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『ワイルドキャット・カンパニー』 ~俺達、過疎ゲー、ゲーマーズ~  作者: 水野 藍雷
第2章 弾薬と白い子猫
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第23話 顔が分からない

今日は1話だけ

 ミッション2-3をクリアして部屋から出ると強制的に終了して、俺達は兵士サロンに戻っていた。

 難所だと思ったミッション2-3をSランクでクリアしたのは嬉しかったが、最後に強制負けイベントが発生したのは驚いた。

 それに、こんなに早く前作のラスボスが出てくるのにも驚いた。


 そして、軍曹の死。

 毎回、軍曹の虚言と命令にはムカついていたが、最後に軍曹は英雄となって散った。

 今となっては彼に感謝し、安らかに眠れ(レスト イン ピース)と冥福を祈る。







 兵士サロンで空いているテーブルを見つけて、全員が席に着く。

 感情豊かなチビちゃんは、軍曹の死を悼んで目を赤くしていた。


「あーあ。ドラがフラグ立てるから、軍曹死んじゃったよ」

「ドラ君のバカー!」

「俺のせい? 俺のせいなのか!?」


 俺の冗談にチビちゃんが叫び、ドラが慌てた様に自分を指さして確認をする。

 その行動に、「お前のせいだ」と全員がドラに頷いた。


「しょんぼり」


 ドラが落ち込んでいると、周りが騒がしくなった。

 聞き耳を立てて話を聞けば、スマホのプレイヤー情報が更新されて、俺達がミッション2-3をSランクでクリアした事に驚いているらしい。


「ボス。続けるにしろ、止めるにしろ、今は落ちた(ログアウト)方が良いかもな」

「そうね。周りが騒がしいわ」


 俺とねえさんで騒めいている理由を説明すると、ボスが顔を顰めた。


「今の時間は……9時か……全員まだ行けるか?」

「もう一回ぐらいなら行けるぜ」

「私も平気よ」

「少し疲れたけど、ガンバル」

「そうね。もう一回なら大丈夫かしら」

「あと5回は行けるぜ」


 ボスの確認に、各々が平気だと言って頷いた。

 ちなみに、最後に俺が答えたら、全員から変人扱いされた。


「まあ、今更すぴねこの異常な体力について考えるのは無駄だな。今から1時間半、休憩だ。10時半にこのサーバーで集合しよう」


 ボスが締めくくると、全員が頷いてログアウトした。

 だけど、最後まで皆が俺をバケモノみたいに扱うのは、納得いかなかった。







 ログアウト後、汗を掻いていたからシャワーを浴びる。

 何となく小腹が空いたので夜食を作った。作ると言っても茶漬けだけど……。


 今日の茶漬けに入れるのは塩鱈。

 昔は多く取れていた鱈も、80年ぐらい前から日本近海の漁獲量が減って、今ではとっても貴重品。

 成金は高級なブランドの肉やら魚を好むけど、安くても滅多に手に入らない食材を食べるのが、本当の食通だと思う。


 軽く炙ってから、熱湯をぶっ掛けて塩抜き。茶漬けに入れるならこのぐらいの塩梅が丁度良い。

 茶漬けを口に掻っ込んで、自室に戻るとネットを見て時間を潰した。

 ちなみに、茶漬けの味は絶品だったけど、鱈が硬かった。


 AAW2関連の情報を見ていると、つい1時間前に公式動画が更新されていた。

 前回の公式動画は、俺のキャラが前作のAAWでスタイリッシュ(笑)に戦っているオープニングムービーだった。

 世界中に配信されたその動画のおかげで、今でもゲームにログインすると、時々見知らぬプレイヤーからジロジロ視られたり、話し掛けられたりして、迷惑極まりない。思い出したら、心がどんより曇った。


 改めて更新された動画を観てみると、今度はミッション1-4でガーディアンとガチでタイマンしている俺が居た。

 ジョーーン!! また俺が映ってるじゃねえか。だから、許可を取れよーー!!


