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銀色の渡り鳥~異世界に召喚されたけど価値観が合わないので帰りたい~  作者: 紺名 音子
本編

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第61話 自由に飛ぶ鳥への警告


「……帰る方法があるの?」


 ネーヴェの問いかけの中で気になった言葉を聞き返す。


「もしもの話です……産んだ子どもを見捨ててでも、帰りますか?」

「……見捨てるって言い方はおかしくない? この世界でツヴェルフが産んだ有力貴族の子どもは次代の当主としてそれはそれは丁重に扱われるんでしょ? 今の言い方だと見捨てられたのは伴侶に裏切られたツヴェルフの方だと思うけど?」


 私の問い返しに対してネーヴェはただ黙って私を見据え、答えを待っている。もう私の質問に答えるつもりはないんだろう。


 伴侶の裏切りをスルーしてツヴェルフと子どもの関係に拘るところに物凄い違和感があるけど――そこにこだわってネーヴェの好感度をこれ以上下げるような真似はしたくはない。


 そもそも今の時点で地球に帰ろうとしてる私にそれを問われても――というのが素直な返答なんだけど、今はそれを言える状況でもない。


 ネーヴェから視線を外して白い天井を見上げ、もう一度聞かれた内容を思い返し自分なりの答えを出してみる。


「……元々愛の無い関係であれば相手が誰を愛そうが関係ない。自分はこの世界に残って一生贅沢謳歌してやろう、なんて考え方ができるかもしれないけど……」


 愛する人に裏切られた世界に、自分がいなくても子どもは丁重に育てられる世界に自分が居続ける理由を、価値を見出せるかどうか。


 いくら生活の保障がされていても、例え愛を向けてくれる子どもが複数いようとも、この世界で自分が生きる意味を見出せなければ――


「……私は、帰ると思うわ」

「それは、何故……」


 ネーヴェの言葉と同時に、ドアをノックする音が響く。ネーヴェがドアの方に向かうと低い男の人の声が響いた。


「ネーヴェ様、皇太子様がお呼びです」

「……分かりました」


 少し開いたドアから僅かに会話が聞こえる。これはもしや――チャンス到来?


「……アスカ、僕は今から部屋を出なければなりません。副作用も無さそうですし体調が落ち着き次第自室に戻って頂いて構いません」


 そう言ってネーヴェは部屋から出て行った。


(やった……!!)


 好感度の面では大分失敗してしまった気がするけど、結果的に望んだ状況を手に入れる事ができた。改めて心の中で盛大なガッツポーズを決める。


 でも忘れ物、とか言ってここに戻ってくる可能性もある――油断は禁物だとベッドの中で20秒程数えて、特に足音など聞こえてこないことを確認してから静かに起き上がり、机の下の段ボールを開く。


 年季が入った段ボールの中で、雑誌が綺麗に積まれている。

 一番上の埃を被った編み物雑誌や料理雑誌の表紙に手が触れないように気を付けながらそっと持ち上げると、それらの雑誌の下に何冊か形が揃った厚めの本が4、5……6冊、積まれている。


 一番手前の物には<diary>と記載されている。恐らく、優里が求めているのはこれだと直感する。

 もう1冊位抜いても誤魔化せそうだと判断し、今度は一番下の方に積まれている物を多少苦戦しつつ抜き取る。


 確認しなければならない物をこっそり抜きだす事への罪悪感がすごいけど、これを放置するのは危険すぎる。


 いつネーヴェが戻ってくるか分からない状況で悠長に中身を確認出来る程の時間は無い。

 後1冊――といきたい所だけど一度ネーヴェはこの段ボールを開いて料理雑誌を取っている訳で、形が崩れて不審に思われる可能性を考えると冒険はできない。


 後はもう残りの分に変な事が書いてない事を祈るだけ。減った分の段差を他の本をズラす事で誤魔化して雑誌を元に戻した後、抜き取った2冊をベストの下に仕込みお腹を抱えるようにして持つ。


 そしてちょっとお腹痛い感じを装いつつ、ネーヴェの部屋を出て自分の部屋へと向かう。



 途中、室外訓練場でアシュレーとレオナルドが言い合いになっているのが見えた。アシュレーの後ろには斧を持ったアンナがいる。


 多分レオナルドが今朝私にした注意を今度はアンナにしたんだろう。そこをアシュレーが遭遇した感じだろうか?


 どんな展開になるか興味がないと言えば嘘になる。けど今私に気づかれたらより厄介な事になるのは目に見えているし、今はこの本を無事に自室に運ぶ事を優先しないと。


 幸い、本を抱えている途中誰とも遭遇することなく自室に戻る事が出来た。本はセリアに気づかれないように早々に机の引き出しに片づける。


(本は夜、優里に渡しに行くとして……今は大人しく横になっていた方が無難かしら?)


