第28話 ミッション1-4 その4
管制塔の1階と2階は広い構造だけど、3階から最上階まではタワーの様に伸びていた。
俺達は管制塔の入口前まで行くと、突入のスタンバイする。
すぴねこ 『フラッシュを使うぜ』
ボス 『分かった』
すぴねこ 『よし、ドラ開けろ』
ドラ 『あいよ』
俺の合図でドラがドアを開ける。
ピンを抜いたフラッシュバンを投げ、ドラがすぐにドアを閉めた。
中で破裂する音がするのと同時に、俺を先頭に全員が突入。
管制塔の最初の部屋にはロビーの様な広い構造で、ドロント兵が待ち構えて居たが、全員がフラッシュバンの光で目を潰されていた。
すぴねこ 『コンタクト!』
ショットガンを放って敵の1体を撃ち抜くと、近くにあったテーブルを蹴倒して身を隠す。
その間に、俺の後から突入したミケとドラがそれぞれ1体を倒した。
敵の視力が回復する前に、ボスが2体、俺が追加で1体倒す。
すぴねこ 『油断するな、追加だ』
最初の敵を倒すと同時に、ロビーの奥の廊下から新たな敵が8体現れた。
その内の2体を見て顔を顰める。
銃を撃つことなく真っすぐこちらに向かう2体の新たな敵は、ウォーリアー。
分厚い装甲で身を包んでいるため防御力が高く、遠距離の攻撃はないが接近してきて殴り掛かってくる。
弱点は唯一装甲のない顔で、接近する前にヘッドショットを決めれば楽だが、接近されると非常に厄介な敵だった。
バーサーカーも接近専門だが、あちらは攻撃力が高い替わりに装甲が柔らかく、逆にウォーリアーは、攻撃力よりも防御力に重点を置いた敵だ。
そのウォーリアー以外にもバーサーカーが2体、ドロント兵が4体。接近される前に倒さないと一瞬で全滅しそうだった。
すぴねこ 『ドロント4、バーサーカー2、ウォーリアー2!』
ドラ 『ここでウォーリアーか、敵さん本気だぜ』
ボス 『ウォーリアーは俺がやる』
敵が来る僅かな間に、全員が柱などの物陰に隠れて体制を整える。
俺も盾にしたステンレスっぽいテーブルを叩いて丈夫さを確認し、敵の攻撃に耐えられそうだと判断すると、グレネードを取り出して敵に向かって放り投げた。
敵がグレネードにたじろいでいる間に、ミケとねえさんがバーサーカー1体をヘッドショットで倒す。
それと同時に、俺の投げたグレネードが爆破して、ドロント兵2体とウォーリアー1体がふっ飛んだ。
ミニミ軽機関銃を構えたボスがトリガーを引き、5.56x45mm NATO弾が連射される。
ボスの放った弾丸はバーサーカー1体をハチの巣にした後、ウォーリアーの体に当たって動きを封じ、最後には顔面に命中してウォーリアーは叫び声を上げて死亡した。
ボスがウォーリアーと戦っている間、ドラとチビちゃんがドロント兵の2体を倒す。
最後はグレネードの攻撃を受けて吹っ飛んでいたウォーリアーを、ボスが威嚇射撃で怯ませている間に、ねえさんとミケが頭を撃ち抜いて始末した。
ミケ 『オールクリア』
ミケの声を聞きながら、ショットガンをリロードする。
すぴねこ 『やっぱりウォーリアーの処理は、ヘビーアサルト兵が一番だな』
ボス 『今まで出番が少なかったから、やっと出番が来た感じだ』
ボスが満足した様子で笑みを浮かべる。
チビちゃん『AAW2が始まってからログアウトする度に、今日も活躍が少なかったって落ち込んでたもんね』
ボス 『それは言うんじゃない!!』
嫁のチビちゃんからのツッコミにボスが慌てる。そんなボスを見て、全員がニヤニヤと笑っていた。
ボス 『先に進むぞ!』
会話を終わらせたいボスの命令に全員が肩を竦めた後、俺達は奥の廊下へ移動を開始した。
ロビーに追加で現れた敵が居た廊下の左右の部屋は、敵の控室だったのか何もなかった。
