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『ワイルドキャット・カンパニー』 ~俺達、過疎ゲー、ゲーマーズ~  作者: 水野 藍雷
第2章 弾薬と白い子猫
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第2話 弾薬と白い子猫 その2

 武器と弾薬を確認していたら、ボスからの招集のメールが入った。

 集合場所を見れば俺が今居る兵士サロンで、眉を顰めて辺りを見れば右斜め隣にボスの煤けた背中が見えた。


「まずメールを打つ前に、チームメイトの所在を確認しようぜ」


 ボスの背後から話し掛けて、空いている席に座る。


「おっ? 居たのか」


 そんなボスを見れば……俺と同じで、見た目だけだと何も変わっていない。

 元々ボスはサイボーグ化を目標としているが、現段階だとスキルも金も足りず、今は貯金している最中だった。

 だけど、柔らかいヘビーアサルト兵なんざクソ雑魚同然なので、悩んだ末に俺と同じく胴体に積載量増加のインプラントを入れて、ランク3のアーマーを装備していた。

 そして、装甲の強化に加えて、積載量にゆとりがある分だけ軽機関銃の弾薬数を増やしていた。

 強化に金は掛かるが、装甲を厚くして弾薬に余裕があるヘビーアサルト兵は、全クラスの中で最強の一角だと思っている。

 シナリオ1で目立った活躍をしなかったボスの本番はこれからだろう。と言うか、今まで全員に頼ってた分だけ働け。







「すぴねこ君、早いね」

「こんばんは」


 ボスと話していると、チビちゃんが来てボスの横にチョコンと座った。

 チビちゃんも見た目は変わらないが、俺と同じアーマーを装備している。

 そして、武器はM4カービンからM4A1カービンに変更していた。


 俺はM4に詳しくないから何がどう違うのか分からないけど、ミケから聞いたクソ長い蘊蓄を纏めると、セミオート/3点バーストからセミオート/フルオートになったらしい。

 つまり、無駄弾が多くなる? やっぱりよく分からない。


 そんなチビちゃんが持つM4A1のピカニティーレールには、M203グレネードランチャーが備わっていた。

 そして、チビちゃんはランク2の積載量増加インプラントチップを入れて、大量のグレネード弾と、ほんの僅かなメディカルキッドを装備していた。逆じゃね?


 だけど、これでグレポンチビちゃんの誕生である。

 メディック兵がそれで良いのかとたま~~に思うが、彼女のグレネードはチームの総合戦力を大幅に上げるから、多分これで良いのだろう。







「こんばんは」


 チビちゃんの後にミケが現れて……ん? いや、待て、コイツはミケじゃない!!


「お前、誰だ?」

「……いきなり、何を言ってるの?」

「背中の本体がM4じゃない!」


 そう、ミケが昨日まで装備していたM4が違う銃に変わっていた。

 M4カービンをこよなく愛する変態女が違う銃を持つなど、ありえない。

 見た目は似ているが、俺は騙されないぞ!


「バッカじゃない!! 何で銃が私なのよ。貴方が私をどう見ているのか、よーーく分かったわ」


 ミケが俺を汚物がこびり付いたパンツを見ている主婦の様な目でギッと睨むと、空いてる席に座った。


「これはHK417A2-20よ」


 ミケの長い自慢話を纏めると、HK417A2-20はH&K社が改良したM4カービンの発展型のさらに発展型らしい。やっぱりM4かぁ……。

 使用する弾薬は、7.62x51mm NATO弾。M4が5.56x45mm NATO弾だから、一発の威力は上がっている。

 その代わりに、重量が約1Kg増えて、装弾数は30発から20発に減っていた。

 HK417A2は、銃身のタイプがカービンモデルの13インチから、フルサイズライフルの20インチまでラインナップが備わっていて、ミケは中距離から遠距離の戦闘を考え20インチを選択したらしい。

