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銀色の渡り鳥~異世界に召喚されたけど価値観が合わないので帰りたい~  作者: 紺名 音子
本編

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第12話 歓迎パーティー・4


(え? 待って、いや、全力をかけて潰すって……何?)


「すごいですよね、アレ! 普通なら心ときめくシーンですよね!?」


 混乱する私をよそに優里はソフィアに同意を求める。え? それって本当に心ときめくシーン? 普通に怖いんだけど。


「そうね。私はあそこまで重い男は勘弁だけど他人として見てる分にはカッコ良かったし、あれ聞いたアスカの感想を聞きたかったのに……聞いてないなんて残念だわ」


 うん、それ、私も聞きたかった。どういう感じで言ったのかが分かれば状況が理解できるのに。


「それで、その後、貴方のメイドが現れて奥の方に連れていかれたからアスカに伝えなきゃ! って探してたのよ!」

「すみません、ユンさんがアスカさんのメイドを見つけた時にすぐ騎士に報告しちゃって……!」


 テンションが高いソフィアとテンションの上がり下がりが激しい優里。隣で『私は当然のことをしたまでですが?』と言わんばかりのユン――この状況に思考が追い付かなくなってきた。


(ちょっと待って……何がどうなってるの? こっちはまだ子ども産むとかそういう事はまだ何も了承してないはずで、何も聞かずに何考えてんの、あの人!? あ、でも、セリア……そう、まずはセリア助けないと!)


 混乱する思考の中でとにかく今真っ先にしなければならない事を確立させ、ジャンヌに案内を頼んでセリアが連れていかれた別室へと向かった。




「失礼します!」


 パーティー会場から少し離れた所にある休憩室の扉を開くと、まず小刻みに肩を震わせるセリアの姿が目に入った。


「アスカ様……!」


 驚いたセリアを庇うように今までセリアが相対している人――ダグラスさんに向かい合う。

 ダグラスさんも少し驚いた表情で私を見ている。


「セリアは悪くありません……! 勝手に動いた私にも責任はありますし、そもそもあの奇抜な髪型の男がアンナにキスしようとした事が問題です! あの男を不問にしてセリアの責任が問われるのは納得いかないです!」


 感情に身を任せて言ったにしてはなかなか自分でも道理が通ったセリフだと言った後で思う。


「……アスカさんがあの男を不問とする事にご不満なら、皇家ではなく我が家名においてあの男に望みの刑を課しましょう」


 ダグラスさんが軽く微笑んだ後視線を向けた先には、先程の真紅のリーゼント男が未だかつて見た事の無い、黒く蠢くもやの檻に捕らわれていた。


 見るからに禍々しい檻の中にいるというのにリーゼント男はムスッとしている。何、この世界? 超怖いんですけど。


 そして、檻の横にいる明るい茶髪の騎士らしき好青年が(助けてください)と言った感じでこちらを見つめている事に気づいた。


 恐らくこの人が先程ジャンヌが報告したという皇家直属の騎士だろう。

 被害者のアンナは不問にって言ってるけど有力貴族のダグラスさんがそれを認めない、という状況に困っていたようだ。


 皇家直属の騎士に堂々と異論が言える辺り、ダグラスさんは本当に貴族の中でもかなり位が高い貴族なのだという事が伺える。


「アンナ嬢が彼を不問としたい事は承知していますが、アスカさんはいかがですか?」


 ダグラスさんが低い声で問う。そう、リーゼントは結果的にアンナと私の両方に無礼な事をしている訳で私の意見を聞かずに不問となる事をダグラスさんは良しとしていないんだろう。


 だけど、執拗に絡まれキスされそうになったアンナと違って私は相手に掌底を食らわせている上、反撃されそうになったけど結果的に無傷だ。


「そこの人もセリアも、どっちも不問でお願いします!!」

「……貴方が、そう望むのであれば」


 これ以上事を大きく、ややこしくしたくない――そう思って強く言い切るとダグラスさんは表情を変えずにそう言うと指をパチン、と鳴らすと黒い靄が消えて、リーゼントがその場に倒れこんだ。


「アシュレー……先日も言いましたが、この方達と君の母君を同じように考えたら駄目ですよ。異世界によって常識も価値観も違うんですから」


 騎士がリーゼントに手を差し出し、呼びかける。リーゼントの友人なんだろうか?