部屋を無視して廊下を進み右折前で止まると、壁から顔を出して先を確認。
右折した先には階段が見えて、その手前には狭い通路にライトタンクが2体待ち構えて居た。
すぴねこ 『ライトタンク2、突っ込むぜ』
ミケ 『気を付けてよ』
すぴねこ 『そっちこそ間違って俺を撃つなよ』
グレネードを取り出すと、身を乗り出してライトタンクの奥へ向かって投擲する。
ライトタンクは俺を攻撃しようとしたが、背後のグレネードへの回避を優先して反対側を向いた。
その隙にインプラントを起動、スローな状況下で俺だけが高速で接近する。
グレネードが爆発。堅い装甲のライトタンクは倒されず、だけど爆風で後ろへ数歩下がった。
その間に、左のライトタンクのジェネレータをショットガンで破壊した。
ジェネレータを破壊されたライトタンクは、装甲が剥がれて叫び声を上げる。
もう1体のライトタンクが振り向くのと同時に、相手の横を飛び込み、後方の床の上で回転しながらショットガンを素早くリロード。
慌てたライトタンクが振り向くよりも早く、仰向けで転がったままジェネレーターに向けてショットガンを放った。
それで2体目の装甲も剥がれて、中のドロント兵が露わになる。
2体目の装甲を剥している間に、1体目のライトタンクが床で寝ている俺を倒そうと銃を構えた。
そのライトタンクの頭部が、背後から撃ち抜かれる。
後方を見れば、俺が戦っている間に控えていたミケとドラが銃を構えていて、2人はもう1体のライトタンクにとどめを刺すところだった。
ミケ 『クリア』
寝ながらショットガンに弾丸を装填していると、ドラが近寄って手を差し出した。
ドラ 『……何で格ゲーしてんの?』
その手を掴んで起き上がる。
すぴねこ 『よっと……敵を殴った記憶はねえな。一度、眼科に行った方がいいぜ。それよりもグレネード余ってね? 切れちまった』
ミケ 『はい。これ使って』
ミケが手持ちのグレネードを俺に渡す。そのグレネードを見て顔を顰めた。
すぴねこ 『ノーコンのお前が何で持ってるんだよ……』
俺が言う通り、ミケはグレネードを投げるのが下手糞で、毎回狙った場所の手前に落ちるから、前線に居る俺が被害を受けていた。
ミケ 『ノーコンで悪かったわね』
暗視ゴーグルを外したミケの目は、やはり腐った生物を見る様な目だった。
ドラ 『おやおや、そう言えば少しだけ過ぎたけど、バレンタインの季節ですなぁ』
ミケ 『馬鹿な事言わないで欲しいわね』
すぴねこ 『全くだ。こんな危険なチョコいらねえよ』
冷かすドラに呆れた後、俺達は階段を上って2階へと移動した。
2階は大きなドアが1つだけある、小さな場所だった。
ボス 『建物の構造から見て、ここがラストだな。恐らくボスが居るぞ』
ドラ 『管制塔とは思えない構造だけどな』
チビちゃん『バグスと人類の文化の違いって事でしょ』
ドラ 『所詮はゲームって奴か……』
今の会話を聞いて、何かが引っかかり首を傾げる。
すぴねこ 『なあ、何か忘れてないか?』
ミケ 『忘れてるって何を?』
すぴねこ 『思い出せないんだけど、何かとても重要なんだけど、凄く嫌な事を忘れてる気がするんだ』
ミケ 『何よ、気になるわね』
ドラ 『忘れてるって事は、大した事ないんじゃねえの?』
すぴねこ 『そう……なのかな?』
不安を感じていたが、俺達はドアを開けて部屋の中へと突入した。
突入した部屋はバスケットコートぐらい大きい部屋だった。
部屋の中には所々遮蔽物として使用できるコンテナが配置されていて、俺達はそのコンテナの裏に隠れて身を伏せた。
部屋の奥を見れば、俺達が入ってすぐに天井が開き、敵を乗せたリフトが降りて来た。
