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『ワイルドキャット・カンパニー』 ~俺達、過疎ゲー、ゲーマーズ~  作者: 水野 藍雷
第2章 弾薬と白い子猫
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第18話 ミッション2-3 その1

 ミッションゲートを潜ると、前回のミッションのゴールだったタワーの前に立っていた。

 背後を見れば、俺達と爆弾を運んだ戦車と軍用トラックが無傷の状態で並んでいた。


 戦車の周りで何かの作業をしているNPCから、あの頭のおかしい操縦手を探してみたが、彼を見つける事は出来なかった。

 戦車が無傷なのを見て察していたが、ゲーム側で前回のクリアデータを持ち越さずにミッションを成型したのだろう。

 あの操縦手のNPCは一緒に行動していると、フラストレーションが溜まる一方だったが、居なくなったと思うと少し寂しかった。


「諸君、ここまでご苦労」


 背後から話し掛けられ振り向けば、そこには俺達を散々騙した軍曹が立っていた。


 今まで何所に居たんだワレ!


 声に出して叫ぼうとしたら、いつの間にかオートモードが始まっていて口を開けず、ぐぬぬぬぬ。

 前回のミッションで、どの戦車にも乗っていなかったから、爆弾を運んだ軍用トラックに搭乗していたのか? あの時、トラックを必死に守った事を後悔する。


「どうやら無事に爆弾を運べたのは、俺達のチームだけらしい。死んだ仲間の為にも、このミッションは必ず成功する必要がある」


 そう言えば前回のミッションで、作戦指揮を執るスピットマン中佐から他のチームが全滅したと無線通信が来ていたな。

 あの時は、クソ忙しい最中に入ってきた連絡で「今はそれどころじゃねえ!」としか思わなかった。


「この爆弾をタワー上層の通信エリアまで運ぶ必要があるが、敵もそう易々と侵入を許さないだろう。まず、お前達は先発隊として敵を殲滅し、爆弾の運搬ルートを確保しろ」


 そして、軍曹が離れた場所で待機している6人の兵士達を右手の親指で指した。


「向こうのスコーピオン小隊もお前達と一緒に行動する。協力して作戦を無事に成功させろ。以上だ」


 偉そうに命令した軍曹はこの場を立ち去り、俺達もオートモードが解除されて自由に動けるようになった。

 お荷物(NPC)を抱えてのミッションか……これ、初見じゃ無理っぽいな。







ミケ   『あの軍曹ってキャラが濃いから、居ないだけで死んだと思っていたわ』

すぴねこ 『そりゃ酷でぇ。俺は殺したいとは思っていたけど、死んで欲しいとは思ってなかったぞ』

ドラ   『殺そうが死のうが、どっちも同じだろ。それで、すぴねこ。どう思う?』


 ミケに冗談を言っていたら、ドラに振られてタワーを見上げる。


すぴねこ 『…………』


 これから突入するタワーは、下層部分は広いが階が上になるほど狭くなり、5階から上は長細く伸びていた。

 そして、パッと見た感じだと、東京にあるスカイツリーと同じぐらい高い。


すぴねこ 『地下があるかも……』


 そう呟くと、全員が俺を気が狂った人間でも見る様な目で俺を見た。


ドラ   『……やっぱりお前、頭がおかしいぜ。何で上に行けという命令で、地下を探そうとする?』

チビちゃん『ねぇねぇ。なんでそう思ったの?』

すぴねこ 『いや、上に登れって言うから、下はねえのかと思っただけだけど』

ねえさん 『捻くれてるわねぇ……』

ミケ   『でも、ダニエルならありそうだわ』


 ダニエルが大嫌いなミケが、射殺しそうな目をして呟く。


ボス   『まあ、正しいルートが正解とは限らない。時間が許す限り回り道をするとしよう』


 そうボスが締めくくると、俺達はタワーの前へと向かった。







「久しぶりだな。あの時は助かったよ」


 タワー入口扉の前へ移動すると、共に行動するスコーピオン小隊の一人が話し掛けて来た。誰だっけ?


