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『ワイルドキャット・カンパニー』 ~俺達、過疎ゲー、ゲーマーズ~  作者: 水野 藍雷
第1章 過疎ゲームの6人
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第16話 春よ来い その2

 それと、この3年間で俺の周りにも変化があった。

 まず、サーバが縮小してから半年後、ゲームにプレイヤーが少しずつ増えてきた。違うな、正確に言えば戻ってきた。

 AAWのすぐ後にリリースされた大手のMMORPGは面白いけど、コンテンツが少なかったらしい。

 やる事が無くなったユーザーの一部がAAWを思い出して戻ってきた。そして、その中にボスとねえさんが居た。


 2人とは海外の過疎ゲームでは珍しい日本人同士という関係で組むようになり、当時組んでいた別のプレイヤー3人と一緒に『ワイルドキャット・カンパニー』を結成した。

 チーム名の由来は、俺とボスとねえさんが猫に絡む名前だったからなのと、ワイルドキャット・カートリッジという量産されない弾薬、つまり、『個性的な』という意味があった。


 それから、ネトゲ難民と呼ばれる類だったドラが参加。

 そして、回復役のメンバーがログインしなくなったから、ボスが嫁のチビちゃんを無理やり入れた。

 最後に初期メンバーの2人が別のゲームに行って消えたから、それを埋める形でミケが加入。今の6人が出来上がった。







 ビショップとは時差の関係で、土曜日の午前ぐらいしかゲームで会う事が出来なかった。

 だけど、現実では俺の体力測定とデータ化を目的に、何回かアメリカへ会いに行った。

 お年玉と小遣い、それと日雇いバイトで旅費を稼ぎ、夏休みになるとビショップが住んでいるモンタナ州へ行く。

 モンタナ州は自然に溢れ……いや、自然しかねえ……。


 現実のビショップは華奢な金髪の美少年だったけど、両足は義足で歩けず、空港で出迎えた彼は電動車いすに座っていた。

 そして、ビショップと一緒に空港に来てくれたのが、彼の伯父のケビンだった。ちなみに、ケビンは中年髭もじゃのデブ。

 それから、ビショップとケビンの紹介で、デペロッパーの残りの5人とも合流する。


 ケビン達を初めて見た時、40過ぎぐらいの白人のおっさんだと思ったが、全員30歳手前だった。

 外人は老けるのが早いと思う。


 彼等は、俺がAAWのプレイヤーというだけで、異常なほどに歓迎してくれた。同類と思われるのは少し嫌だった。

 アメリカでは、滞在1週間の初日に俺の身体測定をした後、残りの6日間をモンタナのキャンプで過ごす事になった。

 どうやら、これがモンタナ州の歓迎方法らしい。ゆるキャン? アホ抜かせ、こっちはガチキャンだ。

 「旅費はこっちで持つよ」と言った、ビショップの言葉を真に受けた俺が全て悪いのだろう。


 だけど、彼等との短いキャンプ生活は楽しかった。

 ハンティングは解禁が秋からだったから出来なかったけど、昼は皆で釣りをして、夜は全員でテーブルトークのボードゲームを遊んだ。

 何でボードゲームかって? だってどこに行っても電波届かねえし……。


 テーブルトークの歴史は思っていたよりも古いらしい。

 1970年代には、最初のゲームであるD&D(ダンジョン&ドラゴン)がアメリカで発売されていた。

 日本には1990年ごろから流行り出したが、その頃にはテレビゲームでRPGが世に出ていたから、そんなに流行らなかったらしい。


 テーブルトークのゲームで遊んでいる最中に、ケビンに何でAAWを作ったのかを聞いてみたら、「トレカのカードバトルも面白いけど、やっぱりテーブルトークが一番面白いぜ。俺達はそんなゲームが作りたかったのさ。HAHAHAHAHA」と笑っていた。

 そのケビンの笑い声に誘われて野生の狼が現れ、全員が慌てて逃げたのは良い思い出だ。モンタナ怖えぇ……。







 ビショップに協力してから4年目に入ると、彼は新しいVRのシステムの構築を始めた。

 たしかボビーがロトに当たったと言ってたのが、この頃だった筈。

 今思うと、金を手に入れたから本格的に動き始めたのだろう。


 この年は俺がモンタナへ行かずに、ボビーの金でビショップ達が日本へ遊びに来た。

 まあ、日本に来たと言っても、アイツ等は全日秋葉原に居たけどな。

 彼等曰く、秋葉原に行くのが夢だったらしい。ちっぽけなドリームだと思う。


 とまあ、色々とあったけど、俺のサンプルデータを入手したビショップ達は、たった1年でAAW2を作ったのだから凄いと思う。

 たかがゲーム、されどゲーム。俺もまさかここまで1つのゲームと関わるとは思わなかった。

 だけど、ビショップ達の人を楽しませたいという情熱と熱意は、格好良いし俺は尊敬もしていた。







 クッソ長い回想中に家へ帰り、シャワーを浴びて朝ご飯を食べて、少し早いけどゲームにログイン。

 は? と思うが、尺の都合と言う奴だ。

 集合時間まで時間があったから、現在の進行状況をスマホでチェックする事にした。


 今一番進んでいるパーティーは、ミッション1-4をDランクでクリアしていた。

 ゲーム開始から1日でシナリオ1をクリアしているのは早いと思う。

 だけど、たった4パーティーしかクリアしていなかったから、ゲームが簡単なわけではなく彼等の腕が良いのだろう。


 そのクリアしている4チームの情報を確認すると、その中に暴走パトリオットが居た。

 あの自己変態愛野郎のチームは遠距離メインだから、バーサーカーとライトタンクが苦手なのによくクリアしたな……。

 ああ、思い出した。あいつ等、死にそうになるとグレネードのピンを抜いて自爆するんだっけ。だからDランククリアなのか。


 残りの3パーティーは世界でもトップクラスのプロチームが軒並み名を連ねていた。

 そして、その中にロック様が所属しているブレイズ・オブ・ドリーマーも当然ながら居た。

 まあ、彼等は目立ってなんぼのプロだから。賞金よりも、今一番話題のゲームで目立ってスポンサーを獲得した方が儲かるのだと思う。


 その彼等がミッション2-1をクリアしていないのは、シナリオ1を終わらせて休憩に入ったか、それともクリアできなかったか……。

 ビショップの話だと、シナリオ2からは敵が暴走モードの強さに変わると言っていたから、後者な気がする。


 ああ、そう言えば、プロゲーマーと言ったら中国が有名だけど、あの国が賄賂を渡さずにアメリカの無名なゲームを許可するとでも思っているのか? 中国からはミッションをクリアする以前に、サーバーにアクセスすらできないぞ。


 ミッション1-2のクリア状況を確認すると、俺達以外に鋼鉄のパンツァーがSランククリアしていた。

 どうやらドイツの皮肉屋も順調に進んでいるらしい。

 だけど、あいつ等はボスと同じ様に全員がサイボーグ化して鉄壁ドヤァが自慢なのに、よく生身でクリアしたなと思う。


 最後に気になるのはオージーのクソ野郎だが、今のところ全く情報が入ってこない。

 ブラックリストに登録できるって事は、アカウント登録はしているらしいが、本当に何をしているんだ?

 気にはなるけど、それ以上に関わりたくないから、彼等についてこれ以上調べるのは止めた。


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