第5話 ミッション2-1 その3
ミケ 『東のスナイパーは私がやるわ。ねえさんは北をお願い』
ねえさん 『了解』
ミケが望遠スコープを覗きながら、アサルトライフルを構える。
敵との距離は約200m。敵が移動中と考えれば、余程の腕がなければ命中しないだろう。
ミケが息を吸ってから呼吸を止める。
そして、動体視力と腕力のインプラントを起動させると、連続でトリガーを引いた。
5発の発射音の後、車体に乗った3体のスナイパーが倒れた。その様子を見ながら、彼女は少しだけ不満な表情で息を吐いた。
ミケ 『2体外したわ。こっちのスナイパーは残り2体よ』
ねえさん 『北のスナイパーを仕留めたら、残りは私が処理するわ。ミケは他の敵をお願いね』
ミケ 『了解』
敵は俺達から50m離れた場所にジープを停めると、車体の裏に隠れて銃を撃ち始めた。
すぴねこ 『敵をあぶり出すから、よろしくな』
ミケとドラに指示を出しながら、地面に並べた弾薬から催涙弾を拾い、ショットガンに装填する。
ドラ 『ライトタンクはどうする?』
すぴねこ 『スラッグで装甲をぶち開けるから、そこを狙え』
ドラ 『力技だな』
ミケ 『背後に回れないから、仕方がないわよ』
1番左のジープに狙いを定めて、トリガーを引く。
俺の放った催涙弾がジープの車体に入ると、催涙ガスをまき散らした。
その煙を吸った敵が、咳き込みながら逃げるようにジープの裏から現れた。
出て来た敵に向かってミケとドラが銃を撃って仕留める。
その間に、ショットガンにスラッグ弾を装填して、出て来たライトタンクに向かってトリガーを引いた。
スラッグ弾がライトタンクの胴体に命中。敵は装甲を破壊され、衝撃で後ろへ吹っ飛ぶ。
そして、起き上がるところをミケが開いた装甲に弾丸を撃ち込み、ライトタンクは再び地面に倒れて死亡した。
ライトタンクが死んだ事を確認してから、再び催涙弾を装填。2台目のジープに向けてトリガーを引き、催涙ガスを浴びせた。
ボス 『チビちゃん。これ以上車両を破壊したら対処できん。普通に倒してくれ』
チビちゃん『あ、やりすぎちゃった。了解』
北側は、ねえさんがスナイパーの狙撃。チビちゃんが停車した敵のジープをグレネードで破壊していたが、チビちゃんがジープを一気に破壊して、隠れる場所の無くなった敵が突入しているらしい。
それでボスが、捌ききれず慌ててチビちゃんに抑えるよう指示を出していた。
ねえさん 『フォローするわ』
ボス 『頼む』
北の様子を見かねて、ねえさんがチビちゃんに向かう敵を集中的に倒す。
チビちゃん『ありがとう!』
ねえさん 『どういたしまして』
それから、俺達は順調に敵を倒し続け、第3ウェーブも無事に終了した。
最後のライトタンクを始末するのと同時に、北と西の空から敵の輸送機が現れた。
あれが敵の最後の攻撃で、構成はライトタンクが15体とガーディアンが1体。
正直言って、この集団を正面からまともに戦うのはしんどい。
しかも、1個部隊だけじゃなく、西と北から2個部隊来るんだから嫌になる。
そして、本来なら東と南のNPCが守る防衛拠点がこのタイミングで突破されて4方向から襲われるんだから、本当にたまったものじゃない。
まあ、今回は東と南はNPCとドラで防衛したから敵は来ず、その分だけ楽だった。
しばらくすると、輸送機は300m先で地上に着陸して、後部ハッチを開けた。
そして、ハッチから装甲の厚い敵がわんさかと足並みそろえて現れる。
さて、ここからが本番だ。隣のドラに話し掛けようと振り向けば、そのドラが突然立ち上がった。
ドラ 『天より舞い降りろ! 奥義、サンダーボルト!!』
何をするつもりだと思って見ていたら、中2でも言わねえ小2レベルの戯言を大声で叫びだした。思わずポカンと口を開いてアホを見上げる。
今のセリフで何をやったのか分かったけど、コイツは恥ずかしくないのか?
