第10話 ミッション2-2 その2
西へと向かっていた戦車は途中から3チームに分かれて、俺達は当初の予定通りに南のルートを侵攻していた。
戦車に乗り心地を期待するのは間違っているけど、整備されていない道を進む戦車はガタゴト揺れる。
すぴねこ 『なあ、ドラ』
ドラ 『何だ?』
すぴねこ 『戦車に乗っていると酔ってくるな。酔うと誰かを殴りたくならねえか?』
ドラ 『ならねえよ!』
ねえさん 『冗談を通り越してもう病気ね……』
ドラに冗談を言ったら、ねえさんの呆れた声が聞こえた。
すぴねこ 『それと、航空支援をするつもりなら序盤で使った方がいいぞ』
ドラ 『……お前は何かを言う前に、冗談を言わないと死んじゃう病気か何かか?』
すぴねこ 『俺はフィクションにコンプライアンスを入れようとする、場外乱闘好きなポリコレと違ってね、ゲーム中は公正を無視したユーモアを求める主義なんだ』
ドラ 『その主義は賛成するぜ。それで理由は?』
すぴねこ 『束縛プレイブリーフィングの時に、NPCが言ってたじゃねえか。タワー近辺は敵の制空圏内だって』
あの時の中佐は、タワーに近づいてから航空支援を呼んでも失敗すると言っていたのだろう。
ドラ 『分かり難いヒントだな。今気づいたよ』
ミケ 『二人ともお喋りは終わりにして。2時の方向、敵が来たわ』
先頭車両で前方を見ていたミケからの報告に、ドラとの会話を中断してモニターを見れば、30体のドロント兵が右前方の崖から次々と現れた。
「あいつ等、リンダを生身で襲おうとしているのか? モテる女は大変だぜ!」
NPCの操縦手が笑いながら、戦車を止めようともせず逆に速度を上げた。
ミケ 『何でスピードを上げてるのよ!!』
すぴねこ 『知らねえって、文句はNPCに言ってくれ!』
驚くミケに答えながら、砲身を敵の方向へと向ける。
チビちゃん『機銃で攻撃開始!』
チビちゃんの命令で、車長の3人とトラックに乗っているNPCが機関銃で攻撃を開始。
12mmの弾丸を浴びたドロント兵は、次々に肉の塊になって地面に倒れた。
ミケ 『正面から、ライトタンクが5体接近』
チビちゃん『すぴねこ君!!』
すぴねこ 『オッケー、ドーンだYO!!』
正面から近づくライトタンクに照準を合わせて主砲を発射。
44口径の砲弾がライトタンクの集団に命中して、バグスを吹き飛ばした。
「おっと、危ねえ!!」
俺が撃った後で、操縦手が戦車の向きを変える。
そして、砲弾を受けたけど奇跡的に生き残ったライトタンクを轢き殺した。
「はっはっはっ。さすがリンダだ、最高だぜ!!」
やっぱり、このNPC狂ってやがる。
戦車を適当に選んだのがまずかったのか!?
すぴねこ 『……ボス! この車両のNPCがイカれてるっぽいけど、そっちはどうだ?』
ボス 『こっちは一言も喋らないぞ』
ドラ 『そう言えば、戦車によっては操縦手がベラベラ喋るって、ネットにも書き込みがあったな。どうイカれているんだ?』
すぴねこ 『その……性格が俺に似ている!』
ドラ 『……そいつはヒデェ』
すぴねこ 『お前の彼女の美的感覚より遥かにマシだぜ』
ドラ 『それは遠回しに俺がブサイクとでも言ってるのか?』
すぴねこ 『お前の容姿が人類の常識を覆すクリーチャーかどうかは知らんよ。だけど、俺の予想だと、この進軍は止まらねえ!!』
ボス 『……そういう仕様なんだろ。どうする事も出来ねえし、被弾しないように戦うしかないな』
コイツ、今はリーダーじゃないからって適当な事言ってやがる……。
チビちゃん『すぴねこ君!』
ボスと会話していると、仮リーダーのチビちゃんが話し掛けてきた。もしかして何か良い案が浮かんだのか?