「……うるせぇ」


 手を借りずに起き上がったリーゼント……アシュレーは、騎士の忠告を聞かずにズカズカとこちらに近づいてくる。


「それ以上近づいたら殺します」


 ダグラスさんが冷たい表情で物騒な事を言うと、ピタリと足を止める。この部屋全体から何処となく漂う不気味な感覚が、少し、怖い。


「……なくて…………った……」


 口元が僅かに動いているのが分かるけど、先程よりずっと聞き取りづらい。


「え……ごめん、何言ってるか聞こえないんだけど?」


 この緊迫した状態でまだ何か喧嘩を売ってくるつもりかしら――? と怪訝な眼差しでそう言うと、


「……お前らの世界のルール知らなくて、悪かった!!」


 勢いよく頭を下げながら謝られ、予想外の行動に呆然とする。


「え……ええ、分かってくれたならいいんだけど? こっちもあの、結果的に暴力振るったのは、ごめんなさい」


 何とかキスを阻止しようとしたあまりに掌底をキメてしまった訳だけど、今思えば大声でやめるように言えば良かったのだ。

 いや、それでも同じ流れになった気がするけど。自分に非があるかどうかで考えると、今回の行動に反省の余地は大いにある。


 私の謝罪に対して返事せずアシュレーはドアの近くで様子を伺っていたアンナ達に向けて歩き出し、そこでも「悪かった!!」と頭を下げて出ていった。


 謝る態度には大きく問題はあったが、ちゃんと面と向かって言える点は好感が持てた。悪い人ではない――とまではまだ思えないけど。


 ドアが自然と閉まるまで見つめてしまった後、先程感じていた黒いオーラも消えている事に気づく。

 どうやら危機は脱したらしい。ほっと胸をなでおろしてセリアの方を向く。


「セリア、大丈夫?」

「アスカ様……ありがとうございます……!! 私の事情でお傍を離れてしまい、本当に申し訳ありませんでした…!」


 瞳を潤ませたセリアに力強く両手を握られ、深く頭を下げられて、謝罪される。

 何だろう、私、さっきから謝られてばかりな気がする。


「生理現象はどうしようもない事だし、そんな謝らないで……! あ、私もそろそろお手洗い行きたいんだけど、トイレって何処にあるの?」


 トイレの発言をした瞬間、この部屋の空気に妙な亀裂が入ったような気がしたけど、


「……ご、ご案内します。こちらです」


 とセリアに促され、部屋を出ようとすると「アスカさん」と呼び止められる。


「私はこの後しばらく第一サロンの片隅におりますので、後程お立ちより頂けますか? お話したい事があります」


 振り返った先にはダグラスさんは微かに微笑んでいた。

 けど、さっきあの男に向けた冷たい表情が重なって、私は微笑み返す事ができず――小さく頭をさげて部屋を出た。




 誰もいない休憩室でドレスを脱いで部屋に備え付けられたドアを開けると、そこは少しだけ狭く感じるものの高級感が溢れるトイレだった。


 ここに来て初めての一人の時間。色々考えを整理したい気持ちもあるけど他の令嬢達もここを利用する可能性を考えると、長居する訳にもいかない。

 用を済ませ、手を洗う際に鏡に映る自分の顔をみて一つため息をつくにとどめる。


 トイレを出て再びドレスを身に着ける際、セリアがどういう状況であの部屋に連れていかれたのかを聞いた。


 こことは別にある従者用のトイレから出たらホールで騒ぎが起きており、何だろうと近づいてみれば「あの者がミズカワ・アスカ様のメイドです!」とユンに指され、有無を言わさぬ圧力で連れてこられお説教と処罰の話になり――という流れだったようだ。


