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銀色の渡り鳥~異世界に召喚されたけど価値観が合わないので帰りたい~  作者: 紺名 音子
本編

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第60話 ツヴェルフの幸せ


 一瞬幻でも見ているのかと思って何度か瞬きして改めて注視してみるも、やはりその文字の形は変わらない。


「……ネーヴェ、何読んでるの?」


 自分の精神が落ち着いてきた今、何故そんな本がここにあるのかが気になって仕方がない。


「先程届いた、ユーリが希望した転送物です。どうしてもこちらに持ってきたい本が入っているとか」


 そう言うネーヴェの足元に視線をずらすと、蜜柑のイラストと日本語で大きく「みかん」と書かれた茶色のややくたびれた段ボールが置かれている。

 私が冷蔵庫の中の物の転送を依頼したけど、優里はこの段ボールを依頼したようだ。


「それ……勝手に読んじゃうの?」

「アスカの荷物もそうでしたが、本人に渡す前にこの世界に危険を及ぼす物ではないか確認する必要があります」


 ネーヴェはこちらの方を向かず、ページをめくりながら答える。

 愛読してた漫画や小説を読みなおしたい――純粋にそういう気持ちで頼んだのならいいんだけど、優里がどうしてもこちらに持ってきたい本となると(もしかしておばあちゃん関係の物じゃ?)と思ってしまう。


(私の思い過ごしなら、いいんだけど……)


 でも今ネーヴェが読んでいる料理雑誌の表紙は若干色あせていて年代を感じさせる。

 もし、おばあちゃん関係の物で、もし、この世界の事が綴られているような物だったら?


 ネーヴェ達や神官長、皇家がどういう行動に出てくるかが分からない今、これを思い過ごしで流すにはあまりにも心配だ。

 ネーヴェに全ての本の内容を確認される前に、何とかして優里が望んだ本を探して抜き取れないだろうか?


「ね、ねぇ、ネーヴェは優里と婚約したらどこ行くの? 塔に戻るの?」


 ネーヴェが優里が望んだ本とは全く関係なさそうな料理雑誌に目を通している間になるべく時間を稼ぎたい。

 雑談している間にトイレとかで席を外してくれないだろうか?


「……まだ決まった訳ではありませんが、定期的に皆さんがいる屋敷に行く事を考えたら、このまま城に残る事になると思います」

「へぇ……」


 城に残るなら皆皇都にいる事になるし、何かあった時に会いやすい。他に今ネーヴェに聞きたい事は――と考えていると、


「……アスカに一つ、お願いがあるのですが」

「な、何……!?」


 意外な事にネーヴェから話しかけてきた。雑誌から視線をこちらに移した事に、内心小さくガッツポーズをする。

 これは全力で聞いて話を引き延ばして時間を稼ぐ、願ってもないチャンスだ。


「……昨日、ユーリから僕と婚約したいと言われました。ですが、まだ僕は子を成せる年齢ではありません」


 これは――ユーリに婚約を諦めるように説得してほしい、って事かな? 内心厳しい相談だな、と思いつつどう答えようか悩んだ所でネーヴェの言葉が続く。


「なので先にリビアングラスの嫡男と子を成してはどうかと伝えたのですが、ユーリはそれは嫌だと頑なに言うので……アスカから説得してもらえませんか?」

「え、ごめん、無理」


 頭で無難な断り文句を考えるより早く、口から断りの言葉が飛び出していた。


「そうですか……」

「じ、自分がまだ子作りできないからって、好きでもない相手と子作りさせなくてもいいんじゃない?」


 私の返答にネーヴェは素直に引き下がり、再び雑誌に手を伸ばそうとした所に言葉を重ねる。

 お願いは聞けないけど、もう少し話を引き延ばしたい。


「僕が大人になるまでまだ数年かかります。ユーリはその間に1人でも多く子どもを産んだ方が良い。レオナルド卿は地位的にも性格的にも身体的にも、ツヴェルフの相手として申し分ありません」


 私の問いかけにネーヴェは手を止めて淡々と答える。優里が婚約を希望する理由を知っている手前、ネーヴェの考え方にあれこれ言う事は出来ない。


「僕はまだ恋愛がどんな物かよく分かりません。いつか僕も誰かに恋をしたり愛したりする事になるとは思いますが……その対象がユーリになるとは限りません」


 さっきから10歳前後の子どもとは思えない台詞を抑揚のない声で淡々と放つネーヴェにちょっと寒気を覚える。


「孤独なツヴェルフは一人でも早く血を分けた子どもを産んだ方が良い。伴侶との間に愛があろうとなかろうと己の血が繋がった子どもとの絆は、伴侶よりよほど特別な物になるはずです」

