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銀色の渡り鳥~異世界に召喚されたけど価値観が合わないので帰りたい~  作者: 紺名 音子
本編

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第46話 狩りの終わり


 セリアが余計な発言をして以降は意外にも穏やかな一時が流れた。


 セリアの言葉をダグラスさんがどう受け止めたのかは分からない。

 だけどたくさん作ったお弁当を3人で食べ終えた時点では少なくとも機嫌を損ねてるようには見えなかった。


 むしろ機嫌を損ねてるのは婚約や結婚に夢見るロマンチストだと暴露されてしまった私の方かも知れない。

 暴露されて以降、恥ずかしくてずっと窓の向こうの暗闇を眺めていたら突然ダグラスさんが私の方に手を差し出してきた。


「飛鳥さん……そのリボン、一度お返し願えますか? 下等な魔物に攻撃されてしまうような加護ではいけない。もう一度しっかり加護を込め直して後日お返しいたします」


 その言葉に私とクラウスはゴブリンに石や火球こそ投げられたけど、直接攻撃されなかった事を思い出す。

 殆ど同じ服装だったセリアは前衛という事もあって攻撃されていたのだとばかり思っていたけれど――もしかして直接襲われなかったのはこのリボンのお陰だったんだろうか?


 リボンを解くと同時にまとまっていた髪が解ける。そのままリボンをダグラスさんに手渡すと、彼はしみじみとリボンと私を交互に眺めた。何か嫌な予感がする。


「あの……それ、身に着けた相手に何が起きたか分かるとか、そういう変な機能付いてないですよね?」


 音石の消えた魔力をわざわざ復元して聞き出すような人だ。リボンにそういう機能を付けている可能性はある。


「アスカ様、婚約リボンにそういう術を付与した話は聞いた事ありません。結婚指輪のように石や金属が使われていればその可能性もありますが……」


 ダグラスさんの代わりにセリアが私の不安を払拭する。言われてみれば魔道具も魔護具も、どれも要の部分に綺麗な石が嵌められている。

 だけどリボンは刺繍が施された布地に過ぎない。考えすぎだったかな?


 ちら、と窓の向こうを見やると闇夜の遠くに皇都の明かりが見え始めていた。

 もうすぐ皇都に着く。着く前にあの事を話しておかないと――


「あの……授業が終わったら私、ダグラスさんのお屋敷に引っ越す事になるんですよね……?」

「そうですね。5日後にお迎えに上がる予定です」


 リボンから顔を上げたダグラスさんの表情は穏やかだった。よし、今なら切り出せる――小さく息を吸って、続ける。


「できればお迎えの日をもう少し伸ばしてほしいんですけど……」

「何故です?」


 ダグラスさんの視線がちょっと厳しくなった。でもここで怯んではいられない。


「あの……友達が明日、侯爵家に遊びに行くみたいで……引っ越す前に最後に会って話せたらなぁ……と思って」

「戻って来られるのですか?」

「え?」


 その質問がどういう意味か測りかねていると、言葉が足りなかった事を察したダグラスさんが補足する。


「ツヴェルフが貴族の館に一度行ったらその家の子どもを産むか、あるいは結婚生活が悲惨な物で皇城に助けを求めない限り館から出られません……遠方を統括している侯爵家に行かれるなら、尚更その傾向が強い」


 そうだったの!? と驚くと同時に自分も5日後にはそういう事になるのかと思うと戦慄が走る。


 だけど、婚約で引っ越す事になる私と違ってソフィアは『40年前の地球のツヴェルフに会ってみたいから行きたい』と伝えてる。

 あの橙の美丈夫がそれをどう解釈したかは分からないけど、リチャードなら言葉のまま受け止めてくれるだろう。


「あ、遊びに行く位の感覚で言ってましたし、大丈夫だと思います……5日間位で戻れそう、みたいな事も言ってましたし……」


 でも、今の話を聞くと不安もよぎる。アーサーという人物が寡黙で女性が苦手な自己中である事は推測できるけど、囲って無理矢理どうこうする人かどうかまでは分からない。


 もしソフィアが向こうで捉われてしまったら、どうすればいいんだろう――? 言葉が詰まってしまうと、ダグラスさんは小さなため息をつく。


「……どこの侯爵家です?貴方の友人を無理矢理囲う事が無いよう念押ししておきましょう」

「コ、コッパー家、です……」


 ダグラスさんの提案は願ってもない事だったけど、その名前は予想外だったのかぽかんとした表情を浮かべた後、しばし考え込まれてしまう。


「……その辺りだと行って帰ってくるだけでもギリギリになりそうですね。分かりました、こちらの予定を1日遅らせて6日後、貴方をお迎えに上がる事にしましょう」


 ダグラスさんは仕方がない、と言わんばかりのため息を付いた後、了承してくれた。

 日程を遅らせてくれた上にソフィアが無事に帰ってこられるようにしてくれたのは本当にありがたい。


(でも……全部、この人にとっては<貸し>なんだろうなぁ……)


