第31話 夢を叶えた少年 その1
ミッションから戻って兵士サロンに戻れば、何時はプレイヤーで溢れているのに、少人数のプレイヤーしか居なかった。
「回線不良で強制ログアウトでもしたか?」
「アメリカのコアタイムならあり得るけど、向こうはまだ朝か昼前だからそれはない」
「そう言えば時差でそうだったな。だけど、日曜日だから人は居るんじゃねえの?」
「だったら、日頃の行いが悪すぎて、日曜ミサで懺悔中なんだろ」
ドラと話していると、戸惑う俺達に気付いた男性プレイヤーが歩いて来た。
「デザートキャットじゃないか。と言う事は、お前達はワイルドキャットか!?」
俺達と言うよりねえさんを見て驚いている男性を見れば、背が高くブラウン色の天然パーマで、顎髭に隠れてるけど見事に割れたケツ顎。
AAWの頃はヘルメットを被っていてツラは拝まなかったが、声質とアメリカ南部なまりから、暴走パトリオットのリーダーのロッドだと分かった。
コイツはアメリカが好き過ぎて、自己愛性パーソナリティ障害を患い、ねえさんを女だと思って口説いたら男だと知って失恋したアホだ。
「あらロッドじゃない。久しぶりね」
「デザートキャットも相変わらず美人だな。男にしてはもったいないぜ」
ねえさんにデレデレするロッドを見上げて、鼻で笑う。
「随分とご機嫌だな。ママと一緒に日曜のミサに行って、人種差別を懺悔してきたか」
「んあ? その最低な口を開くのはスピードキャットか? ……何だお前、随分と可愛いツラになってるじゃねえか。これが日本で有名なオトコノコってヤツか、クソキメエ」
俺が話し掛けると、ロッドが嫌な物を見る様な目で答えた。
俺とねえさんで態度が全く違う。コイツ、ねえさんがカマだと知っても、まだ惚れているのか?
「そう言うテメエは、何時からケツを顔に付けたんだ。顎からクソが漏れてるぞ」
「何だと、イエローモンキー!!」
「話すなクソが飛び散る。今すぐその汚れた顔を洗って、汚ねえ顔にして来い」
「このジャップ、もう一度ミッドウェーの海に沈めるぞ!!」
「上等だホンキー。今からテメエが住んでる犬小屋に飛行機を落としてやるよ。その日に焼けた赤い首を洗って待ってろ」
「テメェ、俺にぶっ殺されて、猿のはく製になりたいらしいな」
「2人とも、そこまでにしなさい。これ以上はGMコールの対象に入るわ」
俺とロッドが言い争うのを見かねて、ねえさんが止めに入った。
ちなみに、うちのチームでスラング交じりの英語を話せるのが俺とねえさんだけなので、会話に入る事ができない皆は、とうの昔に空いているテーブルに移動していた。
……多分、ロッドと関わりたくないから、逃げたが正解だと思う。
「ところでロッド。人が居ないのは何でなの?」
「そりゃ、ここがシナリオ2専用のサロンだからだよ」
ロッドの話によると、ここはシナリオ1をクリアしたプレイヤー専用の兵士サロンで、ミッション1-4をクリアしたら強制的に入るらしい。
と言う事は、ここに居るプレイヤーの殆どはプロゲーマーなのか?
