第28話 突然の別れ その1
ミッションを終えて兵士サロンへ戻ると、サロン中が騒めいていた。
そして、ゲートを出た俺達に視線が集まる。
「どうやら、クリア情報が更新されているみたいだな」
「人気者はツラいぜ」
困惑しているボスが軽くため息を吐く後ろで、ドラが嬉しそうに肩を竦めていた。
どうやらシナリオ2をクリアしても、前回のシナリオをクリアした時みたいに、専用サーバーへの移動はないらしい。
この兵士サロンに居るのは、シナリオ1をクリアしたプレイヤーだけで、彼等の大半は賞金を狙っている。
そんな彼等からしてみれば、俺達は唯一シナリオ2をクリアした最大のライバルであると同時に、攻略のカギを握る情報源でもあった。
俺達が席に着くなり見知らぬプレイヤーが集まって話し掛けて来た。
内容が「どうやってクリアした」とか、「情報を教えろ」とか、こちらに何もメリットの無い質問ばかりで聞いて呆れる。
「500ドルで少しだけ教えてやってもいいぞ。もちろんリアルマネーでな」
日本円でたった5万円程度の情報料で賞金3億に近づけるなら安い買い物だと思うが、どうやら俺の提案は気に喰わなかったらしい。
金額を聞いた途端、彼等は俺に罵声を浴びせて去った。
スマホを取り出すと、会話ログから名前を調べて、彼等全員をブラックリストに入れた。
「教える気なんてない癖に」
「そんな事ないぞ。教えたところで自分で攻略できない連中が、俺達より先にクリアできるとは思えないからな。それに重要な情報は教えねえし」
呆れた様子のねえさんに言われて肩を竦めれば、彼女も「確かにそうね」と呟いていた。
落ち着いてから、スマホのプレイヤー攻略情報を見る。
2位の『鋼鉄のパンツァー』は2-3をクリアしたまま。他のプレイヤーは2-1で停滞しているのが大半で、2-2をクリアしているのが40チームほどだった。
ついでに、1件のメールが届いていたので確認すれば、前回と同様にバグネックス語を一部理解したという内容だった。
相変わらず意味不明なメールで顔を顰める。
これについて、何度かビショップに尋ねるが、彼の返事は何時も「クリアしたらのお楽しみ」だった。
もう春だけど、お前は季節外れのサンタか何かか? こんな意味不明な前振りのあるサプライズは、正直言っていらねえよ。
メールを見た後で、ショップアプリをチェックすると、新しいアイテムが購入できるようになっていた。
ショットガンの項目を見れば、セミオートのベネリM4が買えるらしいが、イラネ。
確かにセミオートのショットガンを使えばリロード不要で連射できるけど、そもそもショットガンは反動が大きく、1発撃つごとに銃身が跳ね上がる。連射して撃ちたいなら、素直にアサルトライフルを使えばいい。
ショットガンのセミオートが無駄とまで言わないが、買い替える程でもないと言うのが俺の感想だった。
銃は買い替えなかったが、テイザーXREPの弾薬が買えるようになっていたから、こちらは購入する。
このテイザーXREPは、武装した暴徒用に開発されたショットガン用の電撃弾で、殺傷力はないけど全身に電撃が流れてスタン状態にさせる事が出来た。
ただし、購入制限で1ミッションで10発までしか持ち込めなかった。
スキルポイントが30ポイント溜まっていたので、胴体、腕、足のインプラントを拡張する。
そして、ショップアプリから「脚力向上インプラントチップ」と「腕力向上インプラントチップ」のランク2を購入。
これで動体視力だけ駆動時間が15秒、リキャスト2分30秒だったのが、足と腕も同じ能力を得た。
この効果はすさまじく、15秒間という制限はあるが、相手が一発攻撃する間に俺の方は3回から4回攻撃する事が出来るようになった。
そして、「積載量増加のインプラントチップ」も購入する。
これで積載できる重量が増えて新しいアーマーが装備できるが、手術代を計算したら金が足りず諦めた。
前作と違って、防御方面はナーフされて値段が高い。これも簡単にクリアさせないための策略か? ぐぬぬ。
商品受け取りカウンターへインプラントチップを受け取りに行くと、ドラとチビちゃんが付いて来た。
どうやら2人は新しい銃を購入したらしい。
ドラが買い替えた銃は、日本製の20式5.56mm。
銃身長が330mmなので、サイズ的にカービンタイプのアサルト銃。海に囲まれた日本の銃だけあって、防水効果が高いらしい。
動作はショートストロークピストン式。使用する弾丸は5.56x45mm NATO弾。
この銃が出た時、防水効果が高いという理由だけで、防衛の為の銃ではなく侵略するための銃だと騒がれたけど、どう考えても日本を敵視している国や団体のロビー活動だと思う。
さて、日本製の銃で全体的に言える事は、良い銃だけど時代遅れ? チョット違うけどそんな感じ。
そう思う理由だけど、銃を公開した当初は、その時代に合わせた銃なので問題ないのだが、販売先が日本の自衛隊しかない事から、一度採用されると、滅多な事がないかぎり細かな仕様の改良をしないのが、日本の銃の特徴と言えた。
だから、自衛隊が次の銃を採用するまで同じ銃を使い続けるのだが、気が付けば時代遅れな銃になっている。
これは銃の問題ではなく、日本の銃規制側の問題なので仕方がないのだが、他のメーカーの銃と比べると、もう少しだけ時代に合わせてマイナーチェンジをしても良いかと思っている。
