第13話 ミッション5-2 その1
ミッションゲートを潜ると、俺達は装甲トラックに乗っていた。
装甲トラックには、俺達以外にスコーピオン小隊のアンダーソンが同席していたが、彼の表情は暗かった。
そのアンダーソンが、俺達に向かって話し掛ける。
「今回は俺に付き合ってくれて、ありがとな。本部の情報によると、隊長は敵本拠地近くの捕虜収容所に連れ去られたらしい。だけど、お前達も知っている通り、バグスの捕虜に連れ去られたら改造されて人格が無くなっちまう。その前に、何としても隊長を救出しよう」
アンダーソンの話に全員がオートで頷く。まあ、オートじゃなくても頷いた。
前回のミッションの最後で、ロックウェル小隊長はギガントスの襲撃に遭い、部下を庇って連れ去られた。
今回俺達に与えられた任務は、アンダーソンと一緒にロックウェル小隊長を救出する事だった。
捕らわれたロックウェル小隊長は、どことなく性格が歪んでいたけど、それでも人格者で、シナリオ1で出会ってからここまでの間、俺達は何度も彼に助けられた。
もしこれがミッションの最初に出て来た軍曹だったら「救出? お前は何を言っているんだ。あの野郎が敵として現れたら、喜んで殺してやるよ。ヘイ、カモン!」と言っていたかもしれないが、ロックウェル小隊長なら話は別。
彼を助けるためなら、死線を潜り抜けても助ける価値はある。これが、日頃の行いの違いというヤツだろう。
「捕虜収容所は警備が厳重で侵入が難しい。だけど、隣接している廃棄工場はそこまで警備が厳重じゃないらしい。そして、その廃棄工場は、改造や人体実験で失敗した捕虜の廃棄場所というのがHQからの情報だ。つまり、隣接しているって事は、廃棄工場と捕虜収容所はどこかで繋がっている筈だ。俺達は廃棄工場から捕虜収容所に通じる通路を探して、そこから侵入する」
アンダーソンの説明が終わって、オートモードが解除。
やっと俺達は口を開くことが出来た。
ミケ 『人体実験の廃棄工場か……どんな場所か予想したくないわね』
チビちゃん『グロ注意だよ』
嫌な顔をするミケにチビちゃんが笑顔で応える。
チビちゃんは見かけによらず、グロ耐性が高いというか、グロが好き。
恐らく普段からボスのツラを見ているから、免疫があるのだろう。
ドラ 『すぴねこ。今回のミッションはどう思う?』
ドラに今回のミッションを聞かれて、顔を顰める。
すぴねこ 『お前は毎回その質問をしてくるけど、ほぼノーヒントで答える俺の苦労を一度でも考えた事があるのか?』
ドラ 『そりゃ悪かったな。それで、どう思う?』
すぴねこ 『今の悪かったは、一体、何に対しての謝罪だ? まあ、天使より寛容な心の持ち主の俺だから考えてやるけど……今回のミッションか……そうだな……前半は敵よりもトラップがキツそう。そんな気がする』
ドラ 『何でそう思った?』
すぴねこ 『だって廃棄工場だろ。バグスがご丁寧に死体を火葬してくれるとは微塵も思えん。死体処理する機械が殺しに来るかもな。知らんけど』
ドラ 『なるほど……』
ねえさん 『アクションプレイが要求されそうね』
話を聞いていたねえさんが肩を竦める。
すぴねこ 『運動音痴のねえさんも、そろそろこのVRに慣れたんじゃねえの?』
ねえさん 『そうね……前にすぴねこから現実の体を意識し過ぎてるって聞いた時は、頭では理解しても動けなかったけど、最近は無意識に動ける時があるわ……だけど、私は別に運動音痴じゃないわよ』
運動神経抜群のオカマというのが、想像できない。
すぴねこ 『それじゃあ今度、俺と一緒に敵に突撃しようぜ』
ねえさん 『死んでもお断り』
俺とねえさんが会話をしていると、チビちゃんがハイハイと手を挙げた。
チビちゃん『私も、私も。ヤバイって思ったら、自分の体じゃないみたいに動ける時があるよ。これってやっぱりすぴねこ君の身体能力なの?』
すぴねこ 『自分の体じゃないと思ったら、そうかもな』
チビちゃん『ふむふむ。やっぱり、すぴねこ君の体ってバケモノだね』
すぴねこ 『…………』
「バケモノ」という単語は誉め言葉に該当しないと思う。
ミケ 『まあ、アクションプレイで一番大変なのは、ボスだけどね』
そうミケが言うと、ボスが肩を竦めた。
