第24話 強い銃とは? その2
ボスの所には既にチビちゃんとミケが来ていた。
そして、ミケの格好が今までの迷彩服ではなく、SWAT(アメリカの警察特殊部隊)の真っ黒な衣装に変わっていた。
「戦争にSWATの格好って、素人丸出しだな。恥ずかしくないのか?」
俺が呆れたように話し掛けると、ミケが腐った目で俺を睨み返した。
なんでコイツは、何時も喧嘩腰に睨んでくるのかが分からない。
「夜間ミッションでしょ。黒い方が目立たないと思っただけよ」
「ばっかじゃねー。AIが服の色を認識するわけねえじゃん」
「だったら、別に良いじゃない。周りを見なさい、他のプレイヤーだって服装を変えているわよ」
ミケに言われて周りを見れば、少数のプレイヤーが初期装備の迷彩服を脱いで、違うコスチュームに変わっていた。
ミケのSWATなら百歩譲ってまだ分かる。だけど、Tシャツとジーパン、スカート、メイド服、水着。
極めつきはパンツ1枚のプレイヤーが兵士サロンを走り回っていた。ここまでくると、コスチュームと言うよりもただの変態である。
「ひでぇハロウィンだな」
「どこのネットゲームでも、皆オシャレに気を使ってるわよ」
「AAWじゃそんなプレイヤーなんて居なかったぞ」
「そもそもプレイヤーが居なかったじゃない」
「…………」
俺が言い返せずに無言でいると、ねえさんが俺達の居るテーブル席に来た。
その彼女のコスチュームも、ミケと同じ真っ黒なSWATの格好をしていたけれど、色気のあるねえさんがSWATを着ると、何となく格好良い女性に見えた。
ねえさんはカマだけど、女に見えるんだから仕方がない。
「あ、ねえさんもSWATにしたんですね」
「ふふふっ。お揃いね」
ミケとねえさんが、お互いの格好を見て笑い合う。
そんな二人に呆れてボスに何か言おうと彼の方を見れば、ボスとチビちゃんがいつの間にかSWATのコスチュームに変わっていて、思わず二度見する。
「ボスまで変えたのか……」
「……流れ」
その言い訳の意味が分からない。
それに二人は完全装備で、ヘルメットと黒い覆面マスクまで装着していた。
「見た感じ、ただの犯罪者だな」
「えー何で?」
俺の呟きにチビちゃんが不満を漏らす。
「日常で覆面マスクを着けてればねぇ……」
「あ、そうか!」
ミケの指摘に気付いたのか、チビちゃんがんしょんしょとマスクを脱ごうとしたけど、コスチュームは脱げず、ねえさんからスマホで取る事を教えてもらって覆面を取った。
「何だ、お前等もコスチュームチェンジしたのか」
ドラの声が聞こえて振り向くと、彼も着替えていて、白いブリーフパンツにSWATの覆面を被った格好になっていた。
「近づくな、この性犯罪者!」
ここでは自動的にセーフモードになって撃てないけど、全員がグロック M19をドラに向けて構える。
「おいおい、チョット待ってくれ」
ドラが慌てて両手を上げるけど、銃を下ろさず構えたまま睨む。
「テメエがキリク・カルチャーなのは知っているけど、VRの女とプレイしたままの格好でログインするんじゃねえ!」
「だから俺の彼女は生身だ! それと、俺が好き好んでこんな格好をしているとでも思っているのか」
「もちろん思っている」
俺が答えると、ドラが頷いた。
「正解だ」
「この変態!!」
ドラの返答を聞いてミケが顔を引き攣らせる。
「儂はのう、人を笑わせるのが好きなんじゃ」
ドラが意味なく話し始めたけど、何故か語り口がジジイ。
「それは言われなくても知っている。時々お前が低俗なコメディアンだと思うときがあるからな」
「ふぉふぉふぉ。そうか、そうか」
そう言うと、ドラが変態の格好のまま席に座った。
「話はそれだけか?」
「それだけだ」
外れろ、セーフティーロック外れろ!! 今すぐコイツを殺させてくれ!!