「ノーーー!!」


 頭を抱えて叫んでいると、婆ちゃんから「夜中にウルサイ」と怒られた。

 益々、心がどんより曇った。







 時間が来たから、どんよりどよどよ心が曇ったままログインする。

 ログインすると、俺に気付いた見知らぬプレイヤーから「グッドファイト」とサムズアップされた。

 多分、このプレイヤーも最新の動画を観て声を掛けて来たと思うが、恥ずかしいからヤメテ。

 待ち合わせしているサーバーへ移動すると、ドラ以外のメンバーが既に集合していた。


「お待たせ」

「……何かあったの?」


 ミケが訝しんだ様子で質問してきた。

 どうやら、曇っていた心が影響して声のトーンが低かったらしい。


「利益のない有名人って、ただ苦労するだけだな」

「……?」


 俺の返答に、ミケだけではなく全員が首を傾げた。


「ヨッ! 動画を観たぜ。お前、チョー目立ってたじゃねえか」


 背後からドラの声が聞こえて振り向けば、ニヤけた顔で笑っていた。

 どうやら、コイツも休憩中に動画を観ていたらしい。


「人を馬鹿にする笑顔ってのは、心も顔も醜く見えるな」

「なるほど。だからお前って何時も醜いのか。皆、面白いのがあるぜ」


 俺の嫌味を言い返したドラが席に座るなり、スマホを取り出して例の動画を全員に見せた。


「すぴねこ君チョー格好いいね」

「コイツは宣伝効果抜群だな」

「へぇ……格好良く撮れてるわね」

「インプラント発動中なのもあるけど、人間の限界を超えて変態ね」


 上から順に、チビちゃん、ボス、ねえさん、ミケの発言だけど、最後のクソアマ、人の事を変態と言うんじゃねえ。


「それで、落ち込んでいたのね」

「別に落ち込んでねえよ。ただ、有名になっても儲からない事に不満があるだけ」


 ミケに言い返すと、チビちゃんがニコニコな笑顔で俺に話し掛けて来た。


「でも、女の子にモテるんじゃない?」

「VRで彼女を作るのは、ドラだけで十分だよ」

「だから、俺の彼女は現実の女だって、何度言えば分かるんだ!」

「はいはい、お前は伝説の木の下でバグスにコクられてろ」


 ドラと言い合っていると、ミケがチビちゃんに向かって手を左右に振った。


「チビちゃん。すぴねこにその手の話は無駄よ」

「そうなの?」

「うん。この人、女性の顔の判別ができないから」

「何を失礼な」


 反論すると、ミケがジロっとまるで病原菌と戦う消毒液の様な目で俺を睨んだ。


「高校の時の小森さんって覚えてる?」

「誰だそれ?」


 その返答に、ミケが深いため息を吐いた。


「学年1番の美人でスポーツ万能、性格も頭も良くて、うちの高校だけじゃなく他の学校にもファンクラブまであった有名人よ」

「そんなの居たんだ」

「居たの。しかも、すぴねこと同じクラスだったわよ」

「マジ?」

「嘘を言ってどうするのよ。そんな美人を貴方、どんなあだ名を付けたか覚えてる?」


 記憶にないが、どうやらその小森ってヤツに俺があだ名を付けたらしい。


「……覚えてない」

「はにかみブスよ」


 ミケの言ったあだ名に、話を聞いていた全員がブフォッと吹いた。

 そして、俺もその酷いあだ名を聞いて、誰の事かを思い出した。


「あーー。何か居たなそんなヤツ」


 当時、ビショップから与えられた課題を終わらせたくて早くゲームをしたいのに、なにかと話し掛けて来る女が居たから「忙しいんだ、はにかみブス」と言って追い払った記憶がある。

 あだ名は某映画に出て来た「ほほえみデブ」を少し弄っただけで、別に相手がブスと言う訳では……あれ? どんな顔だっけ? えっと……やばい、思い出せねぇ……。


「彼女、すぴねこに告白しようと頑張ってたのに、そのあだ名を言われたショックで3日間家に閉じこもって泣いていたわよ」

「そりゃ可哀そうに」


 そう言葉を漏らせば、ミケの眼力が強くなった。


「彼女だけじゃないわ。髪の毛を盛った女子に「仮分数」、舞台女優を目指している女子に「紅天蕎麦女」、高身長でスタイルが良いから「スカイツリー」まだまだ一杯あるけど、これ全部、アンタが振った女子に付けたあだ名よ。ちなみに、私は告白してないし振られてもいないけど「リアル邪気眼」てあだ名を付けられたわね」

「…………」

「すぴねこの付けたあだ名の特徴で言えるのは、顔についてのあだ名が1つしかないのよ。しかも、その1つが誰もが認める美人に向かって「はにかみブス」よ。ねえ、すぴねこ。貴方、私の現実の顔って覚えてる?」

「…………え?」


 ミケの顔って、どんなんだったっけ? 邪気眼しか思い出せない……。


「……その様子だと、忘れているわね。やっぱり、すぴねこって、女子の顔の判別が出来ない軽度の認知機能障害よ」


 あれ? マジ、え? マジ?


「なあ、俺の顔は分かるのか?」


 ドラに言われて、顔をちらっと見る。


「酷でえツラだな。整形後か?」

「オーケー。コイツ、女だけじゃなくて男の顔も見分け付いてねえよ」

「私も同じ意見だから問題ないわ」


 ミケの突っ込みにドラが彼女に中指を立てた。


「……でも、ねえさんの事は美人だと思ってるぜ」

「あら? ありがとう。でも私は男よ」


 ああ、玉が付いてたっけ。


「と言う事で、すぴねこは一度病院に行ってみたら? このままだと、一生結婚できないわよ」


 トドメの一言をミケに言われて、心臓に矢が突き刺さるほどのショックを受けた。







 チビちゃんが放心している俺に、もっと女性を大事にしなきゃダメだよと注意したけど、顔が分からないんだぜ。

 今もチビちゃんの顔が分からず背が小さいだけで今まで認識していた事に、今更ながら気が付いてショックを受けていた。


「どんまい、イケメン一生童貞野郎」

「死ね」


 喧嘩を売ってきたドラに、テーブルの上に置きっぱなしだったコイツのスマホをぶん投げる。


「イテッ!」


 スマホが頭に当たっても、俺を弄るネタが出来た事が嬉しいのかニヤニヤと笑っていた。気持ち悪い。


「大丈夫よ。女が無理なら男だって居るんだし」

「ねえさん。それ、洒落にならないから。ねえさんが言うとマジで洒落にならないから」


 おかまにゲイの道を誘われるが、認知障害に性同一性障害を混ぜたら危険すぎるだろう……。


「さて、そろそろ行くとするか」


 そんな俺を見かねたボスが、全員に声を掛けて席を立った。

 皆が次のミッションに期待する中、俺だけがいまだに心の傷を引き摺っていた。


 今回挑むのは、シナリオ2のミッション4。制限時間120分。目標時間は100分。

 ミッション名は『脱出』。通信タワーからの脱出ミッションだった。

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