第11話 ミッション1-2 その1
ミッションゲートを潜ると、俺達は移動中の装甲車の中に座っていた。
どうやら、ミッション1-1で海岸を制圧した場所から、目的地へ移動しているらしい。
状況を確認していると、操縦席のドアが開いて前回のミッションでも登場したNPCの軍曹が現れた。
俺達は騙されなかったが、前回この軍曹のアドバイスで地雷原にツッコみ死んだプレイヤーは多々多数。
今このゲームで一番嫌われているNPCは、間違いなくコイツだろう。
「どうやら、俺のアドバイスのおかげで、生き残ったようだな」
最初の一言目から煽ってきたから、全員が彼に向かって中指を突き立てる。
「計画だと地表に戦艦を下ろす予定だが、対空砲火が激しくて無理らしい。そこで、お前達は対空砲が密集しているタワーの1つに向かって無効化する命令が下った。俺からお前達に伝えるアドバイスは1つ。スナイパーには気を付けろ」
そう言うと、軍曹は操縦席へと戻った。
「なあ、今のどう思う?」
前回と同様にドラが質問してきたから、頭を左右に振る。
「どう考えてもバーサーカーが出てくるフラグだな」
「やっぱりーー」
俺が言ったバーサーカーとは、プレイヤーを見つけ次第突っ込んできて、腕に付けられた電流警棒を地面に突き刺し、自分も感電しながらエリア攻撃をしてくる厄介な敵だ。
もちろんコイツは、スナイパーとは真逆の存在。
「嘘も大概にして欲しいわね」
「きっと、そう思い始めたタイミングで、本当の事を言ってくるぜ」
「最低……」
ドラがミケに冗談を言うと、彼女は軍曹が消えた扉を腐った目で見ていた。
暫くすると装甲車が停まり後ろのドアが開いて、俺達は地面に降りた。
オートで強制的に降ろされたとも言う。
「ここから先は歩きだ。右手のタワーへ侵入して、最上階の対空砲を破壊しろ」
軍曹の指示に右方向を見れば、巨大な大砲が頂上に設置されている高いタワーが遠くにあって、今も空に向かって砲撃していた。
そして、俺達の目の前には、バグネックスが作った塹壕の通路が奥へと続く。
「いいか、よく聞け。味方の一個小隊が先行してタワーへ向かっている、彼等と合流しろ。それと、ここにメディック兵を待機させるから、負傷したら戻ってこい、コイツが体力を回復させる」
「……やけに親切ね」
軍曹の話を聞いたねえさんが眉をしかめる。
「かえって不気味に感じるな。まあ、それだけ今回はハードって事なんだろ」
「……そうね」
ドラが肩を竦めて答えると、ねえさんが納得のいかない表情で頷いた。
「皆、インカムを装備しろ」
ボスの命令で全員がインカムを耳に装着する。
チビちゃん『暗視ゴーグル付きのインカム買っちゃった。似合う?』
チビちゃんが明るいのに暗視ゴーグルを目に付けて自慢する。
すぴねこ 『もぐらと思うぐらい似合ってるぜ』
チビちゃん『それ褒めてるのかしら?』
すぴねこ 『もっちろん』
ミケ 『嘘つき』
ボス 『すぴねこ。先行してくれ』
すぴねこ 『了解』
ショットガンを背中から抜きリロードしてから、ポイントマンの俺を先頭に歩き始める。
塹壕は大人3人が並んで歩けるぐらいの幅で、左右の壁は高さ約2.5mの岩で出来ていた。
曲がりくねった塹壕を所々配置されている遮蔽物に身を隠しながら進むと、行く先に4体のドロント兵を発見する。
すぴねこ 『エネミー4、コンタクト』
報告してから、ドロント兵へ向かって走り始める。
移動中に背後から3つのレーザーポインターが伸びて、ドロント兵の頭部が赤く光った。
敵がこちらに気付くのと同時に、3体のドロント兵が頭を撃たれて地面に倒れる。
最後の1体が慌てて腕から生やした銃を俺に向けるが、撃たれる前にショットガンを顔面に撃って撃退した。
背後を見れば、ミケとチビちゃんのM4とねえさんの短銃に、レーザーポインターが付いていた。
どうやら、3人は前回の報酬で購入したらしい。
すぴねこ 『クリア。んで、レーザーポインターっていくらだった?』
ミケ 『4000Dだったけど、もしかしてショットガンに付けるの?』
すぴねこ 『……付けねえな』
VRが流行る以前のTPSだったらアリだけど、FPSで射程の短いショットガンだとそこまで欲しくはない。
ドラ 『何故に聞いた?』
すぴねこ 『好奇心』
ボス 『……は猫を殺すか? 先へ進むぞ』
ボスが上手い事を言ったが、誰も笑わない。
すぴねこ 『了解』
更に塹壕を進んで行くと、広い場所が見えてきた。
広場の入口前のコンテナからこっそり確認すれば、ドロント兵が柱やコンテナの裏に隠れていて、俺達を待ち構えているらしい。
すぴねこ 『数は20体以上居るんじゃねえか? フラッシュを使うぜ』
