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『ワイルドキャット・カンパニー』 ~俺達、過疎ゲー、ゲーマーズ~  作者: 水野 藍雷
第1章 過疎ゲームの6人
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第10話 天才プログラマー その3

 AAW2からログアウトすると汗を掻いていた。なるほど、確かにドラが言う通り体力の消費が激しい。

 シャワーを浴びて服を着替え、飯を食う。今日の昼飯は、お茶漬けとたくあん。

 貧乏飯だと言われるが、作るのが楽だし、ゲームをしている時は食べる量を少なめにしているから、このぐらいが丁度良い。

 それに、お茶漬け大好き。


 再びAAW2にログインしてスマホで皆の状況を確認すると、全員集合していた。

 彼等が集まっている第182兵士サロンへ移動する。


 だけど、182までルームが増えているという事は初日に、約182万人が同時接続しているという事か……。

 パッケージの価格が39ドル。ダウンロード販売で200万本売れたらしいから、売り上げが7800万ドル。日本円にして約78億円。

 ビショップからノリでやったと聞かされた時は呆れたが、たった300万ドルの見せ金で、26倍の売上が出たのは、本気で凄いと思う。







 兵士サロンで目印の黒人ハゲを探せば、部屋の端のテーブルで皆と一緒に座っていた。


「ほい、お待たせ」

「おう、来たか」

「3分遅刻ね」


 ボスに挨拶すると、ミケが汚物を見る様な目でジロっと睨んだ。


「面倒くせえ女だな。飯を作るのに時間が掛かったんだよ」

「へぇ。すぴねこ君って自炊するんだ。何を作ったの?」


 チビちゃんの質問にニッコリと笑う。


「お茶漬け」

「時間なんて掛からないじゃない」


 ミケの文句を無視して空いてる席に座ると、ボスが話しかけてきた。


「ドラから話は聞いた。ミッション1-1でショートカットが出来るらしいな」

「俺が聞いた情報は、それだけじゃないぜ」

「分かった。全部聞こう」

「全部のミッションをSランクでクリアしろ、だとさ。理由までは聞けなかったが、あのニュアンスだと最後に何か仕掛けがあるぞ」

「ラスボスの強さが変わるのかしら?」


 ねえさんの質問に対して、頭を横に振る。


「それは知らん。だけど、ラスボスが強くなるならアイツは素直にそう言う。だから、他のギミックがありそうだ。例えば、同時に沸く雑魚の数が変わるとか、遮蔽物が減ったりするとか」

「それはあり得るな」


 ボスが頷くのを見て、話を続ける。


「と言う事で、現状Sクリアせずに進んでる連中は無視して構わねえと思ってる」

「俺もその意見に賛成だ。他に情報は?」

「暴走モードはシナリオ2かららしい」

「え? そんな早くから暴走するの?」


 驚くミケに肩を竦める。だけど、彼女が驚くのは当然だろう。

 シナリオ1は全部で4つ。つまり、5つ目のミッションで前作AAWのレベル50相当の敵と戦うとなると、俺達でもかなり苦戦する。


「らしいぜ。アイツ等も簡単に300万ドルをあげるつもりはねえって事だ。まあ、俺なら最初から暴走させて、1つのミッションもクリアさせずに、パッケージ代だけぶんどるけどな」

