第4話 ミッション2-1 その2
ミッション開始から30分が経過。
時間ギリギリまで時間を掛けて東のNPC拠点に機関銃を設置した後、俺達は配置に付いていた。
北から来る敵はボスが、西から来る敵は、俺とミケとチビちゃんが担当。
ねえさんは、北の敵を倒しつつ、西からの敵も遠距離射撃でフォロー。
そして、ドラは東のNPC拠点で敵を倒した後、こちらの支援に加わる予定だった。
準備が整い後は敵が来るのを待っていると、飛行場から夏の甲子園の様なサイレンが鳴り出した。
ドラ 『プレイボーイ』
放置。
暫くすると、遠くからドロント兵を載せたジープが5台見えてきた。
1台につき、ドロント兵が5体乗っているから、敵の数は25体。
ボス 『ドラのせいで敵が来たぞ』
ドラ 『俺のせいかよ!』
すぴねこ 『良かったじゃねえか。お前のクッソ寒いギャグに観客が来たんだぞ、素直に喜べよ。ついでに、お前のギャグを何とかしようとしたボスに礼を言え』
その直後、遠くの方で爆発音が聞こえた。
ドラ 『今、その観客が地雷で車ごと吹っ飛んだぞ』
すぴねこ 『はっ! お前よりバグスの方が10倍面白れえぜ』
ドラと会話をしていると背後から銃声が聞こえた。どうやら、ねえさんが狙撃を開始したらしい。
ポンッ!
東のドロント兵を載せたジープが俺達の場所から100mの辺りで停車、それと同時に、俺の隣に居たチビちゃんの銃からグレネード弾が放たれる。
グレネード弾が低い放物線を描くように飛んでジープに命中。乗った敵を巻き添えにして爆破した。
チビちゃん『汚い花火だじぇい』
振り向けばキメ顔をかますチビちゃんが、見ている俺に気付きウィンクをする。
久しぶりに見たグレポンチビちゃんは、イケメンだった。
ミケ 『やっぱり、この銃でもヘッドショット以外だと1発は無理ね』
ぼやきながらもミケのHK417A2-20から放たれる銃弾は、ジープから降りようとするドロント兵を次々と倒していた。
敵の防御力も上がっているが、今までの5.56x45mm NATO弾と比べて1発の威力が上がった7.62x51mm NATO弾は、敵の防御力を物ともせず、確実に息の根を止めている。
ねえさん 『ミケの銃、良いわね。私も買おうかしら』
狙撃場所からミケの様子を見ていたねえさんが、ミケに話し掛けてきた。
ミケ 『え? ねえさんの場合、スナイパーがあるから接近用のCQBですよね……やめた方がいいですよ』
ねえさん 『なんでかしら?』
ミケ 『私の20インチだとCQBじゃ銃身が長いし、一応、13インチ(330 mm)のカービンタイプがあるけど……』
ねえさん 『え? 7mm弾で13インチ? ……それ、当たるの?』
命中率が悪くて有名なAK-47だって、もう少し銃身は長い。
ミケ 『……さあ? 撃った事がないので何とも……ただ、初期モデルは12インチでCQBタイプでしたけど、生産中止になりましたね。まあ、銃身が伸びたから少しはマシになったかと……』
ねえさん 『……やっぱり、やめとくわ』
ミケ 『それが正解だと思います』
12インチから13インチに変更したって事は、反動が酷くて当たらなかったんだろうなぁ……。
現れたバグスの連中が車を止めたのが、俺達が居る場所から約60mの距離。
ショットガンの有効射程距離が30mぐらいで、それ以上だと命中率が落ちるから、仕方がなく待機していた。
本当だったら、サイレンと同時に固定機関銃でバグスの頭に弾丸を撃ち込んでいたのだが、残念ながらその機関銃は東でドラが使用中。
これはもしかして、ドラじゃなくて、俺が東に行けば良かったのか?