「それ……もしかして優里の為に言ってるの?」


 ネーヴェ自身が優里との婚約を快く思ってない訳ではなく、あくまでも優里自身の事を思いやっている発言なのだという事は、何となく分かる。


「僕が他の誰かと恋に落ちた時、僕との子以外にも血を分けた子どもが複数いればユーリは寂しい思いをせずにすみます」


 確かにアシュレーやアーサーさんのように同じ家に母親が住んでいる場合で、かつ親子仲が良ければネーヴェの言わんとしてる事は分からないでもない。


「でも違う家の子どもを複数産んだ所で、大半の子とは離れ離れになる訳でしょ? ただ産みの親、ってだけの存在に絆も何もあったもんじゃないと思うけど……」

「例え遠く離れていようとも手紙や面会等でツヴェルフ自身が子どもと向き合い、愛すれば子どもも自然と母であるツヴェルフを愛し、敬うするようになります。皇家としてもツヴェルフが良好な親子関係を築く事への援助は惜しみません」


 特に感情が籠っていなかった語調に、少し熱がこもる。


「何一つ不自由しない環境でたくさんの子どもから愛される事こそツヴェルフにとって何よりの幸せのはずだ、と僕は祖父から教えられました」


 まだあどけない子どもがそれを何の躊躇も無く言える事に薄ら寒い恐怖を感じる。


「うーん……私は人の孤独の全てを我が子で満たせるほど、子どもが万能な存在とは思えないわ」


 親の立場になった事が無いから、親から見た子どもがどういう物なのかよく分からないけど――少なくとも私自身は、親にとってけして万能な存在ではなかったと思う。


「……アスカにとって、子どもはそれほど重要な存在ではないと?」

「お互いに向き合って大切にしあえるような親子の絆が強く尊いものである事は否定しないけど……流石にそこまで神聖化して語られるとちょっと薄気味悪いわ」


 この世界に来たツヴェルフにとって確かに自分の子どもは唯一家族と呼べる存在な訳で、そう考えると伴侶より子どもとの絆を重視する価値観も分からなくはない。


 単純に子どもの数も多い方が心の拠り所も増える。自分の感情を抜きにすればネーヴェが言っている事は道理にかなっている。


 でも――自分の感情を抜きにして生活する事なんて出来はしない。私はその条件下で自分が幸せになれる気がしない。


「ねぇ……その『贅沢な暮らしと子どもこそがツヴェルフの幸せ理論』、優里にも言ったの?」


 私の問いかけにネーヴェは小さく頷く。


「他人の幸せに難癖つけるつもりは全く無いけど、そんな風に説得された所で私もレオナルドの子どもを産む気にはならないわ」

「何故です? 狩りに同行して2人の様子を見守っていましたが、レオナルド卿はツヴェルフに対し敬意を持ち丁重に接していました。けしてそこまで拒絶されるような人間では……」


「だってあの人恋愛結婚してるんでしょ? 私は、どれだけ丁重に扱ってくれようと贅沢させてくれようと、自分に愛を向けてくれない男の子どもを産むなんて絶対に嫌。私は、私を一番に想ってくれて、誰より大切にしてくれて、他の女に一切目を向けない男じゃないと嫌だわ」


 それは女性が自分の子どもを意識した時に誰もが一度は思い、願う事ではないだろうか?


「……アスカは重いんですね」

「重っ……!?」


 少年の率直な言葉が心に突き刺さる。


「しかも我儘で欲張りだ。相手の伴侶を気遣うユーリと大違いです」


 ああ、ユーリは奥さんを気遣う感じで断ったのか。私もそっちの方向でいけば良かった。

 今ので間違いなく私に対するネーヴェの好感度は下がった気がする。


 だけど――最低限の条件を言っただけでここまで言われたら流石にショックだ。

 これに『社会的にも精神的にも経済的にも自立してて、家事も率先して行って、清潔感があって、疲れた時や寂しい時に思う存分甘えさせてくれる男が良い』と理想の男性像まで語ってたらどれだけ辛辣な言葉を吐かれたんだろう? 想像するのが怖い。

 子ども相手にそこまで言っても空しいだけだと思って、言わなくて正解だった。


「……アスカは、もしこの世界でそういう男性と出会ってその人の子どもを産んだ後、相手が別の女性を愛したらどうしますか? 子どもを置いてでも自分の星に帰りたいと思いますか?」


 そう言って真っ直ぐに私を見下ろすネーヴェの目には僅かに、嫌悪の感情が見えた。


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