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銀色の渡り鳥~異世界に召喚されたけど価値観が合わないので帰りたい~  作者: 紺名 音子
本編

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第51話 授業・マナアレルギー


 部屋に戻り、セリアから浴室の魔道具の使い方を教えてもらう。

 魔力を集中させた手で魔道具に触れてどうしたいかを念じる、という思ったより単純な仕組みだった。


 これでお風呂に入る際にお湯を熱くしたい時とかぬるくしたりしたい時に自分で調節できると思うと嬉しくて、何度か試すうちに上手く作用しなくなる。


「あら……もうアスカ様の中にある魔力が尽きかけてますね」

「綺麗に使い切るのって難しいの?」


 セリアが目を薄くしてじっと私を見据える。


「そうですね。ちょっと魔力が残ってるのは見えるんですけど、所々に張り付いてる感じで……アスカ様は自分の魔力を作り出せないので、これを綺麗にするのは難しそうですね」


 押し出すだけの魔力が無ければ器にこびりつく――中々綺麗に使い切れないマヨネーズや歯磨き粉みたいな感じだろうか?


「魔法もある程度魔力が集まらないと発動させられないので、今日は魔法の訓練も難しいです……筋肉痛との事なので無理はさせられませんが、夕方の自由時間は訓練場で一通り武器を触ってみますか? 書物で学ぶにしても先に実物を触っておいた方がイメージも掴みやすいでしょうし」

「そうね。私今まで武器を持った事が無いから、実際どんな感じなのか早く持ってみたい」


 早々に夕方の予定を決めた所で、教室へと向かった。




 教室に入ると、既に前の座席に優里とアンナが座っていた。ソフィアがいないからアンナは前の席に移ったのだろうか?

 特段気に留める事なくいつもの席に座り、私にはどんな武器でどんな戦い方が合うだろう? と考えているうちにメアリーが入ってきた。


「ソフィア様は今朝コッパー侯爵家に向かわれました。彼女には城に戻り次第補修を受けて頂きますので、今日は先日お話ししそびれた子づくりの際の注意事項からお話しいたします。その前に……」


 メアリーは私とアンナを見やり、微笑みながら問いかけてきた。


「アンナ様とアスカ様は昨日それぞれ魔力を注がれたようですね。どうでしたか?」


 どうって――メアリーは何を言い出しているのだろう?


 魔力注がれたという事は流石に子づくりはまだ無いとしてハグかキスのどちらかをした事を暴露されてしまった訳で、私はともかく普通に愛の表現としてそれをおこなったであろうアンナにとってはかなり恥ずかしい質問じゃないだろうか?

 ちょっとその質問は――と言いかけた所でアンナがボソッと呟いた。


「……とても激しくて、綺麗で、熱かったです」


 後ろ姿のアンナの耳が真っ赤になっている。驚きの表情でアンナを見る優里もちょっと顔が赤い。何だかちょっと、青春の香りがする。


(ああ、そう言えば私もファーストキスの時はドキドキしたっけ……)


「アスカ様は?」


 しまった。アンナが答えたからこっちに順番が回ってきてしまった。


「……いきなりだったし、そんな、どうとか言われても……状況的に無理矢理させてしまったような物だから罪悪感しかないし、触れたのもちょっとだけだし、クラウスのは比較的柔らかい? って事位しか」

「アスカ様、私は魔力についての感想を聞いているのです」


 被せ気味に私の言葉を制したメアリーも顔が赤い。余計な恥晒した。しかも何で比較的とか言っちゃったの私。めっちゃ恥ずかしい。


 でも待って、優里は私と同じ勘違いをしたはず――今のは絶対にメアリーの聞き方とアンナの言い方が悪い。うん、私、悪くない。少しも悪くないわ。


「……優しくて、綺麗で、温かい感じ、でした」


 皆顔を真っ赤にさせる中でお望み通り魔力の感想を述べると、メアリーは黒板に2つ棒人形を描き、片方に白、もう片方に赤の矢印を書き記す。


「アスカ様は白の魔力、アンナ様は赤の魔力……それぞれ受け取った魔力の色が違うので、当然お二方の感想が異なります。綺麗という共通の感想も抱いているイメージはそれぞれ違うはずです」

「へぇ……」


 魔力の色ってそういう所にも影響するのか――と自然と声が零れる。


「さて……本題はここからです。皆様の器はこれまで一度も魔力が入った事はありません。その為かツヴェルフに魔力が注がれていくと人格に影響が出る事があります」


 メアリーの言葉にじわじわと吹き上がってくるような恐怖を覚える。

 人格に影響が出る? 注がれる魔力の色によって狂暴になったり穏やかになったりする、という事だろうか?

