第25話 ミッション2-4 その2
あれから20分掛けて、地下階段の前まで進んだ。
ここに来るまでの間も様々な罠が仕掛けられていたけど、尺の都合で省略。
ドラ 『なんか、俺の苦労がたった一言で消されたんだけど』
地味な作業というのは、やっている本人は楽しいかもしれないが、見ている側からすればツマらないから仕方がない。
ボス 『気にしたら負けだ。俺なんてしょっちゅうだぞ』
ドラ 『お……おう……』
大抵の戦闘シーンを一言で済まされているボスが言うと、異様に説得力があった。
さて、メタっぽい話はこのぐらいにして、今、俺達は地下へ降りる階段の前で立っていた。
その階段は、前回来た時と同様に、シールドに覆われて近づくことが出来なかった。
ボス 『カードキーを使うぞ』
ボスが壁のパネルにカードを差し込むと、理解できないバグス語が流れて階段を覆うシールドが消えた。
「よし! 地下の通路が開いたな。ここからは敵も居るだろう。慎重に進め」
移動中は無言だったロックウェル小隊長が口を開く。
どうやら、彼の忠告が正しければ、この先は敵が襲ってくるらしい。この小隊長が死んだ軍曹と同じでない事を祈る。
ドラ 『すぴねこ、交代するか?』
すぴねこ 『……そうだな。時間を考えれば、この先もずっと罠があるとは思えないが、それを思わすのがダニエルだ。交代するけど警戒はし続けてくれ』
ポイントマンを交代するか確認してきたドラに頷いて答える。
ドラ 『了解。だけど、ゲーム開発者ってのは、やっぱり頭がどこかおかしいぜ』
すぴねこ 『それについては同意する。人として、あんな風には落ちたくないものだ』
こめかみを突いて呆れるドラに頷くと、俺を先頭にタワーの地下へと突入した。
地下に降りると暗かったので、ヘルメットに付けていた暗視ゴーグルを装着する。
地下の壁は用途不明なパイプが張り巡らされていて、床と天井は頑丈な金網になっていた。
通路が狭いので、俺達が前に立ち、スコーピオン小隊は後ろで背後を警戒しながら進む事にした。
ミケ 『暗いと命中率が下がるから嫌なのよね』
すぴねこ 『神経質なヤツだな』
ミケ 『ショットガンと一緒にするの、ヤメてくれないかしら』
何となく、ショットガンを馬鹿にされた気がする。
すぴねこ 『ショットガンは民間人を撃つのに役立つんだぞ』
ライフルと違って、殺傷能力の弱い弾を撃てるからな。
ミケ 『で? それがこのゲームで何の役に立つの?』
すぴねこ 『いや、何でもない……』
暗い通路を進んでいると、前方から複数の明かりが近づいてきた。
すぴねこ 『早速、お出ましだ』
距離が離れているため、暗視ゴーグルで見ても相手の正体は分からないが、多分敵だろう。
もしかして敵じゃないかもしれないが、こんなところに居る方が悪い。
ボス 『隠れる場所がない。先制するぞ』
すぴねこ 『了解』
背後から撃たれない様に体を伏せて待つ。
ボス 『撃て!』
敵がこちらを確認する前に、ボスの合図で全員が前方の光に向けて銃を乱射。
こちらの先制攻撃に、照明が激しく揺れた。
ドラ 『やったか?』
すぴねこ 『いや、ライトタンクが混じってる。ソイツがまだ生きてるな』
暗視ゴーグルを通して前を見れば、3体のライトタンクがまだ生きていた。
チビちゃん『了解』
俺の報告を聞いて、チビちゃんがグレネードを発射。
ドラ 『うほ。容赦ねえ』
敵の背後でグレネードが爆発すると、敵2体の背中のジェネレータが壊れて装甲を剥すが、残りの1体は爆発の範囲外に居て無事だった。
その状況に、身を低くしたまま敵に向かって走り出す。
俺が走るのと同時に、背後で銃声が鳴り装甲の剥がれた敵の頭に弾丸が突き刺さって床に倒れた。
銃声から判断して、ミケとねえさんが撃ち殺したのだろう。
ライトタンクが俺に気付いて銃を向けようとするが、それよりも早く近距離まで近づくと、ショットガンを敵の脇に射し込む。
そして、てこの原理を利用して、腕を絡ませながら銃を回し背後へ回った。
そのままショットガンの銃底でジェネレーターを叩きつけ破壊。
「ギシャーーー!」
ジェネレーターを壊されたライトタンクが悲鳴を上げる。
ドラ 『頂き!』
そのライトタンクに向かってドラが銃を撃てば、弾丸が太ももに当たってまだ生きていた。
ねえさん 『甘いわね』
控えていたねえさんがヘッドショットを決めて、最後の敵も床に倒れた。
ねえさん 『オールクリア』
ドラ 『やっぱ、暗闇だと当たらねえな』
その言い草、下手すりゃ俺に当たっていたのか?
