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『ワイルドキャット・カンパニー』 ~俺達、過疎ゲー、ゲーマーズ~  作者: 水野 藍雷
第2章 弾薬と白い子猫
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第3話 ミッション2-1 その1

 ミッションゲートを潜り抜けると、俺達はミッション1-4の戦場だった飛行場に立っていた。

 ただし、前回と違い、俺達がクリアした後で、地球から俺達を乗せて来た宇宙戦艦が滑走路の脇に着陸している。


 兵士を載せるなら、戦艦よりも輸送船の方が搭乗数が多いと思うけど、それをメールでケビンに質問したら「細かい事は気にするな、クソアンチ」と返信が来た。

 俺はアンチになったつもりはないけれど、楊枝で重箱の隅をほじくる様などうでもいい細かい事ばかり取り上げて、口五月蠅く突っ込む行為は、作成者から見ればアンチに見えるらしい。

 アンチはマウントを取って自己快楽に浸れるけど、それをこじらせて匿名で自殺に追い込むぐらいの酷い悪口を叫ぶ、人間のクズにならない様に気を付けよう。まあ、どうでもいい話か。







 真下から戦艦を見上げていると、俺達の横に居るNPCの軍曹が偉そうに話し掛けてきた。


「お前等、前回はよくやった。おかげで敵の飛行場を手にすることが出来た」


 多分褒めているんだと思う。だけど、その顔はどこか面倒臭そうなブスっとした酷いツラだった。

 もしかしたら、元々酷いツラなのかもしれないけど、それはどうでもいい話。


 そして、このクソ(軍曹)は、前々回のミッションの時、飛行場へ行く途中で負傷して死んだと思ったら、救助されて生き延びていた。

 あの時は死ねと思って放置したけど、今思えばメディック兵のチビちゃんが居たのだから、傷を治してから手足を縛って最前線に立たせ、敵スナイパーに狙撃させて確実に殺しておくべきだったと、この軍曹をジーッと見ながら後悔している。


 何となく心が荒んでいる気もするが、無能な癖に偉そうな態度を取る上司を持ったサラリーマンやOLだって、同じ感情は持っていると思う。

 何が言いたいのかと言うと、現代社会の日本の心は病んでいる。まあ、これはゲームにまったく関係のない、どうでもいい話。


「先ほど入った情報だ。バグスの連中が飛行場を奪還しに来ているらしい。これから俺達は侵攻してくる敵に対して、飛行場を防衛する」


 俺の心いざ知らず、NPCの軍曹が今回のミッションについて説明をしていた。

 だけど、何度も挑戦して既に1回クリアしてしている俺達は、彼の話を鼻ほじほじレベルの態度で聞いている。


 この軍曹の話を要約すると、戦艦を破壊して飛行場を取り戻そうと東西南北からバグスが来るから、俺達は北と西の敵を食い止めなければいけないらしい。

 では、残りの南と東からくるバグスはどうするのかと言えば、NPCの兵士が対処するから問題ないとの事だった。

 何度もやったから既に知ってるけど、南と東は後半になると、NPCの防衛ラインが突破されて敵が押し寄せてくる予定。

 まあ、やらなくてもどうせ突破されると思っていた。


「敵は今までの戦力と同じだ。ここまで戦ってきたお前達なら楽勝だろう。油断だけはせずに対処すれば防げるはずだ」


 このさらっと嘘を吐くのが、プレイヤーのヘイトを高めている事に気付け。

 俺達はビショップから敵が強くなるのを聞いていて、ある程度の心構えが出来ていた。

 だけど、他のプレイヤーは今までと同じように戦ったら、ボコボコにやられて荒れたらしい。

 まあ、他のプレイヤーがどう思おうと、俺にとってはどうでもいい話。


「あと30分でバグスが来る。このまま戦ったらこちらの被害も多い。そこで、俺からのプレゼントがある」


 軍曹が小さいコンテナの上にある箱を顎でしゃくる。


「あの箱に対人地雷が30個入っている、防衛に役立たせろ。話は以上だ、解散」


 そう言うと、軍曹は近くに停まっていたジープに乗って何処かへと消えていった。

 案内NPCだから仕方がないとは思うけど、テメェも少しは仕事をしろと思う。







 例の如くオート進行による金縛りが解けると同時に、ドラが箱から地雷を取り出して鞄に詰め始める。

 前回このミッションをクリアしたとき、戦艦から少し離れた場所に地雷を仕掛けていたが、それだと敵の数が多すぎて、戦艦に損害が出た。

 そこで、ドラの提案で、東と南にあるNPCの防衛地点の近くに地雷を仕掛け、ここへ来る敵の数を減らす予定だった。


「んじゃ、仕掛けてくるぜ。ミケ、行くぞ」

「はいはい」


 ノリノリのドラとは反対に、荷物持ちのミケはどこか面倒臭そうだった。

 まあ、地雷女が地雷を持って面倒臭そうなんて、どうでもいい話。


 ちなみに、このミッションを最初に受けた時、防衛ミッションという情報だけで自腹で大量の地雷を用意していたドラは、地雷が用意されていると聞いて「金を返せ」とブチ切れていた。

