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『ワイルドキャット・カンパニー』 ~俺達、過疎ゲー、ゲーマーズ~  作者: 水野 藍雷
第2章 弾薬と白い子猫
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第9話 ミッション2-2 その1

 ミッションゲートを潜ると、俺達はオート進行による身動きが出来ない状態で椅子に座っていた。

 周りを見回せば、俺達の他にも数人のNPCの軍人が椅子に座っていてむさ苦しい。


 今、俺達が居る部屋は、正面にプロジェクターシートがあるからブリーフィングルームだと思う。違っていたら尋問室かも知れず。

 早う動けと思っていたら、部屋のドアが開いて偉そうなおっさんが部屋に入ってきた。


「飯は食ったか? ブリーフィングを始めるぞ」


 最初の飯のくだりは不要だと思うが、相手は軍人だ。常識人には理解できない思考があるのだろう。


「見慣れない連中も居るから、まずは簡単に私の紹介をしよう。私はスピットマン中佐。今回からミッションの作戦指揮を取る事になった」


 どうやら今まで俺達の上官だったあのクソ(軍曹)は今回休みらしい。ヘイトがMAXに近かったから、丁度良いタイミングだったと思う。


「諸君等の健闘により、無事に戦艦を地表へ降ろすことができた。こちらの被害も2割ほど出たが、当初の予定通り作戦を進行する」


 ゲームのアカウントの数が500万人で、NPCが同じ数だけ戦争に参加していると想定した場合、僅かな日にちで約200万人が死んでいるのか……さらっと言ってるけど、歴史に残る被害だと思う。


「まず、このスクリーンを見てくれ」


 中佐がそう言うと、正面のプロジェクターシートにドロント兵の脳のCTスキャン画像が表示された。


「敵バグスの大半は捕らわれた人間、または、他のエイリアンを改造した生命体だ。そして、彼等の前頭葉には受信装置が埋められている」


 スクリーンの画面が切り替わって、望遠レンズで撮影されたタワーの写真が映った。


「そして、彼等はこのタワーから命令を受信して、我々に敵対行動している事が判明した」


 今度はタワーの望遠写真から、飛行場からタワーまでの立体地図に切り替わった。


「このタワーは敵の制空権内にあり、空爆での攻撃は不可能。そこで、今回の作戦は地上からタワーへ侵入し、内部からEMP爆弾を爆発させる。ここまでの説明で何か質問はあるか?」


 中佐の確認にNPCの兵士の1人が手を上げた。


「EMP爆弾とは?」

「電子パルスを放出する装置だ。物理的な損害は与えないが、バグスの送信装置を強力なパルスで破壊する」

「そうなると、バグスの連中はどうなるんで?」


 別の兵士が質問すると、中佐が頭の横でパッと手を開いた。


「既にバグス兵の自我は破壊されている。よって、タワーの半径100Km以内の全てのバグスは脳死するだろう」


 中佐がそう言うと、質問した兵士が嬉しそうにヒューと口笛を吹いた。

 大量殺戮を喜ぶNPCを見て、この茶番劇を考えたのはケビンだと確信する。


「敵も黙って傍観せず、激しい反撃が予想される。そこで、今回は戦車3台と爆弾を積んだトラック1台で編成したチームを3チーム用意した。タワーへは北、中央、南の3つのルートから侵攻して敵の攻撃を分散させる」


 中佐が話すと衛星写真に3本の矢印が現れて、飛行場からタワーへと続くルートが示された。


「北と中央は従来のチームで進軍する。そして南のルートだが、他の地域での戦闘が激しくまだ兵士が到着していない。しかし、今回のミッションは早急に実行する必要がある。そこで急遽チームを編成した」


