第14話 ミッション1-2 その4
負傷した兵士の1人が俺達に気付くと、話し掛けてきた。
「味方か?」
すぴねこ 『地球人に見えないんだったら、傷を治す前に眼科へ行け』
だから、俺達をバクスと疑うのも大概にしろ。思わず文句が口に出た。
「座ったままで悪いな。俺はスコーピオン小隊、隊長のロックウェルだ。中に入った途端、バグスに襲われてこのザマだ、情けねえ。撤退しようにも無線は通じず、負傷兵が多くて、ここで立て籠るしか出来なかった」
そう言うとロックウェル小隊長が、包帯を巻いた肩を痛そうに抑えた。
「救援に来たって事は、このフロアは安全になったという事だな。お前達に頼みたい事がある。まず、バグスの無線妨害装置を破壊してきて欲しい。そうすれば外のアンダーソンを経由して本部に応援を呼べる」
ロックウェル小隊長が話すと同時に、シークレットミッションのクリアが表示された。
ドラ 『今、バグスの無線妨害装置を破壊したけど、なんかシークレットミッションが出た』
「「「「…………」」」」
この絶妙にズレたタイミングが、俺達とロックウェルの場の空気を悪くする。
ミケ 『こっちは兵士を見つけて会話している最中よ』
ボス 『分かった。何か進展があったら教えてくれ』
どうやら、バグスの無線妨害が無くなって、ドラ以外とも連絡出来るようになったらしい。
「……バグスの無線妨害が無くなったな。これで本部と連絡が取れる。後はタワーの破壊だが、そこに爆弾がある」
ロックウェル小隊長が指さした方向を見れば、補給物資と一緒にC4爆弾が置いてあった。
「俺達の替わりにタワーの破壊を頼みたい。爆発物のスペシャリストが居なければこちらで用意する」
俺達はドラが居るから不要だが、タワーを爆破させるNPCをゲーム側で用意してくれるらしい。
ボス 『エレベータを見つけたけど動かせない。そっちの状況はどうだ?』
ねえさん 『エレベーターキーならこっちで持っているわ。それと、補給物資とタワーを破壊するのに必要なC4があるわよ。補給が必要ないなら持って行くけど、どうする?』
チビちゃん『もうマガジンが1つしかないから、そっちに行く』
ボス 『俺もそろそろ弾が尽きそうだ、全員でそっちに行こう。少し待っててくれ』
ねえさん 『了解』
通信を終わらせ、俺達はボス達が来るのを待つことにした。
暫く待っているとボス達が来た。
ボス 『待たせたな』
ねえさん 『いらっしゃい。チビちゃん、メディカルキッドがあるわよ』
チビちゃん『わーい。ボスが柔らかいから、助かる~~』
柔らかなボス、キモイ。
ドラ 『これが爆弾か……時限式だな』
すぴねこ 『別に一緒に爆破しても良いんだぜ』
ドラ 『変わった趣味してるな』
ミケ 『まるで乱歩ね』
すぴねこ&ドラ『『何だそれ?』』
ミケ 『パノラマ島奇談よ。最後に主人公が打ち上げ花火と一緒に爆発して自殺するの。知らないの?』
すぴねこ 『知らね。だけど、乱雑に出版されている、チーレム俺ツエーのクソみたいな小説よりかは面白いかもな』
ドラ 『出版社だってクソを出しても金が欲しいんだろ。だけど、あれだ。流行に流されて創作を失った出版社ってのは、どんな大手会社だとしても、やってる事は同人作成と同じだな』
ドラが爆弾を手にすると、それまで何も言わなかったロックウェル小隊長が話し掛けてきた。
「そっちにも爆破のプロフェッショナルが居るらしいな。こちらは無線で本部と連絡が取れた」
どうやら、爆破物スキル持ちのドラが爆弾を手にするのがキーだったらしい。
もし爆弾の取り扱いが出来るプレイヤーが居ないチームだったら、NPCを派遣されていたかもしれないが、NPCの護衛は面倒だから正直言って要らない。
「俺達は撤退するが、その前にこれを……」
そう言うと、ロックウェル小隊長がカードキーをドラに渡す。
「おそらくどこかのエレベーターキーだと思う。これを使えば、エレベーターが動くはずだ」
これで俺達は2枚目のエレベーターキーを手に入れた。
ミケ 『ねえ、これってもしかして……』