俺達がドラから少し離れた場所に移動すると、ねえさんが笑顔で話し掛けてきた。
「後はすぴねこだけね」
どうやら彼女は俺にもSWATの格好をさせて、お揃いにしたいらしい。
「……俺も変えないとダメか?」
「一人だけ格好が違うのもどうかと思うわ」
「あれは?」
パンツに覆面の格好のまま、平然とスマホを弄るドラを見る。
「あれは異物よ」
確かに異物だな。ふむ……4人が同じ格好だと、俺はドラと同じ部類と思われるのか? アレと同類と思われるのは避けたい。
「分かった。チョット待っててくれ」
スマホを取り出し画面を見れば、先ほど見た時は気づかなかったが、いつの間にやらコスチューム変更のアプリがひょっこりと表示されていた。
「いつの間に、こんなのが出来たんだ?」
「パッチノートに書いてあったけど、今日の昼に出来たらしいぜ」
「見落としてた。ついでにお前は着替えるか、早く死ね」
近寄って来ていたドラが教えてくれたけど、「近寄るな」と手を払った。
アプリには、軍服や一般服以外にも、ゲーム内通貨で購入できるマーベルシリーズのヒーローのコスプレがあった。
確かこの手のキャラはジョンが好きだったはず。恐らく彼の趣味が入っているのだろう。
だけど、衣装をじっくりと見れば、微妙に色彩やラインの位置が俺の記憶と違っていた。
「著作権をギリギリでスルーしようとする努力が涙ぐましいな」
その呟きに全員が同じことを思っていたのか、苦笑いをしていた。
「俺が聞いた話だと、昔のゲームは衣装を買うのにガチャしていたらしいぜ」
話し掛けてきたドラに眉を顰める。
「前に婆さんが言ってたな。ガチャだけは死んでもするなって」
「その婆さんは、ガチャゲーに大金を突っ込んだトラウマがあるのか?」
「んーどうだろう。ガチャってゲームに見せかけたギャンブルじゃん。婆さん、ゲームは好きだったけどギャンブルは嫌いだったから、やってないと思うぜ」
「ああ、なるほど。騙されないタイプなのか」
「俺が聞いた限りだと、婆さんはガチャで強化しなくても凄いゲーマだったらしいぜ」
ドラと会話しながら、SWATのコスチュームを入手。SWATのコスチュームはサービスらしく無料で手に入れることが出来た。
コスチュームを装備すると、今まで着ていた迷彩柄の軍服が一瞬で真っ黒な制服に変わる。
それと、腰に付いているホルスターが広くて底が開いていたから、グロック M19に付属品を取り付けて入れてみたら素直に入った。
「すぴねこ君はマスクを取らないの?」
予備の弾倉を入れていたら、俺の様子を見ていたチビちゃんに言われて、自分が覆面マスクを被っている事に気付く。
「ドラと何一つ同じにしたくねえから取るか」
「ヒデエ……」
そう言いながら、ドラがニヤニヤと笑う。キメェ。
アプリ画面の覆面マスクをクリックして剥すと、被っていたマスクが無くなった。
それで、チビちゃんが小さくガッツポーズをする。どうやら彼女は俺の顔が好きらしい。
その彼女の様子に、ボスが不機嫌顔だった。
俺がコスチュームの変更をしている間に、他の皆は俺の流した情報から、夜間侵入ミッションの装備を整えていた。
ミケとチビちゃんは、俺と同じグロック M19にサプレッサーとレーザーサイトを付けた装備にしていた。
M4にもサプレッサーはあるけど、ミケ曰く、あれは現実と同じ様に撃つと硝煙が顔に降りかかって使い辛いらしい。
無駄にクオリティが高すぎねえか?
ねえさんは、短銃の他にもスナイパーライフルにサプレッサーを取り付けていた。
彼女は確実にヒットマンの道を進んでいる。
何時かオカマのゴ○ゴと呼ばれる日が来るだろう。
ボスは俺と同じ短銃のみにサプレッサーを取り付けた装備だった。
機関銃にサプレッサーを付けるのは可能と言えば可能。だけど、銃口部分って熱が出るから、多分オートでぶっ放している内にサプレッサーが燃えだすと思う。
ドラは手持ちのMP5にサプレッサーを付けて挑むらしい。
今回のミッションだと、接近戦闘で一番火力があるのはコイツだろう。
ドラは1-3のミッションでサボっていたから、戦闘になったら全部任そうと決めた。
「よし、準備ができたな」
ボスが話そうとすると、ミケが彼を遮って話を始めた。
「その前に少しだけ良いかしら」
「何だ?」
「一人だけ見た目が変質者なんだけど、もしかしてそのまま参加するのかしら?」
「誰の事だ?」
ミケの質問にドラが首を傾げる。
すっとぼけた彼のコスチュームは、相変わらずの覆面パンツのままだった。
「自覚のねえ変態ってのは、たちが悪いな」
「俺もそう思うぜ」
俺の皮肉をドラがスルーという形で煽る。もう何も言う気が無くなって、ドラに中指を突き立てた。
その様子にボスが仕方がないと言った様子で、ドラに話し掛ける。
「なあ……ドラ」
「何?」
「残念だが、滑ってるぞ」
「……マジ?」
その一言にドラがショックを受ける。
俺には理解できないが、常にユーモアを求めている人間にその一言は禁句なのだろう。馬鹿じゃないかと思う。
「いや、待てって。この俺が滑るわけねえだろ! チビちゃんだってそう思うだろ?」
ドラがユーモアに理解があるチビちゃんに問うと、彼女は頭を横に振った。
「別に面白くはないよ。だって何時ものドラ君だし」
それはそれでどうかと思う。
「なん……だと……」
チビちゃんの一言にショックを受けたドラは項垂れると、スマホを弄って白いブリーフからSWATのコスチュームに変更した。
最初にクレームが出た時点で、素直に変更しろと言いたい。
「ソロで居る時だったらパンツ一枚になろうが全裸だろうが構わないが、俺達と組むときは普通の格好にしておけ」
ボスからの命令でドラが元気なく「へーい」と答えた。
グダグダやっていたら、スマホの時計が20時を回っていた。
「いい加減に、ミッションの話を始めるぞ」
喋り方の感じから、ボスもグダグダな展開に疲れたらしい。
「すぴねこが入手した情報だと、これから挑むミッションは夜間侵入らしい。もし違っていたら、すぴねこに文句を言え」
「ひでえ……」
ボスに向かって呟き、ジロッと睨み返す。
「冗談だ。AAWの頃と同じなら、シナリオの最後は必ずボスが出る。まあ、雑魚がレベル30相当ぐらいの強さだから大した事はないと思うが、油断だけはするな」
全員がボスに向かって「了解」と答える。
「よし、行くぞ」
全員席を立って、ミッションカウンターに向かった。
そして、ボスがカウンターのNPCからミッションを受注するとインフォメーションにミッションが表示される。
シナリオ1のミッション4。制限時間120分。目標時間は90分。
ミッション名は『侵入』。
今回のミッションは、夜間の飛行場制圧だった。




