第17話 春よ来い その3
現在の状況を確認した後、今後の俺の方針について考える。
予定では今日やる1-3のミッションをSランククリアしたら、入手したスキルポイントで胴体のインプラントを拡張する予定だった。
そして、積む予定のチップは積載量増加。
これは、今までの動体視力と連携させるチップと違って、装備の持てる量が増やせる体力増加インプラントだった。
これにより、シナリオ2に向けて俺が強化できるの選択肢が2つ。
1つ目はアーマーの装備。
FPSゲームのポイントマンに最も重要なのは、死なない事だと思っている。
どのポジションでも死なない事は重要だけど、一番死ぬ確率が高い俺が死ななければ、他のメンバーの死ぬ確率だって当然下がる。
だから、今までインプラントチップで回避力を上げていたのだが、そろそろ防御力の強化も考える必要があった。
問題は、今はまだ条件を満たしてないため、ランク3のアーマーが買えず、購入資金もない。
低い防御力のアーマーを装備しても、レベル50同等のバグスの攻撃に耐えられるとは思えなかった。
そして、2つ目は武器の追加。
AAWだと重量制限を超えた武器数を所持すると、動きが鈍くなる仕様だった。
AAW2ではまだ分からないけど、重量制限を超えたら体力的に疲れる。そんな気がする。
もし俺のメイン武器がM4だったら、上と下にピカティニーレールが付いてるから色々と拡張できて、スナイパーサイト、グレネード、ショットガンなどを取り付けマルチに対応できる……だけど、如何せん。俺のショットガンには、スコープかライトぐらいしか付けられない。
ちなみに、ピカティニーレールに付けられるショットガンは、間違いなく鍵開け専門の銃だから、戦闘には使えない。
だったら素直に「最初からM4にしろよ」と言われそうだが、性格が捻くれている人間に一般常識を言ってはいけない。間違いなく「ご親切にどうも。ウルセー、余計なお世話だ、バーカ」と言い返すだろう。
それに、M4なんて装備した日には、ミケが侮辱を込めた目で「どやぁ」と言いそうだから、死んでもヤダ。
と言う事で、今の段階で追加できる武器は、アサルト、サブマシンガン、PDW、そして単発のグレネードランチャー。
ちなみに、機関銃とスナイパーライフルは職業クラスが違うので、アサルト兵の俺だとスキルで拡張しないと装備できない。
以上を踏まえて、追加の武器について考える。
アサルトは、M4以外を持っていても使わないと思う。
そもそも、俺がショットガンを使うのは、最前線で強力な火力が欲しかったのに加えて、ショットガンだと敵がほんの僅かだけ怯むというゲームの仕様があったからだった。
サブマシンガンとPDWは、射程距離がショットガンと被るから却下。
ちなみに、PDWを否定しているけど、別に嫌いと言う訳ではない。
5.7x28mm弾はライフル弾と同じく先端が尖がっているから貫通力はある。だけど、前にも言ったけど、50発入るマガジンは大きくて持ち運びが不便だという認識は拭えない。
だから、5.7x28mm弾を使うなら、アサルトライフルではなく短銃で使うのが良いんじゃないかと思っている。
実際に5.7x28mm弾が使えるFN Five-seveNやRuger-57とかは、今までの9x19mmパラベラム弾の銃と比べて威力が高くて俺は好き。貫通力があるから貫通しちゃうかもしれないから、危険で使えないけど。
さて、話が逸れたから元に戻して、残る候補は単発のグレネードランチャーか……。
AAWの頃は、チビちゃんがM4A1にM203A1を付けてポンポンとグレネードを飛ばしているのを傍から見ていて、「花火職人になって、ボスを空高く飛ばせばいいのに」と思っていた。
だったら俺のレミントンM870 MCSにも上にだけレールが付いているから、M203A1を逆さにして無理やり付けるか?
