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『ワイルドキャット・カンパニー』 ~俺達、過疎ゲー、ゲーマーズ~  作者: 水野 藍雷
第2章 弾薬と白い子猫
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第13話 捻くれ者が選ぶアサルト銃 その1

「やっぱりリーダーはボスじゃないとダメだね。今日は疲れちゃった……」


 ミッションから帰還して席に着くなり、ぐったりしたチビちゃんが呟いた。

 今回のミッションでは彼女も頑張ったけど、主要な状況ではボスの判断がクリアの鍵となったから、まあ分かる。


「……次からは何時もみたいに参謀に徹するわ」


 だけど、この発言は理解できない。

 チビちゃんとはAAWで知り合ってから3年以上の付き合いがあるが……はて、参謀? 何言ってんだ、この主婦は。

 記憶の底からチビちゃんの発言をほじくり出しても、彼女が銃を撃つときの「にゃー」という猫の鳴き声しか脳裏に浮かばなかった。

 そして、どうやら皆も俺と同じ気持ちだったのだろう。俺達が座るテーブル席の場の空気だけ静かになった。


 さて、どうやってチビちゃんを傷付けずに、今の発言を笑いの方向へ持って行くか……。

 もし今のをドラが言ったのならば普通に撃ち殺せば済む話だが、残念ながらチビちゃんは天然だ。冗談に聞こえるけれど、言ってる本人はガチ。

 笑ったら彼女が傷付くかもしれず……天然とはガラスのハートを持った天才であるが故に、扱いが面倒くさい。


 視線をドラへ動かして、何か言えと促す。

 俺の視線に気づいたドラが眉を顰めて「やだよ、お前が言え」と視線で返してきた。その返答にブチ切れる。


「ふざけんな。テメェの冗談を許せてるのは、こういう時の場の空気を何とかするためだろうが!」

「バカヤロウ! 物には限度ってのがあるんだ。そこまで言うならお前が何とかしてみろや!!」


 突然俺とドラが言い争いを始めて、チビちゃん以外の全員が呆れていた。


「二人とも、何が原因か分からないけど、ケンカはダメー!」

「「……さーせん」」


 チビちゃんに怒られてドラと一緒に謝る。

 喧嘩の原因は彼女なのだが、当の本人だけが気付いていなかった。







「戦車に乗ってただけだから、このまま様子見で次のミッションでもやるか?」

「やらねえよ、この体力バカ。お前は超人ハルクか何かか? 体力に全振りしているステ(ステータス)を、まごころと気遣いに振り直せ」

「そんなステのあるFPS、見た事ねえよ。半殺しにしてから、命だけは助けてやると言って放置か? 惨たらしいな。まあ、そういうプレイは好きだけどさ」


 提案したらドラから拒否された。そして、他の皆もドラと同意見なのか頭を横に振る。


「せっかくの土曜日なのにもったいない。始めの頃は何度も最初のミッションを回してたじゃねえか」

「それをやったせいで、疲れが溜まってるのよねぇ」

「次の日の朝、筋肉痛で痛いのよ……」


 今度はねえさんがため息交じりに呟き、ミケが疲れた様子で頭を左右に振った。


「ゲームを遊んで疲れたとか、堕落した人間のセリフだな」

「まあ、そう言うな。今のところ順調に進んでいる。このままのペースで行けば問題ない」


 俺が肩を竦めると、ボスが皆のフォローに入る。


「確かにそうだけど、そもそもミッションを回したのって、ボスのアーマー資金を稼ぐ為だったよな」

「それは言わねえ約束だ」


 痛い所を突かれたボスが両手をクロスしてバッテンを作り、会話を終わらせてきた。







 結局、次のミッションは明日の夜にやると決まって、全員ログアウトしていった。

 そして俺は一人残ってまったりと休憩中。

 特にやる事もないので、スマホを見て全プレイヤーのゲーム進行状況を確認する。


 さて、現在の状況だけど、一番先行していたロック様の『ブレイズ・オブ・ドリーマー』は、キャラの作り直しのため、ミッション2-3から先に進んでいない。

 恐らく新しく作ったキャラのスキル取得のため、しばらくの間は先に進む事もないだろう。

 彼等は不慣れなゲームでスキルもまともに使わずにトップを走っていたと考えると、やはりプロと名乗るだけあってゲームの腕は確かだと思う。


 二番手だった『暴走パトリオット』は、ミッション2-2をクリアした状態のまま停滞中。

 2-3のミッションはシナリオから考えて、タワー内部での戦闘だと予想される。

 彼等は遠距離を得意としたチームだから室内戦闘が苦手なフィールドという事もあるが、それに加えてスキルポイントを無視して先行していた弊害が出始めているのだろう。

 AAWをやっていればスキルの重要性を理解するはずだけど、アイツ等、金に目がくらんで突っ走ったんじゃないかな?

