第23話 強い銃とは? その1
ミッション1-3を終えて兵士サロンに戻ると、昼の12時を少し過ぎていた。
1つのミッションに2時間も掛けたけど、昔ゲーマだった婆さん曰く、MMORPGが大流行していた頃は丸1日掛かるレイドがあったらしい。それに比べればまだましだと思う。
だけど、俺の婆さん、どれだけ廃人プレイヤーだったのだろう……。
今日はゲームリリース直後の日曜日。俺達は一日中ゲームをやると決めていた。
決めていたと言っても、別に約束していたわけじゃない。だけど、「自分以外の皆は廃人だから一日ゲームをやるんだろうな。仕方がないから付き合ってやるか」と全員が考えていたら、結果的にこうなった。
ミッション1-3を1発でSランククリアしたから、午後は何をやるのかをボスに尋ねると、飯を食ってから決めると言ってチビちゃんと一緒にログアウトした。
確かに俺の膀胱もそろそろ決壊しそうだったから、皆と合わせてログアウトする。
今日の昼飯は、鯵の干物とたくあん With お茶漬け。
お茶漬けは昨日も食べたけど、今日はわさびをたっぷりと乗せた。乗せすぎてキツかった。
昼飯を食べてから、ゲームにログイン。
スマホを見たらドラだけがログインしていた。ドラの居るサーバーが満員だったから放置する。
皆が揃うまでの時間で、積載量増加のインプラントチップを胴体に埋め込んだ。
これで、いつでもアーマーは着れるけど、まだ買えないのが残念である。
インプラントチップの埋め込み手術が終わったタイミングで、ボス達が来たから全員集合。
結局、この日は先に進まず金策をする事になって、ミッション1-1を5回繰り返してログアウトした。
この日の夜。
寝る前にSNSを見たら、ミッション1-3をSランクでクリアしたワイルドキャット・カンパニーが、少しだけ話題になっていた。
月曜日。昼に大学へ行き、夕方に帰る。
この日の晩飯は、とんかつとお茶漬け。
昨日はわさびを入れて辛かったから、今日は岩海苔を入れる。岩海苔が溶けた。
夕飯を食べてからログイン。ドラが先にログインしていたけれど、アイツは放置。
スマホで現在の状況を確認すると、まだシナリオ2をクリアしているパーティーは居なかった。
昨日も確認したばかりけど、金が絡むと他人の行動が気になるのは、人間の欲望として仕方がない行動だと思う。
状況を確認後に掲示板を漁っていたら、誰かが情報を漏らしたのか、ミッション1-4が夜間潜入ミッションという情報を入手した。
すぐにグループSNSでチームの全員に伝える。これで何も準備してこなかったヤツが居たらヤジる予定。
それで、今回のミッションだけど、ただの夜間だったら俺が持ってるウェポンライトでも対応できただろう。
だけど、今回は侵入が絡んでくるから、ライトの光で敵に見つかる可能性がある。できれば使わない方向でいきたい。
まず最初に、暗視ゴーグルをスマホのショップアプリで購入した。
次に敵を倒す手段だが、銃音の大きいショットガンを普通に撃つのは、これも敵に見つかるからアウト。
だったら他のFPSゲームみたいに、背後から近づいてナイフなどで倒すサイレントキルをすれば良いと思うが、残念ながらあれは訓練されたプロがやるから出来る行為で、普通の一般人が出来るモノじゃない。
それに、VRになってからは、直接殺害する行為はリアリティがありすぎて、世間の目がウルサイ。
一応、AAWとAAW2にもサイレントキル系のスキルは存在するし、武器だってある。だけど、コイツはチャーリーの仕組んだ罠だった。
俺もAAWの頃に少しだけ暗殺プレイに憧れてやってみたけど、ドロント兵はステロイドで筋肉がムッキムキだったから、ナイフが深く刺さらず反撃されて殺された。あれは今でも詐欺だと思っている。
と言う事で、ナイフなんて野蛮な武器は使わずに、銃にサプレッサーを付けて戦う事にする。
ちなみに、サプレッサーはサウンド・サプレッサーとフラッシュ・サプレッサーの2種類あって、今回使うのはサウンド・サプレッサー。
別の言い方だとサイレンサーとも呼ばれている、殺し屋がご愛用する消音装置の事。
「ショットガンにサプレッサー? そんなのあるの?」と思うかもしれないが、ショットガン用のサプレッサーは、ゲームでも現実でも存在している。
そんなの何に使うのかと問われたら、多分だけど特殊警察がテロリストの制圧に使うんじゃないのかな。それ以外の用途が俺には思いつかない。
だけど今回は、ショットガンにサプレッサーを取り付けるつもりはなかった。
何故なら、サプレッサーの消音は完全に音が消える訳ではない。
やはり、口径が大きければ大きいほど音は大きいし、もし小さくしたとしても、そのサプレッサー自体が大きくなりすぎて撃ち辛い。
実際にショットガン用のサプレッサーはすごく長くて、銃と合わせたら150センチぐらいになる。
