表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『ワイルドキャット・カンパニー』 ~俺達、過疎ゲー、ゲーマーズ~  作者: 水野 藍雷
第3章 遺志を継ぐもの……
64/108

第3話 過疎ゲー魂 その1

 1週間ぶりにゲームの中に入ると、兵士サロンは相変わらずの混雑ぶりだった。

 ログインすると直ぐにポケットの中のスマホが鳴って、複数のメールが届いた。


 受信メールリストを確認すると、チームの皆やデペロッパー、そして、ライバル達の名前が並んでいた。

 中には、『暴走パトリオット』のロッドや『鋼鉄のパンツァー』のミカエルも来ていて、彼等は俺をコケにしながらもビショップの死を悲しんでいた。

 取り敢えず、デペロッパーの皆には心配かけた事を謝罪し、ライバルの連中には「死に腐れクソ野郎」と返信する。


 スマホをしまって、ワイルドキャットの皆が集まる場所へ向かう。

 時間は夜の7時を過ぎていたが、全員ログアウトせずに俺を待っていた。


「ハロー、エブリバディ。雁首揃えて湿気たツラしてるな」


 開口一発、元気を装い口を開けば、俺に驚いた全員が腰を浮かせた。


「すぴねこ!!」

「おお、帰ってきたか!!」

「すぴねこ君!」

「おかえり!」

「待ってたわよ」


 驚くドラを鼻で笑う。


「よう、ドラ。ヒデエ悲鳴だな。とうとう性癖が酷すぎて、VR彼女に逃げられたか?」

「相変わらずのクソっぷりで安心しだぜ。ちなみに、彼女とは賞金を手に入れたら結婚する予定だ」

「一番言っちゃいけないフラグを立てんじゃねえよ!」


 そう言い返すと全員が頷いた。


「ボスも悪かったな」

「もう大丈夫なのか?」

「俺が殺されたわけじゃないからな」

「それだけ捻くれてれば平気そうだ」


 俺の皮肉にボスは安心したのか、肩を竦めた。

 そして、泣いてるチビちゃんに話し掛ける。


「チビちゃん、泣いてるのか。いっちょ高い高いでもしてやろうか。俺のキャラも身長低いけど」

「もう、バカ!」


 チビちゃんが笑って、目に溜まった涙を拭く。


「ねえさんも心配かけたね」

「本当よ……だけど、またすぴねこと遊べるから許してあげるわ」

「後ろから撃たれない様に頑張るよ」


 最後にミケを見る。


「お前とはさっき会ったから、別にいいや」

「何よそれ。一言ぐらい何か言ったら?」


 ミケがゴキブリを叩き潰す直前の様な目で威嚇する。


「んじゃ、目が怖い」

「バーカ」


 そう言いながらも、ミケは肩を竦めて笑っていた。

 全員との挨拶が終わると席に着き、現在の状況を聞く事にした。







「現在、俺達は3位だ」


 ドラからの報告に眉を顰める。


「この1週間で随分と展開があったんだな」

「お前がのんびりしている間にな。今のトップはロック様の『ブレイズ・オブ・ドリーマー』で、つい先ほど5-2をクリアしたばかりだ」

「マッドの助言があったとしても、一気に来たな」

「あそこはサブを2チーム持っているからな。サブチームで稼いだ金を使ってロック様のメインチームを強化しているらしい」

「大手はサポートが強力で羨ましいね。ところで、マッドの野郎は元気なのか?」


 初日にブラックリストに入れたから、アイツとはまだ一度も会っていない。


「聞いた話によると、『ブレイズ・オブ・ドリーマー』から追放されたらしいぞ」

「へぇ……ソイツは驚いた。まあ、追放されるとは思っていたけど」

「それじゃ何で驚いたの?」


 チビちゃんの問いかけに、肩を竦める。


「どんなクソ野郎でも、ゲームをクリアするまでは、所属すると思っていたんだ」


 情報だけ入手してすぐにポイ捨てはしないと思っていたけど、あっさり捨てたなぁ……。


「それなら、納得」

「なんでも、あまりの素行の悪さにロック様がブチ切れたらしい。アイツ、サブチームに入れられていたらしくて、入った当初から不満があったみたいだな」


 チビちゃんが頷くと、ドラが追放された理由を説明した。


「元のホエールチームは、装備が充実してからが本領発揮だったから。マッドのプレイスキルは元々大した事なかったわ。サブチームに入れられても当然ね」


 ねえさんの話を聞いて苦笑いをする。

 どうやらマッドの素行の悪さは相変わらずで、プロチームに入っても変わらなかったらしい。

 プロというのはゲームの腕だけではなく、如何にファンを獲得するかも重要になる。

 そう考えれば、プレイスキルも大した事なく素行の悪いマッドは、チームにとって不利益な存在だったのだろう。

 となると、マッドは既にゲームオーバーか。後はアイツが暴れれば、誰かがGMへコールして垢バンだな。


「まあ、あんな野郎はどうでもいいよ。それで、2位は『鋼鉄のパンツァー』だ。今は5-2を攻略している」

「パンツァーはスナイパーの1人以外、全員サイボーグ化してるから後半になればなるほど強いか……それにしても、よく金を貯めたな」


 AAW2だとサイボーグ化の強化に金が掛かるため、『鋼鉄のパンツァー』が一番ナーフ(弱体化)の影響を受けている。


「噂だと、アイツ等、ログイン時間が半端ねえらしいぞ。どうやら攻略の合間に強化の金を稼いでいたらしい」

「よくそんな時間があるな。確か……ミカエルの野郎は俺の1つ上で、ベルリンの大学に行っていたけど、授業をサボってるのか?」


 ドラが肩を竦めて、頭を横に振る。


「俺に聞かれても知らんよ。ドイツの大学に春休みがあるのかも知らねえし」

「まあ、アイツが留年しようが構わねえか。もし留年したら嘲笑ってやるか」

「その時は俺も誘ってくれ。それで最後に『暴走パトリオット』だけど、昨日やっとシナリオ4をクリアして、俺達と同順になっている」

「とうとう追いつかれたか。だけど、序盤を急いだ影響でスキルポイント足りてないから、とっくにジリ貧だろ。アイツ等が今の順位で満足するわけねえな。今は一位になれずに悔しがってる。そんなところか?」