すぴねこ 『何?』
チビちゃん『ガンバレ!!』
すぴねこ 『……ありがとよ!』
具体的な指示ではなく、見事なまでの根性論。期待した俺が馬鹿だった。
結局、何の案もなくドロント兵を倒した後、そのまま渓谷へ突入した。
渓谷に入ると、正面の空から敵の戦闘機が現れた。
ドラ 『随分と遅っそい戦闘機だな』
ドラの言う通り、戦闘機の見た目は翼のない円盤型で、渓谷の中をゆっくりと掻い潜って近づいて来た。
ボス 『気を付けろ、速度が遅いって事は、おそらく地上支援機だ!』
チビちゃん『だったら墜としちゃえ!』
ボスの指摘の後、直ぐにチビちゃんから命令が下るけど、戦車で飛行物を撃てと? 砲弾だと弾速が遅くて無理でしょ。
すぴねこ 『主砲じゃ無理だ。ミケ頼む』
ミケ 『了解』
ミケのM2機関銃が10発以上命中して戦闘機を撃ち落とすが、戦闘機は墜落する前に何かを地上へ投下していた。
そして、その戦闘機から投下された物は地面に落ちるや否や半分に割れると、中からタレットが現れて俺達に銃口を向けた。
ミケ 『なにあれって……キャッ、撃ってきた!!』
ミケが戸惑っている間にタレットが機銃を発射して、彼女の悲鳴と車体に当たる弾丸の音が耳に入ってきた。
「はっはっはっ、そんな豆粒でリンダがやられてたまるか!!」
操縦手、興奮してんじゃねえよ。
ボスがタレットに向かって砲弾を発射。その1発でタレットが爆発して攻撃が収まった。
チビちゃん『ミケちゃん、被害は?』
ミケ 『ダメージは2%。だけど、あれって私を狙ってたわ……』
チビちゃん『車体じゃなくて人を狙うって、嫌らしい攻撃ね』
ねえさん 『その嫌らしいのが、続々と来ているわよ』
ねえさんの声に前方を見れば、渓谷の奥から次々と敵戦闘機が現れた。
チビちゃん『私とミケちゃんで戦闘機を狙うから、ねえさんはタレットを破壊して!』
ねえさん 『了解!』
ミケ 『遠くの戦闘機を狙うから、チビちゃんは撃ち漏らしをお願い』
チビちゃん『はいさ』
すぴねこ 『俺達は?』
チビちゃん『んーー主砲はもったいないから、機銃で攻撃して』
そう言えばそんなのがあったっけ。
主砲があるから機銃なんて使わないと思ってたけど、弾の節約にはなるらしい。
ミケとチビちゃんの2人で敵戦闘機を撃ち落とすが、それでも飛来する敵の数は多く、次々とタレットを地表に落とされていた。
そのタレットを、ねえさんと爆弾を積んだトラックのNPCが破壊。それでも増え続けるタレットを俺とボスとドラの3人で壊していった。
それでも、少しずつこちらの被害が増えていた。
ミケ 『損害率20%を超えたわ!』
目標地点までまだ半分なのに被害が大きくなって、思わず顔を顰める。
「カモーンカモーンカモーンカモーン、どんどん来やがれ!!」
俺とは逆に、操縦手が何かを叫んでいるけど、誰かコイツを止めてくれ。
呆れて横に居る補填手に何とかしろと顔を向けるが、その彼は魚が死んだ様なハイライトが消えた目で黙々と仕事をしていた。
ボス 『ドラ、出し惜しみはするな。支援を呼べ』
ドラ 『それを待ってたぜ』
どうやら、ドラは誰かに言われるまで、航空支援の使用を控えていたらしい。
恐らく支援のタイミングをミスした時の責任を取るのが嫌だったのだろう。卑怯なクソ野郎と心の中で貶す。
ドラ 『行くぜ! 必殺、サンダーボルト!!』
ミケ 『奥義じゃないの?』
すぴねこ 『そもそも叫ぶ必要ねえし』
同僚が恥を知らないアホだと疲れが溜まる。
ああ、なるほど。補填手の目から光が消えていた理由を理解した。
『依頼を確認した。支援に向かう』
ドラが航空支援を呼んで暫くすると、A-10パイロットの渋い声がインカムに流れてきた。
ドラ 『もう少しで助けるから待ってろ』
ミケ 『自分で助けるわけでもないのに偉そうね』
すぴねこ 『もし本当に助けたいなら、戦車から降りて前に来いよ。止めねえぜ』
ドラ 『俺は敵を倒すのはもちろん好きさ。だけど、それ以上に味方が苦戦しているのを、のんびり眺めるのが好きなんだ』
すぴねこ&ミケ『『死ね』』
ドラ 『うひょひょー』
イラっとする事を抜かすドラへ文句を言っていると、俺達の後方の空から爆音と同時にA-10が現れた。
『敵戦闘機確認。攻撃を開始する』
報告と同時にA-10のアヴェンジャーが火を噴き、敵を1機撃破する。
ねえさん 『誰かさんと違って優秀ね』
ドラ 『その誰かさんとは誰かな?』
すぴねこ 『最初にドが付いて最後にラが付くヤツだと思うぜ』
ドラ 『なるほど、ドラキュラか……』
ミケ 『棺桶に入れて、そのまま火葬したいわ。めっちゃしたいわぁ』
ボス 『熱いモーニングコールだな』
俺達が冗談を言い合っている間もA-10は攻撃を続けて、敵戦闘機を次々と撃ち落としていった。
その攻撃に敵戦闘機が俺達からA-10にターゲットを変更。一斉にタレット爆弾を投下すると、A-10に向かってドッグファイトを開始した。
チビちゃん『今の内にタレットを全部破壊して』
その命令に攻撃を開始。
離れた場所に落下したタレットは射程範囲外だったため攻撃できず、俺達は攻撃を受ける前に全てのタレットを破壊した。
『これ以上の支援は無理みたいだ。撤退する』
俺達がタレットを破壊している間、A-10は敵の戦闘機の大半を撃ち落としていたが、被害を受けたのか機体から煙を出していた。
チビちゃん『ありがとねー』
『グッドラック』
チビちゃんが戦場から離脱して東の空へと消えるA-10に向かって手を振ると、彼女にA-10のパイロットのAIが応えた。




