第27話 ミッション1-4 その3
明かりの灯る倉庫の前へ移動する。
扉のノブを回して少しだけ引いてみれば鍵が掛かっておらず、隙間から中を覗くと敵の戦闘機が格納されていた。
すぴねこ 『中に入れる倉庫を見つけた』
ボス 『どこだ?』
すぴねこ 『誰も行かなそうな一番奥』
ドラ 『マップ担当は確かダニエルだっけ? すぴねこ。お前、少し友達は選んだ方が良いぞ』
すぴねこ 『別にダニエルは友達じゃねえ。ただゲームを通じて知り合っただけのおっさんだ』
ボス 『今そっちに向かってる。そこで待機してくれ』
すぴねこ 『了解』
ボスからの命令で待機していると、ミケが話しかけてきた。
「ねえ、私達だけで先に調べた方が時間的に効率が良くない?」
「俺がボスならこう言うな『勝手な真似はするな』って、素直に命令に従っとけ」
「……そう」
ミケが納得いってない様子だったから、暇つぶしを兼ねて説明する事にする。
「お前って、まだ一度もメインでポイントマンをやった事なかったっけ?」
「私がワイルドキャットに入った時は既にすぴねこが固定でポイントマンをしていたじゃない。一度もないわ」
「そうか。だったら教えてやるよ。ポイントマンは偵察がお仕事だけど、基本的に単独で行動はしないぞ」
「そうなの?」
「そうなの。背後のアシストがあって安全を確保してるから、ちょこっと様子を見に行く、それだけ。そうしないと、罠にハマったり敵に囲まれたら、死ぬだけだからな」
「効率よりも生存重視ってわけね」
「死んで最初からやり直しをしない方が、時間効率が良いと思っているだけだ」
「なるほどね」
効率重視のミケは、その答えを聞いて納得した様子だった。
「今のボスはその辺を分かってるから、俺も助かるよ」
「今はって昔は違ったの?」
「チームが出来立ての頃は、よく衝突してたな」
「へぇ……」
ワイルドキャットが出来立ての頃は、全員が試行錯誤でプレイしていたから、意見の違いで言い争っていた。
ボスは機関銃で敵を殺しまくって逆に狙われすぐ死ぬし、ねえさんはチームなのにソロプレイに走るし、俺は偉そうに文句ばかり言っていた。今となったら懐かしい思い出だ。
ドラ 『おまっとさん』
ドラとねえさんが来たから、ミケとの会話を終わらす。
すぴねこ 『俺を待たせるなんて、一億年早ええぞ』
ミケ 『別に待ってないわよ。すぴねこから、このチームが出来た頃の話を聞いていたし』
ねえさん 『あら、どんな話をしたのかしら?』
すぴねこ 『ねえさんがキル数しか頭になくて、勝手に持ち場を離れてスナイプしている内に殺されてる話だよ』
ねえさん 『懐かしいわね。ついでに言うと忘れたい思い出ね』
その頃の俺は、ねえさんがソロプレイで死ぬと「ねえ、死体になるのってどんな気持ち?」と、死体のねえさんを踏みながら煽っていた。
ボス 『待たせた』
チビちゃん『おまたせー』
それから、ボスとチビちゃんが来た。
室内だから音も漏れないだろうと、全員が暗視ゴーグルを外して武器をメインウェポンに切り替える。
そして、全員の準備が整うと、倉庫の中へ侵入した。
倉庫の中は人気がなく、敵の戦闘機が横2列に4機格納されているだけだった。
ショットガンを構えながら移動、戦闘機の車輪の影に隠れて先を窺う。
すぴねこ 『誰も居ねえな』
ドラ 『ホワイト企業だから定時退社してんじゃねえのか?』
すぴねこ 『拉致して自我を無くす改造をした従業員だらけのホワイト会社か。確かに社内からの不満は出ないだろうな。ドラ、良い就職先が見つかったな』
ドラ 『死んでもゴメンだぜ』
誰も居ない倉庫の奥へ進むと、隅の方に鉄格子が取り外された地下の配管通路を見つけた。
すぴねこ 『見つけたぞ』
チビちゃん『本当にあったんだ……』
ドラ 『ヤマを張って正解か』
すぴねこ 『実は、最初の物見櫓から見て東、えっと……南側も怪しかったんだけどな』
ミケ 『そこって……本当に何もない場所じゃない!?』
すぴねこ 『何もないのが逆に怪しかったんだ』
そう話すと全員が呆れていた。
ボス 『管制塔周辺のトラップに、巡回兵というヒントを出しといて、さすがにそれが全部フェイクはないだろう』
ねえさん 『でも、こっちだという決め手があったんでしょ』
すぴねこ 『まあね。巡回しているドロント兵が多かったからな。少なかったらフェイクだと思ってたかも』
ミケ 『まるで心理戦をしてるみたいね』
すぴねこ 『このゲームのデペロッパーは、元々テーブルトークのボードゲーム会社だぞ。ゲームは一見FPSのMOだけど、裏でテーブルトークの心理的な駆け引きが入ってるよ』
先行しているプロのチームは、まだその辺りを理解していない。だから、Sランククリアが出来ないんだと思う。
そして、AAWをやっていた暴走パトリオットの連中は、クリアすればどうでも良いと思っているのだろう。だって、あいつ等、馬鹿だもん。
ボス 『AAWの頃から、進行ルートはすぴねこの意見を尊重していて、間違いはなかったんだ。今回も大丈夫だ』
