第14話 捻くれ者が選ぶアサルト銃 その2
テストサーバーへ移動すると、静かな兵士サロンの中央で4人のプレイヤーが俺を待っていた。
「よっ!」
「あ、来た来た」
俺が声を掛けると、4人の中で一番若いビショップがすぐに手を振って俺を招いた。
ビショップは、出会った当初は金髪ショタだったけど、今は普通のイケメンに成長している。
彼は、伯父のケビンの太った体形を見てヤバイと思っているのか、現実の車椅子生活でも健全な食生活と適度な運動をしていて、体重は一般的体重よりやや痩せていた。
「遅かったな。なーにしてたんだ?」
次に声を掛けてきた茶髪天然パーマでイタリア系の白人が、ミッションのバランス調整をしているボビー。
彫が深くモテそうな顔をしているのだが、腹がぽっこり出ている。例えるならば、運動不足で腹の出たデブのミケランジェロ像。
美というのは、努力が必要なんだと理解する。
「テストで使う銃を買ってた」
「何だ、いつものショットガンじゃないのか?」
俺の返答に目をしばたたいたのが、マップ担当のダニエル。
彼は黒縁の眼鏡を掛けた黒髪、中肉中背のヒスパニック系アメリカ人で、特徴は……特に無い、本当に無い。
デペロッパーの全員から聞いた話だと、彼は幸せな家庭環境で育ったのに何故か性格は歪んでいるらしく、ケビン曰く「こいつは先天性の精神異常者」らしい。
その話を最初に聞いた時は「そんなまさか」と笑っていたが、後にプレイヤーを馬鹿にした数々のマップを経験した今では、ケビンの言葉を信じている。
「んで、何を買ったんだ?」
そして最後に質問してきたのが、巨漢、別の言い方だと背の高いデブの黒人。敵デザインと音楽担当のキースリー。
その巨漢に見合わず、瞳は大きくつぶらでかわいい。
だけど、その目に騙されてはいけない。コイツの描く絵は人の暗黒面を晒し、作る音楽は人を殺す。
「AK-19」
「「「「捻くれてるなぁ……」」」」
買った銃を言ったら、全員が苦笑いをしていた。
「それで後の3人は?」
「アイツ等は忙しいから来れんよ」
ここに居ない3人について聞くと、ボビーが他人の不幸が大好きな笑顔を浮かべて肩を竦めた。
「予定よりもアカウント数が多いからね。運営の人が足りてないんだ」
「すぴねこ。大学なんてとっととやめて、早よ、うちに就職してこい」
ビショップが口を開き、ダニエルが無茶振りをする。
「やだ」
「くそっ! お前だけ楽しみやがって、コノヤロー……」
「うわぁ!」
拒否すると、俺の頭をヘッドロックして髪の毛をくしゃくしゃ掻き回してきた。
「それで3人だけど、ジョンはGMの統括をしていて、チャーリーはプレイヤーのコアな質問にへばってるよ」
俺が足掻いている最中に、キースリーが不在の理由を教えてくれた。
「ぶはっ! ダニエルやめろよ……はぁ……どうせチャーリーはスキルが酷すぎて、クレームの対応をしてるんだろ」
「ぎゃはは、正解」
ヘッドロックから抜け出して適当な事を言えば、ダニエルが手を叩いて笑い、他の3人も苦笑いをする。どうやら正解だったらしい。
まあ、銃の威力が上がると説明されたスキルが、撃った時ではなく銃で殴った時のダメージ上昇なんだから、そりゃクレームも来るだろう。
俺も最初にそれを知った時はクレームを入れたし、もしチャーリーの家が近所だったら、銃を持ってカチコミに行ってたかも知れず。
「そんで、名前の出てこなかったケビンは何しとる?」
「昨日取材を受けて疲れたみたいで、今は寝てるよ」
ケビンは社長兼プロデューサーで色々と忙しいらしい。
「そう言えば、そっちは朝だったな」
「うん。少し落ち着いたけど、僕達もまだこの時間ぐらいしか空いてなくてね。ちなみにダニエルは徹夜明け」
「だからテンション高けぇのか……」
ビショップと話しながらダニエルを見れば、俺に向かってウィンクを飛ばしサムズアップをしていた。見た瞬間、胃液が逆流しそうになる。
「だけど、ログ動画で見ていたけど、すぴねこって本当に昔の姿なんだな」
ボビーに話し掛けられて、自分の身なりを見てから軽く肩を竦める。