 彼女の持つHK417A2-20のピカティニーレールには、狙撃のために大きなスナイパースコープが付いていた。


「重くないのか?」


 始めて見る銃に興味があり、ミケの背後に回って本体、いや、HK417A2-20の全長を眺める。

 HK417A2-20はフルサイズライフルモデルだけあって、1mを超えていた。


「重かったから積載量増加インプラントもランク2にしたわ。アーマーと合わせてギリギリよ」

「だけど何で変えたんだ?」

「今後5.56㎜だと火力が足りなくなるから、今の内に変えたのよ」


 そう言ってミケが肩を竦める。

 ミケはこの銃とアーマーの為に積載量増加インプラントを搭載して、さらに、胴体視力と腕力強化のインプラントチップをランク2に上げたらしい。

 アサルトスナイパーの道を確実に突き進むミケがインプラントを使用すれば、敵は止まった様に見えて1発の火力が高いこの銃で確実に仕留めるだろう。

 声には出さないが、恐ろしい女に成長したと思う。







「お待たせ」


 ミケの長い銃トークに飽きてきた頃になって、ねえさんがログインしてきた。

 周りのプレイヤーが美人の彼女を見て鼻の下を伸ばす。だけど残念、彼女の内股には女性には無いモノがある。


 そのねえさんのスナイパークラスはアーマーが装備できないため、彼女の防具はシナリオ1とそのままだった。

 だけど、スナイパーライフルをレミントンm700からSVLK-14Sスムラクに変えた事で、遠距離攻撃の威力は格段と向上していた。


 SVLK-14Sはロシア製のボルトアクションスナイパーライフル。全長1430㎜、重量10Kg、使用する弾丸は10.36×77㎜ 408 Chey Tac弾。

 化け物クラスのライフルだけど、ねえさんはそれに加えて頭に動体視力向上と視力向上のインプラントを入れて命中度を上げている。

 その結果、無風状態なら4Km先の的にも命中するらしい。

 さらに破壊力も凄まじく、ライトタンクなら装甲をぶち抜き一撃で倒して、俺の出番を見事に無くす。

 ねえさんは性別から攻撃力まで、滅茶苦茶な訳の分からないモンスターに変身していた。


 ただし、ボトルアクションだから連射は出来ない。もし連射出来たら、彼女1人に任せたいレベル。

 だから、今までキル数を増やして敵のAIのヘイトを集中させていたねえさんは、シナリオ2になってからはヘイト管理をミケに任せて、彼女は倒しにくい敵を重点に戦うスタイルに変更していた。







