第12話 ミッション1-2 その2
少数のドロント兵と数回戦いながら通路を進み、俺達は目的地の対空砲タワーの前に立っていた。
タワーは遠くで見たよりも高く感じて、目の前の入口の扉は固く閉ざされている。
そして、扉の前では血まみれのNPC兵士が、息も絶え絶えな様子で座っていた。
「はあ、はぁ。味方の援軍か?」
味方の援軍じゃなかったら、俺達が何に見えるのか問い詰めたい。
ボス 『ああ、そうだ』
ボスが答えると、負傷した兵士が話を続けた。
「すまねえ、このままだと死ぬ。メディック兵を呼んでくれ……ぐふっ!」
彼はそう言うと、咳き込み血反吐を吐いた。
ボス 『チビちゃん』
チビちゃん『はーい。とりゃ!』
ボスに頼まれて、チビちゃんがメディカルキッドを兵士の頬に向かって抉る様にぶっ刺す。
治療方法にやや難があると思うが、これで兵士の傷は快復した。
「メディック兵が居たのか、助かったぜ」
俺なら間違いなく治療についてクレームを言っただろう。
だけど、定例文しか言えないNPCは、文句ひとつ言わずチビちゃんに礼を言った。
そして、シークレットミッションクリアのインフォメーションが流れる。
これは、パーティーにメディック兵が居なかったりメディカルキッドが無かったら、最初のスタート地点のメディック兵を連れて来る必要があったのだろう。
ねえさん 『やっぱり。最初の治療所は、ただの親切じゃなかったわね』
ミケ 『往復したら間違いなく目標時間に間に合わなかったわ』
ドラ 『そんでもって、連れて戻る途中で敵が来てメディック兵が死ぬんだぜ』
チビちゃん『あるある』
傷が治った兵士が、起き上がると自己紹介を始めた。
「俺はスコーピオン小隊の通信兵、アンダーソンだ。隊長に言われてここで待機してたんだが、バグスの連中に襲われてね。全員、ぶっ殺したんだけど、俺も死に掛けちまった」
アンダーソンが自分の銃を拾いリロードしながら、話を続ける。
「他の皆はタワーの中へ突入したんだが、その後で扉が閉まって皆と連絡が取れなくなった。誰かあそこから登って、通気口から扉を開けて来てくれないか」
彼はそう言って、扉の左側にある高いコンテナを銃で指した。
ボス 『すぴねこ、ドラ』
すぴねこ 『あいよ』
ドラ 『それじゃ行ってくるぜ』
ドラがコンテナに寄り掛かり中腰になると、手を下腹部の辺りで組む。
助走をつけて手に足を乗せると、ドラが腕を振り上げて高く飛びコンテナの上に乗った。
コンテナの上から手を伸ばして、ドラを引っ張り上げる。
ツーマンセルでもう一段上に登り、塹壕から出て地表に移動した。
地表に出て通気口を探すと、すぐにそれらしい穴を見つけた。
すぴねこ 『通気口ってただの穴じゃん』
ドラ 『とりあえず穴に入ってドアを開けよ……って何か出てきた』
俺とドラが暗くて中が見えない通気口を見下ろしていると、ドロント兵が穴から這い出ようと頭を出した。
すぴねこ&ドラ『オラオラ!』
「ギジャイィィィ!!」
俺とドラでドロント兵の頭をゲシゲシ踏んで、穴の中に蹴り落とす。
すぴねこ 『爆弾投下』
グレネードのピンを抜き、手を広げてポイっと穴の中に落とした。
ドラ 『お前が死ぬまで、スリー、ツー、ワン』
すぴねこ&ドラ『ハッピーデッドデー!』
爆発音と共に、複数のバグネックスの叫び声が穴から聞こえてきた。
すぴねこ 『駆除終了』
ミケ 『会話を聞いているだけで、敵が哀れに思えてくるわ』
ドラ 『ミケがバクス博愛主義者だとは思わなかったぜ、キメぇ』
すぴねこ 『博愛主義も銃を持って語れば、ただの民族浄化政策にしか見えねえけどな』
ミケ 『なんでこのパーティーの男って全員捻くれてるのかしら』
ボス 『……俺もか?』
ねえさん 『私もかしら?』
嫌味を言ってきたミケに2人で冗談を言い返しながら、銃にウェポンライトを装着する。
それと、ねえさんは確実に捻くれている。
すぴねこ 『準備オッケー』
ドラ 『お嬢様、お先にどうぞ』
すぴねこ 『ご親切にどうも、おほほほざます』
通気口に飛び込んで中に侵入する。
ライトで周辺を照らすと、ドロント兵の死体と地球人の兵士の死体が散乱していた。
すぴねこ 『ここは精肉加工工場か何かか?』
ドラ 『こりゃヒデエ。メシマズ嫁の料理みてえだな』
周囲の警戒をドラに任せて、ドアの開閉スイッチを探す。
ドア付近の壁にあったボタンを見つけて押せば扉がスライドして開き、NPCのアンダーソンと一緒に外で待機していたメンバーが中に入ってきた。
ミケ 『会話から覚悟していたけど、酷い惨状ね』
すぴねこ 『化粧前の女と変わらねえよ』
「こいつはヒデエ。連絡が途切れたから嫌な予感がしてたけど、外に居て正解だったかもな」
アンダーソンがそう言うけど、お前も今しがたまで死にかけていたし、助けて欲しいと泣いていたのを忘れたか?