 例えるなら、石油が欲しくてイラクを支援したら、フセインが暴走して湾岸戦争になっちゃったアメリカに近いものがある。

 後先考えず無計画で勝てば良いと考える思考が、実にアメリカ人らしい。


 そして、ミッション2-1をクリアしていた『鋼鉄のパンツァー』は、いつの間にか2-2をクリアしていた。

 チーム名がパンツァーだから、戦車が得意だったのか?

 だけど、今のコイツ等は、アーマーを買う金もスキルポイントもないから、鋼鉄パンツァーではなく、やわらかパンツァーだ。

 だけど、後半になればアーマーで強化して強くなるから、できれば今の段階から引き離したい。


 最後に他のプレイヤーの動向だけど、彼等は2-1、もしくは2-2をクリアできないでいた。

 停滞している理由は、恐らくだけどシナリオ2から敵が強くなったからだと思っている。

 ケビン達がこの状況を見て、嘲笑っている姿が目に浮かんだ。


 という事で、『ブレイズ・オブ・ドリーマー』を抜かせば、現在トップに立っているのは、AAWでラストミッションをクリアした俺達を含めた3チームだった。

 オーストラリアの『フライングホエール』? リーダーのマッド以外のプレイヤーがアカウントをBANされて、そのマッドは『ブレイズ・オブ・ドリーマー』に移籍した時点でとっくの昔に解散しとる。クソザマァ。


 ……うーん。この状況はある程度予想していたけど、序盤の段階でこの展開になるとは予想していなかったと言うのが本音だった。







 俺もログアウトしようかなと考えたタイミングで、ビショップからSMSショートメッセージサービスが入ってきた。


ビショップ   :『おはよう』

スピードキャット:『おはよう、こっちは夜だけど』

ビショップ   :『今暇?』

スピードキャット:『ミッション終えたばっかり暇』

ビショップ   :『んじゃテストに付き合って』

スピードキャット:『テスト?』

ビショップ   :『ボビー、ダニエル、キースリーの3人がAAWのミッションを2でも遊べるようにカスタマイズしたから、そのテスト』

スピードキャット:『マジ?』

ビショップ   :『マジ』

スピードキャット:『行く行く。どこ向かえば良い?』

ビショップ   :『テストサーバーのアクセスキーを送るから、サーバーゲートをくぐれば飛べるよ』

スピードキャット:『了解すぐ向かう』


 SMSを閉じた後、すぐにビショップからアクセスキーの添付ファイルが付いたメールが届いた。思わず顔がにんまりする。

 笑顔の理由? それはもちろん、俺が一番好きなゲームをまた出来るからに決まっている。

 よくネットゲーマーの間で「一番面白いネットゲームは何か?」という議論が交わされるけど、面白さはなんて人それぞれなんだから答えなんて無い。

 だから、もし俺がその質問に答えるならば、「一番最初に遊んだゲーム」と言うだろう。

 初めてやったネットゲームが、デペロッパーが詐欺に遭ってすぐに過疎ゲーになったゲームとか、ガチャ満載の課金ボッタクリゲームとか、例えどんなクソゲーでも、最初というのは心に残る。まあ、思い出補正は大事だよ。