そう締めくったボスだけど、チームを組んだ頃は俺が何かを言っても「考えすぎだ」と馬鹿にしていたのを、俺は未だに覚えている。
会話を終えた俺達は、地下の配管通路に降りると、再び暗視ゴーグルを付けて奥へと進んだ。
東に延びていた配管通路は、途中で南に曲がっていた。
歩数と方角から計算して、間違いなく管制塔へ続く通路だろう。
チビちゃん『今回、敵の数が少ないね』
ボス 『侵入ミッションは、銃撃戦がないからな』
ドラ 『シークレットもないのがなぁ……敵も少なくてシークレットも出てこないって事は、これからありますって言ってる様なもんだよな』
ねえさん 『それに、シナリオの最後だからボスも出てきそうね』
すぴねこ 『光が見えた。楽しいお喋りはそこまでだ』
通路の先で薄明かりが天井から射すのを見て、後ろに合図を送り慎重に移動する。
薄明かりの傍まで進んで見上げれば、天井の替わりに鍵の掛かった鉄格子の出口があった。
ドラ 『コイツはすぴねこの出番だ』
ドラは鍵の形状から、ショットガンで破壊できると判断して後ろに下がる。
すぴねこ 『外に気配は……ないな』
壁に掛かった梯子を少しだけ登って、少しでも鉄格子に近づき確認する。
外を見ても薄暗く、鉄格子を開けないと周りの様子は分からなかった。
続いて耳を澄ませば物音一つなかった事から、外には誰も居ないと判断した。
もし、ドロント兵が居たとしても、殺すだけだから問題ない。
ドラ 『だけど、鍵が掛かっているって事は、本来ならどこかで鍵を手に入れる必要があったんだろうな』
チビちゃん『もしかしたら、すぴねこ君が言っていた、もう一つの場所に鍵があったのかもね』
すぴねこ 『かもな。今となっては知る由もないが』
状況を確認して梯子から降りると、ショットガンから弾を排出して、胸ポケットから開錠用のブリーチング弾を装填する。
すぴねこ 『ドラ、敵が居たらフラッシュを頼む』
ドラ 『オッケー、カモン!』
鉄格子の鍵に向けてショットガンを放つ。
激しい音と共に鍵が粉砕して、鉄格子が開いた。
ドラ 『突撃するぜ』
梯子に登って準備していたドラが鉄格子を開けて、身を乗り出す。
続けてミケが登り、その彼女の後に登って外に出た。
鉄格子の外に出れば、敵は居らず、整備中の戦闘機があった。
すぴねこ 『なあ、俺は現実の管制塔の中に入った事がないんだが、戦闘機が格納されている様な建物なのか?』
ミケ 『そんなわけないじゃない』
チビちゃん『どこだろうね』
ボス 『それを今から確かめる。すぴねこ、あの窓から外を確認してくれ』
ボスの指した場所を見れば、高い場所に小さな窓があり、その下には丁度良く置かれたコンテナがあった。
素早く登って外を見れば、通りの向かい側に物見櫓で見た管制塔が建っていた。
すぴねこ 『どうやら、ここは管制塔の隣にある倉庫らしいぜ』
管制塔の近くに来れたのは良いけど、このまま外に出るのは危険だ。
ねえさん 『ねえ、これ見て。もしかして、何かの制御装置なんじゃない?』
ねえさんの声に振り向くと、彼女は壁に設置された機器類を見て首を傾げていた。
俺も近づいてみてみれば、その機械は壁に複数のモニターが設置されており、テーブルには10個のボタンが並んであった。
ドラ 『このモニターは全部管制塔に向いてるな。もしかしたら、タレットの視線か?』
チビちゃん『だったらこのスイッチって、停止装置なのかな?』
ドラ 『押せば分かるさ。ボス、良いか?』
ボス 『ああ、このまま外に出たくない。ダメならダメでその時だ、押してくれ』
ボスの許可が出てドラがボタンを押下する。
ボタンを押すと横のランプが青から赤に変わり、全部のボタンを押すのと同時にインフォメーションが表示された。
『「すべてのタレットを停止せよ」シークレットミッションクリア!』
どうやらドラの予想通り、この機械はタレット制御装置だったらしい。
そして、タレットの停止がシークレットミッションだった事に驚き、思わぬインフォメーションを見て全員が苦笑いをした。
ねえさん 『予想だけど、もし何も考えずに管制塔に近づいたら、タレットの攻撃に加えて巡回中の敵も襲って来て、酷い状況になったんじゃない』
ドラ 『先にクリアした奴らって、シークレットクリアしてなかったんだろ。よくクリア出来たな』
ねえさん 『全部のタレットを破壊せずに、管制塔の中に入ったんでしょ』
ボス 『よし、タレットの脅威は無くなった。管制塔へ向かうぞ』
全員がボスに頷き、鍵の掛かったドアを開けて倉庫の外に出る。
倉庫から出ても、銃撃される事なく無事に外に出る事ができた。
最後に外に出たチビちゃんが、倉庫のドアを閉めようとして顔を顰めていた。
チビちゃん『ねえ……ドアの外側にノブがないよ』
ミケ 『それって、外から入れないって事かしら?』
ボス 『そうなるな』
『『『『『『……最悪だ』』』』』』
このサブミッションの嫌らしさに、全員が顔を引き攣らせていた。