ミケの言う通り、ボスの様にサイボーグ化すると重量が増えて動きが鈍くなり、飛んだり走ったりするプレイが不得意になるデメリットがあった。
ボス 『今回は慎重に進むから大丈夫だ』
すぴねこ 『前に同じ事を言って、同じ場所で3回落ちて死んだな。あの時は腹筋が鍛えられた』
ドラ 『今回も落ちて死んだら、全員で笑ってやるよ』
ボス 『後で吠え面をかくなよ』
すぴねこ&ドラ『『ワンワン』』
俺とドラでボスを茶化していたら、装甲トラックが停止した。
「廃棄工場に着いたらしい。全員降りろ」
アンダーソンに全員が会話を止めて頷く。
そして、俺達は装甲トラックから降りると、廃棄工場への侵入を開始した。
岩陰から廃棄工場の入口ゲートを双眼鏡で見れば、2体のドロント兵が警備しているのが見えた。
すぴねこ 『どうやら監視はゲートに居る2体だけらしいな』
ドラ 『ただの死体廃棄工場に2体も警備してる事自体が驚きだぜ』
チビちゃん『マフィアの裏組織みたいだね』
すぴねこ 『そいつは言い得て妙だ』
ボス 『ねえさん、ミケ、狙えるか?』
ねえさん 『もちろん』
ミケ 『了解』
ボスの命令に、ねえさんとミケが動く。
2人は入口ゲートから700mまで見つからない様に近づくと、警備のドロント兵にライフルを構えた。
ねえさん 『ミケ、準備オッケー?』
ミケ 『いつでも』
ねえさん 『同時にいくわよ。3,2,1……』
ねえさんの合図で、2発の銃声が同時に鳴り響く。
双眼鏡で確認すると、2人の弾丸が頭を撃ち抜いて、警備兵が倒れていた。
ミケ 『クリア』
ねえさん 『こっちもクリア……発見された様子もないわ』
女ゴルゴの2人、いや1人はカマか……が警備ドロント兵を狙撃に成功。
他の敵に銃声は気づかれず、入口ゲートが開放された。
ボス 『突入!』
ボスの合図で全員が移動。
『ワイルドキャット・カンパニー with A』は、敵に見つかる事なく廃棄工場の中へと入った。
廃棄工場の中は、巨大な精肉工場の様な構造だった。精肉工場の中なんて入った事も見た事もないけど、何となくそんな感じ。
襲い掛かる敵は居らず、コンピュータ制御されたドローンが俺達を無視して作業をしていた。
すぴねこ 『撃ち殺すか?』
モニターを監視しているドローンに銃口を向けて、ボスに尋ねる。
ボス 『こちらを無視しているんだ。余計な事をしてわざわざ敵を招く必要はない』
すぴねこ 『了解』
チビちゃん『このドローンかわいいね。一台欲しいかも』
チビちゃんが黙々と作業をするドローンを近くで覗きながら呟くが、彼女はこのドローンに一体何をさせるつもりなのだろう。
「こっちだ」
アンダーソンの誘導に従って進むと、この工場の制御センターらしき部屋に入った。
意味不明な機械が並んでいる壁は全て窓ガラスで、窓から外を見れば眼下に処理施設があった。
処理施設は体育館ぐらいの広さで、部屋の至る所に刃の付いた回転ドリルが設置されていた。
天井には複数の穴の開いたパイプが伸びていて、その穴から時折血だるまになった全裸の兵士が現れると、10mの高さから落下して床にべちゃっと落ちてきた。
全裸兵士が床に落ちると同時に、施設の壁が動きだしてブルドーザーの様に兵士を運び、兵士が回転ドリルに入ると施設に絶叫と粉砕する音が聞こえた。
壁が元の場所に戻った後は、血の跡だけが床に残っていた。
ねえさん 『グロいわね』
ドラ 『ボス、吉報だ。ここから見た限り落ちそうな穴は見当たらねえ。つまり、落下死は無いぞ』
すぴねこ 『良かったな。あの回転ドリルはどう見ても一撃死だ。気持ちよく逝けるぜ』
一応論理的制限はあるので、プレイヤーは死ぬ前にブラックアウトして、意識がある状態でミンチにされる事はない。
ボス 『もっと最悪だ、バカヤロウ!』
俺とドラがサムズアップをすると、ボスが怒鳴り返した。
ねえさん 『それで、収容所へのルートは何所かしら?』
ミケ 『あれがそうじゃない』
ミケが指をさす方向を見れば、処理施設を超えた先に通路があった。
ボス 『やっぱり、このトラップだらけの所を進むしかないのか……』
ボスがガックリ肩を落とす。
ねえさん 『サイボーグ強化したプレイヤー対策なのかもね』
すぴねこ 『ここで迷っていても仕方がねえ。行くぞ』
元気のないボスの替わりに俺が声を掛け、俺達は制御センターを降りて処理施設へ移動した。




