第3話 過疎ゲー魂 その1
1週間ぶりにゲームの中に入ると、兵士サロンは相変わらずの混雑ぶりだった。
ログインすると直ぐにポケットの中のスマホが鳴って、複数のメールが届いた。
受信メールリストを確認すると、チームの皆やデペロッパー、そして、ライバル達の名前が並んでいた。
中には、『暴走パトリオット』のロッドや『鋼鉄のパンツァー』のミカエルも来ていて、彼等は俺をコケにしながらもビショップの死を悲しんでいた。
取り敢えず、デペロッパーの皆には心配かけた事を謝罪し、ライバルの連中には「死に腐れクソ野郎」と返信する。
スマホをしまって、ワイルドキャットの皆が集まる場所へ向かう。
時間は夜の7時を過ぎていたが、全員ログアウトせずに俺を待っていた。
「ハロー、エブリバディ。雁首揃えて湿気たツラしてるな」
開口一発、元気を装い口を開けば、俺に驚いた全員が腰を浮かせた。
「すぴねこ!!」
「おお、帰ってきたか!!」
「すぴねこ君!」
「おかえり!」
「待ってたわよ」
驚くドラを鼻で笑う。
「よう、ドラ。ヒデエ悲鳴だな。とうとう性癖が酷すぎて、VR彼女に逃げられたか?」
「相変わらずのクソっぷりで安心しだぜ。ちなみに、彼女とは賞金を手に入れたら結婚する予定だ」
「一番言っちゃいけないフラグを立てんじゃねえよ!」
そう言い返すと全員が頷いた。
「ボスも悪かったな」
「もう大丈夫なのか?」
「俺が殺されたわけじゃないからな」
「それだけ捻くれてれば平気そうだ」
俺の皮肉にボスは安心したのか、肩を竦めた。
そして、泣いてるチビちゃんに話し掛ける。
「チビちゃん、泣いてるのか。いっちょ高い高いでもしてやろうか。俺のキャラも身長低いけど」
「もう、バカ!」
チビちゃんが笑って、目に溜まった涙を拭く。
「ねえさんも心配かけたね」
「本当よ……だけど、またすぴねこと遊べるから許してあげるわ」
「後ろから撃たれない様に頑張るよ」
最後にミケを見る。
「お前とはさっき会ったから、別にいいや」
「何よそれ。一言ぐらい何か言ったら?」
ミケがゴキブリを叩き潰す直前の様な目で威嚇する。
「んじゃ、目が怖い」
「バーカ」
そう言いながらも、ミケは肩を竦めて笑っていた。
全員との挨拶が終わると席に着き、現在の状況を聞く事にした。
「現在、俺達は3位だ」
ドラからの報告に眉を顰める。
「この1週間で随分と展開があったんだな」
「お前がのんびりしている間にな。今のトップはロック様の『ブレイズ・オブ・ドリーマー』で、つい先ほど5-2をクリアしたばかりだ」
「マッドの助言があったとしても、一気に来たな」
「あそこはサブを2チーム持っているからな。サブチームで稼いだ金を使ってロック様のメインチームを強化しているらしい」
「大手はサポートが強力で羨ましいね。ところで、マッドの野郎は元気なのか?」
初日にブラックリストに入れたから、アイツとはまだ一度も会っていない。
「聞いた話によると、『ブレイズ・オブ・ドリーマー』から追放されたらしいぞ」
「へぇ……ソイツは驚いた。まあ、追放されるとは思っていたけど」
「それじゃ何で驚いたの?」
チビちゃんの問いかけに、肩を竦める。
「どんなクソ野郎でも、ゲームをクリアするまでは、所属すると思っていたんだ」
情報だけ入手してすぐにポイ捨てはしないと思っていたけど、あっさり捨てたなぁ……。
「それなら、納得」
「なんでも、あまりの素行の悪さにロック様がブチ切れたらしい。アイツ、サブチームに入れられていたらしくて、入った当初から不満があったみたいだな」
チビちゃんが頷くと、ドラが追放された理由を説明した。
「元のホエールチームは、装備が充実してからが本領発揮だったから。マッドのプレイスキルは元々大した事なかったわ。サブチームに入れられても当然ね」
ねえさんの話を聞いて苦笑いをする。
どうやらマッドの素行の悪さは相変わらずで、プロチームに入っても変わらなかったらしい。
プロというのはゲームの腕だけではなく、如何にファンを獲得するかも重要になる。
そう考えれば、プレイスキルも大した事なく素行の悪いマッドは、チームにとって不利益な存在だったのだろう。
となると、マッドは既にゲームオーバーか。後はアイツが暴れれば、誰かがGMへコールして垢バンだな。
「まあ、あんな野郎はどうでもいいよ。それで、2位は『鋼鉄のパンツァー』だ。今は5-2を攻略している」
「パンツァーはスナイパーの1人以外、全員サイボーグ化してるから後半になればなるほど強いか……それにしても、よく金を貯めたな」
AAW2だとサイボーグ化の強化に金が掛かるため、『鋼鉄のパンツァー』が一番ナーフの影響を受けている。
「噂だと、アイツ等、ログイン時間が半端ねえらしいぞ。どうやら攻略の合間に強化の金を稼いでいたらしい」
「よくそんな時間があるな。確か……ミカエルの野郎は俺の1つ上で、ベルリンの大学に行っていたけど、授業をサボってるのか?」
ドラが肩を竦めて、頭を横に振る。
