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『ワイルドキャット・カンパニー』 ~俺達、過疎ゲー、ゲーマーズ~  作者: 水野 藍雷
第1章 過疎ゲームの6人
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第20話 ミッション1-3 その3

 洞窟まで残り1Kmの距離で、双眼鏡を覗き敵を確認する。

 バグスは2人組で巡回しているドロント兵が3組。それとは別に、洞窟の入口の左右にある2つの櫓の上にスナイパーが1体ずつ。合計8体の敵が居た。


すぴねこ 『どうやらまだ気づかれていないみたいだぜ』

チビちゃん『さっきは気づかれていたのに、なんでだろ?』

すぴねこ 『目の前で車が爆発したら、ボケ老人でもない限り警戒するだろ』

チビちゃん『あーうん、そうだね』


 適当に言っただけだけど……。


ボス   『ミケ、櫓のスナイパーを狙えるか?』

ミケ   『700mぐらいまで近づけば行けるわ』


 ミケのM4を見れば、フラッシュサプレッサーとスナイパースコープが付いていた。

 目の腐った彼女は、前作のAAWの時と同様に、M4を中距離と遠距離で運用する事を考えているらしい。


ボス   『それなら、ねえさんが右、ミケが左のスナイパーを最初に狙え。すぴねこは中央で囮。後のメンバーはドロントを倒す』


 ボスの命令に全員が『了解』と頷いた。


 敵との距離はまだ1Kmぐらいあるから、ドロント兵が俺達を発見するには距離がある。

 と言う事で、今の場所から気を付けなければいけないのは、敵スナイパーの視線だけだった。


 双眼鏡でスナイパーの動きを確認。敵は10秒毎に45°体の向きを変え、左右のスナイパーは常に反対方向を向いていた。

 つまり、10秒毎に監視が切れるという事になる。


 動きを見極めてから、双眼鏡をボスに……いや、チビちゃんがジッと見ていて観測手をやりたそうだったから、彼女に渡した。

 彼女は「一度やってみたかったんだ」と、うきうきしていた。その様子に一抹の不安を感じる。

 スナイパーの監視が切れるのと同時に、俺は中央から、ねえさんとミケは左右から進軍を開始した。


チビちゃん『だ・る・ま・さ・ん・が・こ・ろ……』

すぴねこ 『チョッ……!!』

ねえさん 『グフッ……』

ミケ   『まっ待って!』


 チビちゃんのカウントは、何故か「だるまさんが転んだ」だった。

 打ち合わせなしのボケで、全員がズッコケる。


 チビちゃんが「だ!」を言い終わる前に、体制を整え全速で走り80m先の岩陰に隠れた。


チビちゃん『ん・だ! ……セーフ』

ミケ   『チビちゃん笑わせないで!』

ねえさん 『くくくっ……ふ、腹筋が……』

すぴねこ 『ボス、嫁の躾ぐらいしやがれ!』

ボス   『俺はその性格に惚れている』


 俺達が文句を言っていると、チビちゃんが双眼鏡を覗きながら、再びカウントを開始した。


チビちゃん『だ・る・ま・さ・ん・が……』

ドラ   『容赦ねえな……』


 それから俺達は、チビちゃんからの腹筋攻撃に耐えながら、何とか射程範囲まで移動する事ができた。


 ミケとねえさんが岩場の影に隠れて銃を構え、スナイパースコープを覗き敵スナイパーを狙う。

 俺は2人のどちらかがミスをしてドロント兵が攻撃した時に備えて、最前線で待機していた。


ねえさん 『準備オッケー』

ミケ   『私もです』

チビちゃん『じゃあ、横を向いたタイミングで合図するねーー。さん、はい』

ミケ   『チョッ……唐突過ぎる!!』


 チビちゃんの合図と同時に、ねえさんがライフルのトリガーを引き弾丸を放つ。

 一方、ミケはチビちゃんの号令が唐突だったのか、慌てて銃を撃った。


チビちゃん『ねえさん命中。ミケちゃん外れ。ドロント兵がこっちに気付いたみたい。皆、来るよ~』


 どうやら、観測手をチビちゃんに任せた俺が悪かったらしい。

 まあ、面白かったから良いけどね。







ボス   『ねえさんは待機、ミケはスナイパーを先に殺せ。すぴねこは俺達が行くまで耐えろ』

ミケ   『り、了解』

すぴねこ 『早く来てね』


 余裕で答えているけど、結構ピンチな状況だと思う。

 俺とドロント兵との距離は500m。

 ミケとねえさんは100m左右の後方に居て、ボス達はさらに後ろ500m先から走って来ている。


 近づく敵をけん制に攻撃しようにも、敵スナイパーが居るから危険だし、かと言って何もしなかったら、ドロント兵が先に配置に付いて、移動中のボス達を攻撃しかねない。


すぴねこ 『ミケ、スナイパーが狙ってるのは俺か?』

ミケ   『ううん、まだそっちは気づかれてないみたい。狙われてるのは私』

すぴねこ 『そいつはラッキー。合図と同時に身を乗り出すから、そのタイミングで撃て』


 そうすれば、敵スナイパーのAIは俺に狙いを変えるから、ミケが撃ちやすくなる。


ミケ   『了解!』

すぴねこ 『よし、行くぞ……Ураааааааа(ウラーーーーーーーー)!!』


 叫び声と同時に、身を乗り出してドロント兵に向かって走り出した。


ドラ   『でた、赤軍プレイ!!』


 必殺、万歳アタック!!