「わりぃ、フレと喋ってたら遅くなった遅くなった」

「とうとう彼女だけじゃなく、フレもVRにしたのか……末期だな」


 最後に現れたドラを見て、ため息交じりに頭を左右に振る。


「VRじゃねえよ!」

「だったら、現実と違って常識の壁と年齢の壁の他に言葉の壁があるのに、どうやってコミュニケーションを取るんだ?」

「その言い方だと、俺が非常識のおっさんみたいに聞こえるな。照れるぜ」


 そう言いながらドラが中指を突き立てる。


「ああ、心の底から尊敬するぜ」


 両手を前に突き出し、近寄るなとジェスチャーを返す。


 そんなドラも、装備を色々と変更していた。

 まず、積載量増加のインプラントを入れてアーマーを装備。これはこのゲームを知っているアサルト兵クラスなら誰でもやる……と思ってる。

 武器はミケに諭されたのか、MP5のサブマシンガンからM4A1 CQB-Rに変更していた。こいつもM4かぁ……。

 通常のM4A1の銃身は14.5インチ(370 mm)だけど、このCQB-Rは接近戦闘を想定したカービン銃なので、10.3インチ(260 mm)と短くなっている。


 そして、ドラは俺やミケみたいにインプラントで身体を強化せずに、スキルポイントで特殊スキルを取得していた。

 まず、地雷強化。このスキルは地雷を設置すると、効果範囲が30%、威力が20%上昇する。

 次に、航空支援。このスキルは屋外専用だけど、無線で航空支援を呼ぶことが出来た。


 ドラは俺やミケと同じアサルト兵だけど、爆破と通信兵にクラスを変えていた。







「それで、実際に友達なんて居るの?」


 俺達の会話を呆れたように聞いていたミケがドラに話し掛ける。


「その質問も随分と失礼な気がするな。まあ、いいや。外部の掲示板で日本人同士で集まろうって話で、日本人は246サーバに集まっているんだよ」

「なんで246サーバなの?」

「数字の語呂合わせらしい」


 ドラが答えるとミケが頭の中で数字を考え「なるほどね」と呟いた。


「それで日本人ってそんなに居るのか?」

「5000人以上は居るぞ」


 ドラが俺の質問に答えると、ミケが感慨深げにため息を吐いた。


「日本人が6人から5000人か……随分増えたわね」

「俺から言わせれば、たった1人から500万人に増えたんだ。この程度じゃ驚かねえよ」


 肩を竦めているとドラが話し掛けてきた。


「その最初の1人自慢のすぴねこにメッセージだ。ナオってヤツがヨロシクだとよ」

「ナオ? ……ああ、1週間前にマッチングで組んだ奴か」


 ナオは日本人の女性で、1週間前にビショップとミケで組んだ時に、パーティーマッチングで偶然組んだプレイヤーだった。

 どんな顔だっけ? ……うーん思い出せない。


「日本で一番リードしているワイルドキャットと組んで、凄く緊張したらしいぜ。しかも、お前さんナオの前でアクロバット見せたんだって? すごいって褒めてたぞ」

「……そう言えば、そんな事もやったな」


 ナオが前に出過ぎてライトタンクに狙われたから、囮になって守った時の事のだろう。


「後からオープニングムービーに登場していたプレイヤーだって気付いて、お前について質問されまくったぜ」

「くっ! ここでもアレの弊害が……」

「どうやらナオはお前に気があるらしいけど、彼女の居ないモテモテのすぴねこはどう思う?」

「そうだな……下手糞、もう少しうまく立ち回れ」


 その返答を聞いたドラが頭を抱えた。


「……お前、一生彼女出来ねえよ」

「AIとしか付き合ったことのねえ、お前にだけは言われたくねえ」







「そう言えば、話をガラっと変えるけど、『ワイルドキャット・カンパニー』のエンブレムのデザインが完成したぞ」


 いきなりドラが話を変えて来たけど、本当に突発的に変えてきやがった。

 ちなみに、ドラは絵が上手く、ボスがワイルドキャット・カンパニーのエンブレムデザインを彼に依頼していた。


「あ、完成したの? 見せて見せて!!」


 ドラの話にチビちゃんが身を乗り出して催促すると、ドラがスマホを弄ってグループSMSでエンブレムデザインを送ってきた。

 その送られた画像を見れば、弾薬にじゃれる白い子猫の絵が描かれていた。


「可愛いーー!! チョーカワイイ!!」

「本当に無駄なところにセンスがあるわね」


 キャーキャー叫ぶチビちゃんの横でねえさんが肩を竦める。


「まあ、本業だしな」

「え? ニートじゃないの?」

「ちゃうわ!」


 ミケが驚くと、ドラが思いっきり否定していた。

 ちなみに、俺はドラがイラストレーターと言う事を前に聞いた事がある。


「うーーん。絵柄が可愛すぎる気がするが、却下したら離婚されそうだな」

「あなたの事は愛してるわ。だけど、どうしても許せない事があるのは知ってね」

「よし、採用だ。ダメだという奴は前に出てこい、俺が相手になってやる」

「夫婦そろって死ね」


 思わずボスに向かって呟く。

 結局、ボスがデザインよりも夫婦の仲を選択して、『ワイルドキャット・カンパニー』のエンブレムが決まった。

 そのエンブレムはすぐにボスがチーム設定して、俺達の背中にあったSWATの文字が消えると子猫の絵が描かれた。







「さて、そろそろ行くとするか」


 ボスが声を掛けると、全員が頷いた。


「もう分かっていると思うが、ミッション2-1は防衛ミッションだ。既に敵の攻撃順は把握しているが、油断だけはするな」


 ボスの忠告に全員が余裕の表情を見せる。


「それじゃ行くぞ」


 全員が席を立ちあがり受付カウンターに向かうと、同じタイミングでミッションゲートから、ミカエル率いる鋼鉄のパンツァーが現れた。


「……また金稼ぎか?」


 俺達に気付いたミカエルが話し掛けてきた。


「ふふふ。どうかしらね?」


 ねえさんが妖艶に笑って答えると、ミカエルが軽く目を開いた。

 ちなみに、俺はコイツと喋りたくないから、話す事はない。


「とうとう動くか……」


 ミッションゲートを潜る俺達の後ろで、ミカエルが呟く。

 その声にチラッと後ろを振り向くと、鋼鉄のパンツァーの全員が俺達を睨んでいた。


 今までと比べて敵は強くなるが、俺達も装備を強化して迎え撃つ準備は整った。

 今回はシナリオ2のミッション1。制限時間90分。目標時間は60分。

 ミッション名は『防衛』。名の通り、飛行場の防衛ミッションだった。

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