第8話 ミッション5-1 その4
ボス 『流石に敵が多いな……』
移動中、何度目かの敵との遭遇戦の後、ボスがため息を吐く。
移動よりも戦闘に費やす時間が多く、時刻を見れば、開始から既に1時間を経過していた。
ねえさん 『敵も必死なんでしょ』
ミケ 『このままだと弾が尽きそうね』
俺のショットガンはまだ余裕あるが、このチームのメインアタッカーでもあるミケは、自持ちの弾丸の減り具合に顔を顰めていた。
すぴねこ 『その時は俺のAKを貸してやるよ』
ミケ 『ありがとう。でも、東側の銃は狙い辛いのよね……』
すぴねこ 『全てのロシア兵に謝れ』
ロシアの極寒の地だと、M4なんて軟な銃は凍結して使えなくなるから、AKはロングストロークのガスピストン方式にしてるんだ。
ミケ 『本当に弾が尽きた時は借りるわ』
肩を竦めるミケをジロっと睨むと、通路を進み次の部屋に入る。
敵は居らず、今までの部屋とは違って要塞の管理設備らしき機械が並んでいた。
ドラ 『チョット調べてみる』
そう言ってドラが管理設備に近づき、コンソールを弄り始める。
ドラは戦闘系のスキルを捨てた替わりに、情報系のスキルを上げた結果、ミッション中に敵の設備からの情報を入手できるようになった。
このスキルは戦闘では役に立たないが、チームに一人でもサポート役が居るだけで、戦略の幅がだいぶ広がる。
ドラ 『よし、要塞のMAPを入手したぜ』
チビちゃん『早かったね』
ドラ 『もしかしたら、ランクSで取れるバグネックス語ってのが影響あるのかもな』
ボス 『ふむ……すぴねこ、何か聞いてるか?』
すぴねこ 『バグネックス語はビショップ以外、誰も知らないらしい』
ボス 『他のデペロッパーもか?』
すぴねこ 『そう聞いてる。ビショップが生きている時に聞いても、「クリアしてのお楽しみ」としか教えてくれなかったよ』
ボス 『そうか……』
マスクで顔は見えないが、恐らく申し訳ないと思うような顔をしてるのだろう。
すぴねこ 『そうヒデエ面されると思い出すからやめてくれ。結構ギリギリのラインで感情をコントロールしているんだ』
ボス 『ああ、悪かった』
ねえさん 『待って、敵よ!!』
話の最中、突然、ねえさんが銃を上に向けて構えた。
敵の気配はないが、彼女の報告に全員が銃を構える。
「キャーーーーーーーーーー!!」
ドラ 『うおっ!!』
俺の背後で女性の絶叫が聞こえて、ドラの驚く声が聞こえた。
振り向けば、床に倒れるドラの直ぐ横で、女性型の敵が宙に浮いていた。
宙に浮かぶ敵の正体はゴーストメイデン。
捕まえた地球人の女性兵士を改造した敵で、シナリオ3から登場している。
姿は全身半透明で、唯一の当たり判定は背中に背負った機械ユニットのみ。
ケビンが描いた敵デザインノートによると、機械ユニットの中には脳が入っていて、半透明の姿は改造される前の残留思念らしい。
この敵を考えたケビンの性癖に猟奇犯罪の香りがした。
ゴーストメイデンは常に宙に浮いていて、普段は姿を消しているが、攻撃するときだけ姿を現す。
攻撃方法は絶叫による精神攻撃で物理ダメージは無いが、この攻撃を喰らうと30秒間気絶状態が発生して、動く事も喋る事も出来ずに床に倒れる。
チビちゃん『ドラ君、スヤァ』
ミケ 『データ入手がフラグだったらしいわね。出番だと張り切って、油断したのかしら』
すぴねこ 『さすがフラグ職人だ。敵には一生困らねえな。あ、近づかないで、フラグがうつる』
ドラ 『…………』
ちなみにゲームなので、本当に気絶しておらず、俺達の声はドラに聞こえている。
ボス 『警戒しろ。ゴーストメイデンが出てきたとなれば、他も来るぞ!』
そう、ゴーストメイデンが厄介なのは他の敵と一緒に現れて、戦闘中に突然気絶させられる事だった。
案の定、部屋の扉が開いて敵が一斉に雪崩れ込んできた。
敵の姿を見ると同時に素早く最前線に飛び出す。
撃たれる前に遮蔽物に身を隠し、敵が現れた扉に向かってグレネードを放り投げた。
ミケ 『ドロント8、バーサーカー3、ライトタンク2、タレット2、それとメイデンが多分2! ああ、もう攻撃が早いわよ。ドロント残り6!』
グレネードでドロント兵を2体倒したらしい。
ミケが敵の数を報告したついでに、俺に向かって文句を言ってきたけど、そんなの知らん。
ボス 『ミケとねえさんはゴースト優先、すぴねこだけは気絶させるな。チビちゃんはドラを安置へ運んで回復』
ねえさん 『ミケはすぴねこの周りを警戒して。私は他をカバーするわ』
ミケ 『了解』
チビちゃん『ドラ君、引っ張るよ』
ボスの命令に女性3人が答えて動き出す。
敵を見ればバーサーカーだけでなく、ドロント兵も最前線の俺に向かって走って来る様子だった。
ねえさん 『すぴねこ、ドロントはクレイジーよ!』
すぴねこ 『ボス!』
この数は俺一人じゃ無理だ。
ボス 『任せろ』