「俺に聞かれても知らんよ。ドイツの大学に春休みがあるのかも知らねえし」
「まあ、アイツが留年しようが構わねえか。もし留年したら嘲笑ってやるか」
「その時は俺も誘ってくれ。それで最後に『暴走パトリオット』だけど、昨日やっとシナリオ4をクリアして、俺達と同順になっている」
「とうとう追いつかれたか。だけど、序盤を急いだ影響でスキルポイント足りてないから、とっくにジリ貧だろ。アイツ等が今の順位で満足するわけねえな。今は一位になれずに悔しがってる。そんなところか?」
そう言うと、全員が露骨に顔を顰めた。
「そのイライラ野郎、お前が居ない間に俺達の所へ来て、ストレスの解消か何か知らねえけど、ギャーギャー騒ぐから目の前でブラックリストに入れてやったよ」
「そうなのか? ロッドの野郎は平然と人種差別するから、ログをGMに送った方が手っ取り早いんじゃね? 後半で垢バンされたら笑えるな」
「それも考えたけど、奴の目の前で賞金を手に入れた方が愉快だと思ってやめた」
「確かに、その通りだ」
ドラの意見に俺も納得して、2人で笑い合った。
「そんで、俺が居ない間、皆は何してたん?」
「全員で金を稼いでいた」
ドラの近状報告もひと段落ついて、他の皆から話を聞くとボスが教えてくれた。
彼の話によると、俺が居ない間、皆はミッションへ行かない替わりに、旧作のAAWリメイクをやって金を稼いでいたらしい。
「そいつは羨ましい。俺がアレをテストした時は、テストで得た金を全て没収されたからな」
「そのクレームは俺達じゃなくて、デペロッパーの連中に言え」
「もう既に言ってる。そう言えばテストの報酬を貰ってねえな……いや、もしかしてタダでくれると言った、航空チケットが報酬だったのか?」
あの時は気づかなかったが、タダと言う言葉に騙された気がする。
「それは知らん。おかげで俺のサイボーグも強化出来たし、全員の装備も充実したぞ」
「なるほど。だったら、装備が脆い俺は後ろでぺちぺち撃ってれば良いんだな。ドラ、俺の替わりにポイントマンよろ」
「アホぬかせ。テメエは一週間休んだんだ。全員分の活躍をしろ」
俺の冗談にドラが中指を突き立て言い返した。
「大丈夫だよ。すぴねこ君の分も稼いだから、それで今から装備を整えてね」
チビちゃんを見て、片方の口角を尖らせて笑う。
「そいつはありがたい。お礼はバグスの死体で良いか?」
「いっぱいよろ~~」
スマホからチーム専用アプリを起動して、チームバンクにあった金を自分の資金へ移動する。
そして、その金を使って装備を整える事にした。
「他人が稼いだ金で強化するのは楽しいな」
「すぴねこ、聞こえているわよ。私が稼いだ金で他人が強化されると、ムカつくわね」
「ああ、俺も見ていて腹が立ってきた」
俺の呟きを聞いたミケが、浮気している彼氏を目撃した様な殺気溢れる目で睨むと、ドラも頷き俺を睨む。
「その視線が実にたまらん」
平然と2人を無視して、スマホのショップアプリを起動する。
まず、最初にアーマーを最高ランクの3に強化した。
これで自動回復はないけど、最弱のサイボーグと同じぐらいの強度になった。
次に、スキルでインプラントは強化していたが、資金が足りなくて買えなかったインプラントチップを購入する。
その結果、高速で行動できる時間が25秒、リキャスト2分になった。
「ふははははっ。これで無敵だぜ」
「そういえば、あのロック様はマッドからお前のスキル構成を聞いて、同じにしたらしいぞ」
俺が笑っていると、ドラがロックの構成を教えた。
「パクリ乙。んで毎回思うが、お前は何時もどこから情報を入手してくるんだ?」
「前に言っただろ。日本人が占領しているサーバーがあるって。そこからだよ」
どうやらドラは詐欺師レベルにコミュ能力が高いらしい。
「なるほど、そこでドラは俺ツエエをしているのか。気持ちは分かるが、やり過ぎるなよ」
「してねえよ!」
俺の冗談をドラが叫んで否定してきた。
「自覚してないだけじゃないのか?」
「してねえよ……多分……な」
ドラの言葉が詰まる。どうやら若干思い当たる節があったらしい。
アホのドラはほっといて、まだ金が余っていたから、重量の計算をして積載量増加のインプラントチップも購入する。
これで、レミントンM870とAK-19の両方を持てるようになるはず。
ただし、積載量が本当にギリギリの計算なので、グロック19Mを外して少しでも軽量化を試みる。
「AK-19にグレネード付けたかったけど、ムリポ」
弾の重量を含めると、AK-19にグレネードランチャーを取り付けるのは無理だったので、AK-19にはダットサイトだけを取り付けた。
「ショットガンとライフル、両方持って行くの?」
ミケに肩を竦めて頷く。
「そろそろ狂った連中の相手もしなきゃいけないからな」
ショットガンだけだと、クレイジーモードで突入するバグスを相手にするには少し物足りない。
「これでオールオッケー。インプラントぶっこんでくる」
席を立つと、受け取りカウンターへ購入したアイテムを取りに向かった。