 まあ、VR人妻を現実の彼女と勘違いしている陰キャがキレようが、俺にはどうでもいい話。


「私も配置に着くわね」

「ああ、頼む」


 背中にスナイパーライフルを背負ったねえさんがボスに一言言ってから、飛行場の北側にある監視櫓へ行かず、管制塔の二階の屋根へ移動を開始した。

 実は、北側にある監視櫓の方が敵を狙撃する場所として適していた。

 だけど、前にミッションを受けた時、ねえさんが監視櫓からバグスを倒していたら敵のヘイトが彼女に溜まり、監視櫓を襲撃し始めて真っ先にねえさんが死亡した。

 つまり、監視櫓はキル数を稼ごうとするプレイヤーに仕掛けた罠。やり口が詐欺に近くて酷い。


 と言う事で、今回のねえさんは敵のキルよりも生存率を優先して、敵に襲われてもすぐに俺達の所へ戻れる管制塔の二階から復讐する。

 復讐に燃えたスナイパーとオカマは、現実でもゲームでも恐ろしい存在だと思う。

 まあ、彼女の復讐の対象が俺じゃないから、どうでもいい話。







「それじゃ俺達も準備をするか」

「りょうかーい」


 ボスに言われて、俺とチビちゃんはボスと一緒に、東と南にある固定機関銃を北と西へ移動させる。

 敵が来るのが北と西なのに、固定機関銃が設置されているのが東と南。MAP作成担当のダニエルが抱える心の闇が垣間見えた。


 ボスが1人で東にある固定機関銃を北へ移動させ、俺とチビちゃんが南の機関銃を西へ移動させる。

 機関銃はM60。チョット重いけど、2人だったら持ち運びできた。

 このM60機関銃を見ていると、「逃げる奴はベトコンだ。逃げない奴はよく訓練されたベトコンだ!」という映画のセリフを思い出す。

 今のセリフは有名だけど、俺はその後の「よく女子供が殺せるな」という質問に「簡単さ、動きがのろいからな」のセリフの方が気に入っている。まあ、どうでもいい話。


「すぴねこ君。何かテンション低いね」

「んーー?」


 機関銃を移動している最中、チビちゃんに言われて首を傾げる。

 自分では自覚していないが、どうやら今の俺はテンションが低いらしい。


 ……確かに、先ほどから思考のオチが「どうでもいい話」になっている。これはもしかして、テンションが低いという事を遠回しに表しているのか?

 何となくメタっぽい事を思い浮かんだけど、国語のテストで作者の気持ちを答えろという問題レベルに分かりにくい表現は止めた方がいいと思う。コイツは本当にどうでもいい話だな。


「一度、クリアしたからね」

「やっぱりーー! すぴねこ君って昔から初見だと燃えるけど、周回プレイは気だるそうにプレイするよね」


 チビちゃんに答えると、彼女は「予想通り」と言った表情で頷いていた。

 確かに彼女の言う通り、俺は同じミッションを何度もやるのは好きじゃない。

 このゲームのミッション1-1だって、儲けがなければ繰り返しプレイしていなかっただろう。

 自分でも飽きっぽい性格だなと思う。だけど、小説だって似たような異世界転生モノばかり読んでいれば、好きとか嫌い以前に飽きが来て読むのが苦痛になる。それと同じ感じ。


「飽きっぽい性格なんだよ」


 そうチビちゃんに答えると、彼女は少し考えてから首を横に振った。


「多分、飽きるとは違うんじゃないかな」

「と言いますと?」

「多分、すぴねこ君はチャレンジャーなんだと思うよ」


 チャレンジャーか……確かに使っている銃はショットガン。

 チャレンジャーもしくは変態縛りプレイをしていると言われたら、反論できない。


「チャレンジャーかどうかは分からないけど、他人と同じ事をするのが嫌いな性格はあるかな」

「捻くれてるからね」

「かーちゃんから聞いた話だと、俺は逆子で生まれて大変だったらしい」

「まさか、生まれた時から捻くれてるとは想像してなかった。ビックリ」


 チビちゃんが驚いて、いや、ドン引きした様子で、俺から離れる様に身を反らした。

 いや、待ってくれ。生まれてくる全ての逆子の性格が捻くれているとは限らない。そこは勘違いしてはダメだと思う。


「だけど、すぴねこ君のプレイは傍から見ると面白いから、私は好きだよ」


 それは笑いの神が降りた初見プレイのゲーム動画を観ているのと同じ感じか?


