第27話 夜の密談
「飛鳥さん、40年前の地球から召喚されたツヴェルフを見つけるなんて凄いです……!」
ソフィアの部屋で優里にハンカチを返した後、今日一日の成果を聞かせると優里の表情が喜びと嬉しさに染まった。
「確かに、その辺の貴族に聞くより同じ時期に来たツヴェルフに聞いた方が色々分かりそうね」
ソフィアも眼鏡をかけながら私のメモを自分のノートに英語で書き写していく。
どうやらこの眼鏡は地球の文字も自分が読める文字に翻訳してくれるみたいだ。
「だけど私、知らない間にあの人の婚約者になっちゃったみたいで……付いていこうとしたら断られたのよ。だから二人のうちのどちらかがリチャードかアーサーって人と知り合ってたら、付いていけないかなと思って……」
情報こそ見つけられた物の、そこから行動に移す事が出来ない自分が激しくもどかしい。
興味の無い男の家に行ってそこの家の人から話を聞く――というのはなかなか難しいミッションだと思いつつ2人にお願いすると、ソフィアは意外な反応を見せた。
「リチャードって今朝、貴方と話してた騎士でしょ? その人とはちょっと縁があるし、アーサーともパーティーで話してるから私が聞きに行ってもいいわよ」
「え、ソフィア、リチャードと話した事あるの?」
てっきりパーティーでドレスアップしたソフィアを見かけての一目惚れなのだとばかり思っていた。
「貴方がメイド助けてお手洗いに行った後よ。『今宵の華であるツヴェルフの方々がここに集まっていては……』って注意されちゃったわ」
言われてみれば、あの場所には確かにソフィアもいた。
ソフィアはリチャードの事をどう思っているのか詳しく聞き出そうと声を上げるより先に優里が感謝の言葉を紡ぐ。
「私はどちらの方とも接点がないのでソフィアさんが動いてくれるのはすごく助かります……ありがとうございます!」
「お礼なんていいのよ。ユーリがヒントをくれて、アスカが情報をくれてるのに私が何もしない訳にいかないじゃない? 皆で助け合って何とか地球に帰りましょう!」
微笑むソフィアに私も優里も、大きく頷く。
「……とは言え、1週間後は長いわね。すぐにでもお母さんに会いたいって伝えたら帰る日を早めてくれないかしら?」
「そうね……リチャードは日帰りで帰って来れそうな場所じゃないみたいな口ぶりだったし、行って話聞いて帰ってくるって事を考えたら1日でも早く行ってほしいけど……そもそもコッパー領ってどの辺にあるのかしら?」
「あ、私、今日ユンさんからこの国の地図貰いました! 何処にあるか探してみましょう!」
優里がテーブルいっぱいに広げた大きな地図を眼鏡をかけてのぞき込む。
土地を分けるカラフルな2重線、地名や街名らしき文字、その他、森や山、川などが簡素に示されていた。
「こうして見ると、皇都は本当に中央にあるのね」
ソフィアの言う通り、地図の中央に皇都があり、ちょっと左にズレた所に私達が召喚されたセン・チュールの文字が浮かぶ。
「それで、コッパー領って何処かしら? 辺境って事は皇都から離れてるって事よね?」
そう呟くソフィアと一緒に地図の外側を注視していると、東北の土地を囲む橙の線が目についた。
(そう言えば、アーサーさんの魔力は橙色だったな……もしこの区画を分けるような線が侯爵家の色だとしたら……)
推測通り、この囲いの中に注目してみると中央に<コッパー領>という文字が浮かんでいた。
「ここだわ。この中の何処に40年前のツヴェルフがいるのか分からないけど……結構遠いわね」
皇都と、塔があった町――セン・チュールが地図上で親指一本分の距離に収まってるのに馬車で数時間かかった事を考えると、コッパー領はかなり遠いし、広い。
「……やっぱり、1週間も待ってられないわね。早速明日、両方にアプローチかけてみるわ。アーサーとリチャード……二人のうちのどちらかがOKすればいい訳だから何とかなるでしょう。」