……付けた時のイメージを思い浮かべて、すぐに却下。どう考えても、取り付けたグレネードが照準の邪魔になる。
それに、俺がグレネード使って殺害数を稼ぐと、ねえさんにヘイトが行かなくなる問題があった。
かと言って、殺傷力のない弾を使うとなると、40㎜弾にフラッシュなんて弾はないから催涙弾を使う事になるけど、あれって煙が酷いんだよなぁ。屋外だと効果薄いし……。
俺がソロプレイをしていたならば、サーマルスコープを付けて催涙弾で泣いているバグスを撃てば良いだけの話だが、チームプレイで勝手に催涙弾を放ったら、間違いなく他の皆からクレームが来るだろう。特にミケから。
アイツ、なんで俺の事を凄く嫌ってるんだろうな。まあ、俺も好きか嫌いか問われたら、間違いなく「目が嫌い」って答えるけどさ。
俺としては催涙弾を撃った後で、サーマルスコープを付けたボスが機関銃で斉射するのが理想だが……だけど、ヤツは貧乏だ。
以前誰かが「金があっても幸せになるとは限らない、だけど貧乏は不幸だ」と言っていたけど、まさにそうだと思う。
昨日もドラの持っていたインカムを欲しがって、その値段を聞いて頭を抱えていた。
殺傷力のある機銃を持てるヘビーアサルト兵は強いけど、金が掛かる大変なクラスでもある。まあ、頑張れ。
おまけで説明するけど、ねえさんのスナイパーは、スナイパーライフルが持てる替わりに、アーマーの装備とサイボーグ化が出来ず。
チビちゃんのメディック兵も、アーマーは着れるけど、サイボーグ化が出来ないデメリットがあった。
さて、話を戻して。グレネードランチャーを買うとしたら、何が良いんだろう。
有名なM79は? うーん。時代遅れも甚だしいでしょ。
グレネード単体の性能を考えると、ロシアのGM-94な気がする。
回転弾倉式じゃないのに、グレネードを3+1発装填できるのは非常に魅力的。
だけど、コイツ4.8Kgもあって重いんだよな。まあ、ロシア製だから仕方がない。ロシアだし……。
うーん。装備予定のアーマーの重量も考慮して考えたら無理っぽい。
そうなると、使いやすさと軽量を考えて、ブリュッガー&トーメのGL-06かな。
コイツは元折れ式で、撃った後にパカっと開けて、銃を持ち上げるだけで薬莢が後ろに落ちるから、単発だけど装填しやすいのが実に良い。
ん? 装填だけだったら、M203A1にグリップを付けて撃った方が速いか?
それこそ最初からM4を買えってヤツだろう。
あ、今思い出した。そう言えば、ショットガンの弾にも催涙弾があった気がする……グレネード要らねえじゃん。
と言う事で、散々悩んだ結果、アーマーが買えるまで貯金する事に決めた。
全く無駄だったミリオタな事を考えていたら、いつの間にか集合時間になっていた。
欲しい銃を考えだすと、時間が経つのを忘れちゃうからダメだね。
本気出したら、本1冊分ぐらい語っちゃう気がする。
スマホを見れば、ボスからグループSMSで198サーバーに集合しろと連絡が来ていた。
何故一番乗りの俺の所へ誰も来ない……ああ、ここのサーバが満員で来れなかっただけか。
SMSに「今から行く」とメッセージを入れてから、ボスの待つサーバーへ移動した。
「サンデーモー……いや、おはようございます」
「何だよ、気持ち悪い」
俺が普通に挨拶をしたら、全員が気持ち悪い者を見る様な目で俺を見て、ドラが話し掛けてきた。
「いや、言おうとした冗談が、チョットだけ政治絡みだからやめた」
「ああ、なるほど。政治的な発言は右も左もバカが絡ん……」
「ドラ、それ以上はアウトよ!」
「了解」
ねえさんに叱られて、ドラが肩を竦めた。
「そう言えば、すぴねこ。掲示板は見たか?」
ドラに話し掛けられて、首を横に振る。
「見てない」
「ミッション1-4をクリアしたら、ショップの品ぞろえが増えるって書いてあったぞ。ランク3のライナップが解禁らしい」
「…………」
「急に黙ってどうした?」
「……何でもない」
もっと早く言え。
さっきまで、ずっとランク3のアーマーが買えないから武器の追加を考えていたのに、本当に意味がなくなったじゃねえか。
「これでボスのアーマーも何とかなりそうね」
「金は無いけどな」
ミケがボスに話し掛けると、彼は若干落ち込んだ様子で答えていた。
重要だからもう一度言うけど、金があっても幸せになるとは限らないが、貧乏は不幸だ。
30分ほどワイワイ話をして、そろそろミッションを受けようと席を立つ。
話している間に、フラッシュバンを2個、グレネードを2個買って準備を整えた。
それと、そろそろ必要かと思って、双眼鏡を5000Dで買った。
ちなみに、ショットガン用の催涙弾はランク3の商品らしく、残念ながら買えなかった。
全員でミッションカウンターに行き、クエストを受注する。
俺達が受けたのはシナリオ1のミッション3。制限時間150分。目標時間は120分。制限時間が今までの倍ある長丁場らしい。
ミッション名は『移動』。
今回のミッションは、飛行場までのルートの確保だった。
 