 ネーヴェに安静にしているよう言われた手前、今から部屋を出るのも憚られる。再びベッドに横になって、一つ深呼吸する。


 薬のおかげだろうか、もうあの時感じた孤独感は消え失せている。あの時思ったことをもう一度思い返してみても、心追いつめられる感覚もない。


 という事はやはりメアリーやネーヴェが言った通り、突然襲ってきた孤独感や焦燥感は黒の魔力がもたらしたものなんだろう。


(これは……アンナの性格が変わるのも、頷けるわ……)


 白の魔力が負の特性を持つ物じゃなかったから今いちピンときていなかったけど、黒がこれなら赤も相当強い特性を持っている気がする。


 それにアンナは私よりずっと魔力を注がれている。自我に影響を及ぼす事は滅多にない、とメアリーは言っていたけど本当に大丈夫なんだろうか――?


 そこまで考えた所で、ドアをノックする音が室内に響く。


「アスカ様、いらっしゃいますか?」


 セリアの声に身を起こし、ドアを開けるとセリアと――今最も会うことを避けたい人――ダグラスさんが立っていた。



「飛鳥さんが体調を崩されたと聞いたので様子を見に来たのですが……大丈夫ですか?」


 そう言って私を見つめるその姿は、普通に気遣っているように見える。でも先程の私の孤独やら疎外感は彼の魔力から来る物だと思うと、得体の知れない恐怖を感じる。


「だ、大丈夫です……」

「……その体調不良について、飛鳥さんにお話ししたい事があります……今少し、お時間いただけますか?」


 視線をそらして、短く答えるとダグラスさんはそう言って横目でセリアを見やる。セリアを同席させるな、と言いたいのだろう。


 部屋の時計を振り返ると夕食の時間まで、約30分。その位あれば十分だろう。


「……分かりました。セリア、夕食の時間になったらまた呼びに来てくれる?」


 正直ここでセリアを遠ざける事が心細いけど、30分だ。

 ダグラスさんの話を聞いて、こちらの聞きたい事を聞けばあっという間にその位過ぎてくれるだろう。


「メアリー様から今のアスカ様にくれぐれも無理させないよう言われていますので、時間になったら夕食を部屋までお持ちしますね。それでは、私は失礼いたします」


 セリアはそう言うと一礼して去っていき、そのままダグラスさんを部屋に入れる。


「もし座るのが辛いようなら横になって頂いても構いません。飛鳥さんの楽な姿勢で聞いてください」


 こんな状況でベッドで横になる訳にはいかない。慌ててテーブルの椅子に座る。


「そんな警戒なさらずとも……私はまだ貴方を抱けません。けして襲ったりしませんから辛くなったらいつでも横になってください」


 そう言ってダグラスさんは私に向かい合うようにして座り、私をじっと見据える。最初見た時は綺麗だと思ったその濃灰の眼が――今は少し怖く感じる。


「……正直、この程度の魔力差で体調を崩されるとは私も予想外でした。この様子では片方の器いっぱいに白の魔力を満たしてからじゃないと私が魔力を注ぐのは厳しい……」


 そう言ってダグラスさんは長い溜息をついた。多分私の中にある白と黒の魔力を見比べたんだろう。


「……今日はクラウスにある程度白の魔力を注がれたはずです。それを何故消費したのですか?」


 いぶかし気な視線を向けるダグラスさんの言葉に激しい違和感を覚える。


「何で注がれた事を知っ」

「私が聞いた事に答えてください」


 質問を遮るように被せられた言葉が、威圧的な眼差しが、彼の背後に感じる黒の魔力が、追及を許さない。


 彼の怒りに呼応するかのように、足が、震える。

 困った。私の体は私が思っているよりずっと臆病みたいだ。


「ま……魔法を使ってみたくなりました」


 迂闊な言い訳を考えた所で墓穴を掘る気がして、短く答える。


「昨日は訓練場で武器を触っていたと聞きましたが、それは?」

「また魔物に遭遇した時に、ちゃんと武器を扱えるようになりたいと思って……」


 その事も伝わっていたか、と予め用意しておいた答えを返す、が――


「貴方が魔物と遭遇した時は私が守ります。魔法を使うのも武器を触るのも、即刻やめて頂きたい」


 頂きたい、なんてお願いするように見えて実際は命令するように言い切られた言葉とダグラスさんの圧によって反論する事さえ憚られるほどの重苦しい空気が漂い、部屋全体を包み込んだ。



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