俺が頭を左右に振ってドラの存在を否定していると、東の空から空気を切り裂く爆音が聞こえてきた。
空気を切り裂き現れたのは、ドラが無線スキルで呼び出した近接航空支援専用機A-10、サンダーボルトII。
主要武器は30mm徹甲弾のガトリング砲、GAU-8アヴェンジャー。
他にも集束爆弾を装備して、地上目標の攻撃に特化した戦闘機だった。
過去の戦争では、参加機のうち半数にあたる約70機が被弾しながらも、被撃墜はたったの6機。
384箇所の破孔を生じながら生還、数日後には修理を完了して任務に復帰。
戦闘中に右エンジンカウルを吹き飛ばされたけど、普通に生還。パイロット、整備士の全員が何で墜落しなかったのか首を傾げる。
戦争で死んだ約120人のパイロットの内、A-10のパイロットはわずか1名。しかもその死因は食中毒。
漫画エ○ア88では、あまりのタフさから撃墜の描写が描けず、ガス欠で地上に降ろした後、幼女を使ってパイロットを直接射殺した。
等々の伝説を作ったA-10が1976年に配備されてから、約100年。
それまでの間に何度も退役の危機を迎えるが、その都度、コストの安さと後継機の不在で、不死鳥の如く蘇り現役を続けていた。
『支援要求を確認した。これから爆撃を開始する』
インカムからA-10のNPCパイロットの通信が流れる。
声はおっさんでも、強敵を目の前にした今の俺達からすれば、守護天使の声に聞こえた。
『ステンバーイ……ステンバーイ……ファイア』
俺達が見守る中、A-10が空気を切り裂く爆音を伴い少しづつ接近する。
そして、西のバグスの集団に向かってクラスター爆弾を投下した。
ドラ 『近すぎる、隠れろ!!』
ミケ 『キャーー!!』
ドラの大声がして咄嗟にしゃがみ土壕の裏に隠れると、土壕の上を激しい炎と爆風が襲った。
爆風が収まり頭を出して確認すれば、クラスター爆弾の爆発で、敵が乗ってきた輸送機は爆破して、西に居たバグスも半壊していた。
すぴねこ 『ビューティフォー』
思わずA-10に称賛を送る。だけど、A-10の攻撃はまだ続くらしい。
爆弾を投下したA-10がUターンして、今度はアヴェンジャーガトリング砲を発射。
半壊状態のバグス達は30㎜機関銃の前になすすべもなく、1体残らず全滅していた。
『目標の破壊を確認。帰艦する』
ドラ 『さすがA-10様だぜ。ルーデル神に敬礼』
設計思想の元になった第二次世界大戦中のドイツのパイロットに敬意を表し、ドラが遠くへ消え去るA-10に向かって敬礼をしていた。
ミケ 『ドラ! 前はアパッチヘリの支援だったのに、何でいきなり強力になってるのよ!!』
アッという間の出来事に呆然としていたミケが正気に戻ると、ドラに向かって大声を上げた。
ドラ 『直前にスキルを上げたでござる』
ミケ 『それならそうと言ってよ……驚いたじゃない』
ドラ 『驚いてるのお前だけだぞ』
ミケ 『……え?』
すぴねこ 『まあ、来る前にサンダーボルトって叫んでたしな』
ボス 『Ⅱと言ってないからP-47か迷った。だけど、あれは低空だと弱いからA-10の一択だな』
チビちゃん『うんうん』
ねえさん 『私もA-10だと思ったわ』
ドラ 『という事だ』
ミケ 『皆、マニアックすぎるでしょ……』
そう答えるミケの声色はどこか呆れている様子だった。
ボス 『それで、西は予定よりも早く片付いたんだな』
ドラ 『俺のおかげでな』
ミケ 『倒したのはA-10のパイロットよ』
その後、2人で「支援を呼んだのは俺だ」とか、「呼ぶ前に報告しろ」とか、「言ったじゃねえか」とか、「あれじゃ分からないわよ。必殺ってバカじゃない」とか、「必殺じゃなくて奥義だ」と言い争っていたから割愛。
ボス 『今は下らないお喋りはヤメロ。チビちゃん、グレネードの残弾数はいくつだ?』
チビちゃん『6』
ゲームのバランス調整で、1回のミッションで持ち込めるグレネードの弾丸は15発という制限があった。
ちなみに、ショットガンのスラッグ弾も15発という制限がある。
ボス 『よし! ドラ、お前はこっちに来て俺の替わりにM60で足止めだ』
ドラ 『了解』
ボス 『チビちゃんは、グレネードでガーディアンのジェネレーターの破壊を優先』
チビちゃん『りょうかーい』
ボス 『すぴねことミケは、そこから遠回りで移動して敵の背後へ向かえ』
すぴねこ 『あいよ』
ミケ 『了解』
ボス 『ねえさんは装甲が剥がれた敵から、狙撃してくれ』
ねえさん 『了解したわ』
ボスの命令から、彼が何をしたいのかを考える。
まず、ボスとドラは機関銃で足止めをする。次に、強敵のガーディアンの装甲は、グレネードでチビちゃんが破壊してから、ねえさんが狙撃。
問題は15体のライトタンクだけど、俺とミケを背後に回して、背中のジェネレーターを壊させるつもりなのだろう。
すぴねこ 『ミケ、行くぞ』
ミケ 『チョット待って』
すぴねこ 『1秒で仕度しな。いーち、はい出発』
慌てるミケを煽って、土嚢を飛び超え敵の後方へ移動を開始した。
ボスとドラの威嚇射撃が開始され敵の注意が正面を向いている間に、俺とミケは敵に見つからない様に西回りで北へ向かっていた。
「敵に見つからないかしら」
隠れる場所が何一つない滑走路を走っている最中、ミケがインカムを切って不安を口にする。
「だからボスとドラが威嚇射撃をしてるんだろ」
「どういう事?」
「足止めをしてるけど、本当の目的は敵の注意をボスの方向へ向けているんだ。人間でも動物でも昆虫だろうが、一か所に注目すると、他の箇所への注意が粗こつになるからな。お前も海外へ行ったらナンパにだけは気を付けろよ」
「ナンパ? 何で?」
俺の忠告を聞いてミケが首を傾げる。
「ナンパされてチヤホヤされている間に、後ろから別の仲間が近づいて物をスられるぞ。言葉が通じない国で財布とかパスポートを盗まれたら、本当に面倒だ」
「それって、すぴねこの経験談?」
「うんにゃ。中学の担任から聞いた」
「…………」
俺の返答に、ミケがクソ塗れの徘徊老人を見る様な目で俺を睨んだ。
「俺の失敗談を聞いて嘲笑いたかったか? 残念だったな」
「相変わらず、話の最後にオチが付いて、捻くれた性格だと思っているだけよ」
「そりゃどうも」
そんなくだらない事を言っている間に滑走路を横断して、俺とミケは敵の乗っていた輸送機まで移動した。