ソフィアはそう言って立ち上がると、大きく腕を伸ばした。
確かに。もしアーサーさんに断られてもリチャードに帰省をお願いすればいい。
リチャードがソフィアに好意を抱いている事を考えると、そっちの方が確実かもしれない。
「瞬間移動みたいな魔法があればいいんですけど……」
焦れたように優里がため息をつく。1日も早くおばあちゃんがいた証拠をつかみたいだ。
「瞬間移動ねぇ……確かに、この世界には魔法が存在するんだし、その手の魔法や転移装置みたいな物があっても全然おかしくないわよね。その辺も含めて明日聞いてみるわ」
優里は「お願いします」とソフィアに頭を下げた後、自分のノートを取り出した。
「私も、おばあちゃんに聞いた昔話を聞いたとおりに書きだしてみました。子どもの頃に聞いた話を思い出しながら書いたので抜けてる所も結構あると思うんですけど……大体どんな感じの話か分かってもらえると思います」
優里がそう言って私達の前に差し出してきたノートをソフィアとのぞき込む。
昔々ある所に、ひとりぼっちの女の子がいました。
ある日女の子は神様にお願いしました。
ここじゃないどこかへいきたい。
神様は女の子をとても美しい世界に連れて行ってくれました。
女の子が心細くないように、色んな国のお友達も一緒です。
大きな塔の上で、神様は言いました。
「ここで素敵な恋をしてください」
女の子達の為に開かれた華やかなパーティーで女の子は恋をしました。
可愛い子どもが産まれました。
だけど女の子はひとりぼっちでした。
女の子はお友達と一緒に光の船に乗って帰る事にしました。
月より大きい青白い星の下、大きな塔の上で女の子は神様にお願いしました。
神様は女の子に聞きました。
「ここには何でもあるのに、なぜ帰りたいのか」と。
女の子は元の世界に戻ってまた恋をしました。
女の子の幸せは2つに分かれました。
でも大丈夫。
女の子は、優しい神様を信じています。
「……何が言いたいのかよく分からない昔話ね」
ソフィアの言う通り、チグハグな部分が否めない物語だ。何枚かページが故意に破られてるような、そんな違和感がある。
多分、優里が言ってるように忘れてしまった部分なんだろうけど――
「でも、これを読むと優里がこだわる理由も分かるわ」
短い物語なのに、ひとりぼっち、色んな国のお友達、パーティー、青白い星、大きな塔――それらは全てこの世界、あるいは召喚に関わる要素が揃っている。
「そうね……ユミがこの世界に来た事が分かれば、光の船も実在する事になるし脱出方法も分かる……40年前に来たツヴェルフ、絶対に会わなきゃいけないわね」
私もソフィアも、気になった時に見返せるよう物語を自分のノートに書き写していく。
ひとりぼっち――そんな言葉を見て、ふと思う。
私は父も母も亡くなっていて、兄弟もペットもいない。
働き始めてからは学生時代の友達とも疎遠になっている。恋人とも破局したばかりだし、孤独な人と言われたら強く否定できない。アンナも孤独を抱えていた。
でも、それで言うならソフィアも優里も、孤独を抱えているという事になる。
あんまり気にしてなかったけど、気が付いてみればソフィアも優里も「帰りたい」と言っていても取り乱したり家族を過度に心配する様子もない。泣き言も言わない。
皆に気を使わせてしまうから、と隠しているだけかもしれない。私と同じように「孤独」を自覚してないだけかもしれない。
地球に帰りたいと言っているんだし、全部私の思い過ごしなのかもしれない。
ただ、孤独を追及してしまったら2人を傷つけるような気がした。
(まあ……人それぞれ事情あるよね)
そう結論付けて思考を止めて、書き写す作業に戻る。
22時を告げる鐘を合図に、その日の密談は終わった。




