘘!?』

すぴねこ 『マジか!!』


 驚き一瞬身動きの止まった俺の胸と脚に、弾丸が1発づつ命中。HPが一気に減って、視野が暗くなる。

 続いて頭を狙った弾丸が飛んで来たが、これは辛うじて躱してヘルメットを掠めた。


すぴねこ 『クソが!』


 俺を撃った敵に向かってショットガンを放つ。弾丸は身を乗り出していた敵の胴体に命中、後ろへ吹っ飛んだ。

 だが、後方に居た敵が俺に向かって銃を構えていた。


ミケ   『当たって!!』


 敵がトリガーを引く直前に、ミケがライフルのトリガーを引く。

 彼女の放った弾丸は、敵の腕に命中して、俺への攻撃が外れた。


すぴねこ 『ナイス!』


 すぐにショットガンのポンプを引いてリロード。

 敵が再び俺に銃を構える前に、2体目の敵を撃ち殺す事に成功した。


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