すぴねこ 『コンタクト! ドロント5、バーサーカー4、ウォーリアー2』
グレネードを使うか迷ったが、この敵はボス戦の前哨戦に該当する敵だと判断して、投げるのをやめた。
ボス 『攻撃開始!!』
ボスの合図で全員が銃を撃ち始める。
そう、俺達は敵が乗るリフトが完全に降りる前の、まだ相手が無防備な状態から攻撃を開始していた。
卑怯だけど致し方ない、これが戦争だ。
ボスがリフト上で集まった状態の敵に向かって、ミニミ軽機銃を放った。
このえぐい攻撃で、前の方に居たドロント兵が全て一掃された。
バーサーカーはミケが2体、俺とドラとチビちゃんで残りの2体を倒す。
俺達がバーサーカーを相手にしている間、ねえさんがリフトが降りる前にウォーリアーの1体をヘッドショットで倒していた。
そして、最後に残ったウォーリアーがボスに向かって特攻しようと一歩足を前に出した途端、全員からの集中砲火で撃沈して後ろに倒れた。
これで第一ウェーブが終了。
全員が銃をリロードすると同時に、敵の第二ウェーブが開始された。
リフトで開いた天井から、ドロント兵が次々と飛び降りて来た。
ボス 『ねえさん、敵を倒せ。後の皆はアシストだ!』
ボスの命令に全員が『了解』と答える。
そして、ねえさんが短銃で降りてくる敵を順に倒し、他の皆は致命傷ではない足などを狙って彼女のアシストに努めた。
何故ボスがこのような作戦を命令したのかと言うと……。
敵は最初に雑魚を投入してヘイトが高まったところに、固い敵を特攻させてこちらの陣地を混乱させようとしていた。
俺達は今までの経験からこの攻撃を知っていて、ボスはヘイトを最後尾のねえさんへ誘導しようとし考えた。
これで固い敵が特攻してきても最後尾に向かうため、俺達は慌てる事なく敵を倒すことに集中する事ができた。
12体のドロント兵を倒すと、今度は3体のウォーリアーが天井から降りて来た。
おそらく敵はこの3体を突入させて、プレイヤーを混乱させるつもりだったのだろう。
案の定、ウォーリアーはすでに自爆特攻状態で、降りると同時にねえさんに向かって突撃を開始した。
ボス 『うおぉぉぉぉ!!』
接近専用の敵だけで敵の銃撃が無いと分かったボスが立ち上がり、ミニミ軽機関銃を乱射。
ウォーリアーの1体が顔面に攻撃を喰らい死亡し、残りの2体も体に弾丸を浴びていた。
ドラ 『俺も行くぜぇ!』
ドラがボスの暴れっぷりに笑みを浮かべながら、サブマシンガンをフルオートでウォーリアーに乱射。
2人の攻撃で、ウォーリアーの2体が完全に足を止めた。
すぴねこ 『俺が殺る!』
その足を止めた敵の頭に向かって、連続でショットガンを放つ。
顔面にショットガンの弾丸を喰らったウォーリアーは、後方へ吹っ飛び突撃する前に死亡した。
そして、ウォーリアーが倒れると、天井から4体のライトタンクが降りてきてこちらに向かって歩き始めた。
すぴねこ 『フラッシュ!!』
叫んでから、フラッシュグレネードを敵の手前に投擲後、グレネードを敵の後方にぶん投げた。
俺の声に全員が伏せるのと同時に、コンテナの反対側でフラッシュグレネードが激しく光り、続けてグレネードが爆発した。
コンテナから銃を構えて確認。
ライトタンクは、フラッシュグレネードで視界を奪われたところに、背後のグレネードが爆発して背中のジェネレーターが破壊し、全員の装甲が剥がれて中のドロント兵がむき出しだった。
チビちゃん『うひゃー。すぴねこ君、凄い!』
グレポンチビちゃんが、俺のプレイに歓声を上げる。
すぴねこ 『チョースッキリ!!』
チビちゃんに冗談を返しながら、ショットガンを放つ。
装甲が剥がれたライトタンクも俺達の攻撃に撃沈した。