俺を囮にボスが自爆してくる敵に向かって軽機関銃を放つ。
ボスはタレット兵とライトタンクの射撃を受けながらも、敵を倒し続けた。
その間にショットガンから弾を抜いて、ドラゴンブレス弾を装填。
すぴねこ 『援護する』
遮蔽物から身を乗り出して、敵が集まっている場所にショットガンを構える。
その俺を狙っていたのか、すぐ横でゴーストメイデンの1体が現れて驚くが、その直後にミケの銃弾がゴーストメイデンの機械ユニットを撃ち抜いた。
ゴーストメイデンが苦痛の表情で消えるのを横目に、ドラゴンブレス弾を放つ。
銃口から出た炎が複数の敵に降り注ぎ、火達磨となった敵が床に転げ回った。
ボス 『雑魚は殺る』
すぴねこ 『オーケー。俺はライトタンクだ』
雑魚はボスに任せて、胸からスラッグ弾を2発取り出し入れ替える。
そして、ライトタンクの頭に向かってトリガーを引けば、弾丸は装甲を貫通して頭を撃ち抜いた。
同じ様にもう一体も倒したタイミングでインプラントが終了。
俺がライトタンクを倒し切るころには、雑魚はボスとチビちゃんが仕留め、ミケがゴーストメイデンを倒し、タレット兵はねえさんと復活したドラが倒していた。
ドラ 『オールクリア……ああ、酷でえ目にあった』
すぴねこ 『VR限定で女性にモテる感想は?』
ドラ 『まるで夢のようだぜ』
ねえさん 『ボケるわねぇ……』
どんな時でもユーモアの精神を失わないドラに、ねえさんが肩を竦めて呆れる。
ボス 『ドラ。MAPを全員に転送してくれ』
ドラ 『ああ、そうだったな』
スマホを取り出して、ドラから送られた要塞MAPを確認する。
MAPには要塞のシールド発生装置までのルートが記載されていて、俺達が今居る場所はスタート地点から丁度半分ほどの場所に居た。
すぴねこ 『…………』
チビちゃん『まだ半分なんだ……チョット疲れてきちゃった』
ミケ 『このペースで進んだら、間違いなく弾が無くなるわね』
ボス 『節約して進むしかないか……』
ドラ 『節約って言っても、限りがあるぞ』
ねえさん 『ねえ、すぴねこ。さっきから黙っているけど、何か思い浮かんだのかしら?』
マップを凝視して考えている俺を見て、ねえさんが尋ねてきた。
すぴねこ 『今回のミッション……制限時間が4時間ってのが、ずっと引っ掛かってたんだ』
ねえさん 『どういう事?』
すぴねこ 『一言で言えば、長過ぎる』
ドラ 『それは皆、思ってるって』
笑うドラをチラっと見た後、話を続ける。
すぴねこ 『4時間拘束されるんだぞ。その間、水分補給もトイレもなしだ。どんなにゲーム好きなヤツだって、4時間も連続で遊べるか? 俺は2時間も遊んだら、10分ぐらいの休憩は入れるぞ』
ドラ 『…………』
すぴねこ 『ここまで1時間30分。恐らく俺達のペースは速いと思うし、弾を節約すればクリアは出来るとは思う。だけど、TRPGだと一回のゲームで1時間から2時間、どんな長編でも3時間が基本だ。このミッションは長すぎる』
忘れてはいけないのは、ケビン達は元々TRPG専門のボードゲーム会社だと言う事だ。
つまり、一回のミッションは2時間前後で終わる様に設計されている筈。
ここまで説明すると、全員が俺の言いたい事を理解する。
すぴねこ 『この要塞、どこかに近道のルートがあるぜ』
ボス 『なるほど……』
ドラ 『出た。すぴねこの謎推理』
チビちゃん『だけど、説得力はあるよ』
ミケ 『でも、設定されている制限時間は4時間よ』
すぴねこ 『制限時間を長くする事で近道のルートの存在を隠すダニエルの罠だな。もしかしたら、この先を進むと偽装の為に補給ポイントがあって、4時間でクリアできる方法も整っているのかも。まあ、これはあくまでも俺の予想だけど』
ミケ 『最低ね……だけど、するかしら?』
すぴねこ 『俺ならやるぜ』
俺が笑い返すとミケが呆れて頭を左右に振った。
ボス 『そうなると、近道のルートがどこにあるかだな』
すぴねこ 『それもある程度予想している。MAPをもう一度見てくれ。ここから少し戻った通路で、敵の攻撃が激しい場所があっただろ。ほら、ボスが根を上げた場所』
俺が指摘した場所はただの通路だが、その近くには唯一この先を進めば通るルートが存在していた。
ねえさん 『……たしかにMAP上だと、ここに隠しルートが有れば時間短縮になるわね』
ドラ 『でも、俺のスキルには何も反応なかったぞ』
すぴねこ 『簡単に見つけちまったら、ツマらねえ。何か仕掛けがあるのかも』
ドラ 『スキルの意味がねえ……』
そこまで話し合うと、ボスが口を開いた。
ボス 『すぴねこが指摘した場所まで戻ろう。ここからだと近いし、ここでMAPが手に入るという事は、それがヒントな気がする』
すぴねこ 『ああ、なるほど。そこまでは思いつかなかったけど、その考えは正しいと思う』
そして、俺達は近道があると信じて、来た道を戻る事にした。
 