「セリア、よっぽどユンと仲悪いのね」

「仲が悪い、という訳ではありませんが……魔力の色が相反する者同士の相性が悪いのは間違いないですね」


 セリアは私の言葉に強く反論する事もなくさらりと答える。


「それを仲が悪いって言うような気もするのだけど……まあいいや、なんか、本当にごめんね」


 何かいい器を持ってるらしい優里に比べて、私は今の所何一つ良い所がない。私なんか、と言うつもりはないけど皆と比べると「しょぼい」感がどうしても否めず。


 先程サロンで目が合った令嬢たち同様、ユンからも馬鹿にされているのではと思うと、セリアに対して申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


「アスカ様が私に謝られる事など、何一つございません」

「でも……何か私、貴族達からは蔑んだり憐れまれたりする感じで見られるし、あのアシュレー? っていう男も私の事、馬鹿にしたような言い方だったし……私、ツヴェルフの中ではハズレ扱いなんじゃないの……?」


 騒ぎの時、アシュレーは私の事を「たかがツイン」と馬鹿にしたように言った。

 貴重で重要視される存在のツヴェルフの中でも私は大した事のない部類なのだろう。そう考えるとどうしてもため息が出てしまう。


「ハズレとは……確かにツインは特殊な器ですが、召喚されたのは望まれたからです。そしてアスカ様が誰に望まれたのかが明らかにされた今、もう馬鹿にされる事はありません」


 私の問いにセリアは驚いたのち、自信に満ちた微笑みで答える。

 そういえばリヴィが『パーティーで召喚を希望された方と会って……』というような事を言っていた気がする。


 それは<ツヴェルフの召喚を望んだ者>という意味だと思っていたけど、もしかして器の種類も関係しているのだろうか?


「レオンベルガー皇国を支える有力貴族の中でも頂点に位置する6大公爵家の当主が望んだツヴェルフとなれば、それはもうツインだろうと何だろうとキングに勝るとも劣らぬ価値と待遇を約束されたも同然です。そして、そのツヴェルフの専属メイドに選ばれるのもとても光栄な事です」


 セリアの言葉で、そういえばダグラスさんがホールで何かとんでもない発言をしていたらしい事を思い出す。

 トイレを優先してそこを追及するのをすっかり忘れていた。


「ユンがホールで私を指したのは、私をアスカ様のメイドから引きずり降ろす為でしょう……さて、そろそろパーティーに戻りましょう。ダグラス様をお待たせしてはいけません」

「待って、今言った話、ちょっと詳しく聞きたいんだけど」


 セリアが私のドレスのセットを終えたと同時にまた気になる事を言い出し、つい食いついてしまう。


「ああ、すみません。下級貴族の確執などさして面白い話ではありません。ああ、でも……一つ、これだけは先に知っておいて頂きたい事があります。」


 私の質問を軽く流したセリアは、静かに自身の胸に手を当てて私に跪いた。


「私はアスカ様に命を助けて頂きました。このご恩は一生涯忘れません。例えダグラス様と上手くいかずにアスカ様が誰からも望まれぬ人間になったとしても、私はアスカ様の傍を離れませんし、誰に何と言われても傷つきません。ですのでどうかアスカ様は私の事を気になさらず、ご自身が望むようにお動きください」


 誰からも望まれぬ人間、というフレーズに若干心が震えたけども、これは『スゴい人に見初められてるけどその方をフッたとしても、フラれたとしても、私は貴方に着いていきます』と言っているのだと思うと、悪い気はしないし純粋に嬉しい。


 だけど―――


(この状況で「地球に帰りたい」って、死んでも言えない……)


 孤独や劣等感からくる不安は消えたけれど、また別の不安が圧し掛かったのであった。



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