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銀色の渡り鳥~異世界に召喚されたけど価値観が合わないので帰りたい~  作者: 紺名 音子
本編

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第20話 身支度と朝食を


 自分の部屋に戻って間もなくセリアがやってきた。時計は丁度7時30分を指している。

 セリアは部屋に入って一目私を見た後、部屋の隅っこのドアを開けて中に入っていった。


 何の部屋だろう? と後を追いかけると、ドアの所でちょうど出ようとするセリアと鉢合う形になる。


「こちらは浴室になります。そのご様子ですと昨日入られてませんよね? 朝食まで時間が無いのでサクッとシャワーだけ浴びていらしてください」


 セリアに言われて初めて、今の自分の髪が少しベタついている事に気づく。昨日1日お風呂に入っていないだけなんだけど、セリアはそれを許してくれなさそうな雰囲気だ。


「朝食って後30分後でしょ? 今シャワー入って間に合うの?」

「大丈夫です。アスカ様が10分以内に出てきてくだされば後は私が何とかします!」


 ドライヤーのような道具から温風を吹き出しながら、セリアはにっこりと微笑む。


「ボトルはそれぞれ赤がシャンプー、青がリンス、緑がボディソープです。お湯はシャワーの傍にある蛇口をひねったら出ます。シャワーの近くにある魔石で温度調節するのですが、無難な温度に合わせてあります。熱かったり冷たかったりしたら調節するので言ってください」


 10分以内という時間制限の中、早口の説明を聞いた後に慌ててイヤリングとチョーカーを外し、服を脱いでシャワーを浴びる。

 幸い温度調節する必要もなく手短にシャワーを終えて浴室から顔を出すと、即タオルが差し出された。


 タオルが終わると今度は下着が差し出され、それが終わったらチョーカーとイヤリング。

 最後に薄水色の、控えめにフリルが施されたワンピースが手渡されてようやく浴室から出る事が出来た。


「セリア、私、青色好きだけど青色以外が駄目って訳じゃないわよ?」


 ワンピースを着ながら言ってはみるものの、私の髪に温風を当てながら櫛で梳かすセリアの顔を見やるとやはり真剣そのもので。

 どうもセリアは穏やかな物腰の割に試練や難題が立ちはだかると一点集中するタイプみたいだ。


 そんな熱心なセリアの作業の邪魔をするのも気が引けてワンピースを着終えると大人しく鏡台の椅子に座る。


 そう言えば、皆は昨日お風呂に入ったのかな?今頃皆バタバタしてるのかな――と考えているうちに、セリアが達成感に満ち溢れた一息をつく。


「これで良し、じゃあ行きましょう!」


 綺麗に梳かれて整った髪に昨日より控えめかつ綺麗なメイク。満面の笑顔を浮かべるだけあって見事な仕上がりだ。


 とは言え、流石に朝からセリアに本気を出させた事に罪悪感が生じる。

 明日はバタバタしないように、今日の夜はちゃんと浴槽にお湯貯めてゆっくり入ろう――そう心に誓った。




 朝食を取る部屋では皆既に食事を取っている姿が見えた。時間的にオーバーしていないはずだけど――


「これ、どういう事…?」


 私はてっきり4人集まって慎ましやかな食事になるとばかり思っていた。


 だけど案内された場所は4人が食事をするには広すぎる上、自分達以外にも逞しい兵士や騎士と思われる達があちこちの長方形のテーブルで所狭しと言った感じで騒がしく食事をとっている。


 ずっと奥には大きな調理室のようなものが見え、列に並んだ人達がカウンター越しに食事を受け取っている。

 その光景は中世ファンタジーな感じこそするけれど、まるで大きな社員食堂だ。


「今後、有力貴族の殿方からのお誘いなどが無い限り朝昼夕の食事はここで取って頂く事になります」

「昨日のパーティーから一気に扱いが雑になってない?」

「そんな事はありません。皇城及び皇都で職務を果たす騎士の中には有力貴族のご子息も少なくないのです。しかし、彼らには職務や訓練があるので昨日のパーティーのように面と向かってツヴェルフと面談できる機会がそうそう無く……なので普段ここでツヴェルフに食事を取らせる事で平等にしよう、という配慮です」


 『有力貴族に平等にツヴェルフと出会う機会を与えよう!』という意図は分かったけど、こちらからしたら迷惑以外の何物でもない。食事位好きに取らせてほしい。


 改めて周囲を見回してみるとソフィア、優里、アンナがそれぞれバラバラのテーブルに座っている。

 多分着いてすぐに騎士達に囲まれてしまい、まとまって座る事が出来なかったのだろう。


 だけど、食堂全体を観察しているとこの場にいる騎士兵士全てがツヴェルフに注目している、という訳じゃなさそうだ。

 知らぬ顔で食事を取っている騎士もいれば、談笑している兵士達の姿もある。


「どの席になさいますか? 席が決まりましたら食事を持ってきます」


 セリアはそう言うけどパッと見空いてそうな席がない。どうしたものかと困っているとタイミング良く二人組が空の食器を乗せたトレーを持って立ち上がる。


「すみません、ここいいですか?」


 空いた席に近づき、笑顔で隣の兵士達に声をかけると、兵士達は驚愕の表情で立ち上がる。


「ど、どうぞ! 自分達はもう出ますので!! ほら、皆、行くぞ!」


 周囲に座っていた兵士達も一斉に立ち上がり、食事の入ったトレーを持って一気に退散した。


 立て込んでいる食堂の中で、空のテーブルに一人ポツンと残される。


(さ、流石にこれは寂しい……)