ボス 『了解』
腰からフラッシュバンを取り出してピンを抜く。そして、広範囲に届くよう高く放り投げた。
コンテナの裏に隠れて2秒後、フラッシュバンが空中で爆発して閃光が一瞬だけコンテナの影を伸ばす。
ボス 『ゴーゴーゴー!!』
ボスの号令を合図に、広場へと駆け出した。
一番近い敵へ向かい、目と耳を押さえて蹲っている敵に向かってショットガンをぶっ放す。
そして、倒した敵が隠れていた遮蔽物に張り付き、再び近くの敵に銃を撃って2体目を倒した。
俺が2体倒している間、ねえさん以外の4人が手短な場所に身を隠し銃撃を開始。
ねえさんは、俺が突入前に隠れていたコンテナの裏でスナイパーライフルを構えると、グレネードの範囲外に居た敵から順に倒していた。
ねえさん 『バーサーカー!!』
ねえさんの叫び声に敵を確認すれば、右手の奥からドロント兵と容姿は似ているが、腕の銃がなく、その替わりに鉄棒を生やした敵が走って来ていた。
ミケ 『ドラ!!』
ドラ 『あいよ!』
2人がバーサーカーを狙って銃を撃つ。
胴体を狙ったドラの銃撃をサイドステップで躱したバーサーカーだったが、その直後にミケのM4から放たれた弾丸が頭を撃ち貫いた。
チビちゃん『こっちにも来たにゃ!』
最後の「にゃ」は銃を撃ったタイミングで漏れた声だと思う。
チビちゃんが居る左手を見れば、どこから来たのかバーサーカーが俺に向かって近づいていた。
動きを封じようと膝を狙ってショットガンを放つが、バーサーカーはサイドステップで躱し目前まで接近された。
すぴねこ 『やばっ!』
敵が腕を振り下ろすのを見て、咄嗟にインプラントを発動して高く飛ぶ。
スローモーションで動くバーサーカーの頭に足を掛けて土台にすると、後方へ飛び退いてこの場を離れた。
直後、バーサーカーの鉄棒が地面に突き刺さり、半径3mの地上でスパークが発生。
すぐにチビちゃんが銃を撃って、自分の放電で痙攣しているバーサーカーを倒す。
一方、俺はギリギリで電流を回避すると、ドロント兵の攻撃を掻い潜ってチビちゃんが隠れている岩場まで逃げ延びた。
チビちゃん『よく生きてたね』
すぴねこ 『まあ、慣れてますので』
逃げている最中、ドロント兵に撃たれて、視野の外周が暗く血痕が表示されて狭くなっていた。
このゲームで撃たれると指先で押されたぐらいの痛みしか感じないが、それだとダメージ量が分からないため、視野が狭くなるよくある仕様だった。
すぴねこ 『後で治療してね♪』
チビちゃん『はーい』
バーサーカーが居なくなって味方の数が半数を切ると、ドロント兵が自爆の突撃を開始した。
ボス 『斉射!』
ドロント兵が突入で撃たなくなるのと同時に、ボスが立ち上がり機関銃を構えて撃ち始める。
ミケとドラが右手を、俺とチビちゃんが左手を、ボスとねえさんが中央を集中攻撃して、ドロント兵は自爆する前に全滅した。
チビちゃん『お注射ですよ。動かないでくださいね』
すぴねこ 『やさしくお・ね・が・い』
チビちゃん『すぴねこ君なのに、顔がイケメンだから嬉しいわ』
チビちゃんがメディカルキッドをむんずと掴んで、俺の額にドスッと突き刺した。
なぜ、おでこ? それと扱いが乱暴じゃね?
このメディカルキッドは、バグネックスの高度なバイオテクノロジーから開発された化学薬品で、拷問の末に両手両足を切断されて死に絶える寸前でも、コイツを刺せば両手両足がにょきにょき生えて、たちどころに回復するお薬だった。
ただし、体の傷は回復しても心の傷は治らない。
チビちゃん『はい、全回復』
すぴねこ 『インプラントを足じゃなくて腕にしとけば、装填が間に合ったんだけどなぁ……』
ミケ 『無事に逃げれたんだから、足にして正解だったと思うわよ。それで、敵のダメージ量はどんな感じだった?』
すぴねこ 『2発当たったから、あの感じだと1発で20%ぐらい減ったんじゃないかな』
ねえさん 『それだと、レベル20ぐらいね』
すぴねこ 『そのぐらいかな? ヘッドショットを喰らってもギリギリで耐えられるから、優しいと思うぜ』
ドラ 『現実だと1発で死ぬから、確かに優しいな』
ヘッドショットは通常の4倍ダメージを喰らうから、一番攻撃力の低いドロント兵の銃弾でも頭に受けたら瀕死になる。
ちなみに、敵の自爆とバーサーカーの電撃は、どんなに強化しても即死。酷い仕様だと思う。
ボス 『急ごう。できれば30分までにタワーに着きたい』
ボスに言われて時間を見れば、まだ目的地に着いてないのに15分経過していた。
全員がボスに『了解』と答えると、俺達は広場の先に見えた奥へ続く塹壕の通路へ向かった。