「あ、チョット待って」


 話の途中で、チビちゃんのインカムに通信が入ったらしく、彼女は手を前に出して会話を止めた。

 逆子の性格について話したかったが諦める。


「ドラ君がインカムですぴねこ君を呼んでるよ」

「おっと、まだ電源を入れてなかったな」


 どうやら、ドラが無線を通じて俺を呼んでいるらしい。

 新しく買い替えたインカムの電源をONにして、ドラに話し掛ける。

 ちなみに、新しいインカムは高性能になって、受信は全チャンネルを傍受して、送信はチャンネルを変えられる機能になった。


すぴねこ 『呼んだ?』

ドラ   『呼んだじゃねえよ。ミッションを開始したら、インカムはONにしろと何度言えば分かるんだ』

すぴねこ 『それは理解している。ただ、お前の声を聞きたくなかったからOFFにしてただけだ』

ドラ   『なるほど、確かにその考えは理解できる。俺もテメエの声を今聞いた途端、二日酔いの朝に聞こえてくる近所のババアのお経の声を思い出したぜ』

すぴねこ 『ソイツは清々しい朝だな、想像しただけでゲロが出そうだ。それで、何の用だ? オエーーッ』

ドラ   『ああ、要件だったな。ババアのお経が頭の中でリフレインして忘れるところだったぜ。西に持って行く機関銃、東のNPCの場所まで持ってってくれ。オエーーッ』

すぴねこ 『突然どうした。ぶっちゃけ怠い』


 急な作業変更は、苛つきと怠さを生む。


ドラ   『俺も同じ事を言われたら、間違いなく断るな。だけど、ミケが突然嫌な事を言い出したんだよなぁ……』


 ドラがそう言うと、ミケが会話に割り込んできた。


ミケ   『嫌な事って、失礼ね。私はただ気になった事を言っただけじゃない』

すぴねこ 『で? その嫌な女は何を言ったんだ』

ミケ   『嫌な女じゃないくて、嫌な事!! マジでムカつくわね』

ドラ   『ああ、おっかねえ。冗談の通じねえ女ってのは、嫌だな』

すぴねこ 『自分が絶対に正しいと思い込んでいる頑固な女ほど、冗談が通じねえからな。お前に従順なVR女がマシに見えるぜ』

ドラ   『だから現実の女だ!』

ミケ   『……嫌な男達』


 インカム越しにミケが不貞腐れたのが分かった。

 ついでに横に居るチビちゃんから小声で「よしなさい」とツッコまれる。


ドラ   『時間もねえし俺から話すぜ。ミケが言うには全員のNPCを生存させるシークレットがあるんじゃないか、だとさ』

すぴねこ 『……なあ、それを今言うか? ミッション開始前に言えや!』

ミケ   『仕方がないじゃない! 今思いついたんだから』

すぴねこ 『本当に嫌な話をしてきたな』

ミケ   『でも、このミッションをSランクでクリアしているプレイヤーって居ないわよね。世界でも有名なチームがクリアしてもSランクを取ってないのよ。情報が流れてないだけで、何かがあると思わない?』

すぴねこ 『ボスはどう思う? 残念だが、俺もミケの意見に一票入れるぜ』


 心境としては、碌な候補者が居ない選挙の投票に1票入れる気分だ。


ボス   『……そうだな。ドラはどう考える?』

ドラ   『南は倉庫があるから敵の侵入ルートが決まっていて分かってる。当初の予定場所に地雷を設置すれば、バグスは勝手に吹っ飛んで防衛ラインは突破されねえ。ただ、東は滑走路から来るから、場所が広くて地雷だけだと対処はムリポ。だから、地雷で仕留めそこなった敵を俺が機関銃でぶっ殺すって感じだな』

ボス   『分かった、作戦を変更しよう。すぴねことチビちゃんは機関銃を東のNPCまで運んでくれ。悪いが、ねえさんも手伝ってくれると助かる』


 面倒くせーー。


ねえさん 『了解』

ボス   『ドラは東の地雷を設置したら、そのまま東の防衛ラインに着いてくれ。居なくなったドラの替わりにチビちゃんをまわそう』


 当初の予定では、ドラは俺とミケを合わせた3人で西を防衛する予定だった。

 そして、北の防衛はボスとチビちゃんだったが、チビちゃんを西に回すつもりらしい。


チビちゃん『了解でーす』

ねえさん 『だけど、チビちゃんが抜けたら、北はボスだけになるわよ』

ボス   『まあ、機関銃と手持ちの軽機関銃で何とかなるだろう』

ドラ   『一応、東の敵がある程度片付いたら、そっちに戻るぜ』

ボス   『分かった』


 作戦の変更を聞き終えると、俺とチビちゃんは後から来たねえさんと一緒に、東の防衛ラインまで機関銃を運んで設置した。

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