 ソフィアを無理矢理囲わないようにするのも、1日伸ばすのも全部ダグラスさんだから出来る事で、そう考えるとジワジワと心の中に積み重なっていくものがある。


『そういう借りをいくつも積み重ねていけば、いつか貴方は私の子を産んでもいいと思うようになるかもしれない――』


 ダグラスさんが言った通り、借りを作る事で罪悪感を刺激され続けたらいつか心折れてしまうような気がする。

 なるべく借りを作らないように、頼らないようにしないと。


「ありがとうございます。あの……貴族の屋敷に引っ越したら、もう他のツヴェルフには会えないんですか?」


 ソフィアが帰ってきた後、恐らく皆バラバラになる。どうにかして集まる方法はないだろうか?


「それは引っ越した先の貴族によります。私は飛鳥さんには快適に過ごして頂きたいと思っていますので毎日ご友人を招かれても構いませんが、向こうの貴族がそれを嫌がれば会う事はできません。侯爵家相手ならまだ口出しもできますが……相手が公爵家の場合、私でも迂闊に口出しできません」

「え……? その割にはパーティーでアシュレー殺そうとしてませんでした?」


 私に近づきすぎないように警告した際に『殺します』とか言ってた気がするんだけど。


「警告せずに殺すのと、警告してそれを聞かなかった場合に殺すのとでは印象が違うでしょう? 結果的に彼はそこで立ち止まりましたし、何の問題もない」


 肩を竦めて笑みを浮かべる彼の表情はアシュレーが警告を聞かなかった場合本気で殺していただろう事を伺わせる。


「彼に警告を聞き入れる頭があって良かったと思っていますよ。公侯爵家は専属の騎士団を抱えています。あの男を殺していたら最悪、リアルガーとセレンディバイトの間で戦争が起こる可能性もありましたから……こんな風に色々と面倒なんですよ、有力貴族の付き合いというのは」

「でも確かクラウスにも『無視するならお前の家叩き潰すぞ』的な手紙を送ってますよね?」


 そう言うとセリアが驚愕の表情でダグラスさんを見据える。


「こちらはとても重要な話をしているのに無視されたらそういう手紙を送りたくなりませんか? 飛鳥さんの可愛い夢を潰すようで大変申し訳ないのですが、貴方は貴族というものに対して夢を見過ぎています。皆が皆、品行方正、謹厳実直な人間ではありませんよ。どちらかと言えばちょっとした事で機嫌を損ね、闇を抱える扱いの難しい厄介な人間の方が多い」


 分かります、その最たるものが貴方ですよね――とまたうっかり口に出してしまいそうになったけど、グッと堪える。


「……まあ、これから貴方と関わる貴族は極々限られてきますし、豪華絢爛な世界の裏側をあえて覗く必要もないでしょうからそのまま夢を見続けられても構いませんが……私が言いたいのは多くの貴族が私を恐れて貴方に手を出さないように、私も皇家や公爵家が執着するツヴェルフには極力干渉したくない、という事です。ですので城を出ればもう二度と会えない友人もでてくるでしょう。別れの覚悟はしておいてください」


 確実に顔を合わせる事が出来るのは、後数日だけ――その間に何とか帰る方法を確立させておきたい。膝に置いた拳に、ギュッと力が籠った。




 皇都に着いた頃にはとうに21時を過ぎていた。皇城よりセレンティバイト邸の方が近いらしく、ダグラスさんは先に馬車を下りる事になった。

 周囲は既に真っ暗で、ダグラスさんの家がどんな感じなのか全く分からない。


「それでは、お休みなさい。貴方がまたここに来られた時には私自ら館を案内いたします」


 ダグラスさんは丁寧に頭を下げた後、闇夜の中に消えていった。


 皇城に着くなりセリアに早く休むよう促したけど『アスカ様がお風呂に入るまでは!』と言うので温かいお風呂に入り髪を乾かしてもらった後、白のネグリジェと桃色のストールを纏う。


 セリアが退室した頃にはもうすぐ22時になろうかという時間で、今日は流石に遅いかなと2人の部屋に行くのを諦めた時、ドアをノックする音が部屋に響く。


「アスカ……! 遅かったじゃない! 心配したのよ?」

「大丈夫ですか? 飛鳥さん、怪我とかされてないですか……!?」


 ドアと開くと焦った感じのソフィアと優里が詰め寄るように質問してきた。


 チラ、と他の視線を感じると、アンナも自分の部屋からこっそり心配そうに顔を出している。

 大丈夫、の意思表示で手を振ると、アンナは微笑んでドアを閉めた。


(皆心配してくれてたんだ……ヤバい、ちょっと今、胸が熱い)


 お風呂上がりという事もあるだろうか、嬉しさが熱を後押ししてるのは間違いない。

 ソフィアと優里を招き入れてテーブルを3人で囲んでようやく、戻ってこられたという実感が沸いてきた。



 色々あった長い一日が、もうすぐ、終わろうとしている。



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