「まだ、奥に他の仲間が居るかも知れねえ。俺はここで救助要請をしているから、お前達で探してくれないか」
どうやら、今度は生き残りのスコーピオン小隊の兵士を探さないといけないらしい。アンダーソン、お前が行け。
アンダーソンの依頼を受けた後、入口の隅に置いてあったスコーピオン小隊の備品から、弾丸とグレネード2つを拝借する。
チビちゃん『奥も暗いね』
ドラ 『1階なのに明かりが無いのもなぁ』
ねえさん 『あら? 塹壕から入ったんだから、地下1階じゃないの?』
ドラ 『ああ、そう言えばそうだったな』
ミケ 『最上階までは遠いわね』
ボス 『時間が惜しい、奥へ進むぞ』
すぴねこ 『先行する』
全員の準備が整うと、俺を先頭に奥へと移動を開始した。
タワーの内部は暗闇で、左右の壁にはいくつものパイプ管が通っていた。
ライトが無いと全く見えず、真夜中の廃工場を歩いている様だった。
通路を進んで行き止まりの扉を開けると、薄暗い照明のあるバスケットコートサイズの集荷場の様な場所に出た。
俺達が居る場所は集荷場の南西側で、コンテナの隙間からライトを照らして北東側を見れば、奥へと続く通路が見えた。
そして、俺達が集荷場に入ると同時に北西の閉まっていた扉が開き、3体のドロント兵が叫び声を上げながら現れた。
すぴねこ 『コンタクト!!』
後方の味方に叫んで、直ぐに走り出し最前線のコンテナの裏に身を隠すと、ドロント兵の攻撃が俺に集中する。
俺が狙われている間に他の皆も身近な場所に身を隠し、銃撃戦が始まった。
ねえさんがドロント兵の1体を倒すと、同じ扉から追加のドロント兵が続々と現れた。
ボス 『ドラ! 嫌な予感がする』
ドラ 『どうした、嫁が不倫している証拠でも見つけたか?』
チビちゃん『私、そんな事してないもん!!』
ボス 『ちゃうわ!! こいつは他の場所からもバグスが来るぞ。地雷を仕掛けてこい』
ドラ 『そう言う事か。了解、フォローは頼んだ!』
ドラが隠れていた場所から南東へ移動を開始。他の皆はドロント兵を倒さず、けん制だけしてドラのフォローをする。
敵を倒さないのは、数を減らしてドラへの自爆突撃をさせないのが目的だった。
ドラ 『扉を見つけた。ボスが言った通り、コイツは来るぞ』
ドラが南東側で扉を見つけると、入口付近に地雷を設置して戻ってきた。
ドラ 『派手などっきりを仕掛けてきたぜ。まだスキルが低いから、全員殺せねえと思うけどな』
ボス 『足止めだけでも十分だ。すぴねこ、正面以外から敵が来たらフォローを頼む』
すぴねこ 『オッケー。一度「大成功」の看板を出してみたかったんだ』
ボス 『ねえさん、ミケ、反撃開始だ』
ミケ&ねえさん『了解』
射撃命中率の高い2人がボスの命令を合図に、ドロント兵を倒し始めた。
ドロント兵を倒して3体まで減ると、その3体が突入を開始。それと同時に、南東に仕掛けた地雷が爆発した。
南東の扉付近をライトで確認すれば、現れた6体のドロント兵の内、2体が地面に倒れていた。
すぴねこ 『ちゃっちゃらーん。大成功!』
「大成功」の看板がないので、替わりにグレネードを投擲する。
ドロント兵がグレネードを避けている間に、北西の敵がミケとねえさんへターゲットを絞ったのを確認。
攻撃を俺に集中させるため、南東のコンテナへ移動して身を隠した。
俺が投げたグレネードが爆発して、倒れていたドロント兵が死亡。
さらにショットガンで1体を倒すが、こちらの扉からも続々と新手のドロント兵が現れた。
すぴねこ 『南東エネミー追加』
ミケ 『北西もエネミー3体追加』
チビちゃん『ミケの、にゃ、アシスト、にゃ、する、うにゃー』
俺が戦っている間に、ドラ、ボス、ねえさんが南東への攻撃を開始して、次々とドロント兵を倒し始める。
ミケとチビちゃんは、北西から来た新手の敵に対応していた。
戦闘は長引いたが、こちらの損害はゼロ。北西の敵は殲滅、南東の敵も残り少なくなってきた。
ボス 『戦力の逐次投入は愚策だぞ、何を考えてる?』
すぴねこ 『バランス屋のボビーの事だ、それぐらいは分かってるさ。ドロントはバグスと言っても元々は地球人の改造人間だ。つまり……』
ねえさん 『つまり?』
すぴねこ 『俺達で例えるならば、無人ドローン兵器と同じだ。無人ドローン兵器は自軍の損害を減らすのが目的か? 違うな。本当の目的は突入前に相手の戦力を弱らせるのが目的だ。本命が来るぞ!』
ねえさん 『その通りね。南東、バーサーカー2!!』
ミケ 『北西、バーサーカー1』
ドラ 『北東、バーサーカー2と新規のドロントがいっぱい来た!!』
俺の予想は的中して、敵の総攻撃が始まった。