そのプロゲーマーの連中は、俺達の会話を盗み聞きしながら、ひそひそと話をしていた。
「それにしてもお前等、よくミッション1-4をSランクでクリアしたな。今、このサロンで話題になってたぜ」
「ふふふ。うちには優秀なポイントマンが居るからね」
「チッ、やっぱりテメエか。アメリカ人だったら、うちのチームに入れてやったのにな」
ねえさんの返答を聞いて、ロッドが俺を見下ろし舌打ちをする。
コイツとはワイルドキャットを作る前に何度か組んだ事があり、その時も俺のプレイだけは認めていて、今と同じ事を言っていた。
「冗談。お前と組んだら、俺が国連から差別主義者と勘違いされるじゃねえか。誰が組むか、アホ」
ロッドに向かってシッシッと手を払いのける。
「ふん、相変わらずの減らず口だなクソチビ。だけどこれだけは先に言っとくぜ、賞金を手に入れるのは俺達パトリオットだ。ジャ○プがアメリカ様に逆らうなんて100年早いんだよ。分かったな」
ロッドは俺を睨みながら指をさして、言いたい事だけを言うと、この場を去って行った。
「何なんだアイツ、言いたい事だけ言いやがって。こっちはミッション上がりで疲れてるのに……」
「すぴねこもすぴねこよ。無視して「ハイハイ」言ってればいいのに、反抗するから相手もムキになるのよ」
「黙ってアイツのケツにキスしろと? 残念だけど顎にフェチなんぞ感じないんでね。死んでもお断りだ」
両肩を竦めるねえさんに反論すると、彼女は諦めたようにため息を吐いていた。
俺とねえさんは皆が待っているテーブル席に着くと、ロッドから聞いた話を皆に伝えた。
「そうなると、次ログインしたらこのサーバーに来るの? 周りが全員ライバルだとやり辛いね」
「サーバー間の移動は出来るんだから、ログインしたらすぐに別のサーバーに行こうか」
困った様子のチビちゃんとドラの会話を聞いて首を傾げる。
「2人とも英語で話し掛けられてもまともに会話できないんだから、問題ないだろ」
「「それが嫌なんだって!」」
「おっと!」
2人同時に言い返されて、チョット驚く。
「それでボス、これからどうする?」
「すぴねこ次第だな」
どうやらボスは、先ほどのガーディアンとの戦いで俺の疲労を気にしているらしい。
ドラからの質問に答えると、視線を俺に向けてきた。
確かにガーディアンとの戦いは疲れたけど、少し休憩すれば回復するレベルだから問題ない。
「もう一度ガーディアンと戦えって言われたら「お前がやれ」って言うけど、少し休めばミッション1-1なら行けるぜ」
「本当、お前の体力ってどうなってんだ?」
「私だったら疲れて倒れているわ……」
俺の返答を聞いてドラとミケが呆れているが、普段から鍛えている俺とお前達を一緒にするな。
と言う事で、2時間ほどの休憩後にミッション1-1で金を稼ぐ事が決まって、一旦ログアウトした。
汗をシャワーで流してから、再びログイン。
ログインした兵士サロンはロッドの言っていた通り、シナリオ1をクリアしたプレイヤー専門の兵士サロンだった。
俺に絡んできたロッドの姿は見えず、どうやらログアウトしているか、何処かへ出かけているらしい。
スマホで他の皆を確認すれば、ドラがログインしていた。
だけど、アイツはここに居るのが嫌なのか、違う兵士サロンへ移動したらしく姿が見えない。
それにしても、ドラはいつも俺より先にログインしているな。
本人は違うと言っているけど彼女がVRだし、どうやらゲームを現実逃避の場所と勘違いしているのだろう……ふむ、ああは成りたくないな。
それと、スマホを見た時に着信メールが3件入っていた。
どうやら、ロッドに絡まれて気付かなかったが、ミッションから戻った後に入っていたらしい。
1件目のメールはゲームのシステムメッセージ。
内容はシナリオ1をクリアした事で、ショップのランクが上がり商品が増えた事と、ただのPvPエリアの案内だった。
ショップに関しては事前に情報を得ていたし、先ほどのミッションであのクソ野郎も言っていたから把握している。
そして、PvPエリアの案内だけど「たまにはPvPで遊びましょ」と、本当にただの案内だった。
多分だけど、これはビショップが考えた内容だと思う。
だって、AAWの頃もPvPはあったけど、如何せんプレイヤーが居なくてマッチングが成立せず、オワコン化していて、アイツ、誰も遊んでくれないって、ショボンとしていた時期があったし……。
2件目のメールもゲームのシステムメッセージだった。
このメールは、シナリオ1を全Sランククリアしたプレイヤーだけに送られるらしい。
内容は、バグネックス語を一部理解したという内容だった。
アイツ等と異種族交友しろとでも? チョット無理があるんじゃないかな。だって、遊びに来いよと誘われて行ったら、体を改造されて洗脳されるんだぜ。
斬新的な社会主義だと思うけど、俺は腐っていようが民主主義を選択する。
3件目のメールは、ケビンからの個人的なメールだった。
内容はチョット連絡を寄越せと書いてあるだけ。
なんだ、この「体育館裏まで来い」みたいな文章は、俺をリンチにでもするつもりか?
一応社長でプロデューサだし、無視するのはダメだろう。だけど、知人がゲームのプロデューサというのも遊びにくいな。まあ、今更だけど……。
添付してあったゲーム内の連絡先に電話を掛けると、3コール目でケビンと繋がった。