ミケ 『何を言ってるの? 明るい所でも命中率は低いでしょ』
ドラ 『下手糞みたいに言われているけど、お前さんの命中率が異常なだけで、俺が普通だぞ』
ミケ 『はいはい。そう言う事にしておくわ』
倒した敵の集団を確認すると、ドロント兵6体、バーサーカー2体、ライトタンク3体の集団だった。
狭い通路の遮蔽物もない場所で正面から戦ったら、こちらも被害が出ていただろう。
ボス 『よし、先に進もう』
ボスに頷くと、俺達はどこまで続くか分からない地下を進んだ。
ねえさん 『それにしても、すぴねこの背が低いままだから、撃つ時、邪魔にならないわね』
移動中に、ねえさんが俺のキャラについて褒めてきた。
キャラを小さくしたのは、敵に撃たれ難くする、味方の射線を邪魔しない、接近戦闘で小回りが利く、といった利点があったから。
すぴねこ 『何? 今頃気付いたのか』
ねえさん 『てっきりそういうキャラが好きなんだと思っていたわ』
どうやら俺は、おかまからショタ好きのホモと思われていたらしい。
すぴねこ 『俺は同性愛者に偏見を持ってないが、何であれ、自分の好みを押し付けるのは好きじゃない』
だから、FPSでショットガンを他人に勧めた事はない。
ねえさん 『私、年下はあまり好きじゃないわ』
すぴねこ 『なるほど。ボス、狙われてるぞ』
ボス 『俺は嫁一筋だ』
チビちゃん『旦那の愛が重いわ』
この夫婦も、言っている事が本当なのか冗談なのかが分からない時がある。
雑談しながら通路を進むと、中央に深い溝のあるホールに出た。
先に進むには、溝を越えなければならないが、溝の幅は5mぐらいあって渡る事が出来ない。
底は見えない程深く、落ちたら間違いなく即死だろう。
「何とかして橋を架ける必要があるな。恐らく何かあるはずだ、全員探せ」
困っていると、ロックウェル小隊長がヒントをくれた。
死んだ軍曹には申し訳ないが、このさり気ないアドバイスが嬉しい。
ミケ 『コンタクト!』
溝を渡る方法を調べようとしたら、ミケが叫んで銃を撃ち始めた。
撃った先を見れば、ホールの反対側からバグスが現れている最中だった。
ボス 『身を隠せ!』
慌てて近くの遮蔽物に身を隠すと、NPCのアンダーソンが俺の隣で配置についた。
すぴねこ 『おや? アンダーソン君じゃないか』
話し掛けても無視される。残念ながらこのNPCとの友好度はまだ低いらしい。
真剣な表情で銃を構えるアンダーソンの頬を指で突けば、邪魔だとばかりに手を払いのけられた。
たった一つの行動で、友好度が下がる。
溝を挟んでの戦闘になったが、敵の数は暗くて不明。
こちらにグレネードが来ない事と、溝があって近づけない事から面倒なガーディアンは居らず、敵の種類は遠距離が主体だと思われる。
という事は、敵はドロント兵、タレット兵、ライトタンク、スナイパーこの辺りか?
ボス 『ねえさん、スナイパーが居るはずだ。優先して倒せ』
ねえさん 『了解!』
どうやらボスも俺と同じ考えだったらしい。彼は軽機関銃を撃ちながら、ねえさんに命令していた。
暗闇の戦闘で普通に戦っても、敵に当てるのは難しい。
どうやら、横のアンダーソンも敵が見えておらず、闇雲に撃っている様子だった。
ここは彼のためにも、アシストに徹する事にしよう。友好度は上がらんけど。
ショットガンから弾を抜いて、催涙ガスのフェレット弾とドラゴンブレス弾を床に並べる。
まず、最初にドラゴンブレス弾をショットガンに装填。
すぴねこ 『銃撃戦をする時は部屋を明るくして離れて撃ってください』
アニメで流れるようなテロップを言いながらトリガーを引くと、ショットガンの銃口から炎が噴き出して部屋が明るくなった。
炎はすぐに消えたが、その間にインプラントを起動させて時間をスローにさせると、敵の数と種類を見極めた。
すぴねこ 『ドロント11、ライトタンク1、スナイパーは左右の上の方に1体づつ。結構居るで』
ボス 『タレットは?』
すぴねこ 『空飛ぶ露出狂は見当たらねえ』
ボスに報告してからフェレット弾を装填。敵が隠れている遮蔽物の裏を狙った。
放たれた弾丸が奥の壁に当たって、予定通り敵が隠れている場所に落ちる。
そして、フェレット弾から催涙ガスが出始めると、その場所から敵の銃声が聞こえなくなり、替わりに咳き込む声が聞こえた。
すぴねこ 『風邪か? 暖かくしてやるよ』
再びドラゴンブレス弾を装填して、煙で炙り出された敵に向かってトリガーを引く。
ドロント兵にドラゴンブレスの炎が降り注ぐと引火して、火達磨になって暴れ回った。
すぴねこ 『ヒャッハー! 派手に燃えた、燃えた!!』
ドラ 『自分の残酷性を自覚していないってのは恐ろしいぜ』
すぴねこ 『そんなヤツが居るのか? 近づきたくねえな』
ミケ 『アンタの事よ』
炎に包まれたドロント兵で明るくなり、敵の姿が見えた事でこちらが優勢になった。




