表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『ワイルドキャット・カンパニー』 ~俺達、過疎ゲー、ゲーマーズ~  作者: 水野 藍雷
第3章 遺志を継ぐもの……
67/108

第6話 ミッション5-1 その2

 足元の床が揺らぎ始める。

 慌てて近くの手すりを掴んで倒れるのを堪えていると、再び艦内アナウンスが聞こえてきた。


『これから敵要塞に突撃します。各乗組員は安全な場所へ移動してください』


 どうやら感傷に浸る暇はないらしい。巡洋艦が敵要塞に突入を開始した。


「安全な場所ってどこだよ!」


 アナウンスに向かってドラが吠えると、背後からスコーピオン小隊のアンダーソンが姿を現した。

 ちなみに、戦死や負傷などで隊員の入れ替わりが激しいスコーピオン小隊も、初期から居るメンバーはこのアンダーソンとロックウェル小隊長だけになっている。


「お前達、こんなところに居たのか。ここは危ねえ、突入用の装甲車に案内するから付いて来い」


 どうやら彼はガイド役らしい。

 全員、顔を見合わせて頷くと、アンダーソンの後を付いて行った。


 アンダーソンの案内で、俺達は倉庫に並んでいるドリルの付いた装甲車の1台に乗り込む。

 装甲車は狭く壁に椅子が並んでいて、なじみのスコーピオン小隊が椅子に座っていた。


「遅かったな。椅子に座れ」


 スコーピオン小隊のロックウェル小隊長の指示に空いている席に座ると、自動でシートベルトが締まって体を固定した。


「突入までもう少しだ。沈没確定の豪華客船だが、ここまで生き残ってきた俺達は運が良い。今回も生きてるさ」


 ロックウェル小隊長の何一つ安心できる要素のない励ましに、皆の顔が引き攣る。

 俺達がシートベルトで体を固定すると、装甲車付属のディスプレイが巡洋艦視点の風景を映し出した。


「わざわざ見せてくれるのか。強制ジェットコースター、ありがとうございます」

「ただ待機しているだけだと暇だからな。ゲーム側のサービスなんだろ」

「嫌なサービスだぜ」


 ボスとドラの会話を聞きながらディスプレイを見れば、丁度、敵要塞が巡洋艦に向けて砲撃を開始したところだった。







 バグス要塞と巡洋艦の激しい撃ち合いが始まった。

 要塞の対空砲が一斉に放たれ、光のシャワーが巡洋艦に襲い掛かり、巡洋艦からもミサイルとレーザービームが要塞に放たれる。

 激しい攻撃で互いのシールド耐久度が少しづつ減っていった。


『バリアシールド残り耐久、80%……60%……40%……』


 巡洋艦が攻撃受ける度に、切羽詰まった女性の声が艦内に流れる。

 巡洋艦も艦砲で攻撃しているが、要塞のシールドは頑丈でダメージを与えていなかった。

 ちなみに、前作と同様なら、この女性の声は動画担当のジョンが音声を弄って、自分でセリフを言っている。


「おいおい……これ大丈夫なのか」

「だったらドラ一人で突撃しろよ。俺は止めないぜ。むしろ行け」

「その時は、道連れにお前を掴んで船から落ちてやるよ」

「お前と心中自殺? 末代までの恥だな。やるならバーチャル彼女を誘え」


 ドラと俺が冗談を言い合う。


「お前等、少しは緊張感ってのを持ったらどうだ?」

「俺は何時も持ってるぜ。ただ緊張すると冗談が自然と出るんだ」

「そいつはヒデエな。俺は緊張すると誰かを笑わせたくなるだけだから、まだましだ」


 呆れるボスに俺とドラが言い返すと肩を竦めるが、車内の空気が少し明るくなって、皆の緊張が少し和んでいた。


『バリアシールド残り耐久、20%……10%……シールド強制解除!!』