 そう言うと、全員が露骨に顔を顰めた。


「そのイライラ野郎、お前が居ない間に俺達の所へ来て、ストレスの解消か何か知らねえけど、ギャーギャー騒ぐから目の前でブラックリストに入れてやったよ」

「そうなのか? ロッドの野郎は平然と人種差別するから、ログをGMに送った方が手っ取り早いんじゃね? 後半で垢バンされたら笑えるな」

「それも考えたけど、奴の目の前で賞金を手に入れた方が愉快だと思ってやめた」

「確かに、その通りだ」


 ドラの意見に俺も納得して、2人で笑い合った。







「そんで、俺が居ない間、皆は何してたん?」

「全員で金を稼いでいた」


 ドラの近状報告もひと段落ついて、他の皆から話を聞くとボスが教えてくれた。

 彼の話によると、俺が居ない間、皆はミッションへ行かない替わりに、旧作のAAWリメイクをやって金を稼いでいたらしい。


「そいつは羨ましい。俺がアレをテストした時は、テストで得た金を全て没収されたからな」

「そのクレームは俺達じゃなくて、デペロッパーの連中に言え」

「もう既に言ってる。そう言えばテストの報酬を貰ってねえな……いや、もしかしてタダでくれると言った、航空チケットが報酬だったのか?」


 あの時は気づかなかったが、タダと言う言葉に騙された気がする。


「それは知らん。おかげで俺のサイボーグも強化出来たし、全員の装備も充実したぞ」

「なるほど。だったら、装備が脆い俺は後ろでぺちぺち撃ってれば良いんだな。ドラ、俺の替わりにポイントマンよろ」

「アホぬかせ。テメエは一週間休んだんだ。全員分の活躍をしろ」


 俺の冗談にドラが中指を突き立て言い返した。


「大丈夫だよ。すぴねこ君の分も稼いだから、それで今から装備を整えてね」


 チビちゃんを見て、片方の口角を尖らせて笑う。


「そいつはありがたい。お礼はバグスの死体で良いか?」

「いっぱいよろ~~」


 スマホからチーム専用アプリを起動して、チームバンクにあった金を自分の資金へ移動する。

 そして、その金を使って装備を整える事にした。







「他人が稼いだ金で強化するのは楽しいな」

「すぴねこ、聞こえているわよ。私が稼いだ金で他人が強化されると、ムカつくわね」

「ああ、俺も見ていて腹が立ってきた」


 俺の呟きを聞いたミケが、浮気している彼氏を目撃した様な殺気溢れる目で睨むと、ドラも頷き俺を睨む。


「その視線が実にたまらん」


 平然と2人を無視して、スマホのショップアプリを起動する。

 まず、最初にアーマーを最高ランクの3に強化した。

 これで自動回復はないけど、最弱のサイボーグと同じぐらいの強度になった。


 次に、スキルでインプラントは強化していたが、資金が足りなくて買えなかったインプラントチップを購入する。

 その結果、高速で行動できる時間が25秒、リキャスト2分になった。


「ふははははっ。これで無敵だぜ」

「そういえば、あのロック様はマッドからお前のスキル構成を聞いて、同じにしたらしいぞ」


 俺が笑っていると、ドラがロックの構成を教えた。


「パクリ乙。んで毎回思うが、お前は何時もどこから情報を入手してくるんだ?」

「前に言っただろ。日本人が占領しているサーバーがあるって。そこからだよ」


 どうやらドラは詐欺師レベルにコミュ能力が高いらしい。


「なるほど、そこでドラは俺ツエエをしているのか。気持ちは分かるが、やり過ぎるなよ」

「してねえよ!」


 俺の冗談をドラが叫んで否定してきた。


「自覚してないだけじゃないのか?」

「してねえよ……多分……な」


 ドラの言葉が詰まる。どうやら若干思い当たる節があったらしい。


 アホのドラはほっといて、まだ金が余っていたから、重量の計算をして積載量増加のインプラントチップも購入する。

 これで、レミントンM870とAK-19の両方を持てるようになるはず。

 ただし、積載量が本当にギリギリの計算なので、グロック19Mを外して少しでも軽量化を試みる。


「AK-19にグレネード付けたかったけど、ムリポ」


 弾の重量を含めると、AK-19にグレネードランチャーを取り付けるのは無理だったので、AK-19にはダットサイトだけを取り付けた。


「ショットガンとライフル、両方持って行くの?」


 ミケに肩を竦めて頷く。


「そろそろ狂った連中の相手もしなきゃいけないからな」


 ショットガンだけだと、クレイジーモードで突入するバグスを相手にするには少し物足りない。


「これでオールオッケー。インプラントぶっこんでくる」


 席を立つと、受け取りカウンターへ購入したアイテムを取りに向かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