 そして、AAWは俺が初めてプレイしたFPSゲームで、中学の頃からずっと遊んだ青春とも言えるゲームだ。

 それが復活するのは本当に嬉しかった。







 テストサーバーへ向かう途中で、ピタッと動きを止める。


「…………ショットガンはねえわ」


 チームプレイならまだしも、ソロプレイでショットガンオンリーは、性格が捻くれた俺でもそれはない。

 俺は自分を強化するためにチームメンバーを振り回す様な、どこぞのヘビーアサルト兵(ボス)と違って、遊びで銃を購入するだけの資金は持っている。

 金はインプラントの購入か消耗品にしか使わないし、未だに初期配備のショットガンだし……。


 呟いた後、適当な席を座ってショップアプリを起動。カテゴリーからアサルト銃を選択する。

 無難な選択肢ならM4アサルトカービンだけど、ぶっちゃけ言って俺はこの銃が嫌い。

 別にM4がミケの彼氏だからとかは関係なく、ゲームでのM4が卑怯な銃という印象があるからだった。


 卑怯だと思う理由だけど、現実のM4は構造から動作不良を起こしやすい銃として有名だった。

 M4カービンのお兄ちゃんと言えば、ベトナム戦争で使用されたM16アサルトライフルだけど、この銃はストーナー式と呼ばれるガスチューブを通ってきた発射ガスがボルト後方の空間に直接吹き込む事で、ボルトを作動させて弾丸を自動装填させる仕組みだった。

 この方法だと、ボルト以外に動作する部分が少ないため反動が小さい。また、軽い銃に仕上げる事ができるというメリットがある。

 だけど、燃焼ガスを直接機関部分に吹き込む事から、内部が汚れやすいという凶悪(・・)なデメリットがあった。


 そもそも、M16アサルトライフルは、アメリカ空軍が警備用にM2カービンの後継として採用した銃で、最前線の戦場で使う設計思想なんてなかった。

 ところが、ベトナム戦争が勃発してM14バトルライフルがベトコンのAK-47にボッコボコにされたのと、M14バトルライフルの次世代銃の予定だった、SALVOプロジェクトのフレシェット弾を使用する銃の開発がコケたせいで、アメリカ陸軍もM16を使い続けたのだが……。

 この銃は、空軍が基地警備で使用するならともかく、陸軍や海兵隊がジャングルを何日もかけてパトロールするような使い方をすると、先ほど挙げたデメリットのせいで頻繁に動作不良を起こした。

 特にメンテナンスを指導していない配備当初は、まだ無煙火薬ではなく燃えカスの多い有煙火薬を使用していた事と合わさって、アメリカ兵の死体がスヤァと眠る横には、動作不良のM16が献花の替わりにそっと添えられていたらしい。

 だから、ベトナム戦争でM16が活躍したのは、メンテナンスの重要性を兵士に指導したのと無煙火薬が完全に出回った戦争中盤からだったりする。


 そして、M4はM16の次世代銃として、ストーナー式を採用していた。つまり、M4は動作不良が起こりやすい銃だった。

 だけど、ゲームで銃が頻繁に動作不良を起こしたら、俺ならそのゲームをクソゲー認定して、間違いなくやめるだろう。

 という事で、ゲームだとM4は動作不良など起こさず、安心して撃つ事が出来る。

 だから、動作不良の起こらないゲームに登場するM4アサルトカービンを、俺は卑怯な銃と思っていた。


 等々、M4の事を考えながらそれ以外の銃を選択する。そして、俺が選んだ銃は……AK-19だった。

 AKと付いてる事から、もちろん旧ソ連から続くロシア製。

 ロシアの銃と言ったら、AK-47、AKM、AK-74、AK-74M、そしてAK-12と続く、カラシニコフ社製のアサルトライフルが有名だけど、このAK-19はAK-12の輸出モデルで5.56x45mm NATO弾を使用するバージョンだった。


 AK-12からはピカニティーレールを採用していて、AK-19は弾が5.56x45mm NATO弾。

 つまり、見た目だけだと西側の銃と勘違いしそうな、ロシアの魂を捨てたAKの風上にも置けない裏切り者だ……何となく気に入った。


 ちなみに、AKと言ったら命中率が悪いと言われているが、それは本当に昔の話。

 AK-74Mからはボルトキャリアーが従来よりも軽量化して、射撃時の衝撃が緩和されて命中率も上がっている。

 それに弾丸もAK-74からは、7.62x39mm弾ではなくAK-47の発生型のAKMシリーズの5.45x39mmを使用しているから、昔よりも反動を押さえ、射程が伸びた。


 という事でポチっとアプリをクリックして銃と、ついでにダットサイトも一緒に購入。

 受け取りカウンターで銃を手に入れると、急いでビショップの待つテストサーバーへと移動した。


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