俺のゲームでの身長が153センチ……後は察してくれ。
だったら何の銃を使うのかという前に、少しだけ違う話をしよう。
今はM4アサルトカービンを彼氏に持つ頭のおかしいミケだけど、彼女はAAWをやる前まではファンタジー系MMORPGを遊んでいたから、銃について全く知らなかった。
そんな彼女から「どの銃が一番強いの?」という頭ファンタジーな質問をされた時、俺は眉を顰めながら「コイツは何を言ってるんだ?」と言う様な、彼女にも劣らないクソアンチを見る様な目で見てからの返答が、「頭に弾丸をぶち込めば、大抵の人間は死ぬ」だった。
それを聞いた彼女から「それは答えになっていない」と、狂人小説家を見る様な目で睨み返された。
だけど、今でもその回答は間違っていないと思っている。
例えば、ベトナム戦争時、当時のアメリカ軍歩兵の主力武器は、M16アサルトライフルだった。
それに対するベトコンの主力武器は、AK-47。別名カラシニコフと、これまたテロリストご愛用のロングセラーを誇る有名な銃だった。
では、M16とAK-47のどちらが強い銃なのかを、2つの銃で比較して考えてみよう。
まず殺傷力だけど、銃の殺傷力が何かを単純に考えれば、弾丸の口径で決まると思っている。
まあ、他にも劣化ウラン弾とか、ホローポイント弾とか、ショットガンみたいに数発同時にぶち込むなどの別の要素も色々あるけれど、全部を語ったらキリがないので、それは脇に置いといて話を進めよう。
M16で使用している弾丸は、5.56x45mm NATO弾。
そして、AK-47の弾丸は、7.62x39mm M43弾。
弾丸のサイズだけで見れば、AK-47の方が大きくて殺傷力があると言えるだろう。
次に命中率だけど、ベトナム戦争では戦場がジャングルだけあって、第二次世界大戦や朝鮮戦争の時の様に、機関銃などの支援兵器が使い辛く、自動小銃による撃ち合いが主力だった。
そして、開戦当時のアメリカ軍の自動小銃は、スプリングフィールドM14だったかな? 口径が7.62x51mm NATO弾のバトルライフルだったけど、AK-47にフルボッコされたらしい。
M14がボッコボッコにされた理由は、湿気で木製部分が腐る、銃身が長くて近接戦闘に不向き、ジャングルだと木で視界がさえぎられて長射程の意味がないなど色々あった。
そこで、アメリカ軍はM14の替わりにM16を採用したのだが、この銃は先ほど記述した通り、弾丸が5.56x45mm NATO弾だった。
弾丸を小さくした理由は、7.62mmは威力は大きいけどその分だけ撃った反動が大きく、命中率が下がり連射に不向きだった。
そこで、ジャングルの近接戦闘でAK-47に勝てる銃と言う事で、M16は弾丸のサイズを小さくして命中率を上げたらしい。
その結果、アメリカ軍はベトコンと対等に戦えるようになり、戦争が泥沼と化して、未来ではケビンが大喜びする事になった。
つまり、先ほどから何が言いたいのかと言うと、遠距離戦闘なら飛距離が長い口径が大きい銃が有利だし、近接戦闘なら反動が少ない口径の銃の方が有利だと言える。
これについて反論はあると思うけど、そこは人それぞれの考えがあると思って、黙っててくれるとありがたい。
結局、銃の強さなんかどうでもよくて、俺が最終的にたどり着いた答えが「頭に弾丸をぶち込めば、大抵の人間は死ぬ」だった。
時々、頭を撃たれても生きていたというニュースを目にするが、あれは本当に運が良いだけだ。
以上の事を考えて話を戻し、ミッション1-4で使う武器を選択する。
今回は夜間だから遠くの敵は見えないので、戦闘は近接戦闘が主力になるだろう。
そして、侵入ミッションだから、敵に見つからずに倒す必要がある。
つまり、火力なんて二の次で、重要なのは敵の頭に鉛の弾をどれだけ静かにぶち込めるかが、勝負の決め手だった。
と言う考えから、今回は手持ちのグロック19M用のサプレッサーを購入して、メインウェポンとして使う事にした。
グロック19Mで使用する弾丸は、9mmパラベラム弾。
小さい口径で心許ないと思うが、ドラが今使っているMP5だって同じ弾丸を使ってる。
時々「短銃とサブマシンガンって同じ弾なの!?」と驚く人が居るけど、サブマシンガンは元々そういう設計思想だ。
ショップアプリでグロックM19用のサプレッサーとレーザーサイトを購入。
レーザーサイトは夜間ミッションと言う事で、命中率を少しでも上げたかったから購入した。
受け取り窓口で購入した商品を受け取ると、グロックM19にレーザーサイトとサプレッサーを付ける。
「…………」
付けた後、銃がホルスターに入らなくなったから全部外した。
準備が出来たタイミングでボスから集合しろとSNS経由で連絡が来る。
俺は席を立つと、ボスの居るサーバーへと移動した。