そして、チビちゃんが購入したのは、ヘッケラー&コッホ社製のHK416-11。
ビショップが使っていたのと、サイズは違うが同じ銃。
こちらも、ショートストロークピストン式で、使用する弾丸も5.56x45mm NATO弾。
というか、日本の自衛隊がHK416の銃を研究して、20式5.56mmの仕様を決めた。
こちらは、20式5.56mmと違って、時代に合わせて改良に改良を重ねた銃だった。
採用している国も、自国のドイツはもちろんの事、アメリカ、ヨーロッパ、南米、中東、東南アジアと幅広い。
11インチから20インチまでラインナップがあって色んな用途に使えるし、発生型として民間市場向けのセミオートのみのタイプや、9インチまで縮小したショートカービンモデル等々、さらにはライセンス販売したクローンモデルまで存在している。
チビちゃんが購入したのは、HK416でも銃身が279mmしかないコンパクトタイプ。
コンパクトタイプにした理由? そりゃ背が小さいからでしょ。
20式5.56mmとHK416。
どちらも同じ、ショートストロークピストン式で、使用する弾丸も5.56x45mm NATO弾だが、作った会社が違うだけでこうも違いが出てくると面白いものがある。
だけど、ゲームだったらさっきまで使ってたM4カービンでも良いじゃん。威力は同じだし……。
「さて行くとするか」
俺が皆の所へ戻ると、今度はボスが立ち上がって何処かへ行こうとしていた。
「ログアウトするの?」
「いや、肉体改造だ」
ミケの質問にボスが片方の口角を尖らせて笑い返す。
どうやら、サイボーグ化するためのスキルポイントが貯まったらしく、医務室で手術をするらしい。
「これで、酷い顔ともおさらばか」
「やっと吐き気が収まるぜ」
「ハッ! 好きなだけ言ってろ」
俺とドラの冗談をボスが笑い返して医務室に向かったので、俺も彼の後を付いて行く。
「……何故付いて来る?」
「俺もインプラントをぶち込むから」
「……そうか」
本当はサイボーグになったボスを見たいから。
「それじゃ行ってくる」
「行ってらー」
手を振って医務室に入るボスを見送って、姿が消えてから医務室に向かって、合掌。
インプラントを埋め込む時でも、針が眼球に迫って先端恐怖症になりかけたのに、全身サイボーグだとどんな恐怖が待っているのか……。
俺もインプラント手術を終わらせて先に出て待っていると、ぐったりした様子のボスが医務室から出て来た。
どうやら俺が予想していた通り、麻酔無しの手術でトラウマを植え付けられたらしい。
そして、サイボーグ化したボスを一言で言えば……。
「最初にこれを言えることを光栄に思う。よう、マスターチーフ」
「マスターチーフ言うな」
有名なFPSゲームに出てくる主人公の姿、そのままだった。
皆の所へ戻ると、ボスを見たドラが開口一番。
「よう、マスターチーフ」
「そのネタは、もうすぴねこがやったぞ」
「そりゃ残念」
ちなみに、ボスは皆の所へ戻る最中も、他のプレイヤーから「マスターチーフだ」と言われていた。
「それで性能はどうなの?」
「防御力はアーマーの3倍、オート回復はダメージを受けてから1分後に、1秒で1%回復するな」
ねえさんの質問にボスが答える。
メリットばかり聞こえてくるが、サイボーグ化するとメディカルキッドで回復できず、移動速度が遅くなるデメリットもあった。
「さすが、金の掛かったサイボーグだ」
「今までチームのお荷物だったんだ。次から俺達の替わりに働けよ」
「お前等、悪ふざけも大概にしろよ」
後、俺とドラが弄っていたらボスが切れた。
「だけど、これで楽になるのは確かよね」
「回復できなくなるけど、ダメージを気にせず攻撃できるもん」
ミケとチビちゃんの話にキレていたボスが頷いた。
「それで、明日はどうするの?」
ミケの質問にボスが全員を招き寄せた。
「さすがに1人を除いて全員疲れている。明日は休もう」
「その1人って誰だ?」
「お前以外に誰が居ると?」
俺の質問にボスが俺を見るが、マスクで表情が分からん。
「明日は休みだが、火曜日からは毎日1ミッションをクリアするぞ」
「マジ!?」
ボスの宣言に全員が驚いた。
「本気だ。Sでクリア出来なかった日は、シークレットだけは何としてでもその日のうちに見つけて、翌日にクリアする」
「急にどうしたのかしら?」
「サイボーグ化して調子コイてんじゃね」
ミケが俺の耳元でコソコソ話し掛けてきたから、小声で話し返す。
「そこ、聞こえているぞ。せっかく1位になったんだ、このまま独走してライバルの心をへし折る。それを俺は過去の戦国武将から学んだ」
「その戦国武将って誰だよ」
「大内義隆だ」
「ソイツ、下剋上されて思いっきり心へし折られ、自害してんじゃねえか!」
質問したら思いもしなかった武将の名に、思わず持っていたスマホをぶん投げた。
「だから反面教師にしている」
「武将がマイナー過ぎて、誰だか分からないわよ」
俺とボスのやり取りを聞いて、ミケが呆れていた。
「そうか? まあそのつもりでいてくれ。ただし、どうしても無理な時は連絡だけは入れろ」
「私、火曜日に美優と食事するから無理よ」
チビちゃんが手を上げてボスの計画をぶった切った。
「……そうだったっけ?」
「ゲーム前に妹が上京するから、一緒にごはん食べに行くって言ったじゃん」
「そ、そうか……よし、水曜日から頑張ろう」
全員がボスに呆れて、この日は解散した。