ボス 『さっき見たエレベーターには、カードスロットが2つ付いていたぞ』
チビちゃん『って事は、2枚ないと動かないって事?』
すぴねこ 『チビちゃん。それは甘い考えだぜ』
チビちゃん『ほっ?』
すぴねこ 『俺の予想だが、多分1枚でもエレベーターは動く。ただし……』
チビちゃんがゴクリと喉を鳴らして続きを待つ。
すぴねこ 『最上階まで行かずに、途中でエレベーターが止まる気がするな。そして、後は敵と戦いながら階段で最上階まで移動という落ちだろう』
マップ担当のダニエルなら、絶対そうするはずだ。
チビちゃん『うわーー』
ミケ 『そうなったら、確実に時間切れだわ……』
ねえさん 『最悪ね』
時間を見れば、ミッション開始から42分が過ぎていた。
エレベータが止まったら、ミケの言う通り目標時間に間に合わず、Bランククリア以下で終わっていただろう。
ボス 『よし、行くぞ』
『『『『『了解』』』』』
弾薬の補充も済んだ俺達は、スコーピオン小隊に別れを告げて、エレベーターへと向かった。
ボスの案内でエレベーター前に到着する。
ここまではボス達が先行してバグスを掃除していたから、敵に出くわす事なくたどり着いた。
それと、移動中にシークレットミッションクリアのインフォメーションが流れた事から、ロックウェル小隊長率いるスコーピオン小隊は、無事にタワーからの脱出に成功したらしい。
オープン式の広いエレベーターに全員が乗り込み、俺とドラが左右の柱に備わったカードスロットにカードキーを差す。
『v#df%<@&"*?y』
意味不明なバグス語の音声ガイダンスが聞こえるのと同時に、柵状のゲートが締まり、エレベーターが上へと動き出した。
チビちゃん『動いたね』
ねえさん 『後15分。ギリギリよ』
上昇するエレベーターからガラス張りの外を見れば、眼下に広がる赤い荒野、遠くでは雪の積もる山脈が聳えていた。
ミケ 『こうして高い所から見ると、殺風景な荒野もきれいに見えるわね』
ドラ 『スタイルの良いブスも、遠くから見れば美人に見えなくもないからな』
ミケ 『最低……』
ドラがミケから腐った様な汚物を見る様な目で睨まれていた。
エレベーターが最上階に到着してゲートが開く。
銃を構えながら奥へと進むと、奥の扉が開いて敵が現れた。
すぴねこ 『エネミーコンタクト! バーサーカー2、ライトタンク2、ドロントはーー多分、8!!』
ミケ 『ちゃんと正確な数を言って!』
一瞬で正確な敵の数なんぞ分からん。
報告と同時に、最前列の物崖に隠れてグレネードを投擲。
敵がグレネードの爆破範囲外へ退避している間に、ボス達も配置についてグレネードの爆発を合図に戦闘が始まった。
グレネードの爆発から回避したバーサーカーを、ねえさんがスナイパーライフルで狙撃して1体を倒す。
ミケが別のバーサーカーを狙うが避けられた。その避けたバーサーカーはドラがサブマシンガンでハチの巣にして始末する。
残りはライトタンクが2体と、ドロント兵が7体。
俺が投げたグレネードで1体のドロント兵が死んでいた。
すぴねこ 『バグスの突撃と同時に、フラッシュするぜ』
ボス 『了解』
ライトタンクはバーサーカーと違って最初から突進してこないが、装甲が固くて正面から撃ち合っても今の俺達では倒し辛い。
それに、ボスの機関銃による威嚇射撃にも動じないから、リロード中以外は常にこちらを攻撃してくる。ああ、クッソ面倒くさい。
だけど、弱点が無いわけではない。
前回のミッションでも説明したが、背中のジェネレータを破壊すれば装甲が剥がれるため、敵の自爆突進時がねらい目だった。
ねえさん 『残り5体』
俺とボスが会話している間に、ねえさんがドロント兵を2体倒す。
その報告を聞いて、フラッシュバンを準備。
そして、チビちゃんがドロント兵を1体を倒すのと同時に敵が自爆の突進が始まった。
すぴねこ 『フラッシュ。3,2,1』
フラッシュバンを投擲してカウントを開始。カウント2で味方の全員が物陰に隠れた。
「ギジャアアア!!」