すぴねこ 『ドラ、代わろうか?』
ドラ 『はぁ? チョット待て、今忙しい』
どうやら、東の防衛ラインは敵が来て忙しいらしい。
すぴねこ 『それはスマン。だけど、暇なんだ』
ドラ 『お前が暇でも、こっちは忙しいんだよ!!』
すぴねこ 『そうみたいだな。だけど、俺は気にしてないぜ』
ドラ 『気にしろや!!』
すぴねこ 『まあ、代わるというのは冗談だから忘れてくれ』
ドラ 『……お前の冗談は面白いけど、他人の迷惑を何一つ考えねえな!!』
すぴねこ 『そう、褒めんなって』
ドラと会話していたら、チビちゃんが話し掛けて来た。
チビちゃん『すぴねこ君。そろそろ撃ち漏らしをよろしくね』
言われて正面を見れば、ミケとチビちゃんの攻撃から免れたドロント兵が、ショットガンの射程範囲に入って来るところだった。
すぴねこ 『やっと出番だな。それじゃプレイボーイ』
ドラ 『ここで弄るか……』
俺の冗談にドラが呟く。
ボス 『プレイボーイ』
チビちゃん『プレイボーイ』
ねえさん 『プレイボーイ』
ミケ 『プレイボーイ』
ドラ 『ああ、もう。俺が悪かったよ!!』
他のメンバーからの追い打ちにドラが音を上げるのを心の中で嘲笑いながら、近づくドロント兵に銃を構える。
すぴねこ 『エースの第1球……』
ドロント兵に向かってトリガーを引く。
俺の放ったショットガンは胴体に直撃し、ドロント兵が後ろへ吹っ飛んだ。
チビちゃん『デッドボール』
すぴねこ 『よっしゃ! どんどんぶち当てるぜ』
ミケ 『ピッチャーの言うセリフじゃないわね』
ドラ 『まだ弄るか……』
すぴねこ 『テメェのクソ寒いギャグを面白くしてやってんだ、感謝しろ』
ドラへ言い返してリロード、次の敵を狙う。
そして、俺達は迫って来るドロント兵を次々と倒していった。
ドロント兵を全滅させたタイミングで次のウェーブが始まり、新たな敵が現れた。
今度もジープ1台に5体のバグス、それが5台だから全部で25体。
敵の構成は、バーサーカーとウォーリアーを含んだ集団で、コイツ等の目的は防衛ラインを破壊だった。
そして、敵のジープは約80m手前付近に停車すると、次々と降りて来た。
ねえさん 『私はウォーリアーを始末するから、ボスは他をお願い』
ボス 『分かってる』
北側もこちらと同じ構成の敵の集団が現れ、ねえさんとボスが対処する。
もし、敵に少しでも戦略性があったら、ウォーリアーを前面に立たせて盾にし、その背後に遠距離攻撃可能なドロント兵を立たせ弾幕を張り、近づいたところでバーサーカーを突撃させる、といった作戦を取っただろう。
だけど残念ながら、コイツ等はプレイヤーを見つけ次第、襲い掛かるだけのAIしか積んでいない。
ウォーリアーは鎧を着ている分だけ移動速度が遅く、ねえさんに頭を狙撃され、柔らかい敵しか居なくなった集団をボスが機関銃で斉射。それで、敵は肉の塊と化していた。
ミケ 『チビちゃん、削るよ』
チビちゃん『オッケー』
俺が居る西側は、チビちゃんがグレネードで2台のジープを敵ごと吹き飛ばし、残りの敵はミケとチビちゃんが、ウォーリアーを置いてけぼりにしたバーサーカーとドロント兵に銃弾を浴びせていた。
2人が攻撃している間に、ショットガンの弾をドラゴンブレス弾に詰め替える。
ミケ 『すぴねこ!!』
バーサーカーを撃ち漏らしたミケが大きな声を出す。
すぴねこ 『腹減ったな、バーベキューしようぜ。お前、肉な』
バーサーカーに向かってドラゴンブレス弾を放つと、銃口から炎の塊がバーサーカーの体に降り注いだ。
迫力のある炎の放射線と光に、チビちゃんの目が驚きで丸くなる。花火職人としての対抗心が芽生えたか?