 激しい撃ち合いが続き、とうとう巡洋艦側のバリアシールドが先に強制解除される。

 絶叫に近いオペレーターの声が巡洋艦に鳴り響き、敵の砲撃が当たって艦内が激しく揺れ始めた。


「キャッ!」

「ぐらぐらぐら~~」

「本当に大丈夫かしら」


 女性3人が不安そうに口を開く。

 チビちゃんは揺れに任せて体を揺すってたら直ぐに酔ったらしく、顔が青ざめていた。


 巡洋艦に敵の砲撃が命中。至る所から爆発が発生して煙が立ち上がる。

 一方、要塞側は未だにシールドが解除されず、無傷のままだった。


『主砲攻撃不能……エンジン出力40%低下……敵要塞に向けて軌道修正……成功しました!』

『これから我が艦は敵要塞に向けて突撃を開始する。必要最低限の搭乗員以外、全員3分以内に脱出しろ!!』


 巡洋艦が要塞に向けて落下を開始。巡洋艦艦長の命令が艦内を駆け巡り、慌しくなった。


「脱出か、うらやましいぜ」

「ならお前も脱出するか? 俺達が要塞を押さえないと、バグスに拉致されてドロント兵送りだぞ」

「そいつはゴメンだな」


 俺達と同じ様にディスプレイを見ていたスコーピオン小隊のNPCが、冗談を言い合う。


『これが最後だ。全弾発射!!』


 最初の女性オペレータは脱出したのか、彼女の替わりに船に残った艦長が命令を下すと、巡洋艦の射撃可能なミサイルが次々と放たれた。


『全員、耐ショック体勢を取れ!!』


 艦長の声に全員シートベルトを掴んで固唾を見送る。

 そして、とうとう巡洋艦が要塞のシールドに体当たりを敢行した。







 巡洋艦が要塞のシールドに衝突。艦の先端がひしゃげて、艦内中に激しい音が鳴り響く。

 艦の半分が破壊されて全員が駄目かと思った矢先、とうとう要塞のシールドが消失した。


 巡洋艦が最後の力を振り絞り、エンジンを出力させる。

 俺達の乗る装甲車のすぐ近くでエンジンが爆発して、艦全体が激しく揺れた。

 巡洋艦が要塞に衝突する前に地面に墜落。

 そのまま地面を滑り、艦の先端が要塞に衝突すると、要塞の一部が崩れて僅かな入口を作った。


『穴は開けた。……突撃チーム、後は任せたぞ!!』


 艦長の声に車内の全員が歓喜する。


「ここからは俺達の出番だ。アースドラゴン発進!!」


 ロックウェル小隊長が操縦席のドアを激しく叩くと、倉庫の装甲車4台の内2台が動き出した。

 動かない2台を見れば、衝突による落下物で潰され、恐らく生存者はいないと思われる。

 どうやら俺達はロックウェル小隊長の言う通り、運が良かったらしい。


 装甲車が壊れた巡洋艦の壁をドリルでぶち破りながら前へ進む。

 そして、巡洋艦を抜け出すと、開いた要塞の入口に突入した。

 中へ入ると、攻撃してくるバグスを機関銃で撃ち殺し安全を確保してから、装甲車の入口を開けた。


「全員外に出ろ!」


 ロックウェル小隊長の命令に、俺達を含む兵士全員がシートベルトを外して外へ出る。

 NPCの兵士が警戒する中、最後に出たロックウェル小隊長がボスに話し掛けて来た。


「俺達は要塞の兵器を破壊してくる。お前達は奥へ進んで、シールド装置を探し出して破壊しろ」

「分かった」

「互いに生きて帰ろう」


 ボスが頷くと、ロックウェル小隊長は頷き部下を連れて移動を開始した。

 どうやら、ここからが本番らしい。時計の針を見れば、やっとミッション時計の針が進んだ。


「よし、俺達も行くぞ。全員、インカムを装着しろ」


 ボスの命令に全員が頷き、インカムをオンにする。

 そして、俺達は要塞のシールドを破壊しに向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