 そう言って、中佐が初めて俺達の方に視線を向けた。


「軍曹から優秀だと聞いている。お前達は南側のチームに加入して、戦車に乗ってくれ」


 一般兵が何の訓練も受けずに、いきなり戦車に乗れと? チョット何を言ってるのか分からない。

 この中佐は軍曹と違って嘘は言わない様子だけど、無茶振りが常識の範疇を超えている。

 だけど、残念ながら今の俺達はオート進行中。何一つ抗議する事ができなかった。


 それから、中佐自ら俺達向けに砲弾の撃ち方を説明をしたけど、『狙って撃て』ただそれだけ。ゲームとはいえ、簡単すぎる説明だと思う。

 俺達が行く南は山岳地帯を超えるルートで、道中には渓谷があり、そこを抜けた先はバグスが作ったトンネルの中を進む予定になっていた。


「地球の平和は諸君の双肩にかかっている。健闘を祈る、以上だ!」


 ブリーフィングが終わるのと同時に、部屋のNPCが全員立ち上がり中佐に敬礼。

 中佐はその様子に頷いてから返礼すると、部屋を出て行った。

 ちなみに、俺達もオートで強制的に中佐に敬礼をさせられていた。


 中佐が出ていくとオートモードが解除されて、やっと普通に動けるようになった。

 長かった束縛から解除されて、ミッション開始前から疲れた気分になる。


「とりあえず、移動して戦車を確認するか」


 同じ様に疲れている様子のボスに頷くと、全員揃って格納庫へと向かった。







 一方通行の通路を抜けて格納庫へ足を運ぶと、戦車とEMP爆弾を積んだトラックがズラリと並んでいた。

 戦車の見た目はアメリカ軍のM1A2エイブラムスに似ているけど、この戦車はバグスから入手した……別の言い方だとパクった技術で作られた特殊装甲の近未来戦車だった。

 戦車は4人乗りで、操縦手と補填手はNPCが担当、俺達は砲撃手と車長をやらなければいけないらしい。

 まあ、目の前にある近未来の戦車はさておき、やはり、「特殊」「特別」「特化」という単語は、詐欺にも近い便利な言葉だと思う。

 それと、爆弾を積んだトラックは、荷台を装甲で覆ったガントラックで、そっちは全員NPCの兵士が乗り込む予定らしい。


ドラ   『ボス、さっきの説明だと俺達は車長と砲手って事らしいけど、どうする?』


 インカムを付けたドラが、ボスに丸投げの質問する。


ボス   『そうだな……男は中に入って砲手。女は車長でどうだ?』


 「どうだ?」と言われても分からんよ。結局、誰からも反論はなく全員が頷いた。ちなみに、ねえさんは面倒だから女扱い。

 そして組み合わせは、俺とミケが先頭車両、ボスとチビちゃんがその後ろの車両、トラックを挟んでドラとねえさんが殿の戦車に乗った。


 適当に戦車を選んで中に入ると、既に操縦手と補填手が搭乗していて、車内に乗り込んだ俺に操縦手が話し掛けて来た。


「お前がリンダの砲手か、ヨロシクな!」


 そのリンダという女は誰だ? この戦車に乗っている女性は目つきの悪い女(ミケ)しか居ないぞ。


「ちなみに、リンダとはこの戦車の名前だ。美人だろ?」


 ああ、なるほど……戦車に女性の名前を付けているのか。

 戦争による精神崩壊と性的欲求がシンクロした無機物を擬人化する異常愛を、俺が理解する事は一生無いだろう。


「美人かどうかは分からないけど、マチルダよりも堅そうな女だな」


 俺の言うマチルダとは、マチルダII歩兵戦車の事で、第二次世界大戦初期に使用された装甲の堅いイギリス戦車だ。

 中学生の頃、スマホアプリの戦車ゲームでマチルダ戦車を使ったことがあり、その時はあまりの鈍足さに一度も主砲を撃つ事なく戦闘が終了。その後、「二度と遊ぶか」の呟きと同時にアプリを消去したのは、懐かしい思い出だ。


「頼りにしてるぜ、ルーキー」


 臨機応変に対応できないNPCは、俺の返答を無視してそう言うと、出発の開始まで無言になった。







 俺が乗る戦車の主砲は44口径120mm滑腔砲のM256。主砲の横には主砲と同軸の7.62mm機関銃M240が備わっている。

 砲弾は多目的新型砲弾のXM1147AMP……要は相手が戦車だろうが、建物だろうが、恋人だろうが、何でも当たれば爆発、木っ端微塵と覚えれば良い。

 改めて砲座席に座ると、正面と左右にモニターがあり、車外カメラを通して外の様子を映していた。

 そして、正面モニターには照準が付いていて、中央にターゲットを近づけてから撃つだけの簡単な仕様だった。


すぴねこ 『ミケ、そっちはどうだ?』

ミケ   『戦車に乗るのは初めてだけど、こっちの機関銃は固定されているから、撃つだけなら問題ないわ』


 戦車に乗りなれた女なんて、世界に何人も居ないと思う。

 車長のミケが車上で扱うのは、ブローニングM2重機関銃。

 固定砲台の機関銃で、12.7x99mm NATO弾を音速の3倍の速さでぶっ放す。

 掠っただけでも肉が抉れる、ミンチ製造機だ。


すぴねこ 『撃つだけなら? 他に何か問題でもあるのか?』

ミケ   『問題はそっちよ。このM2って小回りは利くけど、土台は主砲と同軸だから、大きな方向転換はすぴねこの仕事になるわ』

すぴねこ 『マジっすか……』


 戦車に乗る前までは、車長よりも砲手の方が楽だと思っていたけど、どうやら逆だったらしい。

 ミリタリーオタクのボスが男を砲手にした理由が何となく分かった。


すぴねこ 『モニター越しだからお前の指示に任せるよ。それと、こっちは連射できないから、雑魚は頼んだ』

ミケ   『了解』


 俺達が点検していると、どうやらミッション開始の時間になったらしい。エンジンが掛かって戦車が揺れ始めた。


チビちゃん『今日はボスに替わって、私が戦車隊長をするのです』


 インカムから流れて来たチビちゃんの宣言に首を傾げる。

 よく分からないけど、ボスが砲手だから、代役としてチビちゃんがチームリーダーになるらしい。

 どうせ戦車に乗って進むだけだから、誰がリーダーでもいいよと了承する。


ドラ   『ボス! とうとうゲームでも現実と同じように女房の尻に敷かれるのか?』

ボス   『むしろご褒美だ!!』

すぴねこ 『汚ねえ座布団だぜ!』


 俺達のやり取りを聞いて、全員が笑いだした。


チビちゃん『それじゃ皆、がんばろーー。という事で、パンツァーフォー!!』


 楽しいムードの中、彼女の号令と同時に戦車が動いて移動を開始。


「地獄のツーリングと行こうぜ、ベイビー!」


 操縦手のジョークに眉をしかめる。

 俺達を乗せた戦車は西への進軍を開始した。


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