 小学生くらいの子がよくやる『アイツが来たぞ、逃げろ!』という地味に心えぐられる行為に、一瞬(皇家に『兵士達にハブられて惨めな思いをしました』と泣いて訴えてやろうか)という考えが浮かぶ。しないけど。


「アスカ様、あれは仕方ないです。アスカ様に関わったらセレンディバイト家に敵とみなされる事は皇城全体に広まっていますから」


 私が何を考えているのか察したのか、セリアが穏やかじゃないフォローを入れてくる。


 それにしたってあの態度は逆効果なんじゃないかと思ったけど。去っていった兵士の食器にはまだ十分な料理が残っていた。

 そこまで怯えていたのかと思うとむしろ(声をかけてごめんなさい)という気持ちになってくる。


「皆、自分の家を潰される事を恐れてアスカ様に関わりたくないだけなのです。それでは、食事を持ってきますね」


 これまた嫌なフォローをした上でセリアは食堂の奥の方に歩いて行ってしまった。


(ああ……食事の時もセリアとふたりぼっち確定かぁ……)


 空いた席に座り、ため息をつく。


「隣、いいかしら?」


 背後から話しかけられて嬉しくなってどうぞどうぞと振り返ると、トレイを持った笑顔のソフィアが立っていた。

 先程ソフィアがいた場所を見やると、戸惑った様子の騎士達がこちらを見つめていた。



「えっ、ソフィア……まさか一人ぼっちの私を見かねて来てくれたの?」

「食事位、静かに取りたいから。貴方のそばが都合良いと思って」


 ああ、確かに私の傍にいれば彼らは近寄ってこないかもしれない。打算的な答えに少々落ち込みつつ、それでも来てくれた事に感謝していると、


「それに私、友達が惨めな目に合ってるの放っておけないのよね」


 落としておいてからの持ち上げに心が高鳴り『えっ、それっていわゆるツンデレ?』って言おうと思ったけど――そう言ったソフィアの目がちょっと寂しそうにしていたので茶化す気になれなかった。

 何か、代わりの言葉を――と思った時、ソフィアの傍に立つ金髪のメイドと目が合う。


「……そう言えば、ソフィアのメイドの名前は何て言うの?」


 セリアにユン、ジャンヌ――ツヴェルフの専属メイドの中でソフィアのメイドの名前だけ知らない事に気づき、聞いてみる。


「ビアンカ・フォン・ゼクス・マラカイトです……よろしくお願いします。」


 ソフィアに聞いたつもりだったけど傍に立っていた金髪碧眼のメイドが控えめに答え、小さく頭を下げられた。


「もう知ってると思うけど、水川飛鳥よ。よろしくね」


 こちらも会釈を返すと、食事がのったトレーを持ったセリアが戻って来るのが見えた。


 パン2つにスープ、サラダと美味しそうなハムエッグらしき物が揃った食事は、食欲をそそるには十分だった。


「アスカ様、避けられてるのはけして悪い事ばかりではありません」


 食事を取りに行く間、私をどう励ますか考えていたのだろうか? 食事が乗ったトレーを受け取るなり、セリアが語りだす。


「騎士や兵士の中には礼節がなっていない者も少なくありません。先日のリアルガー家のご子息のように兵士や騎士がツヴェルフに強引に迫ったケースもあるんです。そういう状況からツヴェルフを守る為に武術を心得たメイドが選ばれていますが、所詮実戦を知らない城仕えのメイド……下級兵士や野蛮な族にこそ負けない自信はありますが、強い魔力を持つ有力貴族や戦場で命をかけて戦う戦士達にはかないません」


 セリアの言葉に、ジャンヌがあの時キスされそうになったアンナを庇えなかった事を思い出す。

 もし私も誰かに襲われた場合、セリアが倒されたら何の力もない私は相手にチョロっと魔法を使われて無理矢理――という流れになってしまう訳だ。


「ダグラス様はご多忙な方なので、そういう野蛮な輩からアスカ様を守る意図もあったのだと思われます」


 セリアの言葉が重く心に圧し掛かる。

 この世界の人は量の差はあれど皆、魔力を持っている――魔法を使われたら私は自分の身を守る術がない。


 温かいスープに口を付け、優しい味をじっくり味わいながら(この世界で自分の身を守る方法、何かないかな?)と考えていると、ソフィアはまた別の所が気になったみたいだった。


「そう言えば……騎士はともかく兵士には一般市民もいるのでしょう? もし一般市民と恋に落ちたらどうなるのかしら?」

「平民がツヴェルフと結ばれる可能性より、貴族達がその平民を殺しにかかる可能性の方が高いです。一般市民との恋愛はお互い不幸になる可能性が高いので、おススメは出来かねます……」


 ソフィアの問いにビアンカがおずおずと物騒な答えを返す中、黙々と朝食を食べていると、目の前を灰色のローブを着た黒髪の少年が横切った。


 こんな大人だらけの食堂に突如現れた少年が気になり、つい目で追ってしまう。

 少年はアンナの所と優里の所でそれぞれ2、3言交わし、今度はこちらに近づいてきた。


「初めまして、ミズカワ・アスカ、ソフィア・ハサウェイ」

「は、初めまして……」


 突然の挨拶に戸惑ってしまったのは、艶やかな黒髪と透き通る程綺麗な水色の瞳に見とれてしまったせいか、それとも無表情で放たれる全く抑揚のない声のせいだろうか?


「僕はネーヴェ・フォン・ドライ・ラブラドライト。祖父に代わりここでツヴェルフの体調管理を任されています。体調や召喚に関して不安な点があれば、いつでも起こしください。それでは」


 淡々と自己紹介をした後、少年はこちらの言葉を待たずに丁寧にお辞儀をして去っていった。



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