 確かに、白の魔力がもっと注がれたらもっと心穏やかに過ごせそうな気はするけれど。


 だけどその法則でいくとアシュレーの魔力を注がれているアンナはアシュレーのような性格になってしまうんだろうか――? 一抹の不安がよぎる。


「人格に影響……と言っても多少優しくなったり、感受性が高くなったり、怒りっぽくなったり悲観的になったりする程度で自我まで乗っ取られてしまうような物ではありません。ですがあまりに本人の気質と注がれる魔力の色が合わなかったり量が多かった場合、自我や器に影響を及ぼすアレルギー反応……通称<マナアレルギー>を発症するケースがあります」


 メアリーは再び黒板に向かってマナアレルギーの症状を書いていく。

 初期症状は眩暈めまい、ふらつき、意識混濁――重症化すると意識喪失、精神崩壊、器の破損――なかなか穏やかじゃない文字が一通り並んだところでメアリーがこちらを振り返った。


「器を破損したツヴェルフはもう有力貴族に望まれる存在ではなくなります。もし城にいる間に今書いたような症状が現れたら、速やかにメイドに伝えてください」


 (過去に何かあったのかな?)と思わせる位いつになく真剣な表情でメアリーは言葉を続ける。


「ツヴェルフは次代の希望を紡ぐ宝……宝が壊れる事など誰も望んでいません。貴方達は相手にもう限界だと言える強さ……相手の気持ちより自分自身を大切にする強さを持ってください。もし相手がそれを汲み取れない人物だった場合、それ含め伝えてください。例え相手が6大公爵家であっても」


 メアリーの真剣な剣幕に、茶化す事もできない。


「皆様が貴族の館に行かれた後は定期的に神官長やネーヴェ様が館に来訪される予定です。その際必ず2人きりになる時間が設けられますので、メイドにも報告できない事情がある場合はこの時に報告してください」


 メアリーの言いたい事がひと段落したのを見計らって、優里が手を上げて質問する。


「マナアレルギーってツヴェルフだけに起きるんですか?この世界の人には無いんですか?」

「この世界の人間は皆自分の魔力を持っています。相手から大量の魔力を注がれて一時的に軽度のマナアレルギーを引き起こす事はありますが、本能的に自分の魔力で相手の魔力を排除しようと押し流すので、余程相性が悪い色でもなければ重症化する事はありません」


「なるほど……あ、でも子どもは両親の魔力の色が混ざるんですよね? 入ってきた色を押し流しちゃったらお母さんの魔力しか引き継がれないんじゃ……?」


「妊娠すると相手の色が混ざった状態で器がロックされ子どもを産むまでの間、新たに魔力を生み出す事も注がれる事も、放出する事もできない期間が続きます。その上今までの自分と違う魔力の色で過ごさなくてはならないので体調不良を起こす女性も多いです。これは一般的に<マナづわり>と呼ばれる症状です」


 メアリーの返答を優里は頷きながら熱心に書きこんでいく。妊娠した後の事をそんな真剣に書きこむ必要はない気もするけれど。

 どうも優里は個人的にこの世界に強い興味を持っているようだ。


「……アスカ様、これまでの流れで質問はありませんか?」

「いえ、特には……」


 私だけペンが止まっているからか、メアリーが名指しで聞いてくる。

 小さく頭を横にふって答えると、メアリーは私を哀れむかのような眼差しを向けて重いため息をついた。


「これは貴方が一番真剣に聞かなければならない項目ですよ? 過去に最も多くマナアレルギーを発症しているのは黒の魔力を注がれたツヴェルフなのですから。そしてマナアレルギーを起こす可能性が最も高いのはセックスの時です。覚悟しておいてください」


「……は?」


 待って、今、とんでもなくヤバい事言わなかった?


 ダグラスさんから言われた『友と二度と会えなくなる』覚悟はできた。

 ソフィアから言われた『一緒に帰る事を諦める』覚悟は…できるように努力するけど――『セックスの際に意識混濁あるいは精神崩壊する』覚悟は――無理でしょ!?


「セックスを防ぐ方法は!?」


 机に両手をついて勢いよく立ち上がり、声を荒げてしまう。

 言葉を選ばずに言ってしまったせいか、優里もアンナもこちらを振り返って唖然としている。


「マナアレルギーを防ぐ方法ですね?」


 メアリーには言い間違えられたと思われたようだ。

 いや、本当にセックスを防ぐ方法を知りたいんだけど――そう聞き直したら恐ろしいお説教が待っている気がする。


「マナアレルギーを起こした際の応急処置の1つに第三者の魔力を注ぎ、その色の特性を薄める方法があります。アスカ様は2つの器をお持ちですので上手く作用するか分かりませんが、先に片方の器を白の魔力で満たしておけば、もう片方の器に黒の魔力が注がれてもお互いの特性が中和されて人格に強い影響を及ぼさずにいられる可能性があります」


「え……それって、つまり、自分の身を守る為にダグラスさんとセッ……する前にクラウスに魔力満たしてもらえって事ですか?」


 メアリーの説明を聞くにつれて冷静さを取り戻し、ハッキリあの単語を言う程の勢いもなくなり、声のトーンを抑えて質問する。

 

「……私は不思議でした。貴方に関わる者は潰すと公言されたセレンディバイト公が何故貴方と宿敵とも言えるダンビュライト侯が接触する事を看過かんかしているのか……きっと、あの方も私と同じ事を考えているのでしょう」


 メアリーはそう言うと天井を見上げ、小さく息をつく。

 メアリーの推測は確かに、ダグラスさんがパーティーで言っていた事と重なる。あの人は、それが私の為だなんて一言も言っていなかったけれど。


 あの人が言った謎のこだわりの理由が、ほんの少しだけ、見えた気がした。



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