「そいつはクソゲー以下だな。で、すぴねこ。要するに、シナリオ1である程度装備を整えた方が良いという事だな」


 ボスの確認に頷き返した。


「俺は丸裸で暴走モードの敵と戦いたくはないね」

「それは、全員同じだって」


 ドラが呟くと、全員が頷いていた。


「俺からの情報は以上だ」

「分かった。これからの方針に十分役に立った」


 ボスに向かって片方の口角を尖らせる。


「報酬は俺の分の賞金の分け前を少し増やしてくれるだけで良いぜ」

「私達が支払う税金を全額負担してくれたら、良いわよ」

「おっと、そいつは逆に赤字だ」


 チビちゃんのツッコミに、両手を上げて降参した。







「お前が居ない間に、6パーティーがミッション1-1をSクリアしたぜ」

「182万ユーザー居るんだから、そりゃクリアするだろ」


 ドラからの報告に軽く肩を竦める。


「ちなみに、その内の1パーティーがパンツァーだ」

「皮肉屋も動いたか。ドイツ人がノルマンディーの侵攻側とかクソ笑えるぜ」

「硫黄島のミッションもありそうだな」

「なんかアメリカだけ良い立場じゃねえか。公正を期すために、サイゴンでも堕とすか?」

「そのアメリカだけど、今ミッション1-3までクリアしてトップを走ってるのが、暴走パトリオットの連中だ」

「アイツ等は何でも1番じゃねえと、悔しくて夜も眠れねえんだろ。もう国家ぐるみの病気だな」


 俺とドラが冗談を言い合っていたら、ボスが手を叩いて止めに入った。


「お喋りはそこまでだ。まず、最初に確認しよう。今の状態で、暴走モードの敵と戦って勝てる自信のあるやつは居るか?」


 ボスの質問に全員が首を横に振る。


「では、勝つために必要なのは何だ?」


 再びボスが質問すると、全員がそのボスをじーっと見た。


「……何だ?」

「はよ、サイボーグになれ」

「そだそだ」


 俺の突っ込みにチビちゃんが相槌する。そして、他の3人もチビちゃんと一緒に頷いていた。


「無理だ。一番安いサイボーグ1か所で10万D以上、スキルも10ポイント使う。まあ、お前らが周回に付き合ってくれるなら、構わねえけどな」


 ボスが俺達を見るのと同時に、全員が親指を下にしてサムズダウンで拒否。


「ひでえチームだ」

「シナリオ1でどれだけ周回させるつもりだよ。皮肉屋が動いたんだぞ。ミカエルの野郎は見た瞬間にぶん殴りたくなる様な性格だけど腕だけは確かだから、追い付けないぐらい先を行かれるぞ」

「……ぐぬぬ」

「黒人ハゲのぐぬぬは、マジキメエ」


 ぼやくボスにツッコめば、ドラが追い打ちしていた。


「ねえ、ボス。AAWの頃のすぴねこみたいに、全身アーマーにして防御力を上げるだけじゃダメなの?」

「確かにサイボーグよりも安上がりだけど……」


 ねえさんの提案に、ボスが腕を組んで考える。


「ねえさんはスナイパーで着てなかったから忘れていると思うけど、アーマーはサイボーグと比べればコストは安いけど、デメリットもあるぞ」

「そうなの?」

「どんなに安いアーマーでも重量制限に引っかかるんだよ。俺や皆は積載量増加のインプラントを入れて装備してたけど、ほら、インプラントとサイボーグって両立できないだろ。だから、ボスがサイボーグになるときは、インプラントに使ったスキルポイントは捨てる必要があるぜ」

「そう言えばそうだったわ。そう……5ポイントは厳しいわね」

「それにサイボーグより柔らかいし、何よりもサイボーグは自己修復があるのが一番の強みなのに、それが無いのはキツイ」

「そうなのね……」


 俺のデメリットを聞いて、ねえさんがため息を吐く。


「だったら、頭だけサイボーグにしちゃえば」

「それだけは絶対に断る!!」


 チビちゃんの提案に、ボスが全力で拒否。

 ちなみに、俺とねえさんはAAWでボスがサイボーグ化する過程を見ていたから、その時の容姿を思い出して笑いを堪えるのが辛かった。







「よし、決めたぞ。サイボーグは後回しで、先にアーマーを装備する」


 しばらく考えていたボスだったが、少しでも防御力を上げる方を優先したらしい。


「それでアーマーは幾らだ?」

「最低のは本当にゴミだから、買うならランク3のアーマーだけど、それだと積載量増加のインプラントチップをランク2にする必要があるから……しめて63000Dは必要だな」

「そんなに高いのか……」


 ドラの見積もりにボスが項垂れる。


「ミッション6回ぐらいで揃えられるって考えれば、気が楽になるんじゃないかしら?」

「まあ、ランク3の装備はまだ買えないけどな」


 ミケが励ます直後に、再びドラが谷へと落とす。


「……そうなのか?」

「ランク3のインカムを買おうとしたら、クリアランクが足りずに、ランク2までの装備しか買えなかったぜ」


 ボスの確認にドラが肩を竦める。


「それ本当? ショップで所持金以上のアイテムが暗く表示されていたのって、お金が足りないだけだと思った」


 今の話を聞いてミケが驚いた。


「最近のプロゲーマーのチームは、サポートメンバーも充実してるからね」

「サブチームで集めた金でレギュラーチームの装備を強くさせて攻略するから、その対策じゃねえか?」

「そうか……」


 最後にチビちゃんとドラが話していると、ボスが考え始めた。


「よし、今までの話を纏めるぞ。シナリオ2に向けた強化をしながら、ミッションを進めるという方針で良いか? それで、もしかしたら、シナリオ1のどこかでショップのランクも上がるかも知れん」


 ボスの提案に全員が頷く。


「今日は続けて1-2のミッションをやるが、明日からは1-4まで1日1ミッションのペースで進めてSランクを狙う。そして、余った時間でミッション1-1を周回して金を稼ぐぞ」

「「「「「了解」」」」」


 全員がボスに頷いてから席を立ち、ミッションカウンターでミッションを受注する。

 俺達が受けたのはシナリオ1のミッション2。制限時間90分。目標時間は60分。ミッション名は『破壊』。

 今回のミッションは、敵の対空砲を破壊するのが目的だった。

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