フラッシュバンの爆発音と強力な閃光に、バグスが叫び声を上げた。
ボスが立ち上がり、ドロント兵に向かって斉射を開始した。
インプラントを起動。
スローモーションの世界で、俺だけが高速で敵に向かって走る。
俺がライトタンクに向かっている間に、目と耳を潰されたドロント兵が味方からの弾丸を体に浴びて次々と死んでいく。
ライトタンクの1体が俺に左手のハンマーを振り上げたが、それよりも早く背後へと回り込んで攻撃を回避。
背中のジェネレーターにショットガンを放って、装甲を解体した。
装甲の解体後はねえさんに任せて、もう1体のライトタンクを標的に定める。
右手をショットガンのグリップから手を離し、左手を強く振って弾丸を装填。
近づくのと同時に、インプラントが切れた。
もう1体のライトタンクは、俺以外の全員の攻撃を喰らいながらも、右手の銃を俺に向けた。
少しだけ右に体を動かし、相手の照準を左へ傾けさせてから、味方が居る逆の方向へ飛び退く。
初弾を躱した俺を殺そうとライトタンクが体の向き変えて照準を修正。
ねえさん 『背中が丸見えよ』
一瞬のチャンスをねえさんが逃すわけがなく、背中のジェネレーターを狙って、スナイパーライフルのトリガーを引く。
ねえさんの放った弾丸がライトタンクのジェネレーターを撃ち抜いた。
「ギギャウ!」
装甲が剥がれて叫び声を上げたライトタンクに向かって、ショットガンを構える。
すぴねこ 『レスト・イン・ピース』
ショットガンの弾丸が、ライトタンクの頭を撃ち抜いた。
すぴねこ 『オールクリア』
ボス 『ドラ、爆弾を仕掛けろ』
ドラ 『あいよ。ここだな』
バグスを倒した後、ドラが対空砲の動力装置に爆弾を仕掛けた。
ドラ 『タイマーは5分にセットしたぜ。本当にギリギリだな』
時間を見れば、ミッション開始から53分が経過していた。
ボス 『脱出だ。全員エレベーターに乗り込め!』
『『『『『了解』』』』』
全員がエレベーターに乗り込んで下へと降りる。
すぴねこ 『なあ、下まで降りれば大丈夫だよな』
ドラ 『……このタワーの構造を知らねえから何とも言えねえな。だけど、対空砲のタワーだろ。火薬でいっぱいなんじゃね?』
ボス 『……地下に降りたら全員走って外へ出るぞ!』
その命令に、全員が真顔になって頷いた。
上がるときは時間なんて気にしていなかったけど、地下1階へ降りるだけで2分掛かった。
爆発まで残り3分。エレベーターのドアが開くと同時に全員が走り出した。
ミケ 『これ、間に合うの?』
すぴねこ 『ああ、間に合うよ。だから、お前だけゆっくり歩け』
親切に教えてあげたら、ミケが俺を腐れ外道を見る様な目で睨んで俺を追い越した。
地下1階の集荷場に入ると、上の方で爆発音が鳴ってタワー全体が揺れた。
ドラ 『間に合わなかったか!?』
ボス 『まだだ。地下が爆発するまで少し時間がある。急げ!!』
振動と落下物で危険な中を走り続けて、ようやく出口の明かりが見えてきた。
すぴねこ 『ゴール!』
チビちゃん『やったー!』
全員がタワーからの脱出に成功。さらに爆破に巻き込まれないように距離を取る。
安全な場所まで行き後ろを振り返れば、タワーは轟音と共に崩れ落ち、出口は爆破の炎で包まれていた。
ねえさん 『逃げてなかったら、死んでいたわね』
ボス 『なんにせよ、ミッションクリアだ』
全員が疲れ果てて、地面に倒れているとインフォメーションが現れた。
『ミッションクリア』
すぴねこ 『初見Sランククリアはしんどいぜ』
ドラ 『別に、2回目でSでも良いけどな』
ミケ 『ドラはこのミッション、もう1回やる気あるの?』
ドラ 『……ねえな』
ミケ 『私もよ』
軽く休憩した後、俺達はログアウトして戻る事にした。
結果
クリアタイム 59分52秒
死亡者数 0人
シークレットミッション オールクリア
判定
Sランククリア
報酬
クリアボーナス Sランク 10000D
取得スキルポイント Sランク 5ポイント(MAX)
初回Sランククリアボーナス 5000D




