第三十一話 Fake
「たく、ピストレットのやつ、なんで休もうなんて…俺は早くデリンジャーをっ……?!」
カチャッ
背後にいる人物を首だけ振り返って見た。
「なんでお前が…」
「バレット、お前達を始末しに来た。」
「へぇー、バレルが?俺を?」
「っ!なめるな!お前なんかに遅れを取るわけが……」
「違うよ。バレル、お前はデリンジャーとは違う。俺にはわかる。俺と勝負しに来たんだろ?なら、ヤロウゼ?」
「……ああ、元よりそのつもりだった!望む所だ!」
こうして二人は一度距離をとる。そして撃ち合いが始まった。
★★★★★★
「死にたくないなら、動かないでね?僕も無駄な弾は使いたくないからさ。」
「キャノン君。貴方がいるって事はバレットも……」
「……君には“お返し”しないとね?」
キャノンの笑顔は暗黒に包まれている。
「おか、えし…?」
「そう!君のせい、いや、君だけのせいではないけれど、少なくとも君にも責任はある。とってもらうね?アジトを破壊出来なかった事。」
「っ!?」
そういってキャノンは無理やりゆきを木々が鬱蒼と繁る森の方へ引っ張っていった。
★★★★★
ダンッダンッと重い銃声が響く。村から少し離れた場所ではバレルとバレットによる撃ち合いが始まっていた。
「バレル!やっぱりつぇえなっ!!」
バレットの弾はバレルを狙うがどれも避けられてしまう。対してバレルは着実に距離を詰めて接近戦に移る。
「っ!もうお前には負けないっ!」
バレルの銃テクニックが輝る。一発放ったと思うと二発目が向かって来る。
「っと!」
だが、バレットもただでは当たらない。木々を変わり身にして避ける。
しばらく膠着状態が続く。二人とも残りの弾の数を考えながら撃っている。先に動いたのはバレットだった。バレットはバレルの右側へ回り込もうとする。
「させるかっ!」
バレルはバレットの足元を狙って撃った。
「っ!!」
弾はバレットの足へと直撃した。だが、同時にバレットが放った弾がバレルの銃へと直撃する。
「なっ!」
バレルの銃は破壊こそされていないが左後ろへ飛ばされる。それをバレルは後ろへ飛んで取りに行く。バレットはそうはさせまいと銃弾をバレルの行先へと撃ち込む。バレルは避けきれず、右腕に掠り傷をおったが銃をなんとか拾った。バレットは怪我のせいでうまく動けなくなっていた。そんなバレットへバレルは近づいて行く。
「……俺の勝ちだな。バレット。」
動けないバレットを見下ろしてバレルが右手で銃を構えている。
「へへっ!みたいだなっ!やっぱ、お前つぇえやっ!」
「!」
「バレル、よかった…」
バンッバンッ、と銃声が森の方から聞こえた。
「っ!デリンジャーか?!」
「デリンジャーさんは来ていないっ!まさかっ!あいつ!!」
「あいつ?ゆきちゃん?」
焦ったバレルはバレットそっちのけで走り出した。
「あ、おい!バレルっ!!」
★★★★★
「っ!」
「泣かないでよぉ?君が悪いんだしぃ。もう少し楽しませてよね?」
「っ!!」
ゆきは危機的状態にいた。ゆきはキャノンによって木にくくり付けられ、ゆきの木、もとい、ゆきを的にして遊ばれていた。
「次は顔っ♡」
バンッゆきの左頬を僅かに掠れて着弾する。ゆきは恐怖以外の何ものも感じえない。助けは来ない、このまま穴だらけになって死んでしまう!
「耳ぐらいそろそろ逝っとく?」
ニタニタと笑いながら銃をチラつかせるキャノンは悪魔でしかなかった。
「ど、ど、どうしてこんな事っ…きゃっ?!」
バンッ
「黙れ。的の癖に喋るなよ?」
ゆきの右耳を掠りながら銃弾は木を穿つ。
「だ、だって……」
そう言った時、ふと思い出した。何故か?それは……。
「貴方、“キャノン君じゃない”(・・・・・・・・・)の?」
「あぁ?」
バンッ
苛立ちを現したキャノン(?)の銃が吹き飛ぶ。
「「?!」」
「お前が動くな。」
「バレル……」
「バレル君!!」
キャノンの銃は吹き飛んで地面に落ちる。
「おーい!バレルぅー!!待ってくれよぉ!!」
後ろから必死に怪我をした足を庇いながらバレットが走ってきた。
「バレットっ!その怪我…」
「おっ!キャノン!と、……ゆきちゃん?なんで縛られて…」
「そいつが的にして遊んでたんだ。」
バレルはそう言うとゆきの縄をほどく。
「あ、ありがとう。」
お礼を言われておうっと、返そうとしたバレルは眼を見張った。
「バレット、僕はそんな事してないよ!ここに来た時には彼女は何者かに縛られてたんだ。助けようとした所でバレル君がきて…」
「そうなのか?」
「そうだよぉ。」
キャノンは終始笑顔である。
「バレル、あ、あとゆきちゃんも、ちょっと話しがあるから村の教会に来てくれ!」
「……わかった。あとで行く。」
バレルはそうバレットへ返した。
「あとで?まあ、いいけど。じゃあ待ってるからなっ!」
バレットはそう言うと村の方へと歩いてゆく。
「待ってるね♡僕の獲物ちゃん!」
にこりと笑うキャノンは何処か暗黒面を帯びていた。キャノンが立ち去るとゆきは足元からその場へ崩れ落ちる。が、落ちる前にバレルに抱き止められた。
「……大丈夫か?」
「うっ、うっ、うん……」
震えるゆきの顔は恐怖で染まっていた。ボロボロと泣く彼女をバレルは優しく抱き締めていた。ゆきはずっと震えていた。バレルはそれに気付き、バレット達を先に行かせたのだ。いくら銃を撃てるようになったからといってゆきが一般人なのは変わらない。銃を向けられて恐怖を感じないわけがない。更に言えば相手が悪かった。ゆきの腹部を思いっきり蹴り、なんとも思わないような、相手を平気で傷つける事のできる人間だったからだ。そう言う人間は迷わない、間違いなく、否、間違いをすれば即撃たれる。トリガーへかける思いは軽い。いつ死んでもおかしくなかったのだ。恐怖を感じないわけがない。ゆきが泣き止むまでバレルはゆきをその場で抱き締めていた。
キャノン君暴走中、本来は実は捨てキャラだったのに今や誰より暴走中( ・ω・)