すぴねこ 『スマン、焦がした。ミケ、食うか?』
火だるまになって地面を転がるバーサーカーを見ながら、ミケに話し掛ける。
ミケ 『バカ。そんな事より、ウォーリアーを狙って!』
軽いジョークを「バカ」の一言で済まされ、ミケとチビちゃんの銃弾を浴びながら前に進むウォリアーに向かって狙いを定める。
そして、ウォーリアーのむき出しの頭に狙いを定めて、再びトリガーを引いた。
ドラゴンブレス弾が炎をまき散らし、ウォーリアーに降り注ぐ。
1500℃の高温の炎を顔面に浴びたウォリアーは、両手で顔を押さえて、苦しそうに藻掻いた。
その立ち止まったウォーリアーの顔面を、1発の弾丸が撃ち抜いた。
ねえさん 『キル頂き』
驚く俺の耳にねえさんの声が聞こえた。
どうやらねえさんは北側のウォーリアーを全滅して、こちらのフォローに入ったらしい。
すぴねこ 『せっかく自分で食べようと焼いたのに残念だ』
ねえさん 『あら、ごめんね。美味しかったわ』
軽く肩を竦めて、残りのウォーリアーに狙いを定める。
その後、俺達は敵を全滅させて、第2ウェーブも被害なしで無事に終了した。
ボス 『プレイボーイ、そっちはどうだ?』
ドラ 『とうとう、あだ名になっちまったよ!!』
すぴねこ 『お前に似合ってるぜ。つまり、ダサいって意味だ』
ドラ 『そりゃどうも。こっちは片付いたぜ。予定通りだと、後は地雷で勝手に吹っ飛ぶ。ちゅー事で、今そっちへ向かってる最中だ』
ボス 『分かった……チビちゃんは北に来てくれ。ドラは西だ』
チビちゃん『了解』
ドラ 『了解』
第3ウェーブ開始前に、東の支援に向かっていたドラが戻り中。
そして、チビちゃんは北へ移動、代わりにドラを西に配置。
西側は本来ある筈のM60機関銃がない分、戦力が落ちるがそこは踏ん張るしかない。
俺はボスの指示を聞きながら、ショットガンの弾を全部抜き、ポケットからブリーチング弾以外の弾を出して地面に並べ始めた。
ミケ 『相変わらず、変な戦い方ね』
俺の行動を見てミケがしかめっ面をする。
すぴねこ 『弾の種類が多いから、シングルアクションで弾を使い分けるんだよ』
これだけ弾の種類が豊富なゲームも珍しい。
前作のAAWの頃、モンタナ州のクソ田舎でTRPGをしながら、キャラクター設計のチャーリーに「何で現実だとショットガンの弾は豊富なのに、ゲームだとバックショットだけなんだ?」と質問したら、その場にいた全員が「確かにそうだな」と頷いた事があった。
あの時は、質問のフリをした要望で、我ながらあざといなと思いつつ、スラッグ弾が追加されれば良いかなぐらいの気持ちだったけど、俺はマニアというのを舐めていた。
その後のアップデートで、ショットガンの弾が5種類も増えたのは驚いた。
おかげさまで、種類が増えてショットガンの運用の幅が広がったのは良いけど、使い分けが大変になって頭を抱えた。
そこで、現実の戦場だと絶対にやらないだろう、ショットガンをシングルアクションで運用する方法を考えた。
地面に種類ごとに弾を並べて、状況に応じて弾を込める。こうする事で、1発1発弾を込める分だけ撃つのに時間が掛かるが、臨機応変に対応する事ができた。
ねえさん 『敵が来たわよ』
ドラ 『ギリ間合ったぜ』
遠方を監視していたねえさんからの報告に前方を見据える。ついでにドラが間に合って、俺の隣に配置した。
今度の敵は、ライトタンク10体をメインに、スナイパー、ドロント兵を載せた6台のジープが近づいていた。