ミケ   『確か、最初の方のミッションで助けた人じゃなかったかしら?』


 ミケの呟く声を聞いて俺も思い出す。

 このNPCは、ミッション1-2で対空砲のタワーを破壊しに行く途中で死に掛けていたところを、チビちゃんのメディカルキッドで治療した兵士だった。

 確か名前はアンダーソンと言ってた気がする。間違っていても俺は気にしない。


「今回は一緒に行動するらしいな。期待してるぜ」


 アンダーソンはそう言うと、むさ苦しい笑顔を振り撒き持ち場へ戻った。その笑顔がキメェ。


すぴねこ 『アイツ、どことなくドラに似ているな』

ドラ   『……その心は?』

すぴねこ 『お人よしで格好イイ』

ドラ   『丸分かりの嘘はヤメロ』

すぴねこ 『バレテーラ』

ミケ   『バカね』

ボス   『すぴねこ、先行しろ』

すぴねこ 『あいよ』


 ボスの命令で扉の脇へ移動。

 俺の背後では、遮蔽物に隠れてワイルドキャットの皆とスコーピオン小隊が銃を構えていた。

 壁のパネルボタンを押して扉を開けると、扉の先は狭い通路が奥へと続き敵は見当たらなかった。


すぴねこ 『右よし、左よし、俺によし、お前によし。突入!』


 安全を確認してから、俺達はスコーピオン小隊と一緒にタワーへと突入した。







 タワーの中は、天井の左右に細長い照明が並び明るかった。

 壁はコンクリートではなく、鉄の様な素材で頑丈に作られていた。湿気があったらカビが生えそう。

 そして、内部構造は部屋らしき場所が見つからず、通路が迷路の様に入り組んでいた。

 このタワーの設計者は思考が迷走した結果、機能美の存在を理解出来ず、誰も理解出来ない前衛的建築物を目指してたらしい。例えるならば、岡本太郎。


すぴねこ 『ここもハズレか』

ミケ   『また行き止まり?』


 通路を進み、何度目かの袋小路のハズレを引いて、ミケが文句を言ってきた。


すぴねこ 『俺は完璧主義者だから、クリアよりもマップを埋めたくなるんだ』

ミケ   『何時も適当な事しか言わない完璧主義者なんて居ないわよ』

ドラ   『はははっ。確かにその通りだ』

すぴねこ&ミケ『『お前が言うな!』』


 警戒しながら分岐点まで戻り別の通路へ進むと、前方から足音が近づいてきた。

 片手を上げて止まれとジェスチャーを送り、身を低くして背後の味方の射線を作る。

 そして、銃を構えて待ち構えて居ると、ドロント兵が姿を現した。


すぴねこ 『コンタクト!』


 報告と同時に先頭の敵にショットガンをぶっ飛ばす。

 それが合図となって、背後から一斉に銃声が鳴り響き、弾丸が俺を通り越してドロント兵を襲った。

 敵は待ち構えて居た俺達の攻撃に、なすすべなく銃弾を浴びて床に倒れる。


すぴねこ 『オールクリア』


 銃撃が止み、再び通路に静けさが戻った。

 振り返りって共同で戦うスコーピオン小隊に視線を向ける。どうやら今回のNPCは、まともな戦闘が出来るらしい。


 前作のAAWの時は、NPCが挙動不審な動きをする時が多々あった。

 例えば、護衛のミッションで、その護衛対象が敵に突入したり、突入するだけならまだしも余計な敵を連れてきたり、目的地まで到着してクリアだと思ったら、いつの間にかその護衛対象が消えていて、探したら入口近くで障害物に引っ掛かってた、もしくは壁にめり込んでいた。等々……。

 FPSのキャンペーンモードでアリアリなバグに、時々コイツはバグじゃなくて悪意ある仕様かと疑った。


 まだ確証はないが、俺の予想だと今回のシークレットミッションは、このスコーピオン小隊の全員の生存だと予想している。

 だから、NPCの兵士を連れてのミッションだと、軍曹から聞いた時は絶望しかなかったが、今の戦闘で少しだけ希望が持てた。







 偶に現れる敵と戦いつつ、迷路の様な通路を進んでいると迷路のゴールなのか、大きな扉を見つけた。


すぴねこ 『……やっと扉を見つけた』


 時刻を見れば、ミッション開始から20分が経過していた。


ボス   『時間が許す限りとは言ったが、まさか全箇所を回るとは思わなかったぜ』


 俺もまさか選択した通路が全てハズレるとは思わなかった。


ミケ   『日頃の行いが悪いんじゃない?』

すぴねこ 『だとよ、ねえさん』

ねえさん 『……え?』


 突然振られて、ねえさんが驚く。


ドラ   『お前の事だよ。その誰にでも喧嘩を吹っ掛ける悪ふざけが悪いと自覚しろ。頼むから自覚しろ』

ボス   『お喋りはそこまでだ。恐らく扉の先には敵が待ち構えて居るはず、油断するな。それとすぴねこは自覚しろ』

すぴねこ 『ヤダよーん』


 ドラとボスに言い返して、扉の横へ移動して配置に就く。

 ドラは俺の反対側に回り、他の皆は後方で待機をしていた。


すぴねこ 『ドラ、頼む』


 ドラにフラッシュバンを投げ渡す。


ドラ   『オーケー、今日のご飯は天津飯!』

すぴねこ 『突撃、隣の……』

すぴねこ&ドラ『『太陽軒!!』』

チビちゃん『ホイサッサー!』


 合図と同時に俺が扉を開けて、ドラがフラッシュバンを扉の先へ放り投げ、チビちゃんが右拳を上へ突き上げる。

 破裂音が聞こえると同時にインプラントを起動、扉を超えて突入した。


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