 これは、自分より大勢の敵に立ち向かうときに雄叫びを上げながら特攻するだけの、本当に意味の無い攻撃とも言えない、しいて言うならば自爆、いや、それすらならない、ただの特攻だ。

 雄叫びがロシア語なのは、第二次世界大戦で訳も分からず徴兵されて、スターリングラードで督戦隊に突撃しないと射殺すると脅され、実際に隣のヤツが逃亡しようとしたら目の前で射殺されて、泣きながら銃も持たされずにドイツ軍に特攻する、精神が崩壊した無知で愚かな田舎者のロシア人をイメージしている。

 ちなみに、このスターリングラードの攻防戦は、双方合わせて200万人以上の戦死者を出した、ケビンの野郎が一番大好きな戦場だ。


 叫びながらドロント兵に向かって短銃のGlock 19Mを撃ち放つ。

 俺の攻撃は相手との距離は開いているし、狙ってもないから当然当たらない。

 だけど、ドロント兵は突然現れた俺に驚き怯んだ。恐らく、突然銃を乱射する変質者を見て驚くのと同じ心境だろう。


ミケ   『スナイパーキル!』


 突撃している間に、ミケが撃ち損じたスナイパーを射殺する。

 ドロント兵は、正気に戻ると近くの岩へ移動して、俺に向かって銃を撃ち始めた。

 インプラントを起動して、スローな世界で迫る銃撃を掻い潜り、俺も遮蔽物になりそうな岩へとスライディングして身を隠した。


 今の行動によって、敵のスナイパーは全滅。ドロント兵は俺を攻撃するために前進を停止。

 これで、ドロント兵は岩に隠れている俺を攻撃するしか手段が無くなり、一方、俺達の方は射程範囲にねえさんとミケを配置して、後詰めにボス達が居る状況になった。

 FPSなのにシミュレーション的なプレイだけど、チーム戦のFPSは戦略的な配置も勝利に必要なファクターだと思っている。


ボス   『すぴねこG・J(グッドジョブ)! ねえさん、ミケ、攻撃開始!』

ミケ&ねえさん『了解!!』


 ボスの命令と同時に、ミケとねえさんが敵を倒し始める。

 そして、ボス達も射程範囲に入ってドロント兵の数が3体になると、敵がミケに自爆特攻を開始。


 ミケに向かう敵を俺とねえさんが1体づつ仕留め、最後の1体はボスの機関銃でハチの巣になって死亡した。







ミケ   『チビちゃん、もうちょっと真面目にやってよ』

チビちゃん『……ごめんなさい』


 戦闘が終わった後、先ほどのチビちゃんのプレイにミケが文句を言っていた。

 ミケに叱られてチビちゃんがシュンとなって、場の空気が悪くなる。

 普通ならこれでチーム内がギクシャクするのだが、残念ながらこのチームにはユーモア担当の俺とドラが居た。


ボス   『ミケ、あのな……』

すぴねこ 『おんやぁ~。ドラさん今の話し聞きました? あそこのミケさん、たかがゲームで真面目にやってですって』

ドラ   『嫌よね~。お隣のねえさんは1発で仕留めたってのに、自分のミスを人のせいにして文句ばっかり言っちゃって。それで場の空気を悪くしているの気付いてないのかしら?』

すぴねこ&ドラ『『空気読めない人って、最悪よね~~』』


 2人でこそこそと聞こえるように弄っていると、ミケがむくれて俺達を汚物を見る様な目で睨んできた。


ミケ   『……悪かったわね、空気読めなくて』

すぴねこ 『毎回言ってるけど、テメエは真面目過ぎんだよ。別にゲームで失敗してもやり直せば済む話じゃねえか。クリアするよりももっと楽しめ。せっかくチビちゃんが面白くしてくれてんだから、文句を言うな!』

ドラ   『あら? すぴねこさんも場の空気悪くしてるわね~~』

ねえさん 『アンタは、もう少し真面目にやりなさい』

ドラ   『テヘ』


 違った意味で空気を読まないドラに、姉さんが胸を叩いてツッコミを入れる。


チビちゃん『ミケちゃん、ごめんね』

ミケ   『ううん。私もチョットムキになって言い過ぎちゃったし、ごめんなさい』

チビちゃん『だったら、おあいこだね』

ミケ   『うん』


 ミケとチビちゃんもお互いに謝って仲直りした様子だった。


すぴねこ 『それじゃ、そろそろ行こうぜ』


 ここで立ち止まっているのも時間の無駄だったので、俺達は先へ進む事にした。


ドラ   『なあ、何か忘れてね?』


 歩き始めてすぐにドラから話し掛けられて考える。


すぴねこ 『別に何も忘れちゃいないと思うけど……あっ』

ドラ   『ん? 何かあった……あっ』


 俺が振り返った後で、ドラも振り返り足を止める。

 俺達が歩みを止めたのを見て、他の皆も足を止めて振り返ると、全員が顔を引き攣らせた。


ボス   『…………』


 俺達が見ている先には、リーダーとして喧嘩を仲裁しようとしたけど、俺とドラが先に弄ったせいで何もできず、その後も場の空気に入れないで放置されたボスが、膝を抱えていじけていた。


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