「ん? 弾が当たる面積が狭くなるから、AAWのキャラデータをインポートしたんだ」
「ふむ……容姿で積載重量を変えるか?」
俺が応えたら、ダニエルが考えた様子で呟く。
「さらっとナーフな事、言ってんじゃねえよ」
「すぴねこ君、大丈夫。その修正はVRシステムの基盤部分からの大修整になるから、僕が絶対に断る」
ビショップの話を聞いて、ダニエルが舌打ちをしていた。
「それじゃ、そろそろテストについて説明するか」
「おう」
俺が頷くと、キースリーがテストについて説明を始めた。
「今リリースしてるのは、賞金を掛けたチーム用のキャンペーンとPvPの2種類だけど、それに加えてソロから4人まで参加できるキャンペーンを追加する予定だ」
「なるほど、賞金を諦めたプレイヤー向けだな!」
「ぶっちゃけ、その通り。かと言って一から作るのは間に合わないし、人も足りない、そして何よりも重要なのが俺達が面倒くさい。という事で、前作のミッションをそのまま流用する事にした」
「ふーん。でもある程度は流用できるとして、それでも作るのは大変そうやな」
思ったことを言えば、ビショップが頭を左右に振った。
「その辺は大丈夫だよ。僕が作ったのはゲーム作成ツールだからね」
「ああ、なるほど」
ビショップの話を聞いて、ゲーム制作を楽しむマニア向けのゲーム制作用ソフトを思い浮かべる。
「理解が早くて助かるよ。つまり、僕はそのゲームが動くソフトウェアを開発しただけで、ゲームの中身を作ったのはケビン達。そして、AAWのミッションデータをそのままインポートすれば、そのままAAW2でも流用できるんだ」
「賞金に釣られたカモを逃がさない様に、新しい餌を提供するって寸法さ」
「まあ、若干のバランス調整は必要だったけど。それでも、一から作る事に比べりゃ楽だ」
「俺達は楽できて、ユーザーは新しいコンテンツを楽しめる。これぞ一石二鳥だぜ」
ビショップの説明の後に、ボビー、キースリー、ダニエルが口を開いて、3人合わせて「シシシ」と笑っていた。
「と言う事は、俺はバグチェックでもすればいいのか?」
「それもあるけど、それよりも感想が聞きたい」
「感想?」
キースリーの返答に首を傾げる。
「旧作を散々やりつくしたすぴねこから見た、ゲームバランスと出来具合、それと細かい事でも何か気づいたことがあれば教えてくれ」
「つまり、ゲームを楽しめばいいだけか」
「楽しく遊ぶ事が出来たら、こっちも満足だ」
「俺は何時も楽しんでるぜ。たまに敵に殺されると、お前達をぶっ殺したくなるけどな」
「はははっ。その感想が一番嬉しいぜ」
「全くだ」
冗談を言えば、ボビーとダニエルが笑い返す。
「それじゃ、行ってくる」
「チョット待ってくれ」
ミッションに向かおうと席を立ったら、ボビーが話し掛けてきた。
「何?」
「ビショップも連れていけ」
「えっ、僕も行くの?」
キースリーに言われて、当のビショップが驚いていた。
「お前、あれだけゲームが出来たら遊ぶんだと言っときながら、まだ1回しか遊んでいないだろ」
「誰かさんがロトの金を賞金にしようと言ったおかげで、忙しかったからね」
「ゴホンッ、ゴホゴホ。持病の癪が……」
キースリーに話し掛けられてビショップがボビーを睨めば、そのボビーはワザとらしい咳をして逃げていた。
「せっかくだから、仕事抜きに遊んでこいよ」
キースリーの提案にしばらく考えていたビショップだったが、しばらくして肩を竦めた。
「まあ、問題が発生しても後で直せばいいか。すぴねこ君、よろしく」
「オッケー。んで、さっきの話だと4人まで入れるらしいけど、後2名は誰か来る?」
「俺は動作チェックするから無理だな」
「俺もログチェックするから無理」
「徹夜明けで眠いから無理」
俺が誘うと、全員に断られた。
「ムカツク運営に向かってフレンドリーファイアー出来るチャンスだったのに、残念だ」
冗談を言うと、返答の代わりに3人が同時に中指を突き立てた。
「こんなおっさんにはなりたくねえな。ビショップ行くぜ」
「オッケー」
俺とビショップはパーティーを組むと、ミッションを受けてゲートの奥へと入って行った。




